遥かな、夢の11Rを見るために   作:パトラッシュS

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レースに向けて

 

 

 

 

 

 SWDT3回戦が終わって。

 

 はい、いよいよ次は私の出番ってわけなんですけども、なんと相手はあの金色の暴君って言うんだからもう大変ですよ。

 

 そんな私は先日レース場でたこ焼きを売って回りながら胸を晒すという恥ずかしい姿を晒してしまいました。

 

 もう慣れてますけどね。

 

 

「アッフー負けたぞー悔しぃー!」

「もー! 胸に顔押し付けてぐりぐりしないで! 鼻水とかついちゃうでしょー!」

 

 

 そう言いながら私の胸に顔を埋めてくるナリタブライアン先輩に苦笑いを浮かべる。

 

 仕方ないってちゃ仕方ないんですけど、毎度のことながら胸を貸すってこういうことじゃないと思うんですよね。

 

 

「やっぱり柔らかいなー、癒される……」

「柔らかいなーちゃうねん、揺らさないで」

 

 

 たゆんたゆんと私の胸を揺らしてくるナリタブライアン先輩に私は思わず顔を引き攣らせて青筋を立てる。

 

 わかってるんですかね、私とも走るんですよ貴女、三冠ウマ娘がこんなんでいいんですか! 

 

 え、お前も大差ないやんけですって? 

 

 それは否定できませんね、確かに毎回ルドルフ会長に怒られてますし、でもそれとこれとは話は別です、いいね? 

 

 さて、気を取り直してですが、SWDTの三回戦も終わり、私は次戦に備えて特訓中でございました。

 

 そらもう、毎日、坂路坂路坂路ですよ。

 

 これが遠山流特訓術といっても過言ではありません、つい最近では赤城山登りましたかね。

 

 巷では高速で坂を登る胸デカウマ娘が有名になっているとか、基本胸しか見てませんねほんと

 

 そんな中、たまたますれ違ったウマ娘達の話が耳に入ってきました。

 

 

「次戦はオルフェーヴルとアッフかぁ……」

「荒れそうだねー」

 

 

 もはや、私の呼び名がアッフになっている件について。

 

 トレセン学園にいるウマ娘達はもはや私を愛称で呼ぶという、おい、凱旋門ウマ娘の威厳はどこいったんだ一体。

 

 そんなことはどうでもいいんですが話す通り次戦はオルフェちゃんです。

 

 彼女とはマラソン以来ですかね、走るのは。

 

 だが、先程のウマ娘達が話す通り一つの懸念がそのレースに関しては集まっていました。

 

 そう、言わずもがな、私もオルフェーヴルも超ド級の癖ウマ娘だからです。

 

 場合によっては血の雨が降るぞなんて言われている始末。

 

 私を一体なんだと思ってるんですか! 失敬な! ぷんすこ! 

 

 

「お前は前科ありまくりだからな」

「ゴールドシップに並ぶほどの偉業だぞ」

「めっちゃ嬉しくない!」

 

 

 ナリタブライアン先輩とヒシアマ姉さんから口を揃えてこう言われちゃう私ってなんなんでしょうね。

 

 それからしばらくして、私はレース場で調整に入ることに、まあ、やる事はいつも通りのハードなトレーニングですがね。

 

 そんな私の走る姿を神妙な顔で見つめる白いウマ娘。

 

 彼女は私が走る姿を見ながら腕を組み何かを悟ったように呟き始める。

 

 

「それは胸というにはあまりにも大きすぎた。大きく、柔らかく、丸く、そして、大雑把すぎた。それは、まさに抱き枕だった」

 

 

 ちょっとそこ、真剣に坂を駆けあがっている人の胸を某ダークファンタジー漫画みたく言わないで貰っていいだろうか。

 

 大雑把ってなんですか!! 形はちゃんとしてますからね! 失礼な! 

 

 しかも、抱き枕で扱いである、解せぬ。

 

 そんなゴルシちゃんの呟きを他所に私はサイボーグ坂路を激走中でした。

 

 

「ハァ……ハァ……、全く! こちとら坂路アホみたいに走ってるってのに!」

「アフ先輩隙ありぃ!」

「甘いわァ!」

「なっ……! か、慣性ドリフトッ!!」

 

 

 赤城山だけでなく秋名まで走った私の足を舐めるなよ! 

