ゴルシちゃんの動画配信に付き合う事になった私ことアフトクラトラスですが、前回に引き続き私は彼女の余興に付き合う事に。
続いてのコーナーはやはり、私に関した事でした。
まあ、私がゲストなので致し方ないんですが、うーん、この扱いである。
すると、直ぐにゴルシちゃんはこんな話題を私に振り始めた。
「次のコーナーだけど、アフ公、もうすぐ朝日杯じゃん?」
「まぁ、はい…、そうですね」
「それじゃそれに関する意気込みってぇ奴を聞かせてもらえるかい?」
ニコニコと笑みを浮かべながら私にそう告げてくるゴルシちゃん。
朝日杯、私が初めて挑戦するG1レース。
それは、いよいよ、私が姉弟子が歩んできた道を辿る事が出来るという事。
名だたる強豪たちがG1という栄光を掴み取るためにシノギを削り合う、私もまた、ライバル達と激突する事になるのだ。
そこには私が抱いている思いがあった。
「…私は、姉弟子ができなかった夢を引き継ぐ使命があります」
「………」
「姉弟子に代わって三冠を達成するという、目標が私にはあります。そして、欧州に渡り、三冠を取るという私の夢があります」
今、私は多分、みんなから夢物語だろうだとか、思われていることだろう。
だけど、この絵空事は小さい時から今、入院している義理母から聞かされてきた大きな夢だった。
私もウマ娘と生まれたからには行けるところまで行きたい、見たことがない世界まで走っていきたい。
義理母と姉弟子から受け継いだ願いを、希望を、夢を抱いて私はレースを走るつもりだ。
その話を聞いたゴルシちゃんは笑みを浮かべる。
「じゃあ最後にこの話を聞いているライバル達に最後に一言」
私の覚悟を聞いたゴルシちゃんはこれ以上、聞く事はないと悟ったのか、最後の締めに私にそう問いかける。
私の世代にも名だたるライバル達がいる。
私の夢を叶えるなら、願いを叶えるなら彼女達を皆倒さなければならない。
逃げるつもりは毛頭ない、真っ向から勝負してねじ伏せる。それが、私が私らしく、そして憧れた人が私に示してくれた事だから。
あの人達に恥じないように、私もまた強くなる。今よりずっと、そしてこれからも。
ライバルは同世代のゼンノロブロイ、ネオユニヴァース、エイシンチャンプだけじゃない。
下の世代、そして、海外にひしめく怪物達もまた私のライバルだ。
私は今の私よりも強い奴を倒しに行く。
ゴルシちゃんから問いかけられた私は迷いなく力強くこう告げた。
「私は逃げも隠れもしません、全員倒して頂きを取りに行きます。どんなに強いウマ娘だろうがねじ伏せて勝つだけです、ですから、これを見ているウマ娘はいつでも私に挑戦しにきてください」
私は迷いなくそう告げた。
私が私らしく走るために、そして、自分の逃げ道をなくすため敢えて啖呵を切ってみせた。
傲慢ではない、自分の力を過信しているわけでもない、まだまだ、私は強くならなくてはいけない。
姉弟子のように、努力を重ね、力でねじ伏せる。
積み重ねたものは嘘はつかない、私はそれを嫌というほど教えられた。どんな相手だろうと上も下もないのだ。
喧嘩に身分の上下無し、レースとはすなわち、実力がものをいう私達の戦場なのである。
「私は勝ちに行きます。それが、ナリタブライアン先輩でもシンボリルドルフ先輩だろうとどんな相手だろうと実力でねじ伏せます」
「ほほぅ、言うねぇ」
「貴女も例外じゃないですよ、ゴルシちゃん?」
そう告げる私はにっこりと笑みを浮かべたまま、目の前に座るゴルシちゃんに向かい告げる。
レースの勝者は常に一人、私は敗者になるつもりは微塵もないし、おそらく、それは他のウマ娘達もそうだろう。
