遥かな、夢の11Rを見るために   作:パトラッシュS
<< 前の話 次の話 >>

38 / 39
強者への道

 

 

 

 生徒会室。

 

 ここは、先程、私と会長が話していた部屋、その部屋で紅茶を飲んでいる会長は静かに書類に目を通しながら、生徒会の仕事に勤しんでいた。

 

 私との話で仕事が滞っていたのだろう。黙々と彼女は書類の一つ一つに目を通しながら必要な書類にはペンでサインをしていく。

 

 壁に寄りかかり、そんな仕事に勤しんでいるルドルフ会長を静かに見つめるウマ娘が一人。

 

 彼女は私とすれ違ったあと、この生徒会室を訪れていた。

 

 チームリギルの一員であり、ルドルフ会長と同じく三冠ウマ娘の称号を持つ怪物。

 

 鼻に特徴的なシャドーロールを付けた彼女は笑みを浮かべたまま、仕事をするルドルフ会長にこう話をし始める。

 

 

「よかったのか?」

「何がだ?」

 

 

 書類に目を通すルドルフ会長は訪ねてきた彼女に素っ気なく答えた。

 

 ルドルフ会長には彼女が生徒会室を訪れた要件は大体わかっている。それは、私にトレーナーを紹介した事だ。

 

 シャドーロールを付けたルドルフ会長と同じく三冠ウマ娘のナリタブライアン先輩はそんな会長の言葉に肩を竦めた。

 

 それは、ルドルフ会長が何故そうしたのかを理解していたからだろう。つまり、わかっている上で彼女に問いかけたのである。

 

 ナリタブライアン先輩は笑みを浮かべたまま、ルドルフ会長にこう語り始めた。

 

 

「強者が増えるのは嬉しい事だ。会長が紹介しないなら私がミナさんをあいつに紹介してたとこだよ」

「フッ…お前らしいな」

「あぁ、そりゃ期待もするさ、WDTに三冠ウマ娘が揃い踏みしたら面白いだろう?」

 

 

 そう言って、笑みを浮かべたままルドルフ会長に告げるナリタブライアン先輩。

 

 強者の出現、それは、この怪物達が蠢くトレセン学園では実に有り難い事であった。

 

 10年に一人の逸材、それはなかなか現れるものではない、彼女達にとってはそんな逸材が台頭してくれることは見た事もない好敵手に巡り合う事ができるという好機でもある。

 

 歴代で未だに5人、しかし、そのたった5人という三冠ウマ娘が近年から増える気配が漂っていた。

 

 

 魔王、アフトクラトラス。

 

 英雄、ディープインパクト。

 

 金色の暴君と呼ばれる謎のウマ娘。

 

 

 彼女達の話は今や、トレセン学園のみならず、至るところで話に上がってきている。

 

 何故、そんな噂がトレセン学園や地方のレースで上がっているのか、それにはある訳があったのである。

 

 何故なら、それに呼応するかのように最近ではこんな話が持ち上がるようになっていたからだ。

 

 それは、彼女達が三冠を取り、三冠ウマ娘の名を刻んだ時、歴代の三冠ウマ娘の集結がWDTであり得るのではないかという話だ。

 

 ナリタブライアン先輩はその話を聞いて非常に心を高ぶらせていた。

 

 歴代のレジェンド、三冠ウマ娘の集結によるWDT(ウィンターズドリームトロフィー)。

 

 世代の壁を超えたこの夢の共演はウマ娘ファンにはたまらない一大イベントだ。

 

 歴代の三冠ウマ娘が激突するレースに日本が熱狂しないわけがない、まさに夢の祭典であり、強者が集うその舞台に心が踊らないウマ娘がいないわけがないのだ。

 

 

 だが、それも通過点に過ぎない。

 

 

 実は、本来の目的はこの三冠ウマ娘が集結するWDTだけではないのである。

 

 それを超えたレースが世界では注目の的になりつつある。それは、歴代でも類を見ない世界を巻き込んだ夢の祭典だ。

 

 ナリタブライアン先輩は笑みを浮かべて、ゆっくりとこう語り始めた。

 

 

「そして…、それが終われば…」

「WWDTだろう? 私もそれが1番の楽しみだよ」

 

 

 だが、ナリタブライアン先輩の言葉を遮るようにルドルフ会長が嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

 そう、三冠ウマ娘を迎えたWDTを超えた、さらに盛大なレースの話が持ち上がっているのである。

 

 それが、シンボリルドルフ会長が口に出したWWDT(ワールドウィンターズドリームトロフィー)だ。

 

 世界各国の最強の三冠ウマ娘だけでなく最強のウマ娘達が世界各国から世代を問わず集結するドリームマッチ。

 

 世代の枠を超えダート、ターフ問わない猛者たちがそのレースの為に集結する。

 

 セクレタリアト、ラフィアン、ニジンスキー、ミルリーフ、ラムタラ、ダンシングブレーヴ、シガー、シーバードなど、名を挙げればキリがない。

 

