遥かな、夢の11Rを見るために   作:パトラッシュS

161 / 174
世界頂上決戦編
怪物達


 

 

 

 海外ウマ娘と日本ウマ娘の合同レース。

 

 この選抜に選ばれた日本のウマ娘はどのウマ娘もG1級のウマ娘ばかりだ。

 

 そんな中、選抜に選ばれず、さほど活躍もしていない観客席にいたウマ娘達が通路脇で集まっている

 

 彼女達は海外のウマ娘襲来に面白くないと思っているウマ娘だ。

 

 先程までアフトクラトラスとオルフェーヴルのレースを観戦していた彼女達は通路脇でつまらなさそうにこんな会話を繰り広げていた。

 

 

「海外ウマ娘だっけー、なーんか鼻につくよね、日本のウマ娘の方が断然強いに決まってるでしょ? だってフジキセキ先輩とかオペラオー先輩とかが走るんだよ」

「だよねぇ、なんていうの? あんま興味ないんだけどさー、どうせディープインパクトやアフちゃんに負けた連中じゃん? 大した事ないって絶対」

 

 

 そう言いながら、ケラケラと海外ウマ娘をネタにして笑い合うとあるウマ娘二人組。

 

 海外ウマ娘か何かしらないが、どうせ大した事なんてない、ジャパンカップでさえ、日本総大将であるスペシャルウィークに負ける様な奴らだ。

 

 きっと日本のG1級のウマ娘達がねじ伏せてくれるだろう。

 

 だが、その二人はすぐにその考えを改める事になる。

 

 

「でさー、今度行くカフェなんだけど……」

「………………」

「ん? どうしたの?」

 

 

 先程まで話していたウマ娘がまるで硬直したように固まる様子を見て、もう一人がそう問いかけるが返事がない。

 

 その目は何やら恐ろしいものを見たかのように恐怖で震えていた。

 

 そんな彼女の視線の先に彼女もまた視線を向ける。

 

 そこには悪鬼羅刹の様な凄まじい雰囲気を醸し出す異様な一団があった。

 

 彼女達は硬直したまま動けない、まるで、龍か何かに蛙が睨まれたような状態だ。

 

 

「……どきなさい雑魚共、邪魔よ」

「ひ、ひぃ……!?」

「す、すいません! すいません!」

 

 

 すぐさま、その集団を率いる先頭のウマ娘の一言に恐怖し、道を開けるウマ娘達。

 

 そう、その集団の先頭を行くのは世界一位に君臨する絶対的ウマ娘、シーバード。

 

 彼女から出される威圧感は先程まで海外のウマ娘を馬鹿にしていた彼女達を絶望のどん底まで突き落とした。

 

 こんなウマ娘に勝てるわけがない、そう理解させるのに彼女と走る必要すらなかった。

 

 

「言われてんねー姫、舐められてるよ私ら」

「雑魚の戯言に興味はないわ、走りを見せれば自ずと黙るわよ」

「そりゃそうだ」

 

 

 シーバードのその一言に頷くリボー。

 

 その会話を聞いていた海外ウマ娘の全員に静かに闘志がつく。

 

 それから、シーバードを先頭に会場通路を歩いて行く海外ウマ娘達、彼女達とすれ違ったウマ娘達はトラウマになったように口々にこう語る。

 

 あんなウマ娘達に勝てるはずが無いと。

 

 

 

 一方で会場では、先に日本のウマ娘達が彼女達が現れるのを静かに待っていた。

 

 中距離・長距離部門ではスペシャルウィーク、グラスワンダー、エルコンドルパサー、セイウンスカイ、キングヘイローの黄金世代をはじめ、サイレンススズカ、テイエムオペラオー、タマモクロス、オグリキャップ、スーパークリーク、マヤノトップガン、サクラローレル、ウイニングチケット、ヒシアマゾン、エアグルーヴといったG1級のウマ娘に召集がかけられた。

 

