遥かな、夢の11Rを見るために   作:パトラッシュS

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G1 ウイニングライブ

 

 

 朝日杯後、私はネオちゃん達と面と向かってしっかりと話をした。

 

 それは、私がこのレースを通じて大きく成長することができた感謝と互いに全力を尽くして戦った健闘を讃えるためだ。

 

 私と握手を交わしたネオちゃんは悔いが無さそうに笑顔を浮かべていた。

 

 

「……やっぱり、アフちゃんは強いね」

「ネオちゃん…」

「後悔はないわ、最善を期して貴女に負けたんですもの。でも、次は必ず勝ってみせるわ」

 

 

 2着にゴールを決めたネオちゃんは私の手を力強く握りしめてくる。

 

 彼女の悔しさは、力強く握りしめてくる手を通じて感じた。きっと彼女はこれからもっと強くなるだろうと私は思う。

 

 ネオちゃんが密かに悔し涙を流していた事も私はわかっている。

 

 それは、私は身近で流していた人をいつも見ていたからだ。

 

 それでも、ライバルの勝利を祝福してあげるのは全力で戦った証だ。

 

 だから、私はネオちゃんがこれから先、侮る事が出来ないライバルであると確信を持って言い切れる。

 

 エイシンチャンプちゃんやサクラプレジデントちゃんも同じだ。

 

 きっとこの先、この二人も悔しさをバネにもっと強くなるだろうと私は思う。

 

 油断ができない好敵手達、私は彼女達に負けないようにもっと強くならないといけないなと改めて感じた。

 

 そして、レース場に流れ込んでくるアンタレスの方々。

 

 皆さんは私を取り囲むと満面の笑みで勝利を祝福してくださいました。

 

 

「よくやったー! お前もこれでG1ウマ娘だ!」

「ハラハラさせやがって! このー!」

「ふむ、あそこからの走りは見事だったな、実に興味深い」

「あはは、ありがとうございます」

 

 

 先輩達から揉みくちゃにされながら抱きしめられる私はそう言って顔を引きつらせます。

 

 そして、私のG1勝利がよほど嬉しかったのか、メジロドーベルさんは泣きながら喜んでくださいました。

 

 

「アフちゃんが勝てて良かったぁ…」

「もう、泣かないでくださいよ…」

「だって! アフちゃん頑張ってたから…」

 

 

 そう言って、涙を流してくれるメジロドーベルさんに私は頭を撫でてあげながら、目元をハンカチで拭って上げます。

 

 私ったらなんて紳士なんでしょう!

 

 身長差がありますのでつま先立ちなのがアレですけどね、クソがッ!

 

 淑女ですからね、私は。

 

 違います、変態的な意味の淑女ではありません、ちゃんとした淑女です。

 

 

「ほら、お客さんに挨拶してこい」

「はいッ」

 

 

 そして、アグネスタキオン先輩から促されて、背後を振り返った私は湧き上がる歓声に笑みを浮かべて手を振る。

 

 応援してくれた皆さんには感謝しかありませんね、私は一人で走っていたんじゃないと改めて気づかされたような気がします。

 

 G1初勝利、義理母にもこの事を伝えてあげねばなりませんね。

 

 そんな中、観客席から聞き覚えのある声が私に向かって飛んできた。

 

 

「おーい! アフー! この後ウイニングライブだぞーッ!」

「…………、…ファッ!?」

 

 

 そう、その声の主はナリタブライアン先輩である。

 

 そして、私はすっかり忘れていたウイニングライブについて彼女の言葉でハッ! っと思い出した。

 

 そうだった、ウイニングライブの事を私は全く失念していました。

 

 ウイニングライブ、やはりやらなくてはいけないですよねー、やらないと怒られますからねールドルフ会長から。

 

 もう前科はたくさんありますので今更なんですけど。

 

 

「…ネオちゃん、シンちゃん、サクちゃん、ちょっといいかな?」

 

 

 だが、私はただでは転びません。

 

 やれと言われればやりますよ、伊達に何故かセンター率が高いんですからね。

 

 とはいえ、久方ぶりのウイニングライブ、最近、1着取ってもウイニングライブは放棄気味でしたからね、私。

 

 しかし、復活した今となってはなんでもやってやります、ファンの人達は私の勇姿を見たくて仕方ないでしょうから。

 

 私はその期待に応えなければなりませんね! だって私はウマ娘なんですから!