 

 ドゥラちゃんやキズナちゃんに前を走らせるほど私は甘くは無い! 

 

 こちとら4WDのGTR相手に走ったりしとったんだからなぁ! 今考えたらだいぶ頭おかしいと思うんですがねそれは。

 

 そう、そんなさまざまな坂路を走り、勝ってきたんです、坂路最速は私に決まって……。

 

 

「まだまだ甘いですよ、妹弟子」

「ゲェ!? 姉弟子っ!?」

 

 

 そこから私を捲るようにしてひょっこりと顔を出したのはポーカーフェイスの姉弟子。

 

 そして、私の内側からはなんと。

 

 

「アフちゃん、油断大敵だよ?」

「ら、ライス先輩!?」

 

 

 なんと、ライスシャワー先輩が強襲。

 

 心なしか目が光って見えるのは多分気のせいでは無いでしょう。

 

 BGMにユーロビートが流れてきてる気がします。多分、これは気のせいではないはず。

 

 内側から現れたライスシャワー先輩から心なしか殺気を感じます、何故!? 

 

 

「坂路最速は私達を倒さないとあげないよ」

「かかってきなさい」

「上等です! 負けてたまるかぁ!」

 

 

 私は自分の脚に力を込めて更にペースを上げます。

 

 やっぱりなんやかんやで、このお2人と走るのが一番コンディションが整うんですよね。

 

 というわけで、サイボーグ坂路を激走して超追い込みをかけます。

 

 ずっと前は2人の後ろ姿を見ていた私ですが、今はもう2人と並んで走る事ができる。

 

 幾多の困難を越えて、ボロボロになりながら走り抜けてきたこれまで。

 

 サイボーグ坂路を駆け抜けた後、私は静かに息を整えながら空を見上げた。

 

 

(…………戻ってきましたかね)

 

 

 それは、自分の身体がようやく完全に近い形になりつつあるという実感。

 

 頭の中から溢れ出るエンドルフィンが全身を駆け巡っていくこの感覚。

 

 紙一重のレースを全て勝ってきたのは、これまで積み上げてきた途方もない努力があったからだ。

 

 

「へぇ……ようやくって感じか」

 

 

 そんな私の姿を遠目から眺めている1人のウマ娘がいた。

 

 鋭い眼差しに荒々しい鹿毛の短い髪、異様な空気感を身に纏う彼女は静かに笑みを浮かべていた。

 

 自分と同じような身長で、自分と同じように無敗。

 

 その得てきたG1の称号はどれも価値があるものだった。

 

 

「……そうじゃなきゃ、面白くねぇよな? アフトクラトラス」

 

 

 彼女は静かに必死で坂路を駆ける私を見ながらそう呟いた。

 

 彼女は知っている。私がどんなウマ娘かという事を。

 

 それは、アフトクラトラスという私の全ての原点、オリジン。

 

 ウマ娘として生を受け、そして、両親がいなかった私が本当は何者であるのか、それを、この最強のウマ娘の一角と言われているリボーは知っていた。

 

 アフトクラトラス、その名はギリシャ語で皇帝という意味を持つ。

 

 

「……お前と走るのが楽しみだぜ」

 

 

 その出会いが、私の全てを知る事になるとはこの時は考えもしませんでした。

 

 静かに意味深な言葉を呟いたリボーはその場から立ち去っていきます。

 

 

 

 さて、トレーニングが終わった私は日課の配信をしていました。

 

 アフちゃんねるも登録者数が増えて嬉しい限りですね。

 

 今日も私の分身、ヴァーチャルアッフを使って皆に媚を売っています。こういうのが人気に繋がりますからね。

 

 

「やっほーアッフだよ!」

 

『ヒャッハー! 新鮮なアフちゃんねるだ』

『パンツをよこせぇ!』

『胸を揉ませろォ!』

 

「なんだこの世紀末なコメント欄は」

 

 

 私に対するセクハラが凄い、見たことありますか? こんな配信者のコメント欄。

 

 核でも私のチャンネルに打ち込まれたんですかね。

 

