朝日杯が終わり、2日後。
無事に説教を受けはしましたがウイニングライブも終わり、私もひと段落つくことができました。
ふむ、私としても姉弟子が勝った朝日杯を勝てて鼻が高いです。
そんなわけで、私は今、炬燵を引っ張り出して部屋でぬくぬくと温まっています。
いやー、炬燵に置いているみかんが美味い!
「アフちゃーん、トレーニングに行くわよ」
そう言って私が炬燵でぬくぬくとしている最中でした。
バシンッ! と勢いよく扉が開いたかと思うと満面の笑みを浮かべているライスシャワー先輩の姿が。
現れたライスシャワー先輩の顔を目を丸くして見つめる私。
そして、炬燵から窓の外を見てみると、ゴォッ! という音と共に吹雪のような雪が降り注いでいる光景が目に入ってきました。
ん? トレーニング? この吹雪の中で?
いやいや、それは流石に冗談でしょう? だって豪雪ですよ? 私、凍死しちゃいます。
しかしながら、視線を再び戻すと何故かライスシャワー先輩は嬉々として目を輝かせています。
「寒い中の坂、鍛えるには持って来いだわ、スタミナもつくし…、私も来年の天皇賞に向けて走らなきゃいけないしね」
「…うん、そうですね」
「だからアフちゃん、行くわよ」
「………」
私はライスシャワー先輩の言葉を聞いた瞬間にまるで亀のように炬燵の中に身体をすっぽりと入れて隠れます。
嫌だー! 寒いの嫌いー! 私は冬眠するんです!
これが炬燵の魔力でしょうか、私のだらしの無い部分が解放されていくような感覚でした。
それから、ライスシャワー先輩と暫しの格闘の後、炬燵から引っ張り出された私は無理矢理ジャージに着替えさせられ、極寒の豪雪のレース場に引きずり出される事となりました。
ビュー、という凄まじい吹雪が吹き荒れている中、私の側頭部を中心に雪が積もっていきます。
そんな中、ライスシャワー先輩は私にあるものを手渡しできました。
「はい、この重しはアフちゃんの分ね? 繋ぐところにはしっかりと毛皮でコーティングしてあるわ」
「…OH…」
手渡されたそれは、囚人などが足につける鉄球の重しでした。
んー、私の勘違いでなければいいのですが、ここは確か日本ですよね?
私はいつからシベリア送りにされてしまったのでしょうか?
木を…木を数えなきゃ…!(使命感)。
しかしながら、このトレーニング、驚くなかれ、去年も姉弟子達とやったとライスシャワー先輩は嬉々として語ってくれます。
うん、極寒など、確かにあの人達には関係ないですもんね?
皆さまは伝説のバイオレットステークスはご存知でしょうか?
今はアレより物凄い豪雪だと思ってください、やばい、前が見えねぇ。
とはいえ、私も出てきた以上は走るしかありません、やだなぁ走りたくないですね、寒いですし。
暑いのは好きなんですが、私は寒いのは大の苦手なんですよね。
ん? 胸にたくさん脂肪ある癖に軟弱な事を言うなですって? やかましいわ!
というわけで、私は重石を引きずりながら懸命に坂を駆け上がります。空気が乾燥しているので息が上がるのもいつもより早い気がしますね。
「はぁ…はぁ…、これはしんどいですね」
「ふぅ…、アフちゃんはまだまだ鍛え方が足りないわね」
「うぐっ…」
顔面に募る雪を払いながらライスシャワー先輩の厳しいお言葉に私はぐうの音も出ない。
確かに、スタミナ不足なところも先日のレースで痛感した。
最後の追い込みで新走法を使いなんとか捲ったものの、来年のレースを考えれば不安が残るような内容でした。
今回のトレーニングはそんな私にはぴったりのトレーニングなのかもしれませんね。
「アフちゃん、とりあえずコンクリートの重しのバンドを腰に付けておくわね」
「…えっ?」
何がとりあえずなのかはわかりませんが、私が物思いにふけっていると、腰にコンクリの重しを付けたバンドをいつのまにかライスシャワー先輩から巻かれていました。
んー、流石はアンタレス、姉弟子と義理母が居なくともこれですか、素晴らしい(白目)。
戸惑いながらもそれを受け入れてしまう私も私なんですけどね。
私は押しに弱いから致し方ないです。ちょろいわけではありません、決して(小声)。
こうして、私は豪雪吹き荒れている中、ライスシャワー先輩と共に坂路をアホみたいな重石を付けて登るトレーニングに励むことになりました。
思いこんだら試練の道を行くがウマ娘のど根性。
炬燵の事など、それからしばらくしてすっかりと忘れてしまいました。
それから、湯気が立ち上るまでトレーニングし尽くした私とライスシャワー先輩はクタクタになりながら寮へと帰宅。
帰ってきた直後、トレーニングトレーナーをしていたオカさんもこれには本気でドン引きしていました。
「…この雪の中でトレーニングは流石にせんだろう、お前達」
「ですよねー」
ですが、これがアンタレスの伝統らしいので致し方ないですね。
私も染まってますので、おかしいが普通になってしまいました。
やばい、禁断症状が…、トレーニング…、トレーニングしなきゃ…身体が震えてきやがるっ!?
