遥かな、夢の11Rを見るために   作:パトラッシュS

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第3戦前日

 SWDT、ウマ娘八番勝負、第三戦目。

 

 シャドーロールの怪物ナリタブライアン。

 

 英雄、ディープインパクト。

 

 試合当日だというのにこの二人の対決を前に会場は何処か落ち着かない感じである。

 

 その理由は、このレースが始まる1日前に遡る。

 

 

「ナリタブライアンさん! こちら見てください!」

「はいはい……たく、面倒だな」

 

 

 レース前日の記者会見。

 

 ナリタブライアン先輩とディープインパクトちゃんの二人は記者に囲まれながら、インタビューに応じていた。

 

 もちろん、記者達含めた皆が明日の三冠ウマ娘同士の対決に胸を躍らせていて、そのための記者会見だったのは言うまでもないだろう。

 

 

「ディープインパクトカッコいいなぁ、やっぱり」

「流石は英雄って感じだよな」

 

 

 静かにナリタブライアン先輩と並んで写真を撮られるディープちゃん。

 

 だが、そんな記者会見の最中、その出来事は起こった。

 

 気の強そうな眼差し、刺々しい鹿毛の短い髪のウマ娘が記者達を蹴散らすように掻き分けながら、そんな二人の前に現れたのだ。

 

 異様な雰囲気を醸し出す彼女に記者達も思わず道を空けてしまう。

 

 彼女は可愛らしい八重歯を見せながら、記者会見をしているナリタブライアン先輩とディープインパクトちゃんをジッと眺めると近くにいる記者にこう問いかける。

 

 

「なぁなぁ、そこのお前さん、聞きてーんだけどよ、明日こいつらが走るのか?」

「え? そらそうですよ、というかいきなりなんですか貴女は……」

「ほーん、なるほどなぁ。なーんだ、アフトクラトラスじゃねーのか、つまんねーなぁー」

「は?」

 

 

 そう言う彼女はため息を吐くと左右に首を振る。

 

 それを眼前で聞いていたナリタブライアンとディープインパクトの二人は眉間に皺を寄せた。

 

 いきなり来て、何という物言いをするウマ娘なのかと。

 

 それは当然だ。彼女達からしてみればこのSWDTは三冠ウマ娘同士が戦うレースであり、それこそ、互いに三冠ウマ娘としてのプライドがある。

 

 それをいきなり馬鹿にされたような言われ方をすれば頭にくるのは道理だ。

 

 ディープインパクトは嫌悪感を露わにしながらゆっくりと口を開く。

 

 

「貴女誰ですか、こっちは今ピリピリしてるんです。引っ込んでてください」

「はっ……。おもしれぇこと言うじゃねぇか、威勢がいいのは嫌いじゃないぜ?」

「おい、ディープインパクト」

 

 

 ナリタブライアン先輩は突っかかるディープインパクトを宥める。

 

 だが、ディープインパクトを見据えている彼女は笑みを浮かべたまま、静かに話を続けはじめた。

 

 

「流石はディープインパクトってとこか、シーバードの奴が気にいるわけだぜ」

「なんだと?」

「……試しに私と走ってみるか? ん?」

 

 

 その瞬間、目の前に現れたウマ娘の身に纏う空気が一変した。

 

 背筋の凍るような眼差し、それでいて、周りから醸し出される黒い何か。

 

 それを肌で感じたディープインパクトも思わず目を見開く、このウマ娘は普通のウマ娘でない事を悟ったからだ。

 

 そして、記者会見に来ていた記者の一人がそのウマ娘の事を思い出す。

 

 そう、背は小さく、それでいて異様なまで風格と特徴的な八重歯。

 

 16戦16勝無敗、世界最高峰のレース凱旋門賞を連覇し、その圧倒的な強さから『イルピッコロ』と呼ばれているウマ娘。

 

 ブライアン先輩とディープインパクトの目の前にいる彼女はまさに生ける伝説だ。

 

 

「……お、おい、彼女! ……り、リボーじゃないかっ!?」

「あん?」

「リボーだって!? なんだってこんなとこに!?」

 

 

 騒ぎ出す記者達。

 

