遥かな、夢の11Rを見るために   作:パトラッシュS

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温泉休暇

 

 

 アンタレスの温泉旅行で即堕ちしてしまった私。

 

 ダークサイドどころか温泉で身も心も浄化され、マスコットサイドに引きずり戻された感が否めません。

 

 デフォルトがこれだから致し方ないですよね、先週までシリアスキャラ的な感じだったのにどうしてこうなった。

 

 そう、全ては温泉の仕業なんです。

 

 

「立直!」

「あー! マジかよー! お前また立直かっ!」

 

 

 そんなわけで、私が皆さんと麻雀をやっているのも温泉の仕業なんですね、はい。

 

 なんか深刻な話してるより、明るい方が私らしいですからね、皆さんもこちらの方がお好きでしょう? ええ、私も明るい方が大好きです。

 

 魔王とか呼ばれてる私は多分、ヒール的な立ち位置ですしね!

 

 やったね! ライス先輩! 仲間がふえるよ!

 

 ちなみに増えたヒール仲間というのが私という、なんとも言えない感じ、あだ名が魔王ですからね致し方ないですね。

 

 卓を囲んで麻雀するウマ娘にロクな奴は居ませんよ、私は言うほど強くないですけども。

 

 

「アフ、それロン」

「ほああああああ!?」

「対々和だ。んー…ハネ満だな」

 

 

 そう言って、私の捨て牌を拾ってくるナカヤマフェスタ先輩。

 

 何ということだ。さっきから狙い撃ちされてばかりではないですか!

 

 そして、点棒が尽きた私は呆然と卓を見つめる。なんでこの人達麻雀も強いんですかね、私も自信あったのに、これではカモではないですか。

 

 点棒が無くなり、これで旅館での麻雀も終了ですか、早かったですね…。

 

 とでも言うと思ったかぁ! 甘いわぁ!

 

 

「ちくしょー! 点棒の代わりにコイツ賭けたるわー!」

「んなっ!? お前! それブラジャーじゃねぇかっ!」

「ぶっ…!」

 

 

 己の胸に手を突っ込み、付けていたブラジャーをバンッと卓に叩きつける私に突っ込むナカヤマフェスタ先輩。

 

 メジロドーベルさんは私の凶行に鼻血を吹き出して歓喜してました。

 

 ブラジャーを外した私の胸はたゆんと元気よく弾みます。

 

 そして、メジロドーベルさんの目の色が変わりました。なんか怖い。

 

 

「…うふふふ、これはもしや、勝ち続ければアフちゃんを…うへへ」

「いや本当に怖いんですけど」

 

 

 手をワキワキさせながら、詰め寄ってくるメジロドーベルさんに私はドン引きしながら顔をひきつらせる。

 

 この展開はナリタブライアン先輩達とよくある事なんですけど、ここまで迫られる事はなかったのでどんな顔をして良いかわかりません。

 

 ほぼ全裸でナリタブライアン先輩とは添い寝はした事はあるんですけどね、何というか、それでもほにゃららみたいなことにはなってはいませんし、胸とかは寝てる間に揉んだり揉まれたりはしましたけども。

 

 メジロドーベルさんはほら、目がマジなのでコイツはやべーぜと、私の頭の中の警報が鳴っております。

 

 私の身体をどうするつもりかはわかりませんが、非常に危ない匂いがプンプンしてやがるぜ。

 

 

「さぁ! やるわよ…っ! さぁ!」

「あっはい」

 

 

 何か背筋がざわ…ざわ…してるのは多分気のせいですかね?

 

 仕方なく立直棒の代わりにブラジャーを卓に叩きつけた私はストンっと着席しました。

 

 要は負けなければ良い話なんですよ、レースもそうですしね、ウマ娘ならこんな勝負事には強くなくてはいけません。

 

 しかし残念ながら、私は比較的こういった勝負事にはからっきし弱いようでして、残念ながら勝てないんですよねー、なんでや。

 

 これは私の今履いているパンツが飛んでいくのに何巡くらいですかねー(他人事)。

 

 私は先輩達と卓を囲みながらそんな事を冷静に考えるのでした。

 

 

 それから、しばらくして。

 

 アンタレスの身内での麻雀が終了し、私の身柄はある先輩に身請けされる事になりました。

 

 あ、ちなみに賭けた私のパンツやブラジャーは目の色変えたメジロドーベルさんが全部持っていってしまいました。

 

 あの怒涛の上がりには鬼気迫るものがありましたね、まあ、温泉ですし私は浴衣なので、そこまでは問題なかったんじゃないかと思います。

 

 ただし、失ったパンツとブラジャーはもう私の元には戻って来ないんじゃないでしょうかね、そんな気はしていました。

 

 さて、あとが無くなった私はもちろんいつも通り自分の身を立直棒に見立てるという暴挙に出たわけなのですが、案の定、轟沈。

 

