こんにちは! 皆さん!
アフトクラトラスです!
さて、海外勢との激闘を控えている私達ですが、まあ、海外勢のすったもんだがあり、こちらに勝ち筋が若干見えてきたかなーと思い始めた今日この頃。
私はというと、相変わらずルドルフ会長と厳しいトレーニングに励んでおりました。
「……なんで坐禅なんですか?」
「お前には落ち着きが無いからな、これも立派なトレーニングだ」
おうふ、ど正論すぎて草しか生えません。
私に足りないもの、それは精神的な落ち着き。
うん、煩悩の塊みたいな私には全く無理な話な気がしますけどね。
おい、誰が歩く煩悩製造マシーンだ。
言ったやつ出てこい、私の胸しか見てねーだろ!
いや、脚も尻も見てるとか聞いて無いです(呆れ)。
うむ、私より私の周りのウマ娘も数名坐禅した方がいいのでは無いでしょうかね、誰とは敢えて言いませんけども。
「雑念ッ!!」
「あっふぅ!?」
バシンッと肩に警策を振り下ろされ変な声が出てしまいました。
いかん、雑念が……っ!! 無心になれ私! そうだ! 頭の中でゴルシちゃんを数えよう!
……ダメだッ! 複数のゴルシちゃんから私がおもちゃにされる絵面が見えたッ!
再びバシンッと私の肩に警策が打ち込まれる。
そもそもなんで増やしちゃいけないやつを脳内で増やしてんだ私。
「……お前には雑念しかないのか」
「……面目ない」
呆れたように隣からルドルフ会長からジト目を向けられ私も思わず顔を引き攣らせる。
集中力を鍛えるためのこのトレーニング、なるほど、かなり奥が深いですね。
ちょっと! 私が浅はかすぎるとか言わないでくださいよ!
そんなこんなで肩をバンバン叩かれた後に私が向かったのは滝でした。
「まさか……」
「そうだ、滝に打たれてこい」
という感じにオカさんから滝行専用の装束を渡される私。
下着ですか? 当然つけていません、無駄にでかい胸を持つ私に滝行ですよ?
あとは皆さんならわかりますね。
ものすごい量の滝が容赦なく私の胸部を叩きつけてくるんですよ。
多分、アグデジちゃんやドーベルさんがいたら鼻から大出血ものだったろうな。
「……うごごごごごごご!」
まさか滝行までやらされるとは思っても見ませんでした。
だが、普段からしている遠山式トレーニングという苦行をしている私からしてみればまだまだやれますけどね。
とはいえ、違うベクトルでちゃんと苦行にはなっています。
あれ? 私、寺に出家するんでしたっけ?
そんなこんなで、煩悩を削ぎ落とした私はルドルフ会長と共にハードなトレーニングの日々を送っています。
これが一年続きますからね、普通のウマ娘なら多分脱走したりとかしてもおかしくないと思いますよ。
まあ、こんな苦行をしたからと言って私の根本が変わる事は無いんですけどね。
一方、その頃。
私達が居ない間に、日本のG1戦線は大きな変貌を遂げていました。
そう、海外ウマ娘達による圧勝に次ぐ圧勝。
短距離、中距離、長距離、そして、ダート。
全てのレースにおいて海外ウマ娘達がズラリと名前を連ねていました。
「アメリカンファラオまたも一着! 日本のダートはアメリカ勢が席巻しています! 先日はゼニヤッタ、ゴーストザッパー! シアトルスルーがそれぞれレースを制しています! この流れは果たしていつ止まるのかッ!」
ダート戦線は最早敵なし。
特に本場ダートレースの三冠があるアメリカ勢の強さが際立っていた。
セクレタリアト以外でもダートにおいては伝説的な強さを持つウマ娘が何人も控えている。
そして、クラシック戦線、芝のレースには……。
「ザガルヴァ! 圧勝ですっ!」
「ダンシングヴレーブ! やはりダンシングヴレーブかッ!」
「ハイシャパラルッ! 強いッ!」
欧州猛者達が最早、最強を決めんとひしめき合っていた。
日本勢を寄せ付けない強さ、格の違いをまざまざと日本のウマ娘達は見せつけられた。
後に日本ウマ娘達に暗黒の一年と語り継がれる事になるこの一年は他の日本ウマ娘達にはとても悔しい一年になりました。
「……クッソォ!!」
「海外ウマ娘、また海外ウマ娘、G1はどれも海外ウマ娘ばかりだな」
「ほんとに悔しいよねぇ……」
現状の日本ウマ娘の連敗を話題に上げるのはチームカノープスの面々だ。
ツインターボ、イクノディクタス、ナイスネイチャ、マチカネタンホイザの四人が所属している。
