遥かな、夢の11Rを見るために   作:パトラッシュS

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新年からの合同強化合宿

 

 

 

 さて、私が走った年始のTTGフルマラソンですが、結果を述べますと今回はトウショウボーイさんのチームが優勝しました。

 

 天馬という名の通りの走り、もちろん、グリーングラス先輩やテンポイント先輩とはゴールギリギリまでの競り合いとなり、どの方が優勝してもおかしくはありませんでした。

 

 私としても健闘したと思いますし、闘志を燃やした先輩方の走りを見て、感動させられました。

 

 しかしながら、今年戦う事になるだろうシンボリクリスエス先輩に手の内を明かしてしまったのは我ながら失敗だったと反省しています。

 

 とはいえ、ライバルランナーであったあの二人相手に手加減する余裕なんてあるわけ無いんですよね。

 

 走った後、ディープインパクトちゃんとオルフェーヴルちゃんは私のもとに来るとそれぞれ、こう言い残していきました。

 

 

『いずれ、貴方を倒しに行くわ、必ずね、だからクラシックは勝ってくださいね楽しみにしてますよ』

『次はぜってー、お前達を倒す! 私の前は絶対走らせねぇ』

 

 

 それぞれ、好き勝手に私にそう言って来ました。

 

 うん、別に負けたわけじゃないんですけどめちゃくちゃ闘争心が凄かったです。

 

 スイーツ食べたかったですけどね、私はこう見えて甘党なので、でも、テンポイント先輩のあの走りを見たらもういいかなとは思ってしまいました。

 

 元気に駆ける彼女の姿が観れただけでも、フルマラソンに出た甲斐があったというものですね。

 

 

 それから、私は今、義理母のお見舞いで病院に来ています。

 

 

「母さん、調子はどうですか…?」

「あぁ、お前さんの顔見て、少し楽になったね」

「それは良かったです」

 

 

 そう言って、義理母に笑みを浮かべる私。

 

 身体の方はひとまず大丈夫そうだ。だが、やはり、元気が無いなと私は感じてしまう。

 

 今年は私のクラシック戦がいよいよ始まる。

 

 私が勝てばきっと義理母も喜んでくれる筈ですから、私も気合が入りますよ。

 

 すると、義理母は何かを思い出したかのように私にこう告げ始める。

 

 

「あ、そういえば、ミホノブルボンがこの間、見舞いに来てくれたよ、元気そうだったぞ」

「!?…姉弟子がですかっ!?」

「あぁ、そうさね、今、アイツは海外遠征中だよ。…ふふっ、今年はBCターフに出るそうだ、海外に戦線を移すために学校に休学届けを出したと言っていたな」

 

 

 そう告げる義理母はミホノブルボンの姉弟子の話をするととても嬉しそうでした。

 

 それを聞いた私も思わず顔が綻んでしまいます。姉弟子は走るのをやめたわけではなかったということがとても嬉しかったんだと思います。

 

 それどころか新たな挑戦をし、道を自らの手で切り開いていこうとしていました。私達に何も告げなかった事はちょっとお説教が必要だと思いますけどね。

 

 義理母の見舞いにもこうして定期的に来ているみたいですし、私が今年、海外に出ることになれば、向こうで姉弟子に会えるかもしれません。

 

 もし、会えたのなら、その時はいっぱい怒って、いっぱい甘えようかと思います。

 

 見舞いを終えた私はパシンっと両頬を叩いて義理母に一礼すると踵を返して、病室の扉に向かいます。

 

 

「義理母」

「なんだい?」

「私も、姉弟子もこれからです。だから、早く治して帰ってきてください」

 

 

 背を向けたまま、義理母にそう告げた私はそのまま病室を後にしました。

 

 心機一転、年も新たに私も頑張らねばと強く思いました。もっとトレーニングを積んで、義理母にも姉弟子にも恥ずかしくないウマ娘に成長しなければ。

 

 私が病室を出ると、そこには、メジロドーベルさんが背中を壁に預けるように寄りかかり私の事を待ってくださっていました。

 

 

「…終わったのアフちゃん? もういいの?」

「はい、もう大丈夫です」

 

 

