遥かな、夢の11Rを見るために   作:パトラッシュS
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アンタレス

 

 

 

 トレセン学園のウマ娘であれば誰しもが何かしらの形で所属する事になるチームを選ばなければならない。

 

 さて、デビュー戦を終え、リギルの先輩達と合同トレーニングをこなした私はいよいよ、そのチーム選びをせざるを得ない状況になっていた。

 

 

「うーん…、どうしようかなぁ…」

 

 

 私は悩ましく、チーム名が書かれた本を広げて首を傾げている真っ最中である。

 

 正直な話、オハナさんは割と好きだったので当初はリギルええんちゃう? と思っていたんだが、ミホノブルボン先輩からリギルに入って楽ができると思うなよ、と念を押されたので取りやめる事になった。

 

 いや、リギルも相当なトレーニングがあるみたいなので決して楽ではないのだが、私的にもリギルで鍛えられたウマ娘を負かしてやりたいという思いもあったのでやめておく事にした。

 

 強いライバルが育ちやすい環境をわざわざ残してあげたのである。

 

 さあ、リギルで鍛えられて私の前に来るがよいと完全に上から目線ですね、ぶん殴られたり腹パンされても文句言えないぞ私。

 

 そんな、チーム選びで悩んでいる最中、私に最初に声をかけてくれたのはライスシャワー先輩だった。

 

 

「アフちゃん、まだチーム選び悩んでるの? …私で良ければ相談に乗るよ?」

「ライスシャワー先輩…」

 

 

 天使のような声で心配そうに顔を覗かせてくるライスシャワー先輩の顔に思わずときめいてしまった。

 

 ライスシャワー先輩を抱きしめたい衝動に駆られるがダメだぞ私! 先輩なんだから!

 

 小さな身体とは裏腹にトレーニングの鬼だとはこの姿を見て誰も思うまいな、私がライスシャワー先輩のトレーナーなら保護愛が多分半端なくなると思う。

 

 その後、いろいろと悩んだ結果、私は所属するチームを決めた。

 

 さて、皆の衆! 私が所属する事になったチームについて早速話したいと思う!

 

 チームアンタレス。

 

 これが、私の入ることになったチームである。

 

 ライスシャワー先輩と一緒のチームだ。

 

 チームベガっていうのもあったのだが、構成チームみたらホクトベガ先輩にベガ先輩、アドマイヤベガ先輩と名前にまでベガ入っとるやないか! と突っ込みを入れざる得なかった。

 

 アフトクラトラスベガに改名せざる得ないので語呂の悪さから取りやめる事にした。

 

 ベガ先輩もホクトベガ先輩も個人的には大好きなウマ娘なんだけども。

 

 それから、入るチームにした理由についてはライスシャワー先輩が私に誘いをかけてくれたからだ。

 

 良ければ、一緒のチームで走らないか? と。

 

 大好きな先輩の元で共に走れるならこれほど嬉しい事はない。切磋琢磨し、応援したいと思う先輩が側に居てくれるのは心強いことこの上ない。

 

 と思うじゃん? 普通はさ。

 

 しかしながら蓋を開けてみれば…。

 

 

「ライスシャワー、お帰りなさい」

「ズゴー」

 

 

 なんと、ミホノブルボン先輩も同じチームでしたというオチでした。

 

 いや、もう宿舎と変わらんやないかい! 何のためのチーム決めじゃコラァ!

 

 と、私は見事なヘッドスライディングを部室を開けて鎮座しているミホノブルボン先輩の前で披露しつつ、内心で呟いていた。

 

 別にいいんだけどね、今更だし? トレーニング量なんて減るわけじゃ無いし、今まで通りだし?

 

 やべ、涙が出てきそうです。誰か私を慰めてください、今ならコロッといきますよコロッと。

 

 というわけで、私は宿舎チームこと、チームアンタレスに入ることになりました。もう、最初から入るチーム決まってたようなもんだけどね、ほんとに。

 

 そして、幸いなことにチームアンタレスは私達だけではなく、それなりに名があるウマ娘も所属しているチームだ。

 

 チームリギル、チームスピカはもちろん、トレセン学園では有名ではあるが、このアンタレスも負けてはいない、と私は少なくともそう思う。

 

 

「さあ、半か丁か! どっちだ!」

「…そうだねぇ、どう思う? バンブーメモリー、私的には理論的に考えて、丁だと思うんだが…」

「うっす! タキオン先輩! こんなの気合いっすよ! 私は半だ! 半!」

 

 

 そう言って、ニンジン賭博を部室内でしている部員達の錚々たるメンバーに私は度肝を抜かされた。

 

 まず、驚いたのは半か丁かと部員に問いかけているニット帽を被ったハードボイルドなウマ娘、ナカヤマフェスタ先輩。

 

 G1レースは宝塚記念の1勝しかあげていないものの、なんと、このナカヤマフェスタ先輩はあろうことか世界最高峰のレースである凱旋門賞に出走し、2位という恐ろしい結果を刻んでいる。

 

 そう、対凱旋門賞専用ウマ娘、それが、このナカヤマフェスタ先輩なのである。

 

 そして、チームアンタレスのマイル戦線に目を向ければ、なんと、ハチマキに気合が入っている竹刀を常に携帯した体育会系ウマ娘、バンブーメモリー先輩がいる。

 

