遥かな、夢の11Rを見るために   作:パトラッシュS

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激走の行方

 

 

 

 急転直下で動き出したSWDT3回戦。

 

 いきなりのディープインパクトの仕掛けにすぐさま反応するナリタブライアン。

 

 二人の差はあまり無い、互いに余力が有り余っている状況だろう。

 

 先頭を走るディープインパクトを追撃するナリタブライアン。

 

 この構図に観客達が盛り上がらないわけがなかった。

 

 

「ディープ先輩凄い加速力ッ……!」

「並のウマ娘なら二歩目で千切れてしまいますよ! あんなの!?」

 

 

 異次元の加速力、これこそがディープインパクトの真骨頂。

 

 何者も寄せ付けることのない急加速は対応するにも一苦労する。驚くべきはこれがまだ本気ではないということ。

 

 私はディープちゃんと走った事があるからわかる。彼女が本気を出す時はその両翼が開いた時だ。

 

 その瞬間、その加速力がもう一段上がり、風を切り裂く。

 

 天翔けるウマ娘とはまさしく彼女の姿を指していると言っても過言ではない。

 

 

「ディープインパクトちゃんの走りは天を駆ける走り、だけど……」

 

 

 だが、後ろを駆けるナリタブライアン先輩の末脚の凄さを私は知っている。

 

 彼女の本気の走りは地を割く様に走るその剛脚だ。

 

 初動から一気に間合いを詰めて限界値まで速度を振り切らせる。

 

 その本気の姿はまさに、地を割る走り。

 

 地を這う私とは非常に相性が悪そうな走り方をしてくるんですよね。

 

 そして、ゴールが射程圏内に迫ってくる残り400mの地点。

 

 もはや互いに隠し玉はなしとばかりに、視線をぶつけ合うと、二人はいよいよ本領を全開で発揮し始めた。

 

 

「ここでッ!」

「仕留めるッ!」

 

 

 ガツンと互いに身体をぶつけ合うディープインパクトちゃんとナリタブライアン先輩。

 

 その間合いは全くなかった、完全な横並び状態である。

 

 こうなったら、もう小細工なんかは一切ない単純な脚力にものを言わせた殴り合いである。

 

 

「基本的にこの形になりますねやっぱり」

「ディープ先輩が優勢……っ!」

 

 

 いや、一見したら頭ひとつディープインパクトが有利に見えるだろう。

 

 だが、私はナリタブライアン先輩の走りをよく知っている。

 

 あれは、あえて前に行かせてるのだ。

 

 そう、ナリタブライアン先輩の真骨頂、それは直線で伸びる異様な末脚。

 

 

「そろそろ行きますよ、ブライアン先輩」

「……え?」

 

 

 間の抜けたキズナちゃんの声が溢れた瞬間。

 

 レース場の雰囲気がガラッと変わった。

 

 鋭く、切れ味の良い刃物、彼女の末脚はそう表現してもなんら違和感などなかった。

 

 

「ナリタブライアンの剛脚炸裂ッ!! さらに地面が割れたような音を立てるッ!?」

 

 

 グンッとさらに加速したナリタブライアン先輩に思わずディープインパクトちゃんは目を見開く。

 

 側面から増大するプレッシャー、それは、私と走った時に感じたものと同等かそれ以上のもの。

 

 これが、三冠を勝ち取ったウマ娘だけが身に纏う強者の覇気。

 

 

「私とてそれを持ち合わせていますッ!!」

 

 

 ディープちゃんが腰を低くして構える。

 

 両手を広げ、まさしく羽ばたくような構え、これが彼女の本気。

 

 ディープインパクトの天を駆ける走りだ。

 

 

「ディープインパクトが今ッ! 翼を広げましたッ! さぁ! 残り50mッ! 勝つのはどっちだッ!」

 

 

 隣で並走するナリタブライアン先輩の圧を跳ね返すディープインパクトちゃん。

 

 一瞬でも隙を見せればすぐに置いていかれる。

 

 互いに三冠という称号を得たもの同士、数多くの修羅場を越えて、数多くの強敵たちと戦ってきた。

 

 日本で一番強いウマ娘は誰なのか。

 

 己の横で走るのはその中の1人、化け物じみた強さで畏怖と尊敬を得た怪物だ。

 

 

「絶対にィ勝つゥ!」

「うおおおおおお!!」

 

 

 最後の追い込みでお互いに雄叫びをあげる両者。

 

 怒涛のデッドヒートに会場に来ていた全員が食い入るようにレースに釘付けになった。

 

 天空を舞い、地を割るウマ娘。

 

 その2人の決着は……。

 

 

「僅かにディープインパクトッ!? ディープインパクト体勢有利かッ! 際どいぞッ!」

 

 

 ほぼ同時にゴールになだれ込んだ。

 

 だが、ゴール直前、僅かにナリタブライアン先輩は身体をブラしてしまった。

 

 それが、僅かながら紙一重の差を生んだ。ディープインパクトちゃんがほんの少しだけ、体勢が有利に傾いたのだ。

 

 

「ディ、ディープインパクト! ディープインパクト一着! SWDT3回戦を制したのはなんとディープインパクトですッ!」

 

 

 

 ギリギリの勝負を制したのはディープインパクトでした。

 

 勝因は多分、ナリタブライアン先輩の最後のヨレでしょう。あれが少しだけディープインパクトちゃんを有利にしましたね。

 

 会場の観客達は皆、両者に惜しみない拍手を送る。

 

 勝ったディープインパクトちゃんも膝に手を当て、体力を使い果たしたとばかりに肩で息をしていました。

 

 それだけ、ナリタブライアン先輩が強かったということでしょう。

 

 あのプレッシャーを受けながら、ナリタブライアン先輩に勝つなんて凄い娘です。

 

 私でも、ブライアン先輩には並走で何度か負かされたことがあるというのに。

 

 後輩の成長が見れてなんだか嬉しいですね、素直に。

 

 まあ、負けるつもりはないんですけどね。

 

 私の方が勝ち越してるし! べ、別に焦ってねーし! 