 私はにこりと笑みを浮かべて、待ってくれていたメジロドーベルさんにそう答える。

 

 新たな覚悟も固まりましたし、私としても今後が非常にモチベーションが上がりっぱなしですね。

 

 早く帰ってトレーニングしたくなってきましたよ。

 

 

「ふふっ、上機嫌ねアフちゃん」

「そりゃそうですよ!義理母も元気そうでしたし、姉弟子も頑張ってたし! 私も頑張らないと!」

 

 

 私はメジロドーベルさんの方を向いて笑顔でそう答える。

 

 ん? 今、私、なんだか詠唱を唱えてしまったような気がするんですけど気のせいですかね?

 

 なんだか妙に静かですし、いやー、まさかね? こんな事で見覚えがあるような展開にはならないでしょう。

 

 

「それじゃ帰って特訓ね!」

「えぇ!」

 

 

 そう告げるメジロドーベルさんの言葉に力強く頷く私。

 

 そうだ。私が今まで積み上げてきたもんは全部無駄じゃなかった。これからも私や姉弟子が立ち止まらないかぎり道は続く。

 

 外では、バンブーメモリー先輩が手を振って待ってくださってました。

 

 私はゆっくりとメジロドーベルさんと病院を出ます。すると…。

 

 

「ぐわっ!」

 

 

 キキーッ! という音と共に現れる黒塗りの車。

 

 そして、バタンとドアが開く音と共に中からマスクを付けたウマ娘数人が現れるとたくさんの人参を投擲してきます、そして、その一つがバンブーメモリー先輩の頭部に直撃。

 

 突然の出来事に私もメジロドーベルさんも目をまん丸くします。

 

 私は咄嗟に身を呈して、飛来してくる人参からメジロドーベルさんを庇い、背中に無数の人参を投げつけられました。

 

 

「アフちゃん?何やってるの!? アフちゃん!」

「ぐっ!うわあぁぁ〜!」

「グハァ!」

「ちょっ!? スカーレット!?」

 

 

 私は咄嗟にノーコンに関わらず、人参を投げ返し、その一つがたまたまマスクを付けたウマ娘の額に直撃させ撃退する事が出来ました。

 

 というか、スカーレット言っちゃってますからね、もう、身元バレバレですからね。

 

 もうここまで来たら振り切るしかない、人参を背中に何個も投げつけられた私はわざとらしくこう話し始める。

 

 

「はぁはぁはぁ……。なんですか…、結構当たるじゃないですか…ふっ…」

「あ…アフちゃん!」

「…なんて声出してるんですか…、ドーベルさん…」

「だって!だって! 人参がこんなに…」

 

 

 このメジロドーベルさん、察してくれたのか、まさかの私達の茶番にノリノリである。

 

 そして、流れてくる謎のBGM、病院から出てくるときになんとなくデジャヴ的な何かを感じたんですけども、まさか、こんな茶番を引き起こしてしまうとは。

 

 背中に無数の人参が投げつけられた私はわざとらしくフラフラとその場から立ち上がるとメジロドーベルさんにこう告げる。

 

 

「私はチームアンタレスのマスコット、アフトクラトラスですよ。こんくれぇなんてこたぁねぇです…」

「そんな…私なんかのために!」

「先輩を守るのは私の仕事ですから…!」

 

 

 私はそう告げる笑みを浮かべ、メジロドーベルさんに答える。

 

 今思えば、私はいろんな茶番劇をしてきました。文化祭だったり、レースでのウイニングライブではっちゃけたり。

 

 なので、このくらいなんてことはないのです。最早、マスコットならではの宿命なのかもしれません。

 

 嘘です。私、割とノリノリで全部やってました。

 

 こんなことやってばかりだから癖ウマ娘なんて言われるんでしょうけどね。

 

 

「良いから行きますよ!…坂路が待ってるんです…それに…」

 

 

 姉弟子、やっと分かったんです。私には(ネタウマ娘として)たどりつく場所なんていらないんですね。

 

 ただ(右斜め上に)進み続けるだけでいい。(ネタに振り切って)止まんないかぎり、(私のマスコットとしての)道は続く。

 