 どうやらなかなか質が高い変態紳士達が集まってくるチャンネルになったみたいです。どうしてこうなった。

 

 

「気を取り直して、今日はマシュマロ読みますよ、全く本当に!」

 

 

『マシュマロ(アフちゃんの胸)』

『マシュマロ(アフちゃんの尻)』

『マシュマロ(アフちゃんの太もも)』

 

 

「なんだこの無駄な団結力は!? おかしいでしょ!」

 

 

 よく訓練されたリスナー達で草しか生えませんよ。

 

 いつからこんな風になってしまったのか、あかん、泣けてきた。

 

 コメント欄からのセクハラを他所に私は大きくため息を吐いて、とりあえずマシュマロを読むことにしました。

 

 

「えーと、ネームはアグ時計さんからですね。

 

 アフちゃんがライブでうまぴょいしてくれません、なんでうまぴょいしてくれないんですか? ですって」

 

 

『そうだそうだー!』

『うまぴょいが足りない』

『胸しか揺れてない』

『これは残当』

 

 

「なんだお前達まで、そんなに私にうまぴょいして欲しいのか! 大体なんですかうまぴょいって! 下手したら隠語じゃねーか!」

 

 

 私はバシンッとマシュマロを地面に叩きつけながら叫ぶ。

 

 いや、うまぴょい伝説ってなんかキャピキャピしてるじゃないですか、私が歌うと媚び度が高いなーとか思ったり、え? もう手遅れ? 

 

 うーん、まあ、多分、歌う機会は多分そのうちあると思うんでその時に歌いますし、踊ります。

 

 うまぴょい。

 

 

「うまぴょい」

 

 

『頭に手を当てて何してるんですか?』

『すごくアホの子に見える』

『可愛い』

『これは媚びてる』

 

 

「ざけんなー! やれ言うたの自分らやないかい!」

 

 

 ちょっとしたファンサで頭に手を当ててうまぴょいしてみたらこの言い草ですよ。

 

 なんだよ、私の扱い、涙が出てきますよ。皆、私を涙目にして楽しいか! 

 

 いや、腹パンしたいかどうかは聞いてないです。その振り上げた拳は下ろして、ステイ。

 

 

「……気を取り直して次行きましょうか……、ニックネーム、ドミニクゼンスキーさんからです。

『おい、別れの言葉は無しか?』ですって」

 

 

『草』

『誰だ、スポーツカーからドヤ顔で顔出してるやつ』

『キメ顔に違いない』

『そういや最近、秋名山と赤城山、妙義に坂走るウマ娘が出るって聞いたぜ』

 

 

「ギクッ」

 

 

 コメント欄で出た最近山道に出る走り屋みたいなウマ娘の話題に私は思わず冷や汗を垂らしながら視線を逸らす。

 

 すいません、それ実は私なんですよ、最近また走り込んでるんでもしかしたら正体がバレてるかもしれない。

 

 私はわざとらしく咳払いをするとカッコいいBGMを流しながら誤魔化すようにキメ顔で口を開く。

 

 

「フルスピードで走るのが私の人生だった……。だからお前達と私は兄弟だった、お前達もそうだったから」

 

 

『オーオーオーオー』

『トゥルルルールール』

『なんだこのコメント欄』

『アッフの場合はフルスピードで走りすぎなんだよなぁ』

『お前、人生フルスピードで駆け抜けるところだっただろ、いい加減にしろ』

 

 

 最後のコメントに関してはグゥの音も出ない。

 

 いやそうなんですけどね、あの時はフルスピードというかブレーキぶっ壊れてましたから、チキンレースもクソもないという。

 

 そう言えば、私って本当の姉妹とか家族とかって居るんですかね? 

 

 考えたことないですけど。

 

 きっと、どっかに居るのかもなー私の親族、従兄弟とか。

 

 そう考えると私と同様に癖が強そうな気がするのは気のせいですかね? 自分で癖が強いって言っててなんだか悲しくなってきた。

 

 

 オルフェーヴルとのレースを控えた私はリスナーさん達と楽しい時間を過ごすのでした。

 

 ちなみにこの後、引き摺り出されてまた坂路を走らされたのは言うまでもない。

 

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