 そんな化け物達が集結するWWDTの為に集結する歴代の日本の三冠ウマ娘達。

 

 これに、三冠ウマ娘のシンボリルドルフ会長とナリタブライアン先輩が燃えないはずがなかった。

 

 

「ミスターシービー先輩とはコンタクトが取れてる。セントライト先輩、シンザン先輩も問題なく出場意思があるという旨を頂いた」

「フッ…そうか…楽しみだな」

 

 

 シンボリルドルフ会長の言葉にナリタブライアン先輩は不敵な笑みを浮かべていた。

 

 ウマ娘と生まれたからには、世界最強のウマ娘を目指したい。

 

 その飽くなき欲求はこのトレセン学園ならどこまでも満たしてくれる。それは、シンボリルドルフ会長もナリタブライアン先輩も一緒であった。

 

 覚悟を決めたアフトクラトラスはこれから先どんどん力をつけてくるだろう。

 

 可愛がっている後輩だが、勝負には上も下もない、強く、さらに強くなって、自分達と同じステージに立ってもらわなくては困る。

 

 日本の三冠ウマ娘という称号はそれだけ、重い称号なのだ。

 

 

 

 

 さて、密かにそんな大きな話が動いている事も知らない私だが、ルドルフ会長から紹介されたオカさんと呼ばれるトレーナーさんと顔合わせの為に今はトレーニングの為のレース場に来ていた。

 

 オカさんが来るのを待つ間、私はひたすらターフの練習場を我武者羅に駆けている真っ最中である。

 

 朝日杯を控えている私に余裕などはない、ただひたすらに毎日強くなる事だけを今は考えている。

 

 そんな中、私はふと、誰かからの視線を感じた。

 

 レース場を一周した後に私はその視線が気になって、ゆっくりと走っていた足を緩め、タオルで汗をぬぐいながらこう告げる。

 

 

「ジッと見られるとやり辛いんですけどね」

「ほぉ…、いい走りだな」

 

 

 そう言って、私の側に近づいてくるトレセン学園指定のトレーナージャージを着た男性。

 

 しかし、私は朝日杯を控えていてこの時、割と気が張っていて、あまり、そういった言葉もいい気分で素直に受け取る事が出来なかった。

 

 私はジト目を向けながら、素っ気ない表情を浮かべて彼にこう話をし始めた。

 

 

「なんの御用でしょうか?」

「おいおい、トレーニングトレーナーだよ、君のな」

「…へっ?」

 

 

 この時、私はかなり間の抜けた声をこぼしたと自分でも思う。

 

 さりげなく近づいて来た彼の言葉に度肝を抜かされたからだ。

 

 そう、何を隠そう彼が会長が言っていた、トレーニングトレーナーなのである。

 

 とはいえ、あまりにも思っていたのと違う方だったので、私も流石に違うだろうとばかりに思い込んでいたのである。

 

 彼は笑みを浮かべたまま、私の頭をポンポンと叩くとこう話をし始める。

 

 

「話は聞いたぞ、お前さんのハードトレーニングの話をな」

「…えっ? あ、いや…まぁ…」

「今日からはしっかりと管理してやる、安心しろ」

 

 

 そう言って、私に告げるトレーニングトレーナーのオカさんは満面の笑みを浮かべていた。

 

 トレーニングトレーナーとしての彼の腕前はルドルフ会長からもよく聞いている。

 

 早速、私の頭を撫でる彼はゆっくりと私の足と身体つきを目視で眺めるとしばらくして、ため息を吐き呆れたようにこう告げ始めた。

 

 

「よし…それじゃ、まずはお前さんには休みが必要だな」

「…はい…?」

「筋肉が痙攣を起こしとるだろう。連日のハードトレーニングはダメだ、一度、身体の筋肉を休ませる必要がある」

 

 

 彼は真剣な眼差しで私の肩を掴み、そう告げた。

 

 私にとってみればこれくらいのハードトレーニングはいつも朝飯前に行っている事で大したことはないものだ。

 

 それをいきなり休めと言われて、ハイそうですかとやすやすと答えるわけにはいかない。

 

 私はミホノブルボンの姉弟子と義理母のトレーニングを間近で見ているのだから尚更だ。こんなものは屁でもないのである。

 

 呆れたように私はため息を吐くと、彼に向かってこう告げ始めた。

 

 

「…悪いですが、それは無理な話ですね。私には朝日杯を勝つ為に休む暇も惜しいのですよ」

「そうか、それで?」

「ですから、休むなんて選択肢は…」

「話にならんな、無事是名馬という基本も守れないんじゃ勝てるレースも勝てん」

 

 

 そう告げる彼の言葉に私は思わず頭にカチンと来る。

 

 義理母のやり方が違うというのか? それは私には聞き捨てならない言葉であった。

 

 鍛えて鍛え抜いてその果てに栄光があると私は義理母とミホノブルボンの姉弟子、そして、ライスシャワー先輩から教わった。

 

 それを言われては黙っているわけにはいかない、私は彼に向かってこう話をし始める。

 

