さて、皆さんにご質問です。アイドルとはなんでしょう?
そう、歌って、踊れて、愛嬌があって、その上、可愛い容姿にボンキュボンのナイスバディな娘ですよね。
おっと、ナイスバディと聞いて最速の機能美さんを見るのはやめてあげてください、彼女は色っぽくて可愛いでしょう、だからなんの問題もないんです。いいね?
話を戻しますが、私達、ウマ娘も基本的にはスターホースだったり、アイドルホースなんて呼ばれたりしていた競走馬がモデルなのです。今更なんですがね。
あ、私はちなみにスーパーホースなんてものがオマケについてきたりします。とまあ、この話はとりあえず良いでしょう。
何が言いたいかと言うと、このトレセン学園では例え、勝てないウマ娘であっても人気があればそれなりにやっていけるというわけです。
それが、113連敗未勝利のウマ娘であってもですね。
さて、話は変わりますが、私達のようなウマ娘はファンとの交流を兼ねて、たまにライブや催し物をしたりすることがあります。
ファンの方々に愛嬌を振りまいて、たくさんの方に幸せを届けるためですね(建前)。
もちろん、皆さんは私のファンの方もいらっしゃるかと思います。
というより、私のファンですよね? アフちゃんは皆大好きですよね? 知ってますとも!
もちろん、私も好きですよ、えぇ。
いつもウイニングライブに来てくれる人達、ありがとうー! 今日はたくさん諭吉さんを置いていってねー! と声高に言った時は後にルドルフ会長にしばかれましたけれど。
本気で死ぬかと思いました。はい。ゴルシちゃんは大爆笑してましたけれども。
さて、そんな事もあって、何故か私の人気はかなり高いらしいのです。どうなってるんでしょうね? ファンの感性が私にもよくわかりません。
絶対、胸で人気出てる感じですよ、みんなやっぱり胸ばっかりみてるんですね、おっ○い星人どもめ。
なので、現在、私はこうして、トレセン学園の公式ライブ会場に呼ばれております。
「みんな大好きアフちゃんだよーっとか言わなきゃいけないんですかね…また」
「深刻そうな顔でまた何アホな事言ってるんだお前」
そして、何を血迷ったのか私がデュエットを組むのはなんとナリタブライアン先輩です。
こちらはゲンドウ司令みたく手を組んでガックリと項垂れているにも関わらずこの言い草ですよ。
そもそも、私がアイドルなんて無理な話なんです、助けてチッヒ!
シンデレラなガールズ達を派遣で呼べませんかね? 畑が違うって? 大丈夫、アンタレス式に鍛えればただのアイドルだって時速40kmくらいで走れるようになりますから。
人間鍛えればホッキョクグマを倒したり、マグロと同じくらいの速さで泳いだりもできるんですから。
ですから大丈夫です。最終的に音痴なおねシン歌うローラースケートが得意な時代錯誤のお兄さんアイドルを呼んできてもかまいませんから。
歌うとしたらこちらはうまぴょいですけどね。
だから私とステージで歌うのを代わりましょう、ハリーアップ!
私はファン達に紛れてオグリ先輩をもてはやさなければいけない使命があるのですから!
「おーい、次出番だぞー」
「ほら行くぞー、アフ、みんな待ってるんだ」
「やだぁ! 私お家に帰るー! 帰るのー!」
そう言いながら、駄々をこねたが虚しくズルズルとナリタブライアン先輩に引きずられていく私。
だからといって振り付け適当に歌ったりすると姉弟子や義理母、そして、ルドルフ会長からもっと悲惨な目に合わされるのは分かり切った話だ。
仕方ないので、私はブライアン先輩と共にステージに上がり、歌と踊りを披露することにした。
こうなったらやるしかねぇ、というやつである。不本意ですが、致し方ありません。
「〜〜〜♪」
「〜〜〜♪」
ステージ下から、曲に合わせて歌を歌いつつ、ブライアン先輩と背中合わせに私は華麗に登場、ただし目は死んでいる模様。
ナリタブライアン先輩と組んでいるのだから、曲に合わせてクールにそして色っぽく私は歌と踊りを踊る。
アンタレス式ウイニングライブ特訓をした私には隙はないのだ。
どこの世界に手足に重石つけ、巨人の星みたいなギプスを身体に引っ付けて歌と踊りの練習をする育成機関があるんですかね?