 リボーが日本に来るなんて事は今までなかった。

 

 しかも、こんな記者会見の場に殴り込みのような形で現れて場を乱しまくっている。

 

 これは大スクープだとばかりに彼らは騒ぎ立て、盛り上がっていた。

 

 そんな最中、リボーと呼ばれたウマ娘は肩をすくめながら、ナリタブライアンとディープインパクトに話を続けはじめる。

 

 

「そういうわけだ。まあ、私に挑むってんなら走ってやらん事もないぞ? 明日のレースが走れなくなるかもしれないけどな」

「……甘く見られたもんですね」

「売られた喧嘩は買わないとな、私も正直、ここまで言われたんじゃ黙ってられない」

 

 

 そう言って、リボーの挑発にやる気になり始める二人。

 

 レース前の記者会見だというのにこんな事になるのは前代未聞だ。

 

 一触即発の状態、その光景を眺めていた記者達も思わず固唾を飲んでそれをただただ見守るだけだ。

 

 だが、リボーから売られた挑発に乗ろうとした二人に対してそこに待ったがかかる。

 

 

「そこまでッ!」

 

 

 思わずその場にいた全員がその声の主の方へと振り返る。

 

 そこには、凛とした姿で腕を組みながら歩いてくる皇帝、シンボリルドルフの姿があった。

 

 そして、その背後には欠伸をしながら歩いてくる栗毛の綺麗な癖のあるセミロングの髪に白いワンピースを着た美しい聖女のようなウマ娘の姿があった。

 

 彼女はゆっくりと口を開き、話し始める。

 

 

「ほら、リボーちゃんダメよぉ。勝手な事しちゃ」

「別にテメーには関係ねぇだろシーバード」

「郷に入れば郷に従えって言葉があるでしょ? おバカさん」

「誰が馬鹿だコラァ!」

 

 

 そう言って、煽っているシーバードはクスクスと笑いながらリボーに告げると、彼女から煽られたリボーはそちらに食ってかかる。

 

 そんなリボーに対してニコニコとどこ吹く風といった具合のシーバード。

 

 その姿は周りの記者達やブライアン達からはやんちゃしてる子供を見守るように見えた。

 

 それから、リボーは深いため息を吐くと舌打ちをする。

 

 それは、シーバードが止めに入った事でやる気がなくなってしまったからだ。

 

 

「チッ……、興が醒めた。帰るわ」

 

 

 それだけ言い残し、リボーは舌打ちをすると踵を返しその場から立ち去っていった。

 

 シーバードはゆっくりとナリタブライアン先輩とディープインパクトに軽く頭を下げ、こう話をし始めた。

 

 

「ごめんなさいねぇ、あの娘は昔から、あーだから、気にしないで?」

 

 

 シーバードの言葉だが、二人ともモヤモヤした感情は収まり切れてない。

 

 まるで、自分達が眼中に無いようなリボーの発言は特にプライドが高い二人には、癪に触って仕方がなかった。

 

 そんな二人にシーバードは肩をすくめながら、ゆっくりと口を開く。

 

 

「彼女、アフトクラトラスに御執心なのよ」

「何? おい、それはどういう意味だ」

「なんですかそれ」

 

 

 シーバードの言葉に顔を顰めるナリタブライアン。

 

 そして、尊敬するアフトクラトラスの名前を聞いて、食いつくように聞き返すディープインパクト。

 

 何故、アフトクラトラスの名前が上がるのか、そんなナリタブライアンにシーバードは笑みを浮かべながら楽しそうに語り始めた。

 

 

「あら? 言葉の意味よ。まどろっこしいの嫌いだから単刀直入に言うと、リボーはあの娘を引き抜きに来たの。まぁ、私はディープちゃんを引き抜きに来たんだけどね」

「……なんだと!?」

「ちょっと待ってください」

 

 

 シーバードの一言に先程まで黙って聞いていたルドルフも彼女の言葉に顔を曇らせる。

 

 それはそうだ。今は三冠ウマ娘同士が戦うSWDTの最中、そんな大事な時期にそんな話をされたのでは黙って聞いておく事などできないだろう。

 