 幸運というべきなのかどうかはわかりませんが、最終的にライスシャワー先輩にロンを直撃させられました。

 

 という事で、今晩、私はライスシャワー先輩に回収されるという事になったわけですね。

 

 メジロドーベルさんが絶望で打ちひしがれているようでしたが、どうでもいいんで明日には私の下着を返して欲しいなと思います(切実)。

 

 なんで毎回こうなっちゃうんでしょうね。

 

 浴衣の下はほぼ全裸、確かに浴衣の下には下着は付けないとは聞きますがこれはこれで落ち着きませんよね。

 

 

「アフ…お前、なんてもんをぶら下げてんだ」

「私だって嫌ですよ、これ邪魔ですし」

 

 

 そう言って、胸をジト目で見つめてくるナカヤマフェスタ先輩に顔をひきつらせながらそう応える私。

 

 私の胸は下着付けてないと凶暴化するので本当にタチが悪いです。好きでこんなにおっきくなったんじゃないんですけどね。

 

 とはいえ、ライスシャワー先輩と添い寝をするのはかなり久々かもしれませんね。

 

 今の今までナリタブライアン先輩達の部屋で寝泊まりすることが多かったですし、こうして先輩達と絆を深め合う機会も最近はなかなかなかったですから新鮮でした。

 

 ライスシャワー先輩はクスッと笑みを浮かべながら私にこう話をしはじめる。

 

 

「寝相が悪くて服がはだけない様に注意しとかなきゃね、アフちゃん」

「うぐ…、わ、わかってますよ」

 

 

 寝相が悪くて裸を晒すなんて事になれば嫁には間違いなく行けなくなるでしょうけどね。

 

 そもそも私自身が嫁入りする気が皆無なのでどうでもいい事なんですけども、ライスシャワー先輩には迷惑を掛けたくないですし、そこはしっかりしとかねばいけませんね。

 

 すでに浴衣の下が裸の時点でしっかりなんてしてませんけど(白目)。

 

 そして、メジロドーベルさんの目つきがものすごく肉食系感があるのが気になりますね、これが噂に聞く野獣の眼光というやつでしょうか。

 

 ちなみにメジロ家の人達って肉あげたら食べそうな人達ばかりなんですよね、肉食のウマ娘って聞いたことないですけどね。

 

 あのオグリ先輩ですらベジタリアンなのに不思議だなぁ(遠い眼差し)。

 

 しばらくすると、バンブーメモリー先輩が何やら小さなラケットの様なものをこちらにやってきた。

 

 温泉、小さなラケットと来れば察しのいい方はすでに分かっているかもしれませんね。

 

 

「おーい! これこれー! 卓球のラケット借りてきたっすよー!」

「おっ! 卓球かぁ!」

「…ほほう」

 

 

 そう、バンブーメモリー先輩がなんと卓球の道具を借りてきてくれたのである。

 

 温泉といえば卓球、そして、風呂上がりの一杯、これが定番ですからね、卓球をやらないで温泉は語れないと、かの有名なニーチェも言っていました(大嘘)。

 

 ピンポン玉の魔術師というあだ名を自称している私としては卓球ならば負ける気はしませんしね。

 

 フッ…軽く揉んでやりますか。

 

 いや、自分の胸の事ではないです。

 

 

「面白いですね、受けて立ちましょう」

「さっき麻雀で焼き鳥になったお前が言うと負けフラグにしか聞こえないんだが」

 

 

 ドヤ顔でバンブーメモリー先輩に言い放つ私に容赦ない一言を投げかけるナカヤマフェスタ先輩。

 

 そこは敢えてスルーして欲しかったんですけどね、悲しいなぁ。

 

 けれど、私もそんな気はしてましたのでこれには何にも言えませんね。むしろ、なんでドヤ顔してんだお前と言われるレベルですしね。

 

 マスコット臭とチョロさが滲み出ていますね、シリアスな私はどこ行ってしまったんでしょうかね。

 

 という事で卓球対決、私はピンポン玉を高く上げて華麗なサーブを決め…。

 

 

「そいっ!」

「うわっ! ちょっと! そこ狙いは卑怯ですよっ!」

 

 

 見事にナカヤマフェスタ先輩に胸元にリターンを返されてしまいました。

 

 私の胸元を狙うなどなんて卑怯なっ! これではピンポン玉が挟まって見えないではないですかっ!

 

 私はたゆんと弾む胸元に手を突っ込み、挟まったピンポン玉を取り出します。

 

 下着があればこんな事にはならないというのに…。

 

 ん? 待てよ、私このままだとポロりしてしまうんじゃないでしょうか?

 

 カメラを構えているメジロドーベルさんを横目に私は思わず危惧してしまいます。それは卓球ですからね、今さっきのでもだいぶ危なかった様な気がします。

 

 親方! 胸元にピンポン玉が!

