私は強くなりたい。
そう思って、頑張ってトレーニングに励んで、何度も何度もG1レースに挑んだ。
その度立ち塞がるのは才能を持った化け物みたいなウマ娘ばっかりだ。
何が私と違うんだろう?
そう考えるたび、いつからか自分には彼女達みたいな才能がないと考えるようになった。
諦めて、割り切ってしまった方が楽だと思ったからだ。
だけど、商店街の皆はそんな私の事をいつも応援してくれていた。
応援してくれる人達がいる。
でも、その人達の期待に応える事ができない。
私はいつのまにかそんな自分に嫌気がさしていたんだ。
「……ハァ……ハァ……」
「はい次行きますよ、次」
平然としたようにハードなトレーニングをこなしてるこの化け物みたいなウマ娘を前にして私はさらに愕然とせざる得なかった。
アフトクラトラス。
それこそ才能が一流の上にトレーニングは一切妥協しないウマ娘。
いや、それどころかどのチームよりも恐ろしい練習量をこなしている。
あのテイオーですら、もうへばるくらいに凄いトレーニングを淡々と当たり前のようにこなしている。
「……うっ……! キツい……けどッ!」
「お?」
だけど、私は死にものぐるいでこのウマ娘に食らいついていた。
理由はわからない、なんでこんな風に頑張れるのかよくわからなかった。
そんな私の姿を見て、アフトクラトラスは何故か優しい眼差しをいつも向けてきていた。
その意図はわからない。だけど、私は……。
カノープスのチームメンバー達を巻き込んだトレーニングが一通り終わり、私は寺の階段に腰を下ろしていました。
まあ、トレーニングとしては上々でしょうかね、相変わらずハードではあるんですけど。
「……ねぇ、ちょっといい?」
「んあ?」
そんな私に背後から声をかけてくるウマ娘がいました。
そう、彼女の名前はナイスネイチャさん。
カノープスに所属するウマ娘です。
彼女のことはちょくちょく話に聞いてたりするんですけどね、まあ、なんというか、頑張り屋さんなんで彼女。
そんなナイスネイチャさんは隣に座ると私を見つめながらゆっくりこう話はじめる。
「やっぱり凄いね……、貴女。全然違う……、私と違う世界を見てる」
「……そうですかね?」
「……だってあんなトレーニングいつもしてるんでしょ?」
「まあ、海外のウマ娘をボコボコに返り討ちにしたいですからね」
「言い方が……」
私の言い方に苦笑いを浮かべるナイスネイチャさん。
まあ、強いて言えば、義理母の意思がそこにあるからで、多分、ライス先輩やミホノブルボン先輩も同じくらいヤバいトレーニングしてそうな気がしますけどね今頃。
私はナイスネイチャさんにゆっくりと話し始める。
「明日、走って死んでもいいって考えるほどトレーニングや練習を重ねる、レースは一期一会ですからね。そこに才能なんてちょっとの要素なんです。ネイチャさん、実は努力をするっていうのも才能の一つなんですよ」
「……いや、でも私は武器なんて無いし……」
「え? 武器なんて作れば良く無いですか? 別に末脚だろうが逃げだろうが誰にも負けないくらいトレーニングすりゃ、身につきますよそんなもん」
私はそう言いながら、平然とナイスネイチャさんに答える。
極みに極めればそれは武器となり、最強の必殺技になり得る。
どれだけその技にあらゆるものをつぎ込めるか、そういう意味じゃ、私的には化け物に化けそうだなって思うのはツインターボさんですかね。
ウチのトレーニング積んでれば、持久力が落ちない化け物じみた大逃げの逃げ足が身につく訳ですから。
逃げに関する走り方に慣れてる分、多分、軽くG1の勝利する山を築けそうなくらいには化けると思います。
「私は良くやっていると思いますよ、皆さん。普通のウマ娘なら逃げ出しますから、夜逃げなりなんなりしてね」
「いやまぁ……あのトレーニングはねぇ……」
「つまる話が皆さんG1ウマ娘になるだけの才能は元から兼ね備えてるってワケです」
では何が足りないのか? なぜ、これまでG1ウマ娘の背中に届かなかったのか。
私は真っ直ぐにナイスネイチャさんのそばに顔を近づけて瞳を見つめながら厳しい口調でゆっくりと語り始めます。
「貴女達に足りないものは……努力と勝つための覚悟です。G1ウマ娘を目指す上で揺るがない覚悟、死ぬほどの努力、命を削り己の魂すら差し出す程の気持ち」
「…………ッ」
「背負う期待と想いと積み上げた努力、そして、覚悟、これが揃った時、貴女の前には誰も走っていませんよ」
私はそう言い切る。
それは、ネイチャさんにはきっとそれができると思っているからだ。
ネイチャさんだけでは無い、カノープスの皆、きっと悔しい思いをこれまで積み重ねて来たはずだ。
いつしか目指していた場所が憧れになっている。
違う、彼女達は憧れで終わらせたくなんて無い筈なのだ。
