さて、前回、受賞式典のパーティーに呼ばれた私でしたが、なんと今、場違いな場所に居ます。
というのは、前回の話を見てくれた方ならわかると思います。はい、メジロ家の癖ウマ娘に包囲されてしまいました。
ボスケテ…ボスケテ…。
私は笑みを浮かべながらも、尻尾はタランと垂れ下がり冷や汗が止まらねぇじぇ…。
「はぁ…何かと思えば、メジロドーベルではありませんか…」
「マックイーン、久しぶりね」
「それと…、アフさん?」
「ひゃい! マックイーンパイセン!」
「…何故、貴女はいつも私を見ると怖がるのかしら…」
そう言って首を傾げるメジロマックイーンさん。
貴女の胸に手を当てて考えてみてください、私は知っていますよ? 前回のウイニングライブの後、最後の最後に特攻服を恥じらいながら頼みに来た貴女の姿をしっかり見てますので。
隠したヤンキー魂は見せない元ヤンお嬢様…、きっと部屋の本棚には少女漫画でカモフラージュして、裏にはビーバッ◯ハイスクールとかク◯ーズとか特◯の拓とかがビッシリと詰まっているに違いありません。
なお、当の元凶であるゴルシちゃんはニコニコとしながら、私の姿を眺めている模様。
何という事をしてくれたのでしょう! 毎回ですけどね!
「ほら、マックイーンパイセンは来年も天皇賞春連覇ブッ込むって聞いたんですけど…」
「あの…ぶっ込むっていうよりかは…。まぁ確かに私は連覇を狙っていますわ、偉大なメジロ家の名を継ぐ者としては当然ですわね」
鼻高々に私にそう宣言してくるメジロマックイーン先輩。
はい、メジロ家は偉大ですものね、えぇ、よく存じておりますとも、いろんな意味で化け物が生まれる名家ですもんね。
私はいつも絡まれてるからわかるんです。
特に白いやつにはセクハラをよくされてますからね、全く。
私はマックイーン先輩に話を続ける。
「天皇賞と言えば、歴史がG1の中でも、1番長いレースですよね。何せ天皇陛下がご覧になられるレースですし」
「そうですわね、私も優勝して陛下からお言葉を授かった時は感無量でしたわ」
「古くは701年から始まっているウマ娘のレースですけども、その中でもやはり、天皇賞を取るのはウマ娘として誉れですからね」
しかも、それを二連覇しているというところを見ればマックイーン先輩の凄さがわかるというものだ。
天皇賞春は菊花賞よりも距離があり、歴史もある。3200メートルの距離で行われ、足に自慢のあるステイヤーがぶつかり合うレースだ。
来年、この芦毛の名優とライスシャワー先輩が戦う事になると考えただけでもドキドキしてしまう。
そんな中、私と話をしていたマックイーンを見ていたメジロドーベルさんはため息を吐くとこんな話をし始める。
「まぁ、今は表面的にはお嬢様気取ってるみたいだけどさ、貴女、前までは素行がすこぶる悪くてじゃじゃウマ娘で有名だったじゃないの?」
「んな!? ちょ、ちょっと!? メジロドーベル! 何をカミングアウトして…」
「あ、やっぱりそうですよね、すこぶるヤバイ元ヤンウマ娘なのは私も存じてました」
「わー! わー! 何をおっしゃっているんでしょうかねー! わたくしには何のことだかわかりませんわー!」
私とメジロドーベルさんの爆弾発言を取り消させるように大声をわざと上げて遮り始めるマックイーン先輩。
いや、サンデーサイレンスとかいうアメリカのヤバイヤンキーとマブダチなんでしょう?そりゃ知ってますとも。
そして、貴女の列伝を知らないわけがありませんね、特攻服を先日、私のところに貰いに来たの知っていますからね。
悪そうな奴は大体友達ってマックイーン先輩、雰囲気と背中で語ってますもんね、トレーナーにプロレス技掛けますもんね貴女。
私は満面の笑みを浮かべながら、マックイーン先輩の肩をポンと叩く。
「知ってる方は知ってるんじゃないですかね、私はマックイーン先輩がそうだろうと思ってましたから! どんまい!」
「…腹パンしますわよ?」
「ごめんなさい、ボディはダメです、私弱いんです」
笑みを浮かべたマックイーン先輩から拳を鳴らされたまま告げられた私はすかさず頭を下げました。
多分、ゲロッちゃいます、腹筋には自信はありますけどこの人のパンチは人を宙に浮かすぐらい強烈な気がしてなりません。
目が怖いよー怖いよー。
そんな会話を私とメジロマックイーン先輩が繰り広げている最中でした。
頭の上からポヨンと何か柔らかいものが当たってきます。そして、不意を突かれガッチリホールドされました。
あすなろ抱きというやつですね。
「よう、アフ、可愛いドレス着てるな」
「…なーんで後ろから抱きつくんですかね…ナリタブライアン先輩」
「そりゃ、お前さんが私の可愛いヌイグルミだからだろう、な? 何も問題は無いだろう?」
何が、な? なのかはわかりませんが、私を抱きしめているナリタブライアン先輩は上機嫌でそう告げてきました。
そりゃ、居ますよね? だって今年のWDT優勝したウマ娘ですし、シャドーロールの怪物は誰しもが知っている名前ですもの。
やだ、カッコいい、惚れちゃいそう!
