遥かな、夢の11Rを見るために   作:パトラッシュS

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坂を登れ

 

 

 

 レースに向けての最終調整。

 

 ライブとか配信とか諸々やってきましたけど、やることはやっています。

 

 サイボーグ坂路を黙々と走る私は最後の追い込みをしていました。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 とはいえ、やはりテイオーちゃんから指摘を受けた通り、以前よりもキレがない様に自分でも感じます。

 

 長らくブランクがありますからね、これでは本番で7速を使うのは到底無理でしょう。

 

 使ったとして、また身体に過度な負担を強いてしまうのは避けられませんからね。

 

 

「アフちゃん先輩、少し休みましょう?」

「いえ、まだ……」

「先輩ダメです」

 

 

 私がまた追い込みをかけようとしたところ、ドゥラちゃんが肩を掴んで泣き出しそうな顔をこちらに向けてきます。

 

 そんな顔をしないでくださいよ、それだと、走れないじゃないですか。

 

 以前のことがあってから、ドゥラちゃんもそうなんですけどキズナちゃんまでいつも止めに入ってくるんですよね。

 

 流石に後輩を悲しませるのは本意ではありませんし、無茶は周りから止められていますので無理はしない様には最近は心がけているつもりです。

 

 

「はぁ……。わかりましたよ今日はここまでにしますか」

「はい! あ、じゃあ、晩御飯食べに行きましょ!」

「結構遅くなっちゃいましたね」

 

 

 いつものことながら、ライトが当たってナイターでトレーニングしていたとはいえ辺りは真っ暗です。

 

 トレーニングにそれだけ熱が入っていたということなんでしょうけどね。

 

 私達はシャワーを浴び終えた後、校舎の食堂に向かいながら雑談をしていた。

 

 

「そういえば、アフちゃん先輩。この間のライブテロで、なんかアフティーが流行ってるみたいですよ?」

「ほへ?」

「そうですよ、それでこの間またルドルフ会長から怒られたんでしょ? もー」

 

 

 そう言いながら、ドゥラちゃんの言葉に乗っかるようにしてジト目をこちらに向けながら告げるキズナちゃん。

 

 そんなん仕方ないですやん! 皆が期待の眼差しを向けてくるんですよ! やるしかないでしょ! 

 

 やってみせろよ! アフティーだなんて私には最高の煽りでしょうが! 

 

 応えるしかない、私の中のリトルアッフがそう言ってました。仕方ないね。

 

 

「まあ、そんなことはさておき。足の具合はどんな感じですか?」

「んー……、調子は出ないですかね……」

「大丈夫なんですか……今週末ですよ」

 

 

 それは、オルフェーヴルとの対決の事だろう。

 

 私だってわかってはいる。万全じゃない状態で三冠ウマ娘とやり合うのにこのままじゃ良くない。

 

 さて、どうしたものか。

 

 

「……明日はリミッター外しますか」

「確かにそれも手ですが、もっといい方法があります」

「!? ……姉弟子!?」

 

 

 話しながら歩いていると、壁に寄り掛かった姉弟子が私達を待ち構えていました。

 

 もっといい方法があるですと、何というか、姉弟子からそう言われるとなんだか嫌な予感しかしないんですけど。

 

 

「……仮にも貴女はアンタレスの看板を背負っているのですから、走るのなら生半可な走りなんてさせません、義理母ともそう誓いましたからね」

「うぐっ……」

「まさか、今更ひ弱な事を言ったりしませんよね妹弟子」

 

 

 姉弟子はそう言いながら満面の笑みを浮かべている。

 

 見てください、姉弟子の笑みから溢れ出す圧にキズナちゃんとドゥラちゃんの顔が真っ青になっていますよ。

 

 まあ、アンタレスで一番厳しいのは姉弟子ですからね仕方ないですね、二人ともトラウマになってるじゃないですか。

 

 要するに姉弟子が言いたいのは、ここにぃ! ハードトレーニングひよってる奴なんているぅ? いねーよなぁ! ということでしょう。

 

 これは卍の人達も裸足で逃げ出す展開なのでは? 