 

「これが私のやり方です。私の生き方です。これで強くなると義理母に誓ったんですよ」

「なるほどな、だが、それはそれ、これはこれだ」

「それはどういう意味ですか?」

 

 

 私はトレーニングトレーナーに向かいジト目を向けながらそう問いかける。

 

 多分、大概失礼な態度だとは自分でも思ってはいる。だが、私には私のルーツがあり、それに私も誇りを持っているのだ。

 

 義理母と姉弟子との日々が私をより強くしてくれている。だからこそ、トレーニングトレーナーの提案に私は納得できていなかったのだと思う。

 

 すると、彼は私に向かいこう優しく語りかけてきた。

 

 

「メリハリが大事だ。ハードトレーニングは大いに結構、だが、身体を休める事によってその質はより高いものになる事もある」

「……それは…」

「走りに雑さが入ればそれは良さを殺す。自身の良さを引き出す為に身体を全力で休ませろ、そして、トレーニングを積み重ねた方が無駄を省き、より洗練した走りができるようになるはずだ」

 

 

 彼は真剣な眼差しで私に訴えかけるようにそう告げてきた。

 

 長年に渡り、様々なウマ娘のトレーニングトレーナーを務めてきた慧眼からのアドバイス。

 

 確かに私は坂路を限りなく登り、身体をいじめにいじめ抜いていた。そこにはもちろん休息はなく己の意思だけでやってきたトレーニング方法だ。

 

 オカさんからお説教を受けた私はシュンとなり、耳と尻尾がタランと垂れ下がる。

 

 間違いなく、正しいことを言われているそんな気がした、確かにそういった観点から自分のトレーニングを見たことはなかった。

 

 勝つことだけを考えて、ただただ我武者羅にトレーニングして身体を鍛えて駆けるだけではレースに勝てない事もある。

 

 義理母も独自で厳しいトレーニングをしても管理してくれる人間が居なければいずれ負けると。

 

 つまり、義理母が言いたかったのはこういうことだったのだろうか。

 

 姉弟子と義理母といた時はサボる方法を考えたり、スピカに逃げ込んだりしていたし、お風呂も毎回入って疲れを取っていたから、そういった意味では休みを取れていたのかもしれない。

 

 最近では、連日夜通しで坂路を駆け上がったりしていたし、義理母が組んでくれたトレーニング量をオーバーするトレーニングを自ら進んで行っていた事も事実だ。

 

 このトレーニングトレーナーは私の走りを一目見てすぐに把握してしまった。

 

 やはり、この人はすごい人だなと、私は思わず関心してしまう。まだまだ、私はどうやら考えが至らなかったようだ。

 

 私は笑みを浮かべると肩を竦めて、新たなトレーニングトレーナーに向かいこう話をし始める。

 

 

「わかりました、マスター。今日は休むことにします」

「そうか! …よかったよかった」

「ふふっ、…それと、今日から不束者ですがよろしくお願いします」

「おうともさ」

 

 

 そう言って、私はトレーニングトレーナーと固い握手を交わした。

 

 もちろん、私のトレーナーは義理母だけ、そこは見失ってはいない。

 

 しかし、その義理母の念願を叶える為には彼の協力が間違いなく必要不可欠だと感じた。

 

 義理母の約束の為、私はトレーニングトレーナーである彼と三冠を取ることを固く心に誓った。

 

 

 

 それから、翌日。

 

 私はオカさんの言う通りに休暇を取って、ゆっくりと休むことにした。

 

 久方ぶりの休み、とはいえ、やはりトレーニングを積んでいたので違和感がありすぎてこれはこれで困る。

 

 昨夜はちなみにブライアン先輩の部屋で久方ぶりに寝ることにしていた。

 

 ブライアン先輩はやたらと喜んでいたが、相変わらず私を抱いたまま寝るので胸が顔に押し付けられて寝苦しかった。

 

 まぁ、以前では当たり前に寝ていたので別に慣れだとは思う。

 

 私が居なくて寂しいと言われたら、彼女の後輩として応えてあげるべきだと思っての行動だ。

 

 そして翌朝には、私は自分の部屋に戻ってきたわけである。

 

 何をしようか迷うところではあるものの、のんびりと久方ぶりに自分の部屋でくつろいでいた私はドンドンと扉を叩く音に反応して、寝間着のまま扉を開ける。

 

 

「はーい…」

「おはよう、アフちゃん…今日、良いかしら?」

 

 

 そう言って私が扉を開けるとそこに居たのは笑みを浮かべたメジロドーベル先輩だった。

 

 私が無茶なトレーニングをしている時に止めに入ってくれたり、心配をしてくれた信頼できる良き先輩だ。

 

 扉を開けて彼女の姿を見た私は笑みを浮かべたまま左右に首を振り、ため息を吐く。

 

 

 どうやら、久方ぶりの休日はのんびりできそうもないなと私は少しだけ、こうやって気にかけてくれる方の存在に密かに嬉しさを感じるのだった。








※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。