 私はフラフラとした足取りで歩き始めます。背中に無数の人参を受けたせいで致命傷になってしまってな(嘘)。あと、人参って投げつけられると微妙に痛いです。

 

 私は思わず、この間、シンボリルドルフ生徒会長から呼び出されて正座させられたことを薄っすらと思い出します。

 

 

『謝ってもゆるさんぞ』

『えぇ、わかってます』

『少しは反省しろ』

 

 

 反省という二文字が全くない私に呆れたように首を振るルドルフ会長。

 

 仕方ありません、それが、私なんですよ、病院の目の前でまたアホなことしてるって事でこれはまた呼び出されそうな気はしてます。

 

 そして、しばらく歩き終えた私は心の叫びをあげました。

 

 

「私は止まんないですから! 貴女達が止まん無いかぎり、その先に私はいますよ!」

 

 

 全てやりきった私は病院の前でわざとらしくそう告げるとパタリと倒れます。

 

 希望の花は病院の前にも咲くんですね、はい。

 

 パタリと倒れた私は人差し指を真っ直ぐに伸ばして静かに皆さんにこう告げました。

 

 

「だからよ、止まるんじゃないですよ…」

 

 

 私のこの行動は多分、いろんな意味で語り継がれそうな気がします。

 

 G1ウマ娘が何かアホな茶番劇を病院前でやっているという意味でですけども。ついに、この私も死に芸を取得してしまいましたか、レパートリーは増える一方です。

 

 その後、地面に伏している私の元に襲撃してきた三人のマスクを付けたヒットマンがやってきます。

 

 

「よし! スカーレット! ウオッカ! やっておしまい!」

「「アイアイサー!」」

「アフちゃんが攫われたっ!」

 

 

 そして、病院から出てきた私は茶番劇を経てそのまま謎の三人衆に拉致られてしまいました。

 

 メジロドーベルさんもノリノリでそれを見送っているあたり、多分、彼女達の正体に気づいてるんでしょうけどね。

 

 がっつり名前言ってますもんね、ウオッカ、スカーレットって言っちゃってますもんね。

 

 車の運転はもちろん、スピカのトレーナーさんです。

 

 スピカのトレーナーさんは呆れたように頭を抱えて左右に首を振りながらスピカの三人にこう告げ始める。

 

 

「おい、ゴルシ、お前さぁ、あの茶番って必要あったか? 普通に乗せればよかっただろう」

「コイツなら絶対茶番に乗ってくるって思ってた」

「なんだその妙な信頼は…」

 

 

 またまた拉致った私の頭をポンポンと撫でながらドヤ顔で告げるゴールドシップに呆れたようにため息を吐くスピカのトレーナー。

 

 実はこれについては前々から話は上がってまして、スピカの合宿に私がついて行くという話ですね。今回、私はスピカの合宿に同伴してクラシック戦に向けた熱血トレーニングを積む予定だったのです。

 

 ですので、わざとらしくあんな茶番をしなくとも、普通に連れて行ってもらえばなんの問題もなかったわけですね、はい。

 

 黒塗りの車に関しては完全なレンタカーで、トレセン学園からお借りしたものらしく、後で返しに行くみたいです。

 

 そんなこんなで、トレセン学園に再び帰ってきた私はチームスピカの皆さんと合流し、これから合宿を行う羽目になりました。

 

 スピカのトレーナーさんと一緒にオカさんも同伴してくださるそうなので安心ですね。

 

 私はクラシックのG1をもちろん、勝ち取りたい!ので、この合宿はバリバリのスパルタトレーニングをするつもりです。

 

 ギリギリの生き様を皆さまの目に叩きつけてやりますよ。

 

 

「というわけで、皆さんこのコンダラを引き引きして合宿所を目指しましょう!」

「うそでしょ…」

 

 

 私はニコニコ笑顔で、そして、スズカさんは信じられないといったご様子でそのコンダラを見つつ言葉を発します。

 

 何を仰いますか、私は嘘なんかつきませんよ! ネタムーブはたくさんしますけども!

 

 ジョーク的なしょうもない嘘なんかはたまについたりはしますけどねHAHAHA!

