遥かな、夢の11Rを見るために   作:パトラッシュS

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頂上の光景

 

 

 皆さん、こんにちはアフトクラトラスです。

 

 スピカの皆さんとの合宿は順調に進み、私としても身になることや勉強になることばかりです。

 

 坂路を走り、筋力トレーニングをし、ただひたすらにまだ見ぬ強敵とのレースを想定しながら鍛える事だけに専念できるとはなんと恵まれた環境でしょうか。

 

 お風呂もありますしね、私としてはもう言うこと無しです。

 

 スピカの皆さんはどことなく疲れてきているみたいですけどね。

 

 私はアンタレス式がデフォルトなのでむしろ楽な方だと感じるくらいですけど、まあ、なので個人的にこっそりトレーニングしていたりしています。

 

 見つかったら怒られちゃうんで。

 

 さて、話を戻すとしましょう、そんなこんなで私はスピカの皆さんとの合宿を乗り越え、そして、最終日を迎えることとなりました。

 

 え? トレーニングシーンはどうしたですって?

 

 やだなー、ただの地獄絵図ですよ? 私が張り切るばかりにですけども。

 

 でも楽しいこともたくさんありましたし、割と充実した合宿だったと思います。

 

 まあ、連日添い寝したウオッカちゃんやテイオーちゃん、そして、ダスカちゃんから抱き枕にされた挙句、朝起きたら私の胸が鷲掴みにされていたのはびっくりしましたけども。

 

 朝起きたら背後から鷲掴みですもんね、もっとあすなろ抱きとかあっただろうと、私は言いたかったです。

 

 

「…もう無理…足が動かない…」

「やっと…やっと終わる…」

 

 

 最終日に来て死に体になっているスペ先輩やダスカちゃん達。

 

 まあ、死線は何回も繰り返してればそのうち慣れますよ、私が言うんだから間違いないです。

 

 私がスピカのトレーナーさんに遠山式の中でも選りすぐりのドきついトレーニングを紹介したんですけど、何故かその中でも比較的に軽いトレーニングを選ばれたんですよね今回。

 

 それでこれです、うーん、道のりは長いですねー。

 

 スピカのトレーナーさんが私が紹介したトレーニングメニューを見て顔を引きつらせていたのには何とも言えない気持ちになりました。

 

 

「比較的にトレーニング的には楽じゃなかったですか? 今回」

「…貴女、本気で言ってますの?」

「え? そうですが?」

「アンタレスやっぱり頭おかしいわ」

 

 

 無情なまでのウオッカちゃんからの一言。

 

 しかしながら、悲しいかな否定できないんですよね、割と自覚があるので。

 

 私としても無理にアンタレス式の中でも選りすぐりのきついトレーニングをしないで、アンタレスの中でも相当な軽めのトレーニングにしたことに関しては何も言うつもりはありませんしね。

 

 私の押し付けで才能あるスピカの方に潰れてもらっては寝覚めが悪いですから。

 

 人それぞれ、合うトレーニング法がそれぞれあると思うんですよ、私。

 

 なので、それで筋肉痛になっている皆様の気持ちはよくわかります。頭おかしいですもんね、私は幼少期から泣きながらやりましたから。

 

 

「…アフは元気だよなぁ…」

「そうですかね?」

「…アフちゃん先輩、今回は本当に化け物だと思いました」

「失敬な! 朝起きたら幸せそうに私の胸を揉んでたくせに!」

 

 

 ダスカちゃんの一言にそう言いながらプンスカと怒る私。

 

 あんなにしておいてまあ失礼な! ちなみに私は寝るときには下着をつけない派です。後はわかりますね?

 

 んな事はとりあえず置いといて、まあ、なんやかんやでスピカの皆さんにとってはかなり地獄だった合宿の最終日です。

 

 最終日のトレーニングメニューはこちらになります。

 

 

「さあ、最後ですよ! 皆さん! 地獄の軽トラック引き、ワクワク裏山道ハイキングですね」

「……軽トラック…!?」

「無理無理!?」

 

 

 軽トラックと聞いた途端にこれである。

 

 えー、でもそんなにはキツくないとは思うんですけどね、私なんてギプスに重しは手足に付けてますし。

 

 皆さんはちなみに2人一組で坂を登る予定なんですけど、私は一人で軽トラを引いて坂を駆け上がる予定です。

 

 これで何が鍛えられるかというと、まず、強靭な足腰が付きます、次に末脚の爆発力、そして、何より根性です。

 