 ルドルフはアフトクラトラスとディープインパクトに関しての話を初めて聞いたのか、顔色を変えてすぐさまシーバードに問いかけた。

 

 

「我が校の生徒を引き抜くというのはあまりにも横暴ではありませんか? どういうつもりなんです」

「……それを、私に言わせるつもり?」

 

 

 そう言って、シーバードは静かな声色でルドルフに向かい告げる。

 

 シーバードの雰囲気が一変し、周りにいた記者達もルドルフ達も息を呑んだ。

 

 何故、今回、自分達がこの日本という国まで赴いたのか、それはアフトクラトラスとディープインパクトという存在が非常に世界にとって欠けてはならないウマ娘であるからだ。

 

 それを踏まえた上でシーバードは続けるように話をし始めた。

 

 

「アフトクラトラスとディープインパクトの有記念、あのレースは世界中のウマ娘達が見ていたわ。……下手をしたらアフトクラトラスが死んでいたかもしれない。あれだけの才能を失いかけたのよ」

 

 

 シーバードは語気を強めてルドルフにそう告げる。

 

 アフトクラトラスというウマ娘の強さや才能は海外レースで彼女と走ったどのウマ娘達も知っている。

 

 シーバードのその言葉にルドルフもナリタブライアンも何も言えなかった。

 

 生死を彷徨った彼女の姿を目の当たりにして、アフトクラトラスがそうなってしまったのは自分達にもその責任があったと思っていたからだ。

 

 もっと早くに気づいて彼女を宥める事もできたかもしれない。

 

 だが、それが自分達にはできなかった。

 

 いや、おそらくしようとしても、きっとあの時の彼女の強い意志を曲げる事は出来なかっただろう。

 

 

「それだけでは無いわ、彼女が有まで受けた扱い、魔王だとか散々悪者にしたてようとしてたみたいね? これが、彼女を取り巻く現状でしょう?」

「……それは」

 

 

 冷たい眼差しをシーバードから向けられた記者達は視線を逸らしながら言い澱む。

 

 それからシーバードは深いため息を吐くとルドルフの方に向き直り、話を続け始めた。

 

 

「だから、潰される前にディープインパクトとアフトクラトラスをこちらで保護しようと思っただけよ、ついでに日本のウマ娘を潰しに来たって話だけどね」

 

 

 シーバードを真っ直ぐに見据えるルドルフ。

 

 散々な言われよう、ルドルフもそんなシーバードの言葉に思わず拳を握りしめる。

 

 ついでに潰しに来た。そんな風に見られているのが非常に腹立たしくなったからだ。

 

 そんなに日本のウマ娘は甘くは無い、皆、日頃から今日より強くなろうと懸命に努力を積み重ねているウマ娘ばかりだ。

 

 それから、反論しようとルドルフが口を開き始めるが、それを遮るかのように何者かがルドルフとシーバードの間に割って入ってきた。

 

 綺麗で澄んだ瞳を向ける青いリボンに鹿毛の長く美しい髪のウマ娘。

 

 英雄と言われているそのウマ娘はジッとシーバードを見つめたまま、口を開いた。

 

 

「さっきから黙って聞いていれば、引き抜くなんて勝手なことばかり」

「お、おい! ディープインパクト」

 

 

 シーバードにバッサリと言い放つディープインパクト。

 

 そもそも、自分を引き抜くだのと勝手に話を進められるのも癪に障ったが、あまりにも日本のウマ娘に対しての言い草が気に入らなかった。

 

 ディープインパクトは知っている。

 

 努力を積み重ねたウマ娘達の強さが決して海外のウマ娘達に引けを取らないという事を。

 

 

「日本のウマ娘が弱いかどうか、走ればわかるでしょう? 凱旋門賞で私やアフ先輩が勝ったのを見れば一目瞭然じゃないですか?」

「待て待て」

 

 

 シーバードを煽るようなディープインパクトの言い草にブライアンもこれには苦笑いを浮かべる。

 

 そうは言いつつも内心ではよく言った、もっと言ってやれとナリタブライアンは思っていた。

 

 特にアフトクラトラスを引き抜くなんて事をさせるわけにはいかない、彼女はブライアンにとってもディープインパクトにとっても、そして、皆にとっても大切なウマ娘なのだ。

 