と、普通の女性なら今の状況でそうなるでしょうが、真正面からブライアン先輩の全裸を何回も見て、寝床を一緒にしている私からしてみれば屁でもないシチュエーションなわけですね。
ドレス着ているからか、いつもよりは綺麗には見えますけど、中身は変わってないですね。
「ほら、ブライアン、背後から抱きつくなどみっともないぞ?」
「姉貴、せっかくのパーティーだ。たまには羽を伸ばさないとな、それに、アフは私のヌイグルミだぞ?」
「はぁ…お前という奴は…」
「いいぞーもっと言ってやってくださいお姉さん」
私はそう言って、ナリタブライアン先輩からあすなろ抱きされた状態で呆れた様子で告げるビワハヤヒデ先輩を援護する。
怪物姉妹ももちろん、このパーティーに揃い踏みだ。
ビワハヤヒデとナリタブライアン、この姉妹対決はウマ娘ファンなら是非とも見たいと望まれている組み合わせ。
もしかすると、私と姉弟子との対決も見たいと思われている方もいらっしゃるかもしれませんね?
肝心の姉弟子は今、行方をくらませてますけども、表彰式は見届けたかったなと思います。
今年の年度代表ウマ娘に選ばれてましたからね。
しかしながら、ビワハヤヒデ先輩とナリタブライアン先輩、やはり、二人揃うと雰囲気からして違うなとは思いますね。
二人ともお洒落なドレスでコーディネートされていて、とてもお綺麗でした。
シャドーロール付けてる方が私を抱きしめてなければですけども、いろいろ台無しですよ、ほんと。
ビワハヤヒデ先輩は援護する私の顔をジッと暫し見つめると、首を傾げながら話をし始める。
「このちんちくりんが朝日杯を優勝した魔王だとはな、未だに信じがたいが…」
「誰がちんちくりんやねん」
私にかける第一声がそれですか、確かに身長はちっさいですけども!
非常に遺憾である。遺憾って言葉非常に便利ですよね、遺憾と言いつつも特に何もしないのが最近の流行りだと聞きました。
そして、私をあすなろ抱きしているナリタブライアン先輩はそんなビワハヤヒデ先輩にジト目を向けています。
これはイカン、パーティーで私を巡って姉妹喧嘩はやめてくだちい。
「姉貴」
「なんだ?」
「アフはやらないぞ、これは私のだ」
「誰も取らんわ!」
私を隠すようにして告げるナリタブライアン先輩に突っ込みを入れるビワハヤヒデ先輩。
うん、私の扱いがもうね、涙が出ますよ。
ナリタブライアン先輩にぎゅっと抱きしめられている私は最早、何も言えませんでした。ほら見ろよ、メジロ家の皆さんがポカンとしてらっしゃるぞ。
ゴルシちゃんが若干、不機嫌そうなんですけども、この原因作ったんアンタやで?
