遥かな、夢の11Rを見るために   作:パトラッシュS

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天衣無縫と戦乙女

 

 

 

 その強さに皆が憧れを抱いた。

 

 青鹿毛の髪を靡かせて、G1という大舞台をまるで凱旋するように勝ち続ける魔王。

 

 やがて、その魔王は皆から恐れられるようになった。

 

 私の同期であるウマ娘達も皆が口を揃えて言う。

 

 アフトクラトラスという魔王には勝てないと。

 

 

「ハッ……、逆だろうがバ鹿どもが」

 

 

 だが、私は違う。

 

 先輩だろうがとんでもない魔王だとか関係ない。

 

 逆に越えるべき壁が大きくなって立ち塞がるんならぶち壊したくなる。

 

 ディープインパクトだろうが、アフトクラトラスだろうが関係ない。

 

 全力を出しても壊れない相手、そんな好敵手に出会えてワクワクしている。

 

 私はお気に入りのマスクを口元につけると、ゆっくりとその場から立ち上がる。

 

 

「……さて、走るかな」

 

 

 二面性を持つウマ娘。

 

 凶暴さを内に秘めつつも、その才能は計り知れない暴君。

 

 彼女と並走したウマ娘達は口々にこう話す。

 

 力の差をまざまざと見せつけられたと。

 

 絶対的な強者、それがこのウマ娘、オルフェーヴルという金色の暴君なのだ。

 

 

 

 さて、一方、その頃私はというと。

 

 ナリタブライアン先輩からレーストラックに呼び出されていました。

 

 はい、理由はよくわかっていないんですけどね。

 

 はて、なんで呼び出されたんだろう? 

 

 

「アフ……」

「はい、なんですか?」

「お前、最後の追い込みだろう? なら、私に付き合えよ」

 

 

 イケメンの誘い文句みたいにそう告げてくるナリタブライアン先輩。

 

 そして、肩を組まれる私はブライアン先輩の顔をジト目を向けながら見つめます。

 

 

「えー……、だって私ブライアン先輩とも走るんですよ?」

「そん時はそん時だろ? 良いじゃないか、私はお前と走りたいんだ」

「私の事好きすぎでしょう、ちょっと」

 

 

 夜は週何回かは一緒に寝てますし、何かといえばすぐ抱き締めてきますしね。

 

 最近はSWDTもありますからなるべく控えるようにしてたんですけど、当の本人はこれですから。

 

 まあ、私もブライアン先輩の事は好きですけどね、とはいえ、やはり、戦う相手と並走するのはどうかと思う。

 

 

「何言ってるんですか。SWDTで走る相手と追い込みなんて出来るわけないでしょう」

「む……、ブルボンか」

「そんな顔してもダメなものはダメです」

 

 

 そう言って、私とブライアン先輩との並走を遮ったのはブルボンの姉弟子だ。

 

 まあ、それはそうですよねー。

 

 でも最近、ブライアン先輩が寂しがってるのを知っているので私からは何にも言えねぇ。

 

 あの有の一件から私に対する周りの愛で方が異常になってきたんですよね。

 

 正直、怖いです。助けて義理母。

 

 

「別に二週間後だから構わないだろう、私もディープインパクトとの決戦が近いし参考になると思ってだな」

「言い分は理解できますが……、対戦相手の手の内を知ればそれはそれで互いに対策が練れてしまう、それは真剣勝負に水を差すんじゃないでしょうか」

「むぅ……確かにそれはそうだが」

 

 

 ブライアン先輩もブルボンの姉弟子からの言葉に頬を膨らませながらそう告げる。

 

 拗ねてるブライアン先輩が可愛いから、私だけなら多分オーケーしちゃってましたねーこれは、危ない危ない。

 

 

「明日はシービー先輩が走りますしね」

「ほう、どうなんだ? 仕上がりは」

「それはもう、なんたってアンタレス式ですから」

 

 

 そう言って、微笑むブルボンの姉弟子。

 

 うん、その言葉だけでシービー先輩が相当鍛えられたのは理解できました。

 

 やっぱり義理母の鬼みたいなトレーニングは凄いですね。

 

 私もその1人なんですけども。

 

 

「兎にも角にも妹弟子もレースがありますからね、ほら行きますよ」

「あ、はい」

 

 

 そう言いながら、私の手を引いてサイボーグ坂路へと向かう姉弟子。

 

 そんなアフトクラトラスの後ろ姿をナリタブライアン先輩はジッと見つめる。

 

 逞しくなった後ろ姿。

 

 あの伝説の有記念からアフトクラトラスは以前のように走れるかどうかわからない。

 

 だが、彼女はきっとそんな困難も越えてきっと自分に挑んでくるだろう。

 

 

「待ってるぞ、アフトクラトラス」

 

 

 ずっと側で彼女を見てきたからこそわかる。

 

 まだ、アフトクラトラスは強くなる。だからこそ、自分もさらに強くなってみせる。

 

 SWDTだけじゃない、世界のウマ娘を倒すために。

 

 

 

 

 SWDT2戦目。

 

 会場には変わらず多くの観客が詰めかけていた。

 

 そんなレースの前に、ミスターシービーは今までトレーニングに付き合ってくれたライスシャワー先輩とマトさんに頭を下げていた。

 

 

「ありがとうございます。今日まで厳しく指導していただき前よりも強くなった気がします」

 

