遥かな、夢の11Rを見るために   作:パトラッシュS
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シンザンを超えろ

 

 

『シンザンを超えろ!』

 

 日本で走るウマ娘なら誰しもが一度は聞いたことがある格言だ。

 

 ジャパンCが日本で始まり、海外ウマ娘に日本のウマ娘達がことごとく蹂躙され、日本のウマ娘達はその圧倒的な実力差に打ちひしがれた。

 

 長らく、伝説の三冠ウマ娘、シンザンを超えるウマ娘が出てきてこなかったのである。

 

 だが、その歴史を一気に覆すウマ娘が彗星のごとく現れた。

 

 ある者はそのウマ娘の誇る圧倒的な強さに見惚れ、また、ある者は類稀なるその強さに敬意を払った。

 

  その名を持つウマ娘は後に人々からこう呼ばれた。

 

 

『永遠なる皇帝』と。

 

 

 一度は同じ日本のウマ娘であるカツラギエースに敗北し、苦汁を飲まされたその皇帝は満を持して、二度目のジャパンカップに挑んだ。

 

 G1七冠、たった三度の敗北を語りたくなるそんなウマ娘。

 

 

 あの日、確かに日本は世界に届いていたのだ。

 

 

 そして、そんな『永遠なる皇帝』シンボリルドルフ会長がものすごい怖い顔をして、現在、私達の顔を見下ろしていた。

 

 彼女は光る眼光をこちらに向けたまま、私の隣に正座させられているミホノブルボンの姉弟子とライスシャワー先輩を含めてこう説教をしはじめた。

 

 

「お前達…、ウマ娘の資本はなんだ? 言ってみろ」

「筋肉です」

「この大馬鹿者! 無事之名馬だろうが! 身体だ!」

「ごめんなさい! ごめんなさい!」

 

 

 御冠のシンボリルドルフ会長に即答する我らが頭の中が筋肉モリモリマッチョウーマンのミホノブルボン先輩。

 

 だが、それは火に油を注ぐ結果になるのは目に見えていたわけで、ライスシャワー先輩が代わりに申し訳なさそうに頭を下げている姿を見て私は顔をひきつらせるしかなかった。

 

 だが、ミホノブルボン先輩はまっすぐにルドルフ会長を見据えたまま、相変わらず無表情である。

 

 そりゃ、生徒会長っていう立場なら生徒の身の安全にも気をかけるし、そうなるよと私は口に出して言いたい。

 

 あんなとんでもメニューをしょっちゅうこなしているなんて知れたらこうなることは明白であった。

 

 しかし、ミホノブルボン先輩はゆっくりとその場から立ち上がると、ルドルフ会長をまっすぐに見据えこう語りはじめる。

 

 

「会長、越えるべき壁が目の前にあるなら、私がすべき事は圧倒的な努力しかありません、それは、ここにいる二人も一緒です」

「…なんだと?」

 

 

 そう淡々とルドルフ会長に告げるミホノブルボン先輩。だが、その目はいつになく本気と書いてマジの目であった。

 

 日本のウマ娘達を引っ張ってきたウマ娘、シンザン。

 

 そのウマ娘を超えるウマ娘が現れた現在、ミホノブルボン先輩やライスシャワー先輩、そして、私の越えるべき壁はもうシンザンではない。

 

 ミホノブルボン先輩のルドルフ会長を見据える目はそう物語っていた。

 

 ミホノブルボン先輩の引かないその姿勢を横目で当たりにしていた褐色で綺麗な長い髪をした姉御肌のヒシアマゾン先輩、そして、黒髪短髪の美人で大人びた綺麗なお姉さんであるエアグルーヴ先輩の顔が真っ青になっていくのが私にもよくわかる。

 

 いや、普通はそう思うだろう。私だって二人と同じ立場ならきっとおんなじように顔が真っ青になっていたに違いない。

 

 だが、一方でルドルフ会長に対峙するミホノブルボン先輩の目には静かな闘志が燃え盛っている。

 

 すると、ルドルフ会長は深いため息を吐くと頭を抱え左右に首を振る。それは、彼女がミホノブルボン先輩の性格をよく知ってるゆえの行動だった。

 

 いや、ルドルフ会長、そこは間違ってないです。そこは折れないでください、私のために!