 

 

「や、やるしかないですね……」

「よろしい、なら今すぐ身支度しなさいすぐに出ますよ」

「……えっ!? 今から!?」

「もちろん。 あ、ちなみに走りで行きますから軽装にしておきなさい、私はもう準備できてますから校門で待っていますね」

 

 

 そう言いながら、踵を返す姉弟子。

 

 あまりの突然の出来事に私も思わずポカンとしてしまう。

 

 今から移動するとか、もう夜ですけど! キズナちゃんとドゥラちゃんも血の気が引いたように顔面が蒼白になっている。

 

 そうだね、今日もなかなかハードな内容だったもんねトレーニング。

 

 だけどね、こんなん日常茶飯事だったんですよ、義理母がいた時は。

 

 いや、もっとすごかったですかね。

 

 

 そこから、姉弟子と合流した私達はずっと走りっぱなしで県を跨ぎ、私達はある場所までやってきました。

 

 なんとついた場所は栃木県、また随分遠くまで来たものです。

 

 キズナちゃんとドゥラちゃんは道中の姉弟子の追い込みでヘトヘトになっています。

 

 

「はぁ……はぁ……」

「死んじゃう……もう無理……」

 

 

 そう言いながら道端にもかかわらず路上でぶっ倒れる二人。

 

 わかるよ、私も良く姉弟子からは涙目にさせられましたもの。

 

 さて、そんな私達がやってきた栃木県なんですけども、目の前にあるのはクッソ長そうな山道でした。

 

 

「あの……姉弟子ここは……」

「いろは坂です」

 

 

 姉弟子は準備体操をしながら涼しげな表情でそう私に答える。

 

 そう、私達がやってきたのはなんと国道120号の坂道いろは坂。

 

 まさかのいろは坂に私も思わず目がまんまるくなります。いや、いろは坂までわざわざ走りで行くのもどうかと思うんですけど。

 

 

「貴女にはここで今日からトレーニングを積んでもらいます」

 

 

 ほう、このクッソ曲がりくねった坂でトレーニングをすると、走り屋の聖地じゃないですかここ。

 

 真顔でそんな事言われましても、私としてもいきなりいろは坂を走るなんて思いもしませんでしたからね。

 

 

「なるほど、ちょっとハチロク買ってきていいですか?」

「何言ってるんですか、走りですよ」

「ですよねー」

 

 

 有無を言わせないのがアンタレス式。

 

 はい、知ってました。何年このチームにいると思ってるんですか、もう慣れましたよ(絶望)。

 

 いや、場違いでしょ、ここは豆腐屋が走る坂ですよ。

 

 ハチロク誰か持ってこい、あ、GTRでもいいですよ。

 

 私はまだいいんです、慣れてますから、ただ、背後の後輩二人を見てください顔面が蒼白になっていますよ。

 

 

「アフちゃん先輩嘘ですよねっ! 何時間も走りっぱなしなんですよっ!?」

「冗談ですよねっ! ねっ!」

 

 

 涙ながらに私に抱きついて懇願してくる二人。

 

 諦めてください、これが現実です。

 

 あとどさくさに紛れてさりげなく私の胸を揉むな。

 

 わかってるんだぞお前達。いつからそんなさりげなくセクハラが上手くなってるんですか。

 

 ドーベルさんですか、ドーベルさんの入れ知恵ですね! 