誰もが勝ちたいと思っている。なら、他よりも違う努力を積み重ねていくしかないのだ。
血が滲む努力さえ、秀でた才能には劣る事だってある。
私は天才なんかじゃない、周りを見ればもっとすごい才能の持ち主達がゴロゴロいる。世界に目を向ければ、神に愛されたような才能を持ったウマ娘達もいる。
そのウマ娘達をねじ伏せるだけの実力を私は身につけたい、もっと、強くなりたい。
それだけの飢えが今の私の原動力だ。
「ほうほう、私と走りたいのかい?」
「機会があればですけどね、ですが、今は目の前の事で手一杯ですよ」
そう言って、私は苦笑いを浮かべたまま肩を竦めた。
ファンの皆は私がマスコット感溢れるアホな事やポンコツな姿をたくさん見ているので、その印象が強いかもしれません。
ですが、私の本質は先ほど述べたような勝利と己の力を追い求めている餓鬼なのです。
だから、私のことを魔王と言っているのはもしかするとそこの本質に気がついている方々なのかもしれませんね。
しかしながら、ゴルシちゃんは人がせっかく真面目な話をしているというのに、ニヤニヤしながら手をワキワキと怪しく動かしこんな話をしてきます。
「胸のところもいっぱいいっぱいみたいだしなぁ、どれ、私が軽くしてやるぞ?」
「それ貴女が揉みたいだけでしょう!?」
私は咄嗟に胸を隠して後退る。
揉んだら軽くなるなんて話は当然聞いたことがない、というか、軽くなるどころか大きくなるのではなかろうか?
そんな私の心配を他所にゴルシちゃんは手をワキワキしながら間合いを詰めてくる。
「さぁ! そのデカイのを差し出すんだ!! ア〜フ〜!」
「ぎゃああああぁ〜〜〜!!」
動画配信の画面は私の悲鳴と共にブラックアウトしてしまいました。
その後の惨状につきましては…、まぁ、その…皆さまのご想像におまかせします。
皆さんは得意ですよね? 私は皆さんがそういう事に関してプロだとお聞きしました(適当)。
大方、想像通りかと思われます。配信されなくて良かったと思うばかりです。
さて、そんな訳で、気を取り直して、私は再びトレーニングを再開しました。
私の併せに付き合ってくれる先輩方には感謝しかありませんね、チームメイトというのはこういう時は本当にありがたいと思います。
朝日杯に向けて、妥協は無い、必ず優勝して義理母に私がG1を勝ったという証を見せてやります。
「アフ、仕上がって来てるな、新走法は?」
「えぇ…、ぼちぼちですかね、まだ本番で使えるかどうかはわかりませんが…」
息を切らしながら、併せを終えたナカヤマフェスタ先輩の言葉に顔をひきつらせ答える私。
本当にこればかりはやってみなければわからない、私の力がどれほど通用するのかは走りの中しか証明できない。
だが、やるべき事は分かっている。それは、何が何でも勝つ事だ。
だから、全力で悔いなく走りきる。自分が持つ実力を出し切って蹴散らしてみせる。
さて、もう一周走るとしますか、タイヤの量は二倍くらい増やした方が良いですね。
「お前さんばんえいに鞍替えするつもりか?」
「えっ!? やっぱりコンクリートの方が良かったですかね!」
「そういう事じゃないんだよなー…」
そう言って、慌てたように目を丸くする私にツッコミを入れるナカヤマフェスタ先輩。
足腰鍛えるのにはこれが良いと古事記にも書いてありますよ! おかしい、何故、可哀想な娘を見るような眼差しを私は向けられているんでしょうかね? コレガワカラナイ。
こうして、私はコンクリートに重しを変えて、改めてコースを走る事にしました。よーし、このまま坂路も走るぞー!