 ラグビーやアメフト選手もビックリ、まあ、軽トラくらいならウマ娘なら引くなんて楽勝でしょう(暴論)。

 

 

「…まあ、そういうことだ、最後だお前ら! 気合い入れてけ!」

「トレーナーさん…」

「いや、違うんだスペ…、俺も頑張ってこいつに言い聞かせたんだ…、それで100歩譲ってこれだ察してくれ」

「これ以上の何かがあったんですか!? それ!」

 

 

 そう言いながら、私を指し示すトレーナーさんの言葉に唖然とするスペ先輩。

 

 そりゃまあ、たくさんありますとも! えぇ、だって軽トラックを二人で引いて山道走って裏山の頂上目指すだけですもの、物足りないと思ってしまいます。

 

 私は一人で軽トラを引くんですけどね。

 

 そして、軽トラックがずらりと並んだ場所にテクテクと歩いていく私は荒縄の結び方を確認すると皆さんの方に振り返ります。

 

 満面のサムズアップ、ただ、みんな相変わらず顔は死んでました。

 

 そこで、私はここに来てあるものを皆さんに渡していきます。

 

 

「はい! これを飲めばきっとやり遂げられます!」

「…これって…」

「炭酸抜きニンジンコーラです」

 

 

 ほう、たいしたものですね(自分で褒める)。

 

 炭酸を抜いたコーラはエネルギーの効率がきわめて高いらしくレース直前に愛飲するマラソンランナーもいるくらいです。

 

 生憎ですが、特大タッパのニンジンおじやとバナナはありませんでしたけどね。

 

 

「これは一体…」

「漫画本見て参考にしました」

 

 

 尻尾をフリフリと左右に揺らしながら上機嫌に答える私。

 

 皆に差し入れをいれてあげる心使い、プライスレスです。これで皆さんも頑張れることでしょう!

 

 よーし! 気合い入ってきたー!!

 

 もっと熱くなれよ! どうして諦めるんだよそこで! もっと魂燃やしていけよ!

 

 一番になるって言っただろ? あの山のように日本一になるって言っただろ!お前昔を思い出せよ! 今日からお前は富士山だ!

 

 はい、富士山は登りません。

 

 でも、気合いとど根性でなんとかなります。さあ! 皆さん! 頑張って軽トラック引いて山を登りましょう!

 

 というわけで、地獄のワクワクハイキングが始まりました。

 

 皆さんはヒィヒィ言いながら軽トラックを引き引きしています。コンダラ引いた時よりも軽いから大丈夫大丈夫。

 

 

「はひぃ…死ぬ…死んじゃう…」

「本気になれば自分が変わる!! 本気になれば全てが変わる!! さあ皆さん!!本気になって!! 頑張っていきましょう!!!」

「なんかアフちゃん暑苦しくなってない?」

 

 

 そこに壁があるならぶち壊して進むかよじ登るしかないのです。

 

 そうして、成長していくものなんですね。

 

 ほら、身体が軽くなって来たでしょう? もう何も怖くない。

 

 軽くなったついでに首から上がグッバイしたらダメです、それはやりすぎです。というわけで限界を超えましょう。

 

 うまくいけばなんか気合い入れた衝撃で、オーラを身に纏って自分の髪が金髪だったり青になったりするようになるかもしれませんよ?

 

 ほら、オラ、ワクワクして来たでしょう?

 

 きっと、仲間である緑の人から“お前がいるから地球が危ないんだ”と言われた主人公みたいになれますよ。

 

 まあ、そんなことはないんですけども。

 

 

「歌を歌えば意外と苦しくないかもしれませんよ? とりあえず走れマキ◯オーのアナウンサーの台詞だけめちゃくちゃ早口で歌いましょうか」

「…はあ…はあ…それは…無理…」

「死ねと言ってるのかしら?」

 

 

 私の提案は即座に却下されました。マックイーン先輩が怖い笑みを浮かべてこちらを睨んで来なさる。

 

 べ、別に怖くねーし!(ガクブル)。

 

 さて、ぶっちぎりでびびっていますけど、気を取り直して、軽トラックを引いたまま坂をひたすら登る私達。

 

 トレーナーさんは心配そうにオカさんと車でゆっくりと追尾しながら苦笑いを浮かべていた。

 

 これは、スピカ史上、もっとも地獄と言える合宿となった。その原因は言わずもがな、平然と楽しそうに軽トラックを一人で引いて坂を登っている蒼い暴君のせいである。

 

 つまりは私のせいですね、そういったことを含めてトレーナーさんとしても気が気でないんでしょうけど。

 

 大丈夫、身体のあちこちの筋肉がぶっ壊れて全身が翌日プルプルするだけですから、私なんて何回も死に体になってますからね。

 

 

「遠山式はやっぱりやばいですねぇ…オカさん」

「そうだなぁ」

 

 

 もう、オカさんも私に呆れた様子で左右に首を振る始末、トレセン学園の誇る名トレーニングトレーナーを呆れさせるのって多分、姉弟子と私とライスシャワー先輩達くらいじゃないですかね?