 

 いや、もしかしたらナリタブライアン先輩かもしれない、いかんな、最近、疑心暗鬼になりつつある。

 

 だって気づいたら箪笥からパンツやブラジャーが消えるのが日常茶飯事ですよ、そら疑心暗鬼にもなりますて。

 

 私ははぁ、と大きくため息をつくとゆっくりと姉弟子の方を見る。

 

 あ、ダメだあれ、もう完全にサイボーグスイッチ入っちゃってます。あぁなったらもう諦めるしかありません。

 

 

「二人とも気合いを入れなさい」

「そんなっ!」

「アフちゃん先輩〜」

 

 

 そんな甘い話なんてないんですよ。これがアンタレス式ですからね。

 

 しかしながら、最近割とハードなトレーニングをしてたような気もするんですけど全然甘かったらしい。

 

 なんというか、姉弟子とライスシャワー先輩が練習とかに参加すると空気が変わるんですよ。

 

 何人かは今日は命日かと呟く始末ですしね。

 

 ドーベルさんとか私もだいぶ厳しくやってるつもりなんですが、二人からしたら甘いという事なんでしょう。

 

 だから頭おかしいって言われるんですよ! もう慣れましたけどね! ちなみに私達はクッソ重い重りつけてここまで走ってきてるんですけどね。

 

 軽装とは一体……。

 

 涙ながらに訴えてくる二人にヨシヨシと仕方なしに私は頭を撫でてあげる。

 

 おい、さりげなく私の胸を揺らすな、二人とも。

 

 姉弟子はそんな私達を見ながらこう告げてくる。

 

 

「ちなみに今日はもう一人呼んであります」

 

 

 まさかのもう一人、このいろは坂まで呼んであるという展開。

 

 いや、こんな坂まで一体どんな変わり者のウマ娘が来るというのですか。

 

 しばらくすると、姉弟子は遠方に向かって手を振る。

 

 ものすごいスピードでやってくる真っ赤なそれは、ユーロビートをガンガン鳴らし、慣性ドリフトをかましながら私達の前にやってきた。

 

 

「やっふぅぅぅ! お姉さん登場〜!」

 

 

 そう、やってきたのは真っ赤なランボルギーニ・カウンタック。

 

 そして乗っているのはマルゼンスキー先輩その人である。助手席には死に体になったたづなさんが乗っています。

 

 大方、マルゼンスキーさんから付き合わされたんでしょうね。

 

 可愛そうにと思っていたら、車から出てたづなさんは綺麗な虹を口から吐き出していました……oh……。

 

 そんなたづなさんをスルーする形で姉弟子は私に話を続けます。

 

 

「これから貴女には私と、このマルゼンスキーさんのランボルギーニとこのいろは坂を走ってもらいます。もちろん重りつきで」

「なんですと!?」

「もちろん、勝てるまで何度でも、私達に勝てないようじゃ三冠ウマ娘……、いや、世界最高峰のウマ娘達に勝つ事なんてできません」

 

 

 そう言いながら、真っ直ぐ私の瞳を見つめてくる姉弟子。

 

 いやいや、まてまて、ランボルギーニと姉弟子に重りつけて坂で勝てってそらだいぶやばいですよ! 勝てるかぁ! そんなもん! 

 

 しかしながら冗談ですよねと聞き返してみれば真顔で真っ直ぐこちらを見てくるあたり本気なんだろうなとすぐに諦めました。

 

 なるほど、サイボーグ坂路もだいぶ急勾配ですけどいろは坂もかなりきついぞこれ。

 

 

「あーもう! やったりますよ! こんちくしょうめ!」

「ウソでしょ!?」

 

 

 私の返答に正気かこいつとばかりの眼差しを向けてくるキズナちゃん。

 

 キズナちゃん、これがアンタレスだ。覚えておけ、無理はぶち破るためにあるんですよ。

 

 ランボルギーニに勝ってやろうやんけ! 峠で誰が最強か教えてやらぁ! 

 

 峠あんまり走った事ないんですけどね。

 

 いや、私も正直帰りたいです。なんで栃木までこんな事しにきてんですか私。

 

 こうして、次戦に向けて私達の地獄のような追い込みトレーニングは開始されました。

 

 

 あと、今更ですがたづなさんの背中、誰がさすってあげてください。

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