SWDTの二戦目が終わって。
残るは後、6戦なんですけども。私も次戦に向けて走っている最中でございます。
まあ、ミスターシービーさんからあんなレース見せられたんじゃおちおち休んでなんていられないですからね。
「アフちゃんせんぱーい!」
「おうふ」
「ちょっとドゥラちゃん」
そんな私について回るのはドゥラちゃんとキズナちゃんである。
チームに戻ってからというもの二人とも私にべったりだ。ドゥラちゃんに関しては私に頬擦りしながら先輩、先輩と名前を呼んで甘えてくる始末である。
キズナちゃんはそのストッパーみたいなものですけどね。
いやはや、いつからこんな甘えん坊になったんでしょうか。
「あ! ドゥラちゃんとキズナ先輩だ!」
「あり? キタちゃんとサトノちゃんじゃん」
「ん?」
そう言いながら、近づいて来たのはおそらくドゥラちゃんと同級生のウマ娘だろう。
真っ黒な鹿毛の髪にお人形さんみたいな瞼に顔立ちのウマ娘だった。
隣にいるサトノちゃんも愛らしい顔つきに綺麗な鹿毛の長い髪にひし形のメッシュが入っていて、とても可愛らしいウマ娘だ。
この2人の名前はキタサンブラックとサトノダイヤモンドといいます。私もドゥラちゃんからちょくちょく話は聞いていましたからね、もちろん名前は覚えていますよ。
2人は私達の側に寄ってくると話をし始める。
「あ、もしかしてトレーニング中だった?」
「うん! トレーニング中!!」
「えぇ……、私にはなんだか背後から抱きついてる様に見えるんだけど」
サトノちゃん、概ねその通りだぞ。もっと言ってやってください。
最近、やたらと甘えてくるムーブが凄いんですよこの娘。
すると、抱きついている相手が私だと気づいたのか、ゆっくりとキタちゃんがこう問いかけてきた。
「……もしかして、アフトクラトラス先輩?」
「そうだよ? アフちゃん先輩!」
「えぇ!? ちょ! ちょっと!? 凱旋門賞ウマ娘のお方になんでそんな風に抱きついてるの!?」
「あわわわわわ!?」
2人とも慌てすぎて可愛い、そこまで驚かんでも。
私の事をリスペクトしてくれるのは嬉しいのだけれど、そんな畏まられると私も困りますからね。
さて、ここは先輩として優しく気遣ってあげなくては。
「2人ともそんなに緊張しなくても良いんですよ?」
「そうだよ! アフちゃん先輩は基本ポンコツマスコットなんだから」
「おい」
ちょっと威厳見せたろかなと思った途端これですよ、まあ、日頃の行いのせいだとは思いますけどね! ちくしょうめ!
そんな私とドゥラちゃんのやりとりを見ていたキズナちゃんは大きなため息を吐くとこう告げ始める。
「もう、ドゥラちゃん。確かにそうだけどもっと言い方があるでしょ?」
「あ、ごめん! 他に思いつかなくて……例えば?」
「例えば……」
そう言って、私の顔をじっと見つめてくるキズナちゃん。
そうだ、私の威厳を守るため言ってあげてください、これぞ私だってな!
キズナちゃんはしばらく考えた後にキタちゃんとサトノちゃんにこう告げる。
「そう例えるなら愛らしくて可愛い抱き枕です!」
「んー、マスコットからどう変わったの? ねえ、どこら辺が変わったのかな?」
私は満面の笑みを浮かべながらガシッとキズナちゃんの肩を掴む。
確かに最近、抱き枕ユニオンガールズとかいう名前で活動してるから否定はできないんだけども違う、そうじゃ無いんだ。
それを見ていたキタちゃんとサトノちゃんは顔を引き攣らせていた。
あかん、怖い先輩と思われてしまうじゃ無いか!
「2人とも初めましてかな? アフトクラトラスって言います。そんなに畏まらなくていいからね?」
「え……でも」
「スピカでは、太ももを触ってくるトレーナーとアフトクラトラスには気をつけろってマックイーンさんとゴルシさんが……」
「うぉい! ちょっと待てい!」
私は顔を引き攣らせている2人のとんでもない発言に思わず声が出てしまった。
いやいや待て待て、私よりやばいウマ娘なんてたくさんいるぞ! その話してた2人が特にそうだ!
なんだったら被害受けてる方だぞ私は、どうしてこうなった。
慌ててツッコミを入れる私に思わず笑いをこぼす2人。
「えへへ、冗談ですっ! アフちゃん先輩は本当に凄く尊敬してますよ!」
「そーですよ! だってドゥラちゃんの憧れの先輩ですもんね!」
「でへへへへ」
なんでそこでドゥラちゃんが恥ずかしそうに照れてるのか謎なんですけども、むしろ、恥ずかしいのは普通私では無いでしょうか。
そんな惚気話するようなノリでなんか照れてるドゥラちゃんを他所にキズナちゃんがそっと耳に口を近づけて話をし始める。
「先輩、先輩」
「ん?」
「ドーベル先輩が見てます! ドーベル先輩!」
そう言いながら、私が恐る恐る後ろを振り返ると満面の笑みをしたままこちらを見つめてくるメジロドーベルさんがいました。
はい、わかってます。そうですよね! トレーニングサボって何油売ってるのかって圧ですよね!
後は嫉妬も交わり最強に見える。久方ぶりに背筋が凍りついちゃったなぁ、もう。
「よ、よーし! ついでだしぃ! 君たちいい機会だ! トレーニングに付き合いたまえ!」
「え!?」
「あ、いや、私達アンタレス式のトレーニングはちょっと……」
「ちょっと悲鳴が上がるくらいだから大丈夫! 多分!」
「トレーニングで悲鳴が上がるんですか!?」
え? むしろ上がらないトレーニングとかあるんですか?