 

 さて、本気でコンダラを引いて合宿所を目指そうとする私。

 

 そんな私を見てドン引きするスズカさんですが、もちろん有志も居ます。

 

 

「アフちゃん! 私もコンダラ引くよ!」

「スペちゃん!?」

「ちょっ!? スペ先輩! 正気ですか!」

「私、お母ちゃんと一緒に昔引いたことあるんだ! 足腰鍛えられて良いトレーニングになるんだよね!」

 

 

 私と共にコンダラを引きはじめるスペ先輩に突っ込みを入れるスズカさんとスカーレットちゃん達。

 

 スペ先輩はやっぱり素直で可愛いなぁ、よくわかっていらっしゃる。

 

 そして、努力家なんですよね、私ほどではありませんけど、スペ先輩は多分、アンタレスに来て地獄のトレーニングをしても生き残れそうな才能を持っていらっしゃいます。

 

 他の皆さんはやる気なさそうですけど、まあ、見ててください、私の腕の見せ所です。

 

 

「ふーん、皆さんやらないんですねー、そうですかー、このままだとテイオーちゃんはルドルフ会長にいつまでも勝てませんね」

「んなっ…!」

「スズカさんもいつまでもそんなんじゃまた足やっちゃうんじゃ無いんですかー? 怪我しちゃいますよ? あと胸が育ちません」

「…は?」

「後輩二人に関しては意外と闘争心も大したことないんですねぇ、強いて言うなら良い所は触りごたえの良さそうな胸と尻だけですか」

「なにぃ!?」

「ちょっとぉ!聞き捨てならないわよ!」

 

 

 私の煽りにカチンと来た彼女達は目をギラつかせて言い返してきます。

 

 ふふ、煽りなら私におまかせあれ! 伊達にルドルフ会長から説教ばかり食らっていたわけではありませんからね。

 

 しかしながら、スズカさんの反応がマジ切れっぽくてちょっとちびりそうになりました。胸のことに触れてしまったからでしょうかね。

 

 さて、問題は高飛車そうなマックイーンさんとゴルシちゃんをどうやる気にさせるかですけど…。

 

 

「え? メジロ家ってコンダラ引かないんですか? ほぇー、名家って言っても大したこと無いんですね! 近いうちに没落しそうだ!

「あぁ? 何ですって?」

「マックイーンさん素が出てます、素が…」

「良いですわよ、そこまで言うなら乗ってあげますわ! このポンコツ娘ッ!」

 

 

 意外とチョロかったです。うん、私と同じくチョロそうだなと思ってましたけど、すぐにマックイーンさんは乗ってきました。

 

 ぶっちゃけすぎたのかちょっと素で切れてるような気もしますけど気のせいですね。

 

 私、合宿所についたらスズカさんとマックイーンさんに締められそうな気がしてきました。

 

 続いてゴルシちゃんをどう釣るかですけども。

 

 

「ゴルシちゃん、コンダラ引いて先に私よりゴールできたら、私を一日中好きにして良いですよ」

「よし乗った!」

 

 

 こう言ったら秒で乗ってきてくれました。

 

 おい、ちょっと待て、なんでこう言った途端に真面目な顔でコンダラを引く事になんの躊躇もなくなるんですかね?

 

 自分で言っといてなんですが、背中に悪寒が走ります。

 

 負けたらどんな目に遭わされるのか…、自分で自分を追い込んでいくスタイル。

 

 なんだかゾクゾクしちゃいますよ、あ、マゾではないです(必死)。あくまでもトレーニング的な意味ですけどね!

 

 そして、軽トラに乗っているスピカのトレーナーさんは笑顔でサムズアップすると私達にこう告げてくる。

 

 

「それじゃ俺は先に行ってるからな! サボるなよー!」

「「「上等じゃー! 」」」

 

 

 そうして、合宿開幕と同時に私達は各自、重いコンダラを引いて合宿所を目指す事になりました。

 

 チームスピカとの合同合宿、どれだけきついトレーニングができるのか楽しみですね!

 

 私がしごかれてきた遠山式の真髄をこの合宿で出して、役に立てればなと思います。

 

 何人か、死に体になりそう?

 

 きっと気のせいです。慣れればなんとでもなりますから、えぇ、地獄のフルメタルジャケットはこれからですよ!


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