 

 

「アフちゃん先輩、変な汗出てますよ?」

「ば、ばばば!? んなワケないでしょう! ほら! 撤収ですよ! 貴女達! 撤収!」

「えー、ウイニングライブ見ましょうよー」

「どちらにしろこんな破廉恥な格好で見に行けるワケないでしょ!」

 

 

 そう言いながらパッツンパッツンな自分のチアガールコスを指差して、ドゥラちゃん達に告げる。

 

 ウイニングライブなんて茶番を見とる場合かー! 走るんだよー! 

 

 ただでさえ本調子でないというのに、次のレース私が走らないといけないんですからね。

 

 海外のウマ娘がカチコミに来てるみたいですし、恥ずかしい走りなんてできないですから。

 

 そんな風に考えていた次の瞬間。

 

 私の胸元からバツンッという嫌な音が聞こえてきた。

 

 

「あ……」

「おや?」

「んなぁ!?」

 

 

 怒髪天になった、某北◯神拳伝承者みたく胸元がぱっくり開いた光景にドゥラちゃん達も目をまん丸にし、私も思わず表情が強張る。

 

 そして、それを見ていた会場からはオー! と何やら盛り上がるような声が上がってきていた。

 

 おい、これ前もどっかで見たことあるぞ! ふざけんなー! 

 

 私は胸元を見てくる観客達に向かい、顔を真っ赤にしながらすかさず手元にあるたこ焼きを投げつける。

 

 

「見てんじゃないよー! この変態どもがー!」

 

 

 せっかくのディープインパクトとナリタブライアン先輩のレースだというのにこんなオチは許されない! 

 

 ゴルシ! おい! お前のせいだぞ! 

 

 そんなゴールドシップは観客に紛れて何やらカシャカシャしてますしね! 

 

 そんな観客席での茶番劇を他所に、レース場では肩で息をしているディープインパクトが静かに呟く。

 

 

「あ、……危なかった。本当に……、あと少し詰められたら……」

 

 

 冷や汗を流しながらそう呟くディープインパクト。

 

 ほんの紙一重の差だった。

 

 余力を出すタイミングを僅かでもミスっていたら間違いなく差されていただろう。

 

 ナリタブライアンというウマ娘はそれほどまでに強かった。

 

 その証拠に、肩で息をしているディープインパクトとは裏腹にナリタブライアン先輩は飄々としたようにフゥーと大きなため息を吐くだけだ。

 

 このレースが下手をするとナリタブライアン先輩にとって不完全燃焼の可能性だって全然あり得る。

 

 すると、ナリタブライアン先輩はゆっくりとディープインパクトの元へと歩み寄り手を差し出してくる。

 

 

「見事な走りだった。私の負けだ」

「……よく言いますよ……。地力では私が負けてます、多分」

「さぁ……けど、結果は結果だ」

 

 

 そう言いながら差し出してくるナリタブライアン先輩の手をディープインパクトは握る。

 

 走り終えてヘトヘトなディープインパクトと表情を変えないナリタブライアン先輩。

 

 この図を見れば、どちらが果たして勝ったのかわからなくなる。

 

 すると、ナリタブライアン先輩はゆっくりとディープインパクトの耳元で静かにこう告げた。

 

 

「負け惜しみを言うなら……、多分、3000m以上なら私が勝っていたかもな? 2身差で」

「!?」

「……次またリベンジさせてくれ」

 

 

 そう言いながら笑みを浮かべるナリタブライアン先輩にディープインパクトは表情を曇らせる。

 

 3000m以上、確かにその距離はディープインパクトも走れなくはないが、ナリタブライアン先輩が言うようにそれだけの距離が今回あったならば間違いなく負けている。

 

 それは、ディープインパクトが自身がよく自覚していた。

 

 

「……まだまだ、強くならなくちゃいけないですね」

 

 

 自然とディープインパクトの口元に笑みが溢れた。

 

 彼女の視線の先には観客席でギャーギャーと騒いでいる青鹿毛の髪をしたポンコツマスコットこと彼女の姿が映っていた。ディープ視点なのに一人称がブレている

 

 打倒、アフトクラトラス。

 

 日本のウマ娘ならば、彼女を倒さない限り日本一のウマ娘は名乗れない。

 

 

「…………」

 

 

 あんな風に普段こそふざけているとはいえ、レースになればまるで別人。

 

 そんな表裏一体な顔が私にあることをディープインパクトはよく知っている。

 

 自分が今まで走ったことがないような猛者と戦えるSWDT、ナリタブライアン先輩との戦いを制したからといって決して慢心などはできない。

 

 克服しなければいけない課題が新しく見つかる。つまりこのSWDTは走る者にとって大きく成長する機会だ。

 

 ディープインパクトは静かにそのことを理解し、拳を握りしめ、会場の皆に向かい深々と頭を下げた。

 

 こうして、凄まじい激走を繰り広げたSWDT3回戦はディープインパクトの辛勝という形で幕を下ろすのだった。

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