G1のみならず重賞まで海外ウマ娘から荒らされに荒らされているこの状況に彼女達はほどほど参っていた。
「ターボの逃げもあっさり潰されちゃうからね……」
「戦績や実力がテイオー並みかそれ以上の連中しか出てきてないからな」
「全員がG1を勝った事があって当たり前、そんなウマ娘達ばかりですからねぇ」
そう言いながら、タンホイザとイクノディクタスの話を聞きつつお手上げとばかりに深いため息を吐くカノープスのトレーナー。
トレセン学園に入学しているウマ娘、中央レースに出てくるウマ娘はそれなりに実力があるウマ娘が揃っており、それこそ日本からの精鋭を揃えていると言っても過言ではない。
だが、海外のウマ娘達は規模感が違う。
日本という小さな島国に比べ、アメリカは大陸中、ヨーロッパは欧州全域にオーストラリア大陸という広大な土地から選ばれた修羅達がこちらに乗り込んで来ているのだ。
その規模は最早、ジャパンカップなどの比ではない。
ダートに関しては地方の開催が多くなる日本に比べ、向こうはアメリカ全土から本場のダートスペシャリストを揃えてきている。
クラシックに関しては未だ無敗のウマ娘なんてゴロゴロ転がっている始末だ。
「……世界のレベルってあんな高いんだって思い知らされちゃうよね」
「こうなったきっかけは多分、アフトクラトラスとディープインパクトの二人なんだろうがな」
「……あんの問題児ウマ娘かぁ……」
そう言いながらイクノディクタスの言葉に頭を抱えるナイスネイチャ。
ディープインパクトはわかるが、アフトクラトラスの名前が出た途端、思わず頭を抱えたくなってしまった。
それだけ、アフトクラトラスの海外での振る舞いは有名であったからだ。
その1、海外でウイニングライブははっちゃけるし、何故か人気になる。
その2、渡航早々に実績ある海外ウマ娘に喧嘩を売る。
その3、海外の主要レースを荒らしに荒らしまくり欧州三冠をかっさらう。
その4、そのままの勢いで自国三冠レースを勝ち、日本の評価を右肩上がりへ。
その5、そのせいで後輩のディープインパクトが息巻いて、アフトクラトラスと同じように欧州レースを荒らしに荒らす。
その6、海外ウマ娘達をブチ切れ(本気に)させる。
以上のことが重なり重なった結果の今である。
確かに日本のウマ娘達の評価を海外の皆に知らしめ上げたのは評価できるが、その結果自分達が割を食ってるわけだからたまったものではない。
「これを機に私達も強くなったらいいんじゃなーい? せっかく海外ウマ娘と戦えるんだしさぁ」
「いや、だけどさぁ……力の差が……」
「だって彼女達をどれか倒せば私達、G1級のウマ娘ってことになるじゃん」
そう言いながら、ふんす! と目をキラキラさせるマチカネタンホイザ。
確かに彼女の言う事も一理ある、仮に自分達のチームから重賞勝者が出るようならそれはもう大金星。
チームの評価もうなぎのぼりで入部者も増えるのは間違いないだろう。
「という事で、今からむしゃしぎょー! 山に籠って特訓するしかないね!」
「いやいや……山に修行って……そんな少年漫画じゃないんだから」
「おー! 修行かー! ターボがもっと早くなってしまうなー! 待ってろよ! 海外ウマ娘共ー!」
「……話聞いてないし」
そう言いながら、チーム全体で合宿をする勢いにげっそりとするナイスネイチャ。
ツインターボやマチカネタンホイザは何故かやる気に満ち溢れているものだから最早止めれそうもないだろう。
そんなカノープスの状況を知らない私はというと……。
「……くしゅんっ!! あ〜……山籠りで滝行なんて、少年漫画かなんかですか全く」
ずぶ濡れになった白装束が胸にベタベタに張り付いてくしゃみが出てしまっていました。
まあ、青少年の皆にはちょっと刺激が強すぎる有様になっているのは言うまでもありません。
「……アフ、トレーニングに入るぞ」
「ようやっとですか、ちょっと着替えるんで待っててください」
髪の毛を滝で濡らしていた私は、滝行から待ってくれていたオカさんに呆れたように肩をすくめるとそう告げる。
それから、再び私はルドルフ会長と海外ウマ娘達に向けたアンタレス式のハードトレーニングへと移ります。