 

 ウマ娘であってアイドルではないです。はい。

 

 アイドルとは?(哲学)。

 

 私が思うアイドルとは、ステージを木から作ったり、土の知識が豊富だったり、基本、必要な物は自作する人達だと思っています。

 

 最近、死体から始めるアイドルも流行っているとか。

 

 アイドルの形も人それぞれですからね、私はウマ娘ですけど。

 

 私はウマ娘ですけど、歌って踊れるウマ娘なんですね。

 

 ウイニングライブ? 上等ですよ! やってやろーじゃねぇかこのやろー!(杉谷感)。

 

 ヒダリテデウテヤと言われれば、私は敢えてバットを逆さまに持ってミギテデウッテやります。

 

 悪巧みを企む私はその後、ウイニングライブ会場へ三人を連れて入場しました。

 

 ヒラヒラでキャピキャピな格好で歌って踊る可愛いアイドル?

 

 そんな事はうちは知らん! なんば言いようとか! くらわしたるわ!

 

 

 

 ライブ会場で意味深な前奏曲のBGMが流れてくる中、私はマイクを使って口上を述べ始める。

 

 サイリウムの光に囲まれているステージ、観客のボルテージは最高潮。

 

 これは盛り上げてあげなくては(使命感)。

 

 

「行くとこまでいくぜェ…お前らァ!?今夜ァ…狂乱麗舞だからよォ…」

 

 

 バンッという音と同時にスポットライトが会場にいる私達に当たる。

 

 そこには、喧嘩上等の特攻服を身に纏っている異様なウマ娘の集団の姿があった。

 

 ようはレディースの格好である。これには会場に来ていた人達も !? という感じで硬直してしまっている。

 

 

「ブッ込んでいくんで夜露死苦ッ!」

 

 

 そして、流れてくる曲と共にギターが鳴り響く。

 

 私は特攻服を身に纏ったまま、背後で同じく特攻服を身に纏っているネオちゃん達と共に歌って踊る。

 

 ほら! 今までに比べたらちゃんとやっているでしょう? え? 違うそうじゃないですって?

 

 だってワクワクするじゃないですか!

 

 ノリと勢いって私、大切だと思うんですよね、とはいえ、私はいろんな意味でぶっちぎってますけど。

 

 会場は大盛り上がりを見せる。

 

 言えない事も言えないこんな世の中じゃやっぱりはっきりと言える時に言っておくべきですよね。

 

 

 アフズン…。

 

 

 ちなみにこの後、私は“不運”(ハードラック)と“踊”(ダンス)っちまってしまうのは言うまでもないでしょう。

 

 ゴルシちゃんも大爆笑してましたし、何故か、よく見てみるとテンション上がったマックイーン先輩がノリノリで最前列に来ていました。

 

 お嬢様と言いつつ、絶対この人元ヤンですよ! だって目つきと気合いが違いますもん!

 

 しかしながら、私は抜け目がありませんので、ちゃんと身につけている鉢巻にはメジロマックイーン雄羽園死隊と書いてますから。

 

 異様な盛り上がりを見せた私のG1初勝利のライブはこうして無事に終わりを迎えることができました。

 

 後にルドルフ会長から呼び出され、「何、上等キメてんだゴラァ」と怒られはしましたが、後悔はしてないです(たんこぶ作った感)。

 

 ルドルフ会長がヒシアマゾン先輩にオウ!!“バール”持って来い!!って言われた時は、すかさず土下座しましたけどね。

 

 ライブ終了後、ゴルシちゃんは嬉々として、特攻服を着た私の元にやってきました。

 

 もちろん、ゴルシちゃんだけではありません、気が荒々しいウマ娘達からはこの特攻服が何故かウケが良かったようで、皆さんが押しかけてきました。

 

 

「おぉ! アフ! その特攻服カッコいいじゃねーか! 私のもあるか?」

「…えっ!? あ、はぁ、まぁ、作れますけど…」

「うお! マジかよ! 俺のも頼めるかな! アフ先輩ッ!」

「おい! アフー! 私のも頼むよ!!」

 