 

 ルドルフ会長はまっすぐミホノブルボン先輩を見据えたまま、こう話しをしはじめた。

 

 

「お前の気持ちはわかった。だが、転入して間もないアフトクラトラスを貴様達のハードトレーニングに付き合わせるのは考えて欲しいのだがな、以前もそのトレーニングに巻き込まれた新入生のウマ娘が涙目で訴え出てきた前例がある」

「はい、その件に関しては私のミスでした。申し訳ありません、会長。ですが、今回入ってきたこの娘なら大丈夫です」

「…はっ?」

「ん? なんだと?」

 

 

 そう言って、ミホノブルボン先輩の言葉に首を傾げるシンボリルドルフ会長。話しを聞いていた私はというと呆気にとられていた。

 

 いや、なんだと? じゃないよ、会長なんかちょっと面白そうな事聞いた、みたいな顔してんじゃないよ!

 

 違うから! 私もその娘と同じ心情だから!

 

 鬼! 悪魔! ちひろ!

 

 ちひろって誰だ! 今、なんか変な電波飛んできたぞ! おい!

 

 そんな私の心情なぞ知らんとばかりにルドルフ会長に対し、ミホノブルボン先輩は確信を持った表情を浮かべてこう告げはじめた。

 

 

「何故なら、この娘は私の妹弟子、そう、出身は遠山厩舎ですので

「そうだったのか、それなら大丈夫だな」

「いやっ! その理屈はおかしいでしょう! 会長!」

 

 

 何故か、妙に納得したようにポンッと手を叩いて頷くルドルフ会長に私は盛大に突っ込みを入れる。

 

 だが、ルドルフ会長とミホノブルボン先輩は互いに顔を見合って、こいつ何言ってんだ? とばかりに首を傾げていた。

 

 そう、遠山厩舎出身のウマ娘はこの学園では頭がおかしいまでにトレーニングをしていることで有名なのである。

 

 その代表がミホノブルボン先輩をはじめ、

 

 フジヤマケンザン先輩、ワカオライデン先輩、レガシーワールド先輩等。

 

 叩き上げで鍛えに鍛え上げられたウマ娘達がずらりと並んでいる。

 

 その中でも、私、アフトクラトラスとこの目の前にいる頭の中が筋肉とトレーニングと訓練で構成されたミホノブルボン先輩は遠山厩舎の集大成だと言われているのだ。

 

 ちなみに、ライスシャワー先輩は違う厩舎出身のウマ娘なのだが、彼女もまたストイックであり、同期となったミホノブルボン先輩の影響を受けてトレーニングの鬼に進化してしまわれていた。

 

 義理母の影響力、恐るべしである。

 

 とはいえ、この光景を見ているヒシアマゾン先輩は私の気も知らず、笑いを堪えきれずにゲラゲラと笑い転げていた。

 

 笑い事じゃないんですよ、耳引っ張ってお尻ペンペンするぞ! こら!

 

 二人の話に割って入った私だが、ルドルフ会長は優しい眼差しをこちらに向けてこちらの肩をポンッと叩いてきた。

 

 

「そうだな…、私もかつてはシンザン先輩を越えるため、世界の強豪達を蹴散らす為に特別トレーナーのオカさんと死にものぐるいで足に身体を鍛えに鍛えあげた…」

「えぇ…、はい、そ、そうですか」

「それは現在でも続けてはいるが、君達にとってのシンザン先輩はこの私だったんだな…。納得がいったよ」

 

 

 私が言いたかった何かを悟ったかのように語りはじめるルドルフ会長。

 

 全然ちげーよ、何一つあってないよ! 私が貴女に言いたいことはそんな事じゃないんですよ! 伝えたい事何一つ伝わってないじゃないですか! やだー!