ドゥラちゃんもキズナちゃんも一度は号泣しながら泣き叫びながらトレーニングした事ありましたよ? もちろん私もですけど。
サイボーグ坂路で悲鳴が上がらなくなるとようやく入門ってレベルですからね、アンタレスは。
「ささっ! 時間がない! 早くしないと背後にいる怖いお姉さんから追い込みかけられますよっ! さあハリー! ハリー!」
「えぇ!?」
「さあ走れー!」
こうして、ノリと勢いでキタちゃんとサトノちゃんを巻き込んだ私は勢いよく駆け始める。
そこからトータルして12時間ほどトレーニングを重ねて、2人が瀕死の状態になったのは言うまでもない。
ドゥラちゃんやキズナちゃんも未だにこのトレーニングをしんどいと言ってるくらいですからね、よかったね! これで君たちもまた強くなれたよ。
それから、数日後。
私はイベントを盛り上げるためのライブを行う事になりました。
というのも、SWDTを盛り上げるために私がライブをしろというルドルフ会長の御達しです。
まあ、そこでなんで私かというと、煽る能力は群を抜いて高いだろとかいう凄い理由だったりします。
確かに得意ですがその認識は解せませんよ! 本当!
「はーい、皆アッフだぞ!」
そして、こんな私も今ではちゃんとアイドルしている始末ですよ。
初期の頃なら考えられない変わり様ですよね、大丈夫、私もそう思っていますから。
会場からは激しいアッフコールが鳴り響いてます、傍にはブライアン先輩とディープちゃんがいます。
2人とも衣装が眩しいですねぇ、私の代わりにセンターやってもいいんですよ?
「それじゃ歌うぞ! HOLIDAYS!」
マイクを握る私は楽しそうに笑顔を浮かべながら歌を歌い始める。
最近、トレセンライブは真面目にやってるんですよ? ルドルフ会長からも毎回言われてますし、ほら、やっぱり私って今ではトレセン学園の顔みたいなとこもありますから。
まあ、嘘なんですけどね! 私が大人しくなるわけないでしょ!
ネタは毎回挟んでます(キリッ)。
「LA TA TA! LA TA TA! SHA LA LA! Let's enjoy the HOLIDAYS♪」
歌と共に踊り始める私。
振り付けもバッチリ覚えましたからね、この曲を歌ってると休みの日だなってなります。
元気が出る歌って素敵ですよね。
「LA TA TA! LA TA TA! SHA LA LA! Let's enjoy the HOLIDAYS♪」
ディープちゃんとナリタブライアン先輩も私に合わせて歌を歌ってくれます。
会場の皆も楽しそうに、それに合わせて手を振ってくれました。
昔はソーラン節しか踊らなかった私もこんなふうに可愛く踊れるようになったんだなってしみじみ思います。
毎回、ウイニングライブを踊る娘達からは1人だけ世界観が違うってよく言われたもんですよ。
「What d'you want? どんなことがおこりそうかな♪ ヘビーな荷物持たず〜♪ スタッカートでそれゆけ♪ What d'you want? いったいなにがはじまりそうかな♪」
るんるんで歌いながら、私はブライアン先輩と背中合わせになります。
何かするたびに歓声が上がるのは毎度びっくりするんですけどね。
あと、ブライアン先輩の距離感が心なしか近いです。やめて! ここ公衆の面前ですからね!
苦笑いを浮かべながら私はいよいよサビに入ります。
「指折り数え待ちに待った〜HOLIDAYS♪ 今日の太陽 燦々 SUNNY DAYS〜♪ 虹より高く飛べる気がした〜RAINY DAYS♪
今日は待ってた〜COLORFUL HOLIDAYS♪」
サビを歌い切ると同時に観客席の皆さんから、私やディープちゃん、ブライアン先輩の名前を呼ぶ歓声が上がります。
明るい歌でレースを盛り上げるのも私達ウマ娘の役目ですからね。
さて、皆も満足したし次の曲を歌うとしますか。
「皆、ありがとう! 次の曲に行くよー!」
その言葉に反応する様に声を上げる会場の皆。
え? 私が普通に歌うだけで終わるって? そんなわけないでしょう。
ちゃんと用意してますよ、とっておきのネタをね!
私はサングラスをかけはじめ、用意していたギターを手に取ると声高く叫ぶ。
「行くぞオラー! ウルトラソウッ!」
ギュイーンというギターと共に声を張り上げて歌い始める私。
ちなみに、ディープちゃんとナリタブライアン先輩はポカンとしていた当たり前である。
すると、ここにきて白い乱入者が、そうギターを携えたGORUSHIちゃんである。
「夢じゃないあれもこれも〜♪ その手でドアを開けましょう〜♪」
ポカンとしているのは2人だけではありません。
遠目で見ていたシンボリルドルフ生徒会長もあまりの突然の出来事に唖然としていた。
今まで普通にライブをしていたはずの私が急にネタに走るとは予想だにしていなかったからだろう。
ちなみに観客達も急に変わった音楽のジャンルにポカンとせざるえなかった。
これがアフちゃんクオリティである。
「そして輝くウルトラソウッ!」
しかしながら、ハァイ! という相槌をこれでもしてくれるのはさすがは鍛えられた私のファン達と言えるでしょう。
ちなみにこの後、ルドルフ会長がブチ切れて追いかけてきました。
私はライブが終わったと同時にすぐにGORUSHIちゃんと共にそのライブ会場から逃走します。いやぁ、本当いつものことながら背筋が凍るぜ全く!
なお、ルドルフ会長からその日の晩まで追いかけられ、正座をさせられたのは言うまでもありません