 

 流石にこのままはしたない姿を皆の前に晒すわけにはいきません、私は胸元を隠すように浴衣を着なおし、コホンと咳払いをするとこう告げ始めた。

 

 

「ふっ…命拾いしましたね。私がブラジャーを着けていればコールド勝ちは余裕だったものを」

「そもそもなんでノーブラのままで卓球しようと思ったんだお前は」

 

 

 ナカヤマフェスタ先輩の的確なツッコミ。

 

 確かにその通りなんですよね、なんで下着着けてない浴衣で卓球をそもそもしようと思ったんでしょうね私は。

 

 ナリタブライアン先輩の悪いとこが感染ってしまったのかもしれない、あの人も見られる事に関して全く無関心ですからね。

 

 ヒシアマ姉さんも同じくですけど、あの人達同様、私にはどうやら女子力というものが欠如しているようです。

 

 

「さてと、ならライスシャワーやるかい?」

「えっ? 私? 卓球そんなに強くないんだけどなぁ…」

 

 

 そう言いながら、私から卓球のラケットを受け取りつつ苦笑いを浮かべるライスシャワー先輩。

 

 ナカヤマフェスタ先輩とライスシャワー先輩の卓球対決かぁ、私がクソザコだったのでこれは楽しみですね。

 

 とはいえ、ライスシャワー先輩は普段は大人しくて大天使ですから、卓球の腕もそこそこ強いくらいでしょうし、いい具合に観てて楽しい試合が期待できるんじゃないでしょうかね。

 

 私はそんな事を考えながら、ラケットを構えるライスシャワー先輩をほっこりとした表情で見つめていました。

 

 しかし、私が思っていた以上に予想外の方向に事が進んでしまいます。

 

 サーブの構えを取るライスシャワー先輩はにこやかな笑みを浮かべピンポン玉を宙に浮かします。

 

 

「いくよー!」

「おー! いいぞいつでもこい!」

 

 

 そう言いながら、ナカヤマフェスタ先輩もラケットをすかさず構え、ライスシャワー先輩に合図を送る。

 

 

 しかしながら、次の瞬間。

 

 

 風が吹いたかと思うと、ライスシャワー先輩が放ったピンポン玉は切り裂くかのようにテーブルをバウンドし、ラケットを構えているナカヤマフェスタ先輩の頬を信じられない速さで掠めていきました。

 

 これには、ナカヤマフェスタ先輩も目を疑っていました。

 

 観戦していた私やタキオン先輩達も目をまん丸くするしかありません。

 

 

「あー…力入れすぎちゃったかもゴメンね」

「あっ、そ、そういう時もあるから、う、うん」

 

 

 あまりの出来事に声が裏返ったまま告げるナカヤマフェスタ先輩。

 

 ライスシャワー先輩はにこやかに笑みを浮かべたまま手慣れた様子でラケットをクルクルと回しながら申し訳なさそうに謝っていた。

 

 そんな様子を眺めていたタキオン先輩は冷静な口調で冷や汗を流しながらこう呟く。

 

 

「…やばい、あいつガチ勢だぞ」

「ですね、あれはガチですね」

 

 

 タキオン先輩の言葉に同調するように頷く私。

 

 ガチ以外でもなんでもない、本気も本気のサーブだった。サーブ打つ時にあの人、眼光が光りましたからね。

 

 ナカヤマフェスタ先輩も仰天してましたからね、私も同じ立場なら目が点になってますよ。

 

 あんなのが私の胸元に飛んできたら抉れちゃうだろうなぁ(こなみ)。

 

 鍛えられた筋肉が爆発するとこうなっちゃうわけですね、ここに姉弟子が居たらラケット壊しちゃうんだろうなとか考えてしまいました。

 

 それからライスシャワー先輩の独壇場。

 

 ナカヤマフェスタ先輩は言わずもがな秒殺。

 

 その後に続いてサクラバクシンオー先輩も果敢に挑んでいましたが、ライスシャワー先輩にコテンパンにやられてしまいました。

 

 

 こんな感じで、おかげ様で私はチームアンタレスの方々と楽しい温泉旅行を満喫する事ができた。

 

 最近は気負ってばかりでしたけど、周りを見渡せば私のことを考えてくれてる方々ばかりだったという事に改めて気づかされた。

 

 温泉旅行からの帰りのバスの中、メジロドーベルさんは外の景色を見つめている私に笑みを浮かべてこう問いかけて来る。

 

 

「どうだった? 温泉旅行」

 

 

 その言葉に私はニコリと笑みを浮かべ、迷わずこう答えた。

 

 

「非常に楽しい休暇になりました」

 

 

 この数日、今まで気づかなかった事にも気づかされた貴重な休暇になったと思う。

 

 私の秋の戦いはこれから、新しいトレーニングトレーナーを迎え、心機一転してレースに臨む事ができる。

 

 姉弟子と義理母の悲願を胸に私は初のG1勝利に向けて、バスの中で気持ちを切り替えるのだった。


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