 

 エアグルーヴ先輩、可哀想な娘を見つめるような眼差しはやめてください、そして、私が助けて欲しいとばかりに視線を向けたら何故、目を背けるのですか!

 

 ミホノブルボン先輩はそんなルドルフ会長の言葉に感銘を受けたのか、力強く頷くと、こう語りはじめる。

 

 

「無敗の三冠ウマ娘、そして、七冠の称号というのは私達にとっては血の滲むような努力が必要です。 ましてや、天才の上に努力をされてるルドルフ会長のようなウマ娘を倒すならば尚更です」

「確かにな…」

「この娘が強くなれるなら、私は鬼でも何にでもなります。それが、姉弟子である私の使命だと思ってますので」

 

 

 そう言って、私の肩をガッシリと掴むミホノブルボン先輩。まるで、私が逃げないようにしっかりと抑えこんでいるようだ。

 

 鬼どころかサイボーグもおまけに付いてくるけどね、気のせいが私の肩が貴女の握力でギリギリ言ってませんかね?

 

 ルドルフ会長はそのミホノブルボン先輩の言葉に笑みを浮かべると、ゆっくりとこう語りはじめる。

 

 

「わかった、そこまで言うならもう何も言うまい、二人にこの娘を任せよう」

「…えっ…!?」

 

 

 私は思わず、ルドルフ会長のその言葉に嘘だろお前! っと突っ込んでしまいそうになった。

 

 あのトレーニングを見たでしょう! 坂路1,000本を休憩挟まずやるような人達なんですよ! レース前にガリガリの力石みたいになってしまうわ!

 

 その会長の言葉を聞いて、ライスシャワー先輩はホッと胸を撫で下ろしているようであった。

 

 いや、ホッとするような事よか、私的にはこれから胸がキリキリしそうなのですが、そこんところは全く考えていないのですね。

 

 私の目には既にハイライトが消えていた。

 

 そう、私はこれから、遠山厩舎式、サイボーグミホノブルボン監修の地獄メニューを毎日こなさなければならない事が決定してしまったのだ。

 

 誰だよ、楽しい学園生活が貴女を待ってますよって言ってたの。

 

 たづなさんに今の私の状況を見せてあげたいわ、これから毎日、一緒にトレーニングしましょうよ、たづなさん。

 

 …あ、そうだ。

 

 私はここで、名案を思いついた。そう、今、ここでだ。それは、私に対しての悪魔のささやきである。

 

 そう、ターゲットは会長室にいる、私を見捨てたエアグルーヴ先輩と死んだような私の顔を見て笑い転げていたヒシアマゾン先輩の二人である。

 

 ミホノブルボン先輩に肩を掴まれてる私はにこやかな笑顔を浮かべてルドルフ会長にこう進言しはじめた。

 

 

「あのぉ、ルドルフ会長、できればぁ、私と姉弟子の特訓にぃ、エアグルーヴ先輩とぉ、ヒシアマゾン先輩もぉ参加して欲しいなって思いましてぇ」

「……はっ…!?」

「あっ…!? ちょっ…! 待てお前っ!」

「ほほう、何故だ?」

 

 

 慌てたように私の提案に対して顔を真っ青にしはじめる二人。ルドルフ会長は私のその話に対して興味深そうに聞き返してきた。

 

 ふはははは! 掛かったな! 私を助けなかったからだぞ! もう逃げられまい! あの地獄にお前達も道連れじゃ! ひゃっはー!

 

 ヤケになると、どうにでも良くなるものだ。

 

 なんだろう、もうこうなったらなんでもやってやる! もう何も怖くない!