トレセン学園にはどうやらあるみたいです。いやーぶっ飛んだ学校ですねほんと(白目。
そのおかげか、ぶっちゃけた話、歌と踊りだけで飯を食べていけるレベルですしね、私。
「「フゥー!フゥーッ!」」
「〜〜〜♪」
そして、よく訓練されたファン達による熱い合いの手が度々入ってくる。毎度思うんですが、誰が訓練してるんでしょうね? 不思議でたまりません。
流石だと褒めてあげたいですねほんと。
私はそんなファン達の為にファンサービスとしてステージを降りて、みんなとハイタッチしながらたまに軽くハグしてあげたりもしてあげます。
警備上大丈夫なのかって?
安心してください、変なことしようとする輩には平気でライブ中であろうとマイクで歌いながらナックルパートや頭突きやプロレス技を掛けたりしたりするので私は。
「イェーイ!」
まぁ、私がそんなヤバいウマ娘というのは皆さん周知の事なのでそんな事をする人は居ないんですね。
仮に私を殺傷しようとする輩が居たとしても私の身体には傷一つたりとも付かないですし。鍛え抜かれた筋肉がありますから。
チェーンソーとか持ってこられたら話は別ですけども。
そして、私はファンサービスを一通り終えたら、ステージの上で設置をお願いしておいた消毒用アルコールで殺菌し、衣装のポケットに入れていた石鹸を取り出し泡立てると、ステージ裏からゴルシちゃんが投げ込んでくれるペットボトルの水で手を軽く流し落とします。
しかも、ファン達の眼前で満面の笑みを浮かべつつ行うわけですね。はい。
地面は多少びしゃびしゃになりますが、そのあとはまたゴルシちゃんが投げ込んでくれた拭き用の雑巾を足で使いながら綺麗に拭き取り、使い終わったら端に雑巾を蹴って飛ばします。
こういったファンサービスはゴルシちゃんが協力してくれないとできませんが、これもファン達のためですからね。私とて一肌脱ぎますとも。
なお、私がこういった消毒を眼前で行なって悲しみに満ち溢れた表情をする一部のファンの顔を見るのがちょっと楽しかったりするのはご愛嬌です。
何をしようとしたんですかねぇ?(ゲス顔。
そんなこんなで、私とナリタブライアン先輩は最後は背中合わせになり、曲を終える。
クールな曲だった筈なのに真顔で行う私の破天荒な行動が色々と残念にしてしまっているのは多分気のせいだろう。
曲が終わり、拍手が鳴り響く中、私とナリタブライアン先輩はゆっくりとステージが下に降りて退場。
「ふぅー、いい仕事しましたわー」
「はぁ、全くお前さんは相変わらずだな…」
そう言いながら呆れたように左右に首を振り私に告げるナリタブライアン先輩。
それほどでもありませんよ、いやー、これでまた私のファンは増える一方ですね! 正直な話、増やす気は全く微塵も思ってないんですけれども。
楽しく自由に奔放にライブするだけですからね、私の場合は。
すると、しばらくして、私の元にライブを見ていたゴルシちゃんがやってくる。
「ナイス水! ナイス雑巾!」
「ははははは! お前やっぱ最高だなぁほんと!」
ビシッ!バシッ!グッグッ! と息ぴったりにハイタッチをゴルシちゃんと交わす私。
おそらく、ライブ中に手洗いし始めるウマ娘って私くらいですからね、しかも、ファンの眼前でやるから余計にタチが悪い。
前代未聞だが、そんなことを平然とやってのけるのが私、アフトクラトラスなのですよ。
ぶっちゃけ、と言いつつもハグする相手も女の子のファンを積極的に選んだりしてますからね。たまに男性にもしますが、なるべく清潔そうな人にやったりします。
アイドルという役職の闇の部分を全面的に出してますね私。闇は深い、というか私の腹黒さが深い。
さて、そんなこんなでブライアン先輩とライブを終えた私はニコニコと笑いながら、背後から迫り来る殺気に肩をポンと叩かれる。
「……………あっ……」
「…言わなくてもわかるよな?」
そこに居たのは、満面の笑みを浮かべたルドルフ会長。しかしながら、その笑顔は目が笑っていないのでもうお察しである。
私は首根っこを掴まれてそのままズルズルと回収されてしまった。
扱いがウマ娘というか猫みたいな扱いなんですけど、身長が小さくて身軽だからですかね? はい、いつものようにお説教を食らいました。
