ダート部門。
海外ウマ娘と戦うには鬼門とされているこちらだが、サンデーサイレンスをはじめ海外勢で謀反を行ったウマ娘が加わり、なんとかそれなりに戦える面子を揃える事ができた。
特に期待されているのが、カネヒキリ、クロフネ、スマートファルコン、ラニ、ホクトベガの5人である。
カネヒキリは砂のディープインパクトと呼ばれ、日本のダートではめっぽう強い。
そして、クロフネはダートでは海外勢に劣らず圧巻の走りができる。
スマートファルコンはダートの逃げがハマればかなりの期待が持てるウマ娘だ。
ラニは……、砂のステイゴールドと呼ばれるくらい気性に難がかなりあるが、海外のG1にも何度も挑んだことがあり、G2ではあるがUAEダービーを制している。
ホクトベガは言うまでもないだろう、こちらは日本のG1戦を芝でもダートでも制しており、海外遠征では残念ながら怪我があったが、それでも、海外勢との戦いは経験がある猛者だ。
そして、最後の一人は言わずもがなサンデーサイレンス。
米国二冠を獲り、海外G1で6勝を上げたまさしく怪物。その破天荒ぶりや逸話から日本でも数多くのファンを抱えている。
なお、マックイーンと仲が良すぎて2人ともできているのではないかとまことしやかに囁かれているのはここだけの話である。
ダート戦線はこれから先、成長が一番期待できる部門となるだろう。
それから、マイル部門。
こちらはマイルの皇帝ニホンピロウイナー、ジャスタウェイを加えて、モーリス、タイキシャトル、ラインクラフト、カンパニーとマイルに関してプロフェッショナルを揃えた磐石の布陣だ。
とはいえ、やはり相手があのフランケル。
あと一押し、マイルのスペシャリストが欲しいところだが……。
「さて、お待たせしちゃったかな諸君」
「やほやほー」
「貴女達は!?」
「私が呼んでおいたのよ、マイル戦には彼女がいるでしょう? ねぇ、ユタカオー、ニッポーテイオー」
そう、ニホンピロウイナーが声を掛けたこのウマ娘こそ、マイル戦の追加ウマ娘、ニッポーテイオーとサクラユタカオーである。
正直、史上最強のマイラーと名高いフランケル相手にどれだけやれるかはわからないが、連携して戦えば勝ち筋はあるはずだ。
鍵を握るのはタイキシャトルとモーリス、そして、ニホンピロウイナーの三人。
この三人がフランケルと戦える状況を作るのが一番の方法だ。
「私らが活路を見出す、タイキ、モーリス、貴女達二人がフランケルに挑めるように全力を尽くすわ、貴女達は思う存分戦いなさい」
「ウイナーさん……」
「伊達にチームリーダーを長年してないわよ、任せておきなさい、今日からはその為に全力でトレーニングよ」
そう言いながら、まとめ役のニホンピロウイナーの一言に日本のマイラーウマ娘達は元気よく声を上げた。
海外勢が日本に殴り込みに来た。普通ならば恐縮してしまうような状況だろう。
だが、逆に言えば世界最高峰のウマ娘と日本でレースができる。
それは、日本のどのウマ娘にとっても晴れ舞台でもあった。
そんな晴れ舞台に賭けるウマ娘だっている。
それは、今回、長距離部門で追加召集されたサクラスターオーもその一人だ。
長い時を経て、彼女は再びターフへと帰ってきた。
軽くアップを終えた彼女は静かに空を見上げる。
「…………一年半か」
一年半という期間、与えられたその期間での大きな成長。
長距離部門に抜擢された彼女にはある決意があった。
それは、必ず日本のウマ娘を勝たせる事、彼女自身、このレースに賭ける思いは強かった。
「足の調子はどう? スターオー」
「……キーストンさん、えぇ、悪くないですよ」
そう言いながら、現れたキーストンに笑みを浮かべるスターオー。
キーストンは中距離部門でサニーブライアンと共に新たに加わったウマ娘だ。
その理由としては、サイレンススズカのレベルアップと中距離戦線の強化の為、総力戦となる今回のレースには彼女達の追加の召集は必須であった。
顔を合わせる二人は静かに話を始める。
「……長い間、本当に長い間、レースに出れませんでしたから、嬉しいです、今回、こんな晴れ舞台に呼んでもらえて」
「そうね……、私にもわかるわその気持ちは……」
海外に挑むようなレースに出れる機会なんてもう無いと思っていた。
菊の季節に桜が満開、そう言ってもらえたのはいつだっただろうか。
サクラスターオーが走ったグランプリレース、有馬記念。
レースが終わった時、彼女の脚が動かなくなっていた。
走りたいと願っても走れないもどかしさ、もう医者からは二度と走ることはできないだろうと言われていた。
だが、サクラスターオーは帰ってきた。
ファン達から貰ったたくさんの折り鶴を貰い、勇気を貰って、この日本のウマ娘達が一丸とならないといけない時期に。