天才達と自分達は違うと割り切るなど、そんなものは早すぎる。
「鍛えて、強くする。私の大事な人がいつも言っていました。真の才能とは努力と継続力だと。
だからこそ、それを持ってる貴女は……いや、貴女達は強くなれる、貴女はどうなりたいのですか?」
「……私は……」
ナイスネイチャさんは私の問いかけに拳を強く握りしめる。
三着、四着、その度に悔しくて涙を流して拳を握り締めて叫んで悔しさを紛らわせていた。
勝ちたくないわけがない、皆の期待に応えたい、自分が皆から憧れだと言われたい。
「とりあえず、手始めに一緒に海外からきたネキ達をボコボコにしてやりましょう。話はそれからです、ルドルフ会長を見てくださいよ、もうやる気まんまんなんですから!」
「いきなりスケールがデカいんですけど……」
けど、何故だかわからないが、ナイスネイチャには不思議と安心感があった。
アフトクラトラスというとんでもないウマ娘について行きさえすれば、自ずと道がひらけてくるんじゃ無いだろうかと。
欧州三冠を制し、国内三冠を制し、未だ無敗。
そして、ついには伝説級のウマ娘達相手に一歩も引くことなく、返り討ちにしてやると息巻くこのウマ娘について行けば。
ナイスネイチャは密かに己の中にある闘志を静かに燃やしていた。
そこからは、地獄の日々の始まりであった。
次の日もその次の日も止むことのない、ハードなトレーニングの日々。
ナイスネイチャは共にトレーニングに励むトウカイテイオーとチームメイト達と共に必死にアフトクラトラスとシンボリルドルフの常軌を逸脱したトレーニングに食らいついた。
身体が悲鳴をあげ、倒れるように毎日のトレーニングを終える。
そんな日々を繰り返していくうちに次第に彼女達には強大なバックボーンが生まれつつあった。
これほどまでに自分達よりトレーニングをしているウマ娘は果たしているのだろうか?
いや、多分、常軌を逸しているこんなトレーニングをしているウマ娘なんてそうはいないはずだ。
それが、自分の中で自信に変わっていくのを感じた。
「ふぅ〜……」
唯一、癒しがあるとすれば温泉が宿に備え付けてあった事だろう。
皆、死んだように毎回この温泉で疲れを癒している。いや、温泉くらい入らないと、もはや、やってられないくらいだ。
やばいトレーニングもそうだが、最近、改めて私が驚いた事がもう一つある。
それが、この……。
「おや? お先ですかネイチャさん」
「…………」
アフトクラトラスの自己主張の激しい胸だ。
正直、私もびっくりしている。初対面から大きいなとは思ってはいたが、温泉に入る際にその大きさは予想の遥か上を超えていた。
私も思わず自分の胸と彼女の胸を見比べるくらいのレベルである。
そのくせ、スタイルはものすごくバランスがとれていて、グラマラスといった具合に謎の色気がある。
魔性の青鹿毛なんて呼ばれているのにも納得がいってしまった。女性のファンも多いはずである。
「……デカい」
「人の胸マジマジと見つめて何言ってんですか」
たゆんと揺れる目の前の胸に私は釘付けになる。
胸が喋ってる、そう思った。
やはり、アフトクラトラスくらいになると身体からスケールが違うのか。
そんな中、アフトクラトラスは私にこう問いかけてきた
「どうです? トレーニングは……」
「うん、死ねる、いや、なんで私、生きてるのかなって思う時があるわ、ほんと」
「即答ですね」
私の返答にでしょうねとばかりに答えるアフトクラトラス。
だが、同時に自分が強くなってきている手ごたえを感じてるのは確かだ。
カノープスのチーム全体でも、かなりレベルが上がった気がする。
「……ありがとう」
「ん?」
「私、絶対にG1獲るから……」
そう私はアフトクラトラスに言い切った。
それを聞いた彼女は何も言わずに静かに笑っていた。
死ぬ気で必死になることを私はアフトクラトラスから教えてもらった気がする。
ここまで常軌を逸したトレーニングなんて今までやってこなかった。
必死に食らいついて、もがいて、足掻いてばかりだいた気がする。
月明かりが照らす露天風呂の中で私は静かにレースへの熱い思いを静かに募らせていった。
それから季節は巡り、各選抜のウマ娘達はそれぞれトレーニングの日々を過ごしていった。
晴れの日も、雨の日も、時には雪が降り注ぐ日も。
それぞれの想いを胸に自分達ができる精一杯のトレーニングと切磋琢磨を行い、その日に備えた。
そして、時は過ぎ……。
「さあ! 今年から遂に始まります! その名もWDS! ワールドドリームシリーズ! 昨年日本で猛威を振るった選抜海外ウマ娘と選抜日本ウマとの世紀のッ! 直接対決ですッ!」
遂に、アフトクラトラス含む日本代表のウマ娘達は海外ウマ娘達との全面対決の日を迎えることになった。