 短距離・マイル部門では、マイルではサクラバクシンオー、デュランダル、トロットサンダー、ニシノフラワー、フラワーパーク等。

 

 ダート部門では、スマートファルコン、コパノリッキー、メイセイオペラ、ホクトベガ等が選抜に選ばれている。

 

 どのウマ娘もかなり強力な面子で揃えられ中には年間最優秀ウマ娘に選ばれている者まで招集している。

 

 

「集められてる人達皆さん凄い方ばかりですね! なんだかワクワクしてきました!」

「へっ……! 海外ウマ娘か何か知らねーがタイマンでぶっ潰してやるぜ!」

 

 

 楽しそうに笑うスペシャルウィークと拳を掌に叩きつけながら不敵に笑うヒシアマゾン。

 

 ここにいる誰もが、海外ウマ娘と走れる事を楽しみに待ちわびていた。

 

 そう、彼女達が現れるまでは。

 

 しばらくして、会場に待ちわびた海外ウマ娘達が姿を見せると、その浮いていた気持ちは一気に離散した。

 

 

「今、会場に海外から来たウマ娘達が現れました! 世界ランク一位、王者シーバードを筆頭に入場致します!」

 

 

 その姿を見たその場にいたウマ娘全員が血の気が一気に引いていくのを感じた。

 

 圧倒的な威圧感、レース前からこんなプレッシャーは今まで感じた事がないものだ。

 

 そのプレッシャーは先頭を率いるウマ娘からだけじゃ無い、海外ウマ娘一人一人から発せられている。

 

 この威圧感に何人かは既視感があった。そうこの身に纏う威圧感は……。

 

 

「……アフやブライアンがマジになった時に感じるやつだな……」

「……それも全員、なんてプレッシャー……」

 

 

 そう、海外ウマ娘達一人一人が放つそれは三冠ウマ娘や圧倒的な強者がのみが持つプレッシャー。

 

 もちろん、それだけじゃ無いことは理解できる。

 

 ここにいる海外ウマ娘達が全員怪物級の化け物ばかりであるという事は日本のウマ娘達はすぐに理解できた。

 

 G1勝利数が全員2桁近く勝っている化け物達、中にはアフトクラトラス同様に未だ無敗を誇るウマ娘さえいる。

 

 

「今日は胸を借りるつもりで走るわね、よろしくね日本のウマ娘の皆さん」

「あ……あぁ、よろしく頼む」

 

 

 そう言いながら、シーバードから差し出された手を代表してエアグルーヴが握り返す。

 

 だが、握手をしてすぐにシーバードの目つきが変わった事を彼女は見逃さなかった。

 

 日本のウマ娘なんかに全く胸を借りるつもりはない、全て捻り潰す。

 

 そんな気持ちが籠った握手だとエアグルーヴは感じた。

 

 手を握っただけだというのにエアグルーヴの頬を冷や汗が伝る。

 

 

 それから、しばらくして海外ウマ娘と日本ウマ娘の合同レースが行われた。

 

 その勝敗はというと、もはや語るまでもないだろう。

 

 

「さ、サイレンススズカが捕まったッ! サイレンススズカが捕まったッ! 隣には凄まじい速さでリボーがやって来るッ! 抜いた抜いたッ! オペラオー追うが追いつかないッ!」

 

 

 中距離はリボーを筆頭にダンシングブレーブ、デイラミやダラカニの最強姉妹やドバイミレミアムなどから圧倒的力でねじ伏せられ。

 

 

「セクレタリアト先頭ッ! 何身差あるでしょうかッ! 等速ストライド炸裂ッ! 日本のダートウマ娘が置いてきぼりにされていますッ! 2位、5位までも海外ウマ娘が独占ですッ! なんて強さだッ!」

 

 

 ダートはセクレタリアトを筆頭にシアトルスルー、アメリカンファラオなど米国三冠ウマ娘達が日本のダートウマ娘を蹂躙。

 

 