「貴女に声をかけて良かった、私も同じようにもう立ち直れなくなった時もあったけど、たくさんの応援とトレーナーが支えてくれたから……」
「キーストンさん……」
「スズカは、私と重ねちゃうのよね……、似たもの同士って事かしら?」
そう言いながら、クスッと笑うキーストン。
栗毛の超特急、キーストン。
25戦18勝を挙げたウマ娘であり、サイレンススズカと同じ逃げの戦法でクラシックを戦い抜いたウマ娘である。
その勝利数の中にはダービーまであったほど、彼女は走る事が大好きだった。
だが、彼女は阪神大賞典のレース中に故障した。
優しく接してくれたトレーナーの希望に応えられなかった悔しい思い。
医者から告げられたのは引退勧告だった。
過酷なリハビリをしても以前のように走れるかわからない。
そう言われた時、彼女の頭は真っ白になった。
その事を語るキーストンの口調は重く、サクラスターオーは静かに彼女の話に耳を傾けている。
「けどね、スズカが見せてくれたの、無理だとか、ダメだとか、走れないとか、そんな事は関係なしにもう一度、ターフで走るんだって頑張る姿を」
「……そうですね」
「だから、彼女がまたターフで走る姿を見て私もまた走りたいと頑張れた、勇気をもらえたわ」
その姿はスターオーも見ていたからキーストンの話はよくわかる。
ドン底に居た時、サクラスターオーが見たのは明るく元気に復帰する事だけを考えてリハビリに励む青鹿毛の小さなウマ娘の背中だった。
同じように有馬記念で緊急搬送されたアフトクラトラス。
生死の境まで彷徨った彼女が共にリハビリに励んでいたのは宝塚記念で倒れた淀の刺客であるライスシャワーであった。
なんでそんな風に頑張れるのか、ウマ娘としてもう走る事が出来ないと言われていたのに。
だけど、二人がまた元気にターフで走る姿を見て彼女の世界が変わった。
二人の姿に涙が溢れて止まらなかった。
その話をキーストンにした後、スターオーは話を続ける。
「私ももう一度、走りたいって心の底から思いました。きっとまた走れるんだって、諦めかけていた心に光を灯してくれたんです」
「じゃあ、次は勝たないとね! 前回のレースでスズカが少し気落ちしてたみたいだから、私がお尻軽く叩いとかないと」
「ははっ、お手柔らかにしてあげてくださいよ」
もう二度と走る事が出来ないターフを走る事ができるという喜び。
さらには、こうして、自分達ができなかった事に挑めるという環境。
世界へ挑戦できるなんて何と幸せな状況なんだろうか、二人からしてみれば、今の状況が本当に夢のように思えて仕方なかった。
「じゃあ、私はこれからライスシャワーとトレーニングがあるので」
「えぇ、頑張ってスターオー、私もスズカと皆で絶対勝ってみせるわ」
「本番が楽しみですね!」
そう言いながら、キーストンに背を向けて元気よく駆けていくサクラスターオー。
キーストンもまた背を向けて、それぞれの部門のチームの元へと戻っていく。
いろいろな思いが海外ウマ娘との頂上決戦に向けて募っていた。
アグネスタキオンとフジキセキ。
この二人もまた、天才として語り継がれ、未だに無敗でいるウマ娘達だ。
そんな、二人が走るのは神のウマ娘と呼ばれているラムタラ。
並走しているタキオンはフジキセキにこう語り始める。
「……うむ、正直なところ、彼女にどう勝つのか考えものだな……」
「ダービー、キングジョージ、凱旋門と無敗で制覇、最短の欧州三冠ウマ娘か……」
「さて、それを私達が倒せば実質、私達が欧州三冠ウマ娘より強いという事になるなッ」
「ははっ……! それは胸が躍る話だッ!」
ガツンとスピードを上げるタキオンと共に合わせるように急加速するフジキセキ。
天才VS神。
お互いに無敗同士で4戦4勝。
走ったレースを見れば確かにラムタラの凄さはよくわかるが、この舞台でしか実現できないだろう対決、二人が燃えないはずがなかった。
「ハァ……ハァ……割と本気かい?」
「だからこうして……ハァ……ハァ……、効率よくハードなトレーニングをしているのだろう?」
「いや本当にキツイな……」
「正直引きこもって研究してたい……」
そう言いながら、駆ける二人。
皆が皆、それぞれ与えられた相手を想定し、それに向けてひたすら切磋琢磨する環境。
そして、各レジェンドトレーナー達から受ける妥協を許さず徹底したトレーニング。
チーム全体で選抜に選ばれていないウマ娘も全力でサポートに回っている。
トレセン学園は今まで以上に活気があるのは間違いがなかった。
かつて挑んだ事の無い場所に向けて、それぞれの思いを乗せた一年半。
皆が一丸となり、それぞれの才能が覚醒し、開花していく。
世界頂上決戦。
SWDTワールドシリーズ開催まであと一年とニヶ月。