 

 それから、山を登ること数時間あまり。

 

 山頂にようやく到達することができました。その時には皆さんはもうボロボロでしたが、なんとかやりきることができて感無量です。

 

 

「ハァ…ハァ…つ、着いた…」

「きっつぅ…もう無理…歩けねぇ…」

 

 

 山頂の駐車場付近に寝転がるダスカちゃんとウオッカちゃんの二人。

 

 軽トラックに結んである荒縄を外し、他の皆さんも地べたに寝転がります。

 

 よく頑張りました。たいしたものですね、死にかけてますけども。

 

 私は汗を拭うと二人の肩をぐいっと支えて立たせてあげます。

 

 

「さ、山頂までもうひと頑張りです! 皆さんも早く!」

 

 

 そう言いながら、私は皆さんに立ち上がるように促します。

 

 皆さんはボロボロの身体をゆっくりと起こして私の後についてきてくれます。

 

 そりゃもう疲れてますから、ブーブーとゴルシちゃんやマックイーンさんから文句が聞こえてきますけどスルーです。

 

 気持ちはわかりますけどね? ゆっくりさせろやってことなんでしょうけれど。

 

 私は皆さんに見せたいものがありました。そう、それは、ここまで合宿に耐え抜いてきた皆さんだからこそ見せたかった光景です。

 

 山を少しばかり登れば、すぐに山頂が見えてきます。

 

 

「さあ、これが皆さんが頑張った成果です!」

 

 

 振り返り、山頂に到達した私は肩を支えていた二人から離れると満面の笑みを浮かべながら後からついてきた皆さんに告げます。

 

 勢いよく風が吹き抜けて、髪を揺らす中、皆さんはゆっくりとその景色を見るため歩みを進めました。

 

 そして…。

 

 

「おぉー!?」

「すっごーい!」

 

 

 そこに広がっていたのは、街を一望できる開けた光景でした。

 

 頂上から見る光景、私が皆さんに見てもらいたかったのはこの素晴らしく広がる街並みの光景です。

 

 もう、日が暮れ始め、周りが暗くなりつつなる中で見えてくる夜景。

 

 頑張った皆さんには是非、この光景を目に焼き付けていてほしかった。バカは高いところが好き? それは私が馬鹿という事ですか! 確かにウマ娘ですけどね!

 

 ウマ娘は厳しい勝負の世界でライバル達と常にしのぎを削り合わなければなりません。

 

 時には挫折し、走ることも夢を見ることも諦めてしまいそうになるかもしれません。

 

 私もきっとこれから先、そんなことに見舞われてしまうでしょう。

 

 だからこそ、頂上に登る、やりきる事の達成感をより皆さんに感じてほしかった。

 

 坂を登っている際、ついつい頂上に登ってしまいたまたま見つけた場所なんですけどね。

 

 こうして、皆さんと合宿の最終日にトレーニングをやり終えた私は共に夜景を満喫するのでした。

 

 

「ちなみにあの軽トラ、お前らどうすんの?」

「「「あっ…」」」

 

 

 そして、夜景を満喫している私達に水を差すスピカトレーナーからの一言。

 

 帰るまでが遠足です。

 

 はい、もちろん、軽トラは持って帰りましたよ、流石に帰りはオカさんとトレーナーさんで乗ってですけども。

 

 さすがにあんだけボロボロの皆さんに押して帰れというのはあまりに酷だと思ったんでね。

 

 嘘です。私は押して帰ると言ったら怒られました。

 

 何事もほどほどにですね、皆さんも過度なトレーニングは身体に悪いので気をつけてください。

 

 あれ? ブーメラン突き刺さってる?

 

 こうして、私のスピカでの合宿は無事に終了を迎えることとなりました。

 

 次はいよいよ、クラシック前哨戦、弥生賞が待ち構えています。

 

 強力なライバル達を私は退ける事ができるのかまだ不安ではありますが、全力を尽すだけですね。


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