「セイウンスカイ逃げで先頭が取れない! スペシャルウィーク、エルコンドルパサー、グラスワンダー! 完全に抑え込まれています! オグリキャップも表情が険しいっ! 有馬記念と同じ2500m長距離部門も厳しいかッ! シーバードが強すぎるッ! ああっ! 外からハリケーンランとザガルヴァが強襲してきますッ! ノヴェリストも来たッ! ジーザスターズが続きます!」

 

 

 長距離部門ではシーバードを筆頭に凱旋門を走った猛者達が凄まじい追い上げや差しを見せつけ、惨敗させられた。

 

 

 短距離やマイルはタイキシャトル、サクラバクシンオーをはじめ、強力な陣営で走ったものの、ブラックキャビア、ルアー、フランケルをはじめとした短距離特化型の化け物達に連敗に次ぐ連敗。

 

 

 ヒシアマゾン、エアグルーヴ、ダイワスカーレット、ウオッカなどのシニアティアラ部門で活躍したウマ娘達もトレヴ、モンジュー、ゴルディコヴァ、ホーリックスなどのティアラでもシニアでも関係なくG1を勝ち取ってきたウマ娘相手に全く歯が立たなかった。

 

 

 もはや、海外ウマ娘と日本のウマ娘の合同レースは海外ウマ娘からの一方的な蹂躙と言って相違ない結果で終わった。

 

 そんな様子を静かに眺めていたルドルフとシンザンは心を痛めていたし、あまりの海外ウマ娘の強さに絶望していた。

 

 あの面子には今の自分達でも勝つことができないとすぐに悟ったからだ。

 

 

「……正直言って、勝てるビジョンが浮かばない……強すぎる……」

「どうしたもんかねぇ……」

「姉貴と走ったウイニングチケットやタイシンでさえあんだけボロボロにやられてるとなるとな……」

 

 

 特に世界トップ3が圧巻だった。

 

 ダート部門に関してはもはや目が当てられないほど酷い有様だ。

 

 米国はダートウマ娘の本場、その賞金は想像を絶するようなものまである。こうなってしまうのは残念ながらわかりきっていたことだった。

 

 今回、日本のG1ウマ娘も秘密兵器として何人かはレースを避けさせたが、それでもこれでは全く海外勢に歯が立たないだろう。

 

 

「なんにしろ時間がいる……あいつらを倒すためには不足してるのは時間だろう」

「ブライアンそれは同感だねい」

「多分、これは断言できるが、今のアフやディープインパクトでもあの面子に勝てるかわからない、いや、負ける確率の方がおそらく高い、それくらい力の差がある」

 

 

 次元が違う強さを持つウマ娘。

 

 異次元を超える走りができるスズカならば、もしかすると逃げ切れるのではないかと淡い可能性を感じていたが、海外化け物のようなウマ娘達にとってみれば、その異次元が当たり前だった。

 

 マイルも全く歯が立たなかった、日本が誇る三人の短距離のスペシャリストを入れたが、ブラックキャビアとフランケル、ワイズダンらに敗れた。

 

 

「モーリスとロードカナロアとジャスタウェイ、ニホンピロウイナーを外しといて正解だったねい、こいつらがやられたんじゃもう短距離とマイルじゃ勝てないよ」

「バクシンオーとタイキシャトルはこれくらいじゃへこたれんさ、それなりに健闘できてた、次は勝ってくれる」

 

 

 観客席へ視線を向けると絶望に満ちた観客達の顔が見えた。

 

 海外のウマ娘達は凄いということは観客達も知っている。

 

 サッカーで例えるのであれば銀河系軍団が日本にやってくるようなそんな感覚だ。

 

 それでも、自分達が愛してやまない日本のウマ娘達ならば、そんな海外ウマ娘に対して一矢報いてくれるとそう思っていた。

 

 結果は見ての通り、日本の各部門のウマ娘の惨敗である。

 

 だが、ルドルフはこの敗北が意味があることだと捉えていた。

 

 

「この敗北は始まりに過ぎない、ここからが私達の戦いだ」

 

 