 

 こうして、ライブ終了後の特攻服の大量発注により、一気に特攻服を私が作ることになりました。

 

 なんだこのヤンキーウマ娘達は…(困惑)。

 

 なるほど、これがツッパリハイスクールロックンロールちゃんですか…(白目)。

 

 メジロ家の人達を始め、エアシャカールちゃんやナカヤマフェスタ先輩、バンブーメモリー先輩やウォッカちゃん、メジロドーベルさん、そして、何故かナリタブライアン先輩まで来るものだからびっくりですよ、ちゃっかりオルフェちゃんも居ましたし。

 

 やばい、不良ウマ娘しか居ない…、なんで私の周りにはこう癖が強いウマ娘ばかりがやって来るんですかね?

 

 愚連隊でも作るのかな?(すっとぼけ)。

 

 ワイルドサイドの友達しか居ない事に戦慄を覚えるしかないですね。

 

 トレセン鈴蘭学園…うっ…! 頭が…っ!

 

 だいたい、この原因は私という、はい、全部、私のせいです、すいませんルドルフ会長、反省してますん!(あやふや)。

 

 さて、こうして、私のG1初勝利もこうして無事に幕を閉じることができました。

 

 ライブ終了後、私はアンタレスの皆さんから迎えられ勝利を分かち合います。

 

 

「よくあそこから捲ったな! すげーよ! お前!」

「やっぱり私達の応援のおかげっスね! 気合いが違うっスよ! 気合いが!」

「あはは…、ありがとうございます」

 

 

 照れ臭そうに頭を掻きながら、二人に対して感謝を述べる私。

 

 正直、勝てるかどうかわかりませんでしたし、あの時、私の背中を押してくれたのはアンタレスの方々の掛け声でした。

 

 私は自分の未熟さをレースを通して学びましたし、これからもっと強くなれるという確信も持てました。

 

 そんな中、私の元にライスシャワー先輩がやってくる。

 

 

「…アフちゃん、おめでとう」

「…ありがとうございます」

 

 

 そう言って、満面の笑みで私に告げるライスシャワー先輩。

 

 その眼差しは優しく私を真っ直ぐに見据えていました、ライスシャワー先輩の檄に私はあの時どれだけ救われた事か。

 

 ミホノブルボンの姉弟子にも、見せてあげたかったですけどね、きっと喜んでくれたのだろうなと私は思います。

 

 後で義理母にもしっかりと報告しないといけませんしね。

 

 

「それと…」

「はい?」

 

 

 そう言って、ライスシャワー先輩は軽くデコピンの構えを取ると私の額を軽く指で弾いた。

 

 私は思わずそれに対して目を丸くし、額をとっさに押さえる。

 

 

「あいちゃっ!」

「アフちゃん、おイタしすぎよ? もう。…嫌いじゃないんだけどね?」

 

 

 私にデコピンをしてきたライスシャワー先輩は笑みを浮かべる。

 

 そして、周りからはそんな私の姿を見てアンタレスの皆からは笑い声が上がっていた。

 

 まあ、私らしいといえば、私らしいんですけど、もう、ルドルフ会長からいつもお叱りを受けるのがご褒美みたいな感じになってますからね。

 

 オカさんはそんな私とルドルフ会長のやり取りを微笑ましく見たりしてますから、それで良いんですかっ! トレーニングトレーナー!

 

 ナリタブライアン先輩からは大絶賛でした、「もっと強くなれ」という言葉をありがたく頂戴しましたね。

 

 

 それから、私は祝勝会を皆さんから上げてもらうことなりました。

 

 私のトレーニングに付き合ってくれたみんなやチームメイト、そして、レースで共に競い合った好敵手達と共に開いた祝勝会はとても充実していて忘れられないものとなりました。

 

 次の目標は年が明けて、来年のクラシック皐月賞。

 

 それが終われば、日本ダービー、そして、いよいよ海外へと勝負をしに行く事になります。

 

 来年から本当の勝負が始まりますね、もっと頑張らないといけないと私は改めてそう思うのでした。


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