 シーバードは肩をすくめると困ったように笑いながらディープインパクトにこう告げる。

 

 

「別に私は日本のウマ娘が弱いだなんて言ってないわよ? だから、最強のメンバーをわざわざ揃えて来たんじゃない」

 

 

 そう言いながら肩をすくめるシーバード。

 

 だが、そんなシーバードに対して、ディープインパクトは鼻で笑うと物怖じせずに口を開く。

 

 

「へぇ、最強ですか? じゃあ、私達がその人達を倒せば日本のウマ娘が最強って事になりますよね」

「ふふ、そういう事かしらね?」

 

 

 ディープインパクトの棘のある言葉に余裕のある笑みを浮かべるシーバード。

 

 G1レースの数も海外は日本に比べてかなり多い、そして、その広さの分だけ選りすぐりのウマ娘達がそのG1レースを駆ける。

 

 猛者達が削り合い、そして、勝ち上がって来た者達、それが、世界ランカーのウマ娘達のいるチームに集っている訳だ。

 

 シーバードはルドルフ会長にウインクをすると踵を返し、背を向けたままディープインパクトとナリタブライアン、そして、周りにいる記者達にこう言い放つ。

 

 

「なんにしても、来年の日本のG1レースには全員出させるつもりだから〜、楽しんでね! それじゃ、ルドルフ会長お昼ご飯食べに行きましょ、日本食って美味しいものばかりだから楽しみだわ」

「……貴女という人は焚き付けるだけ焚き付けて。……はぁ」

「二人とも明日のレース、楽しみにしてるわ! 頑張ってね」

 

 

 そう言いながら、ルドルフ会長の手を引っ張りその場から立ち去っていくシーバード。

 

 残されたブライアンとディープインパクトはそんなシーバードの背中を見ながら思った。

 

 絶対に負けたくないと、海外ウマ娘か何か知らないが決してアフトクラトラスは連れて行かせない。

 

 そんな事がトレセン学園であっている一方で、当の私はと言うと。

 

 

「へっくちっ!!」

 

 

 呑気にくしゃみをしていた。

 

 海外ウマ娘の襲来など微塵も考えていなかったですからね。

 

 むしろ、自分のコンディションを上げる事に集中してたからあまり興味がなかったっていうのもありますけど。

 

 ちなみに私の周りには死に体になって横たわっているキズナちゃんとドゥラちゃんが居ます。

 

 起きるんだよ! おら! 

 

 そんなんじゃ地上最強のウマ娘になれませんよ! 

 

 

「はいはい! 行きますよほら!」

「……ひ、ひぃ……」

「坂怖い坂怖い坂怖い坂怖い」

 

 

 横たわり目に光がないまま呟くキズナちゃん。

 

 まあ、気持ちはわかります。私もそうでしたからね。

 

 坂がトラウマになる気持ちはわかります。けどね、背後で姉弟子が仁王立ちして待ってるんですよ。

 

 ぶっちゃけ私も帰りたいです。

 

 いつまでこの坂走るんだろ。

 

 それから、朝から晩まで坂を登り降りしたのち、満身創痍になりながら私達は無事トレセン学園へと帰還することができました。

 

 

「アフちゃん先輩抱っこー」

「アフちゃん先輩おんぶー」

「はいはい、甘えない甘えない」

 

 

 そう言いながら抱きついてくる二人に苦笑いをしながら、纏わりつかれる私。

 

 こちとらドゥラちゃん達の倍トレーニングしてるのにね、おかしいですよね。

 

 抱っこしてあげてるドゥラちゃんは私の胸元に顔面をすりすりしてきますし、お前ほんとに疲れとんのか。

 

 二人を抱えてトレセン学園に帰還するってのもトレーニングになるから別にいいんですけどね。

 

 私達がトレセン学園に帰還したのはもう日が暮れた頃でした。

 

 次のSWDTまでの調整もできましたし、あとはコンディションを上げていくだけです。

 

 こんなんしてたら走る前に力尽きそうですよねー。

 

 さて、帰ったら絶対にすぐお風呂入ろうと、二人を抱えている私は決心するのだった。

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