でも、後悔はしていません。私はこれがデフォルトなので、致し方ないですね。
その後、ルドルフ会長から確保された私の身柄はナリタブライアン先輩が受け取りに来てくれました。
「全く懲りないなぁ」
「なんか私がライブするたび頭にタンコブ出来てるような気がしますね」
「それは自業自得だ」
そう言いながら、舞台の衣装を着たままため息を吐く私にツッコミを入れるナリタブライアン先輩。
全く的を射た言葉ですね、何にも言えません。まあ、特には反省は全くしてないんですけども。
私とナリタブライアン先輩がこんな他愛のない雑談をしながら廊下を歩いていると、メジロドーベルさんの姿を見かけた。
そして、何かを探しているかのように周りを見渡していた彼女は私を見つけるとゆっくりとこちらに歩いてくる。
「…アフちゃんどこ行ってたの? 心配したのよ?」
「お説教されてました」
「そうなの? 急に居なくなるから…」
そう言いながら、私の手を握りしめてくるドーベルさん。何この手は。
そして、私の手を握りしめたドーベルさんの目のハイライトがスッと消える。心なしか握りしめている手の力が強まっているのは多分気のせいだと思いたい。
そして、顔を近づけてきたドーベルさんは私にこう語りかけてきた。
「アフちゃんは私にはハグしてくれなかったわよね? どうして? 聞かせてくれるかしら? ファンにはするのに私にはしないの? ねぇ?」
「そうやって急にサイコレズっぽくなるのはやめてくれませんかね…顔近い近いっ!」
そう言いながら、グイグイと近寄ってくるドーベルさんに後退りながらブライアン先輩の方に助けを求めようと視線を向ける私。なんの嫉妬心なんですかね、コレガワカラナイ。
しかしながら、ナリタブライアン先輩は既にそこには立って居らず、私を置いて先に行っていた。
そして、ブライアン先輩は振り返ると満面の笑みで私に向かい無慈悲にこう告げる。
「手短に済ませてこいよ、先で待ってるぞ」
「………えぇー……」
先を行くブライアン先輩の言葉に顔を引きつらせる私。
目の前のドーベルさんは相変わらず氷のように冷たい眼差しでこちらを見つめてくる。やべえ、クレイジーですよ、この人。
仕方ないので、軽くハグしてその場は丸く収めましたけれど、トレセン学園の人達ってこんな方ばかりなんでしょうかねほんと。
グラスワンダーさんもおんなじような傾向ですし、スペ先輩の背後にはグラスワンダーさんみたいな。
そんなわけで、私は寮に帰るとヒシアマ姉さんに今日のことについて語ることにした。
「はぁー…てな訳で、トレーニングよりなんか疲れましたよ今日は」
「あはははは! まぁ、ライブも私達を支えてくれるファンのためだからなぁ、仕方ねーよ」
「そうなんですけどね、全く身体を張るのも大変ですよ」
「なんかお前からその言葉を聞くといやらしく聞こえるのは不思議だな」
そう言いながら、私にジト目を向けてくるヒシアマ姉さん。失敬な、身体を張る(意味深)なんて私が言うわけないじゃないですか。
まあ、致し方ないですね、私の行動を顧みれば、ヒシアマ姉さんにはたくさんセクハラしてきましたし、逆にされたりもしましたけど。
ヒシアマ姉さんも寛大ですからね、そういうところは私は大好きですからね、後輩思いですし。
そんな他愛のない話をヒシアマ姉さんとしながら、私はグデーとダラシなくブライアン先輩のベッドの上に寝転がる。
ブライアン先輩のベッドだというのに私物と化してますね。
前に一度聞いたことはあるんですけど、ブライアン先輩的には私はヌイグルミなので全然構わないようです。
「アフー、制服捲れてんぞー」
「知ってまふ」
制服が捲れて下着が見えてようと御構い無し、どうせ、女子寮ですしね、見られようと恥ずかしさもなにもないです。
私なんて、男性から見られても構わないスタンスですしね、基本はですけど、最近は多少羞恥心が出てきたとは思います。淑女らしさは身についてきたとは思いたいです。別の意味の淑女ではあるんですけどね。
ウマ娘というのは大変ですね、ライブを終えて寝転がる私は改めてそう思うのでした。