ちなみに年明けはこれ付けて富士山に登るとライスシャワー先輩が言っていましたので、私はもう色々と悟っています。
私とライスシャワー先輩の頭部には雪が積もってすんごい事になってました。
皆さん、これが、噂の冷凍ウマ娘ですよ、ちなみにレンチン不可です。悲しいなぁ。
それから、私達は翌日、WDTの中継をチームメンバー全員で見ることにしました。
私、最初、WDTってダブル童◯の略かと思ってたんですけどね、そう言ったら、顔を真っ赤にしたシンボリルドルフ会長からまたお説教を食らってしまいました。
どうやら私の心は汚れきってしまっているらしいです。
まあ、確かに男性のファンに言い値でエロ本売っている場所を教えてあげるのは私くらいなものですからね。
そんな事もあって、私の新しい渾名がファンに広まりつつありました。
その名も魔性の青鹿毛です。
うーん? メジロラモーヌ先輩かな? と私は最初は思っていたんですが、どうやら違うようで、なんでも、童◯殺すウーマンという意味らしいです。
私はどうやら無自覚で童◯を殺しているみたいです、何という事だ。
そんな不名誉な渾名がつけられている私の話はさておき、WDTの話に戻るとしましょう。
今回はシンボリルドルフ会長とナリタブライアン先輩、そして、オグリキャップ先輩の三人に注目が集まるレースとなりました。
とはいえ、スペちゃん先輩やサイレンススズカ先輩など名だたるウマ娘もこのレースに出場しているみたいですし、結果はわかりませんね。
ゲートインが完了し、旗が上がります、そして、それが振り下ろされた途端、ゲートが一気に解放され、一斉にウマ娘がスタートしました。
本来ならば、このWDTにはミホノブルボンの姉弟子も参加するように招待状を送られてきたのですが、休学届をトレセン学園に提出しているので今回は出走を取り消される事になりました。
一方でライスシャワー先輩もまた今回のレースを辞退しています。理由は自分が納得する実績を積めてないということからでした。
二人がこのレースで走るところを私は見たかったですけどね、残念です。
「おい! ラスト直線行くぞ!」
「先頭はスズカちゃんね…」
ナカヤマフェスタ先輩の言葉にライスシャワー先輩は先頭に立っているウマ娘の名前を述べる。
ラストの直線、最後は意地と意地のぶつかり合いだ。
凄まじい速さで追い上げていくウマ娘達、やはり、皆、末脚は恐ろしいほどの才能を持っているウマ娘ばかりである。
そして、今回のWDTの結果ですが、勝ったのは…。
「〜〜〜♪」
なんと、ナリタブライアン先輩でした。
最後の直線で信じられない爆発力を見せつけ、ごぼう抜きし、ルドルフ会長と競合いながらもそのままゴールイン。
私もまだまだ進化し続けているんだぞとばかりにヒーローインタビューではやたら私の名前を挙げてきました。
私の名前3回くらい呼んでましたからね、テレビ越しでもぶっちゃけ恥ずかしかったです。
私のこと好きすぎでしょう、隣に座っているメジロドーベルさんがハイライトのない眼差しで見つめてくる私の身にもなってください。
朝日杯終わってから、ネオちゃんとシンちゃんを始末すると荒ぶっていた彼女を腰を引っ掴んで宥めるの大変だったんですから。
まぁ、そんな感じで、朝日杯を勝った私は慌ただしい毎日を送りながらも楽しく過ごしています。
今月末には表彰式もあるみたいなので、ドレスを着て出席だとか。
それも買いに行かないといけないんですよね。
今年は割と忙しい年末年始となりそうです。
朝日杯を終えて、一応、義理母には報告に行きました。
体調の方はあまりよろしくはなかったようでしたが、それでも私が朝日杯を勝ってきたことを本当に嬉しがってくれました。
「良くやったね、見ていたよ、いい走りじゃないか」
「義理母のおかげですよ…」
「…お前さんの実力さね」
そう言って、義理母は私を撫でて、褒めてくださいました。
具合が悪い中でも、私の身を案じてくれて病室から懸命に声援を送っていたと担当の看護師さんから聞いた時は本当に嬉しかったです。
思わず、涙が出そうになってこっそりと目元を拭ったのはここだけの話ですけどね。
来年こそは、きっと義理母も元気になって戻って来てくれるに違いありません。
私はそう願っています、私の勝ちが少しでも義理母の元気につながってくれたら良いと心の底から思いました。
それと、明日はクリスマスパーティーがありますので楽しみですね。
略してクリパ、こう聞くとクリソツパーマの略にしか聞こえないから不思議です。
ちなみにクリスマスでも関係ないですね、パーティー前でもウチはトレーニングしますから、なんでも重石とプレゼントを大量に載せたサンタのソリをみんなで引っ張って坂を登るらしいです。
走れソリよ〜風のように〜私の身体は〜軋む軋む〜。
変な音が鳴らないことを願います、オカさんが無茶しないように見ていてくれるらしいのでそこだけは安心ですね。
皆さんもクリスマスを楽しくお過ごし下さい、良ければ私と一緒に極寒の中、ソリを引いて過ごしましょう。
応募お待ちしています(不気味な笑み)。