 まだ世界は遠いと把握できた。

 

 だが、この差を埋めるための時間は作ることはできる。

 

 世界の頂に届いた二人のウマ娘がこの日本にいる。ならば、その領域のさらに向こう側へ他の日本のウマ娘達も踏み入れることができるはずだ。

 

 ルドルフはそう確信していた。

 

 そんな中、レースを終えたデイラミがウイニングチケットとナリタタイシンにゆっくりと近寄るとその場で疲れ果てたように座る二人にこう言い放つ。

 

 

「……弱い、このレベルか……、これではビワハヤヒデの底が知れるわね……」

「……なんだと……」

「日本にはブライアンの姉がいると聞いて楽しみにしてたけど、……姉にも関わらずこのレベルのウマ娘に負けるなんてね……。妹より才能が無いとは情けない」

 

 

 そう言いながら、デイラミは静かにその場で踵を返す。

 

 ウイニングチケットはそのデイラミの言葉が癪に触った。

 

 BMWと呼ばれ、ウイニングチケット、ナリタタイシン、ビワハヤヒデは三人は切磋琢磨した仲だ。

 

 親友であり切磋琢磨しクラシックを共に戦ったライバル、そんな親友を馬鹿にしてきたデイラミが許せなかった。

 

 

「待てよッ! 取り消せよ! 今の言葉ッ!」

「おい、やめとけ」

 

 

 だが、そんなウイニングチケットをタイシンが制する。

 

 それは、彼女達に対して自分達が手も足も出ずに負けたからだ。

 

 少なくとも、ビワハヤヒデがデイラミからそう言われたのは自分達の力の無さが原因だ。

 

 タイシンは歯を食いしばり、拳を握りしめたままデイラミの目を睨みつけ、こう告げる。

 

 

「ハヤヒデはお前が思ってるより強いよ」

「…………そう」

「……私らだって次はアンタに負けないよ、絶対強くなって負かしてやるッ」

 

 

 それだけ聞くとデイラミは不敵に笑いウイニングチケットとタイシンに背を向ける。

 

 それは、彼女達がこれだけボロボロにされでもまだ心が折れていないことにデイラミが感服したからだ。

 

 それから、レース会場では先程まで圧倒的な強さを見せつけた海外ウマ娘達がズラリと並んでいる。

 

 その中心には、それらを率いていたシーバードでがいた。

 

 彼女はマイクを持つと日本のファンに向かいこう宣誓する。

 

 

「皆様、こんばんは、私達のレースはエンジョイしてくれたかしら? 来年から三年間、私達はこの日本のG1レースに全て出場する予定です」

 

 

 会場はそのシーバードの一言にざわめき立つ。

 

 それはつまり、主要なG1レースはあのメンバーが全て出て来るということ、あるウマ娘はそのシーバードの言葉を聞いて唖然とした。

 

 

「……そんな……、こんな奴らに敵うわけないじゃ無いか……」

「無理だよ……」

 

 

 そう、それが意味することは来年、G1を勝つことを目標にしていた日本のウマ娘が彼女達を相手にしなければいけないという事。

 

 G1勝利を望み、練習に励んでいた彼女達を絶望に叩き落とすには充分な言葉だ。

 

 日本のG1をいくつも勝ち取ったウマ娘が歯が立たなかった相手、そんな怪物達に自分達が果たして勝てるのか。

 

 最後にシーバードからマイクを受け取ったリボーはそんな彼女達を含んだ会場の観客席へ向かいこう告げた。

 

 

「日本のウマ娘共、全員覚悟しろよ?」

 

 

 その笑みはまさに悪魔のような笑みであった。

 

 絶対的な自信と実力、彼女の一言に会場はざわめく、これは海外ウマ娘から日本のウマ娘に向けての明確な宣戦布告であった。

 

 波乱に満ちた海外ウマ娘と日本ウマとの最初の激突。

 

 これを皮切りに、日本のウマ娘達はかつて無いほどの激動の年を迎える事になる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。