 

 頭を下げてお礼を述べるシービー先輩のその言葉にマトさんは笑みを浮かべる。

 

 彼女の足掻きを側で見ていた。

 

 たとえボロボロになっても何度も立ち上がり、練習に食らいつこうと必死になっていた。

 

 プライドも何もかもを捨て、みっともなかろうが泥まみれになろうが、それでも彼女は折れなかった。

 

 

「勝ってこい、シービー」

「はいッ」

「頑張って!」

 

 

 彼女はライスシャワー先輩の言葉に静かに頷くと踵を返す。

 

 それを見送る2人、会場まで向かうその背中には、間違いなく鬼が宿っていた。

 

 全ては宿敵を倒すために。

 

 挫折を乗り越えて、倒さなくてはいけない相手がいる。

 

 

「シンボリルドルフ……。見てなさい、これが私の走り、私だけの走り」

 

 

 今、天衣無縫と呼ばれたウマ娘の新たな挑戦が始まる。

 

 対するは、日本のウマ娘の史上初のクラシック三冠ウマ娘となった伝説。

 

 彼女こそが、日本ウマ娘の原点。

 

 その脳裏には、かつての記憶が蘇る。

 

 大日本帝国と呼ばれていた波乱の時代を駆け抜けたウマ娘。

 

 トレセン学園がまだ小さい頃、彼女はその礎を創り上げてきたのだ。

 

 

「……時間か」

 

 

 そのウマ娘の名はセントライト。

 

 戦場のセントライトと呼ばれたウマ娘。

 

 軍刀を地面につけたまま、瞑想していた彼女はゆっくりと目を開くとそう呟いた。

 

 当時は軍ウマ娘育成の為に、文字通り国に命を捧げてきた。

 

 陸軍で鍛えられたその脚でいくつもの勝利を重ねてきた。

 

 だから、彼女にとって、レースとは戦なのである。

 

 

「……さて、後輩とやらの強さを見せてもらおうか」

 

 

 静かにそう呟くセントライトはゆっくりと立ち上がる。

 

 今もなお、鍛錬は欠かさず行ってきた。

 

 軍隊式の地獄のようなトレーニング、それが身についている彼女はそれが日課になっていたのだ。

 

 勝負服の軍服と勲章はそんな彼女の強さを物語っている。

 

 レース会場に向き合って歩み始めるセントライト。

 

 

 彼女達を待っていたかのように、姿を見せた2人のウマ娘に会場は沸きあがった。

 

 日本の三冠ウマ娘同士が激突する夢の舞台、それがSWDT。

 

 ナイターにより、ライトで照らされた特設レース場は異様な雰囲気を放っている

 

 そんな中、マイクを握りしめるアナウンサーは声高に宣言しはじめた。

 

 

「日本で最強のウマ娘が見たいかッ!」

「オォォォォォ────!!!」

「よろしいッ! 今宵ぶつかるのはこの三冠ウマ娘だッ!」

 

 

 弾けるような爆音と共に、入場ゲートがライトアップされる。

 

 そこから現れるのは、勝負服に身を包んだ1人のウマ娘。

 

 アナウンサーは静まり返る会場で熱烈に紹介をしはじめる。

 

 

「かつて、その走りはタブーだとされていた。だが、彼女はそのタブーですら間違いであると私達に証明してくれたのだッ! 常識を覆すのはいつでもこのウマ娘だッ! 今宵も天衣無縫を私達に見せてくれるのか! ミスターシービー!」

 

 

 凛として現れたミスターシービー先輩の姿に会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こる。

 

 そう、常識を覆すウマ娘、それが彼女である。

 

 彼女の醸す常識に縛られない雰囲気は、不思議なカリスマ性があります。

 

 あと、あれです、非常にナイスバディです。あれは素晴らしい。

 

 それから、しばらくして、逆のゲートがライトアップされる。

 

 

「かつて、この国に起きた波乱。戦の最中、彼女はこの国で君臨した最初の三冠ウマ娘。まさに、存在こそが伝説と言われているッ! 全ての日本ウマ娘の中の始祖! 彼女がトレセン学園を作り上げて、今なお、語り継がれている! 戦場を駆けた戦乙女! 戦場のセントライトだッ! 全員敬礼ッ!」

 

 

 弾けるような爆音と共に軍服に身を包んだセントライト先輩が会場へと足を踏み入れる。

 

 軍歌が流れると共に、セントライトに会場にいるファンからは最敬礼が送られていた。

 

 その姿はカリスマに溢れている。今宵、皆が彼女がどんな走りをするのか注目していた。

 

 彼女はどの位置からレースを進めることが出来る、差しも先行も追い込みも、おそらく、逃げもだ。

 

 

「……私は負ける気はないぞ、後輩」

「言ってくれますね」

 

 

 顔を合わせる2人、変幻自在対決。

 

 どちらが勝つのか予想がつかない、どんな走りをするのかもだ。

 

 だが、会場にいる者達は理解している。

 

 2人とも、次元が違う化け物同士であるということをだ。

 

 SWDT二回戦、ミスターシービーVSセントライト。

 

 しばらく見つめあった2人はレース準備のためにゲートに足を進め、それぞれの位置に就く。

 

 鳴り響くファンファーレ、さらにヒートアップする会場。

 

 

 その会場が静まり返ると同時に、レースの幕は切って落とされた。

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