オカさんの指導の元、アンタレス式に改良に改良を加えた超効率な過負荷トレーニングは怪我をする心配は無いもののそれこそ並みのウマ娘が行えば嘔吐必須のハードトレーニング。
私はいつも通りそれに加えて身体に重りとギブスを着けてトレーニングを行います。
「アフちゃんやっほー!」
「…………」
そうしてトレーニングに入ろうとしようとした矢先、ニッコニコで現れたのは無邪気なテイオーちゃんなのでした。
なんでここにいるの、この子。
こちとら今から地獄みてーなトレーニングするんだぞ。
「あのー……会長?」
「あぁ、私が呼んだんだ。二人だけでトレーニングなんてズルいと駄々を捏ねていたもんでな」
「会長ェ……」
相変わらずテイオーちゃんに甘いんだからこの人は、とはいえ、まあ、来たからには私達のトレーニングに加わるって事なんでしょうかね。
なお、本人はやる気の様子。
そんなテイオーちゃんを横目に見ながらルドルフ会長は補足するように今回彼女を呼んだ理由を私に語り始めた。
「……テイオーは柔軟性があるが、その分デリケートだ。脚の繋ぎが柔らかすぎる」
「ほほう」
「だが、お前は身体が柔らかいがかなり頑丈だ。まあ、過度な負荷をかける事を日頃から行なっているからだろうがテイオーにはお前の体質を身に付けさせてやりたいんだ」
うむ、話はなんとなくわかりました。
要は私の柔軟性がありつつも怪我がしづらい体質を身につけさせるためにテイオーちゃんもハードトレーニングに参加させるって事ですね。
まあ、日頃からあんな頭がおかしい遠山式トレーニングなんて積み重ねてたらそら身体も関節も頑丈になりますよ。
試しに私はテイオーちゃんの前で軽くストレッチをしてみてあげた。
「ぬーん」
「アフちゃん柔らかっ!? 凄いね! そんな身体が地面にペタンってなるなんて!」
「股割りも柔軟も多分、力士さんがやるようなレベルでいつもしてますからね、食事も気をつけてますし」
「なるほど、だからそんな風にアフちゃんはダイナマイトボディになったのかぁ……勉強になるなぁ」
「テイオー違うぞ、こいつ自体が爆発物だ」
おい、ルドルフ会長それはどういう意味ですか。
まるで私が危険物みたいな感じになるでしょうが! おかしいでしょう!
テイオーちゃんもなるほどと納得しないでください、いつもこんな扱いばかりで泣けてきますよほんとに。
「よし! せっかく会長とアフちゃんとトレーニングが出来るんだし! ぜぇーたいもっと強くなってやる!」
「……その言葉をゲロ吐きながら言えますかねぇ」
「……え?」
私の意味深な言葉に目を点にするテイオーちゃん。
なんだ、会長から聞いてないのか、これは可哀想だ。
まあ、私と共にトレーニングするという事はつまるところそういう事なんですけどね。
何人のウマ娘がそう意気込んで三日後に号泣しながら私から逃げた事か……。
テイオーちゃんなら大丈夫だと思いますけどね。
私はそっとルドルフ会長の耳元でこう問いかける。
「……海外勢との戦いに備えてですか? かなりハードなレースになりますから怪我のリスクはかなり高くなりますしね」
「……察しが良いな、そうだ」
「だと思いました」
これまでなら、テイオーちゃんを遠目から見守っているルドルフ会長だが、海外勢のレベルを鑑みての決断だった。
このままテイオーちゃんを海外勢とぶつければ怪我をするリスクはかなり高まるだろう。
私でさえ、海外遠征では肘鉄は食らうわ殴り合いになりかけるわとバチバチでやりあった機会もありましたからね。
それならば、仕方がない、テイオーちゃんには地獄を見てもらう事にしましょう。
私は優しい笑みを浮かべて、テイオーちゃんの肩をポンと叩く。
「……死ぬなよ、グッドラック!」
「……来たの間違いだったかな」
私の満面の笑みに嫌そうに顔を引き攣らせるテイオーちゃん。
ズバリその通りです。自分から地獄の釜に飛び込むとはな。
モン◯ンで例えるなら20匹のミラボ◯アスとアル◯トリオンを一度に相手するハンターみたいなものですよ。
安置無いなってるやん。
この後、山にテイオーちゃんの絶叫が響き渡ったのは言うまでもないだろう。
オラ! はちみー飲むんだよ! 飲んだらまだ走れんだろう! という無茶振りをした私は何も悪くない。
こうしてテイオーちゃんも加わって、私とルドルフ会長は来たるべき日に備え、ひたすらに山を駆けるのでした。