そして、コンクリートの重しを付けて私が走っていると横を通り過ぎる一つの影が…。
おや、あの最速の機能美はもしかして。
「あ、サイレンススズカさんだ」
そう、それは私と同じように芝のコースでトレーニングをしているサイレンススズカさんだった。
同じとは言っても、コンクリート引きずって走ってるのは私くらいですけどね、普通のウマ娘は、まず、しないでしょうから。
サイレンススズカさんといえば、異次元の逃走者という逃げの戦法を得意とするかなりの実力者。
その実力は、グラスワンダー先輩やエルコンドルパサー先輩よりもあるとも言われている。
中距離のレースでは無類の強さを誇るとんでもなく強いウマ娘である。私が前にお世話になったチームスピカ所属のウマ娘だ。
さて、そんなサイレンススズカさんが横を通過していったわけなんですけど、当然ながら、私の姿が視界に入るわけです。
コンクリートの重しを引きずって、隣のコースを走る私を二度見するサイレンススズカさん。
私は笑みを浮かべて、そんなスズカさんにフリフリと手を振ってあげます。
スズカさんは信じられないような表情を浮かべると、一周コースを回った後に私の元へやって来ました。
「ちょっとっ!? アフちゃんっ!」
「あっ…! もう一周走って来られたんですか、早いですね」
「いや、そうじゃなくて…! それは…」
そう言って、私の後ろに括り付けられたコンクリートを指差して問いかけてくるサイレンススズカさん。
私は指摘してくるスズカさんが指差している方に振り返り、引きずっているコンクリートを目視で確認すると、改めてスズカさんの方に振り返って首を傾げる。
「コンクリートですが」
「いや、コンクリートって…あのね…?」
「凄いですよ、このコンクリート、物凄く重いんですよ!」
「でしょうね…、いや、そうじゃなくて…、普通はコンクリートをコースで引いたりしないんじゃないかな…」
目をキラキラさせて答える私に困惑した様子でそう告げるサイレンススズカさん。
私はそんなスズカさんの言葉にキョトンとしたまま、後ろに括り付けたコンクリートを暫しの間、見つめる。
タイヤよりも重いですし、足腰にも相当負荷がかかって良い感じに足の筋肉が悲鳴をあげてるのにそんなわけがないでしょう。
私は笑みを浮かべたまま、サイレンススズカに向き直るとこう話をし始めた。
「またまたぁ〜、そんな事はないでしょう! だってコンクリートですよ!」
「うん、何がだってなのか、わたしにはよく分からないかな」
サイレンススズカさんはそう言うと私の肩をポンと叩いてくる。
その眼差しは、とりあえずそのコンクリートは外しておきなさいと訴えかけてくるような眼差しでした。
コンクリートを外すなんてとんでもない、こんなに良い感じに引けているというのに!
坂路もこれを使えば、足がきっとすんごい事になることは間違いないです。それを外すなんて、私にはちょっと理解しかねます。
続いて、スズカさんは優しい眼差しで私を見つめた後、真剣な表情でこう話をしはじめた。
「コンクリートはダメです」
「ダメですか…」
「ダメです。併せには付き合ってあげますからやめましょう、皆さん見たらドン引きしますから、それ」
「よしんば、私がコンクリートの量を減らしたとしても…?」
「ダメです」
そう言って、コンクリートを推す私に念を押してくるサイレンススズカさん。
おかしい、こんな事は許されない。
まさか、コンクリート禁止令が出るなんて、とはいえ、トレセン学園でコンクリートを引いてトレーニングするウマ娘って多分、前代未聞だとは思いますけどね。
そして、私の手足には今なお、めちゃめちゃ重たいバンドとかを付けています。
外して地面に投げると陥没すると言っていたアレです。そんなものを普段から身につけている身とすれば平気だと思うんですけど、サイレンススズカさんがそこまで言うのであればやめるのが得策かもしれませんね。
その後、致し方なくコンクリートの重しを外した私は、併せでサイレンススズカさんと走る事になりました。
逃げの戦法は姉弟子が使っていたので、なんだか懐かしかったですね。
姉弟子が今どこで何をしているのかはわかりませんが、少なくとも朝日杯では吉報が届けれるように最善を尽くしたいと思っています。
ほら、そう考えるとやっぱりコンクリートですよねやっぱり。
そんな事を考えながら、私はオカさんから新走法の改善のアドバイスを聴き、サイレンススズカさんの協力のもと、その走り方について試行錯誤を繰り返す事にするのでした。
皆さんも道端でコンクリートを引きずりながら歩く際には気をつけましょうね。私みたいに止められるかもしれませんので。