 

 私はルドルフ会長に何故二人を指名したのかその理由をゆっくりと語り始めた。

 

 

「やはり、実績や実戦経験のあるお二人が居た方がモチベーションも上がりますし、走り方や坂の効率的な登り方も学べるんじゃないかと思いまして」

「なるほど、一理あるな」

「できれば私的にはフジキセキ先輩の走りも見てみたかったんですが…、流石に本人が居ない前でそういう事は話は進めれませんので」

 

 

 ルドルフ会長は私の話を聞いて静かに何度も頷き、思案している様子であった。

 

 一方で、ヒシアマゾン先輩とエアグルーヴ先輩は顔を真っ青にしたまま、互いに顔を引きつらせていた。

 

 巻き込まれないと思っていたのか? 甘いぞ二人とも。

 

 私は計画通りとばかりにニヤリと勝ち誇った笑みを浮かべた。

 

 実際には勝ちも何もない、私自身もコールド負けの状況である。でも、確かにルドルフ会長に話した事は割と私の本心であるのは間違ってはいない。

 

 実績や実戦のレースで経験のあるウマ娘から学べる事は多いはず、ミホノブルボン先輩もライスシャワー先輩も一応、レースには出ているが、まだ、生徒会の二人やルドルフ会長の実績には及ばない部分もある。

 

 しばらくして、ルドルフ会長は思案した結果、結論を私に述べはじめた。

 

 

「良いだろう、チームリギルとしても良い強化トレーニングになり得るだろうしな、トレーナーであるオハナさんには私から進言しておく」

「…あ、あのー、会長、私らの意見は…」

「きっと私達のトレーナーであるオハナさんも賛成してくれるだろう、あの人も熱心なトレーナーだからな」

「……これはもう、避けられないのか…」

 

 

 ルドルフ会長の言葉に絶望したように項垂れるエアグルーヴ先輩とヒシアマゾン先輩の二人。

 

 大丈夫です、死なない程度に身体がボロボロになるだけなので、体重も物凄く減りますし、ダイエットにはもってこいですよ! 二人とも!

 

 とはいえ、これから二人が参加するとなるとミホノブルボン先輩とライスシャワー先輩に火が付かないかが心配なところ。

 

 下手したら今までのトレーニングより、相当な量をこなさなければならなくなるんじゃないだろうか?

 

 あれ? 図らずも私ってもしかして、自分で自分の首を絞めちゃってる?

 

 ひとまず、私は慌てて、何やら二人で話し込んでいるライスシャワー先輩とミホノブルボン先輩の二人に視線を向けた。

 

 その二人の会話の内容は…。

 

 

「なら、坂路のコースメニューは現在の二倍が良いでしょうね」

「筋力強化トレーニングや追い込みに関してももうちょっと増やさなきゃね…」

「ですね、せっかくなのでマスターに連絡をとっておきましょう。きっと良いトレーニングメニューを指南してくださるはずです」

 

 

 そう、言って二人で何やら物騒な打ち合わせをしていた。聞こえてんぞ、おい、二倍に増やすんですか? あの量を!?

 

 この二人はほんとに大概である。だが、もしかすると、リギルのトレーナーであるオハナさんがヒシアマゾン先輩やエアグルーヴ先輩の様子を見に来てくれるでしょうから、無茶なトレーニングにはならないとは思う。

 

 流石にレース前にトレーニングのしすぎで、肝心のウマ娘がぶっ壊れましたは洒落になっていない。

 

 それにしても、チームか…。

 

 私はここで、チームについて思い出していた。そういえば、各ウマ娘はチームに所属している。

 

 ルドルフ会長やエアグルーヴ先輩、そして、ヒシアマゾン先輩はチームリギルという団体に所属しているウマ娘だ。

 

 特別トレーニング講師とは別に、そこには、所属するウマ娘全体の監督を行うチームトレーナーという人物がいる。

 

 ルドルフ会長が言っていたオハナさんというのが、おそらく、彼女達のチームトレーナーなのだろう。

 

 ふむ、私もどこかのチームに入らなくてはならないのかなぁ、どこがいいだろうか?

 

 生徒会室からひとまず退出した私とミホノブルボン先輩、ライスシャワー先輩の三人。

 

 その後、姉弟子のミホノブルボン先輩とライスシャワー先輩と共に地獄の坂路2000本追い込みを淡々とこなしながら、そんな事を呑気に考えるのであった。








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