そんな中、メジロドーベルさんはハイライトのない眼差しでゆっくりと私を抱きしめているナリタブライアン先輩に近寄るとポンと肩を叩いてこう告げ始める。
「ナリタブライアン先輩、ちょっと表出ましょうか? 丁度、話をつけたいと思ってたとこなんですよ」
「ん? 話か? 手短にな? 私は朝日杯を頑張ったアフを愛でるのに忙しいんだ」
「ちょっと待って! 火にガソリンを注がないで! 爆発するからっ!」
私はそう言って、すかさず、ナリタブライアン先輩に突っ込みを入れる。
ナリタブライアン先輩、奴の目を見ろ、あれはヤバい奴の目ですぜ。
ダメです、私は見たことがあるんです、テレビで一回見たことありました、なんか、ナイスなボートで流れていくアニメでしたね、えぇ。
楽しいパーティー会場を仁義なき闘いにしてはなりません(戒め)。
私も良く、シンボリルドルフ生徒会長の着火した怒りの火に液体化したニトログリセリンぶっかけるような事ばかりしてますけど、いい事になった覚えがありませんからね。
「まぁまぁまぁ、私のために争わないでください、せっかくのパーティーなんですから」
「そうだぞ、ブライアン、アフのやつ困ってんじゃないか」
「…!? ヒシアマ姉さーん!」
「のわ!?」
私は柔らかい身体を使い、軟体脱出を試みて、そのまま現れたヒシアマゾン姉さんの元に駆け寄るとそのまま抱きつく。
そして、ヒシアマ姉さんの背後に隠れると彼女を盾にしたままジト目をメジロドーベルさんとナリタブライアン先輩に向けた。
何が悲しくて、私がこんな目に合わなきゃないんだ。私はどんな手を使っても逃げてやるぞ!
そう、ここに今都合よく来たヒシアマ姉さんを利用してでもな(下衆)。
そんな策を私が考えていると、これまたゴルシちゃんとは違った芦毛のウマ娘が大盛りに盛られた料理皿を持って声をかけてきた。
「…んぐっ! …なんだアフじゃないか、何をしてるんだ?」
「お、おい、アフ! なんなんだよ急に!」
「見ての通りです、オグリ先輩、ヒシアマ姉さんを盾にしています」
「ちょっと待てェェ!? お前ェ!」
そう言って、現れたモグモグとご飯を頬張っているオグリキャップ先輩に何事もないように告げる私。
ヒシアマ姉さんはそんな私の発言に思わず声を荒げて突っ込みを入れてくる。
なんとかして生きねば(必死)。
そんな中、ヒシアマ姉さんに迫る三人、メジロドーベルさんとナリタブライアン先輩、それにゴルシちゃんである。
「決めたー、アフは私の相方だ。お前らには渡さねー」
「それは違うな、私のヌイグルミだぞ?」
「なぁに言ってんのかしら? ウチのチームの可愛い後輩なんだけど?」
「待て待て! 私は無関係だぞ!なんで近寄ってくるんだ! アフ! 早くいけ! お前!」
「嫌です」
だんだんとヒシアマ姉さんと私に間合いを詰めてくる三人。
ヒシアマ姉さんは早く離れろと告げるが私は即答で返してやった。
この面倒な状況で逃げろだなんてそんな殺生な…、私はまだ死にたくないんです。
そんな中、ヒシアマ姉さんを盾にしていた私の肩にポンと綺麗な手が置かれる。
あれ? 背中に妙な寒気が…、おかしいですね? 暖房効いているはずなんだけどなぁ…。
私はゆっくりと背後を振り返ります、そこには満面の笑みでワイングラスを片手に目が笑っていないシンボリルドルフ生徒会長のお姿がありました。
あとはもう、お察しの通りです。鋭い眼光の生徒会長に敵うウマ娘は居ませんね、はい。
「お前達、何か問題か?」
「「「いえ、何もありません」」」
息がぴったりとあった返答。
そこから、私達は大人しくみんなで仲良くテーブルを囲んで表彰式まで料理をいただきました。
ルドルフ会長を交えてですけどね。
私ですか? 主犯としてルドルフ会長の側で料理をいただきました。すぐそばにいるテイオーちゃんが唯一の癒しでしたけどね。
「アフチャーン、相変わらず問題児だね」
「今回は私は悪くないのになー、あれー?」
こういう時、日頃の行いが出るんでしょうね。
テイオーちゃんから隣で肩をポンポンと叩かれながら、料理を口に頬張る私は常々そう思うのでした。
それから、しばらくして表彰式がはじまります。
表彰式は滞りなく進み、私は今年の新人賞を受賞することができました。
来年のクラシック、私に対するマークはキツくなるでしょうが、頑張らないといけませんね。
私なりの皆さんへのクリスマスプレゼントです(大嘘)。