 バンブーメモリー先輩といえば、安田記念、スプリンターズステークス、以前はG2だった高松宮杯を制した名短距離ウマ娘だ。

 

 それに、この学者じみた格好をした少女は何よりやばい。

 

 

 このウマ娘はたった4度の戦いで神話になった。

 

 異次元から現れて、あらゆるウマ娘達を抜き去る超高速の粒子、そのウマ娘の名は…。

 

 この私の前に立っているウマ娘、アグネスタキオン先輩だ。

 

 とはいえ、実際は4回しかレース走ってないんじゃないかな…。それで全勝記録がついて無敗という。ちなみにWDTではシンボリルドルフ会長に負けてた筈。

 

 あれは面子が凄すぎてもうね…、いずれ、私もあそこに立てれたら良いんだけれど…、というよりか、それが私がこの学園に来て見てみたい景色がきっとそこにあると思う。

 

 しかし、アグネスタキオン先輩がまさかこんなキャラだったとはちょっと度肝を抜かされた。

 

 ギャンブルに理論を持ち出してくるあたり、ちょっと変わってはいるが、相当な実力の持ち主である。

 

 

「あとは、学級委員をやっているサクラバクシンオーがこのアンタレスのメンバーだよ」

「意外と多いですね…このチーム」

「スプリント、マイル、クラシック、中距離、長距離。あらゆる戦線で活躍できるウマ娘を集めたのがこのアンタレスです」

「…ステイヤーの担当は本来、私なのだけれど、ミホノブルボンちゃんと私は今年はクラシックを戦わなきゃいけないから…」

 

 

 そう言って、ライスシャワー先輩はニコリと私に笑みを浮かべながらそう告げる。

 

 なるほどと、私は錚々たるチームの面子に顔を引きつらせるしかなかった。

 

 これは私の予想だが、マイル戦線はリギルのタイキシャトル先輩が居るからバンブーメモリー先輩が勝ったり負けたりはするとしてもいい勝負ができるだろうし、スプリントならまず、間違いなくサクラバクシンオー先輩の方がタイキシャトル先輩よりも上手ではないかと思っている。

 

 しかし、あくまでも、モーリス、フランケル、ロードカナロア、ニホンピロウィナー、ニッポーテイオー、ジャスタウェイ、デュランダル、ダイワメジャー、ノースフライト等のウマ娘達を除いた時の話である。

 

 これらが、もし学園のどこかにいるならば、間違いなく今後のマイル戦線、スプリント戦線は荒れる事が予想される。

 

 その中でもチームアンタレスにその方面のスペシャリスト達がいることは心強い事この上ない。

 

 私も来週にはOP戦があり、その次は重賞戦に挑む事になる。

 

 それまでに彼女達から学べることは多いはずだ、特に朝日杯に関しては芝1600m、これは距離的にもマイルだ。

 

 もしかすると、この朝日杯で1600mを主戦とするマイルのスペシャリストが出てくるかもしれない。

 

 この状況を冷静に考えた時に、マイルの専門家がチーム内にいればその対策を打ちやすいのだ。

 

 ナカヤマフェスタ先輩はサイコロを入れていた小さな籠をゆっくりと外す。

 

 

「5と3の丁!」

「かぁー! 負けたぁー!」

「ならば、私の勝ちだね、二分の一の確率を考えれば次は丁が来ることは予想できていたよ」

 

 

 そう言って、ニンジン賭博で負けて悔しがるバンブーメモリー先輩に自信有り気に告げるアグネスタキオン先輩。

 

 いやいや、半か丁かなんて二分の一なんだから、そりゃたまたまですよと私は突っ込みを入れたくなった。というか、ニンジン賭博なんて部室でしないでください。

 

 さて、その後、私の存在にようやく気がついた三人は珍しそうな眼差しを向けてぞろぞろとこちらにやって来た。

 

 

「おー! お前がミホノブルボンが言ってた期待の新人かぁ、私はナカヤマフェスタ、よろしく」

「また興味深い娘が入ってきたもんだね、良いモルモットになりそうだ…」

「ういーす! ちっこいなぁ! あれ? ライスちゃんとおんなじくらいじゃない? 身長!」

 

 

 そう言って、ワシワシと私の頭を乱暴に撫でてくるバンブーメモリー先輩に嬉しそうに迎えてくれる二人。

 

 うるせぇ! 身長の事は言うのでない! こちとらバクバクご飯食べても伸びないんじゃ!

 

 代わりに最近、胸のあたりがおっきくなってきてる気がする。違う、おっきくなるのはそっちではないのだ。

 

 私はワシワシと撫でてくるバンブーメモリー先輩にブスーッと不機嫌そうな表情を浮かべてジト目を向ける。

 

 

「ヤメロォ! 私だって身長欲しいんですよ! 伸びねーんですよ! ね! ライス先輩! ねっ!」

「いや、そこで私に振られても…」

「ちくしょう!」

 

 

 まさか、ウマ娘になって体格で涙を流す事になるとは思わなんだ。

 

 胸は要らないので、誰か差し上げますので代わりに身長をください、お願いします。こんなの胸差勝利の時しか役に立たないぞ。

 

 というわけで、私はひとまず同じチームのメンバー達に自己紹介を終え、チームの方々はそんな私を暖かく迎い入れてくれた。

 

 それから、しばらくしてお昼。

 

 私は食堂に向かうため、トレセン学園の廊下をテクテクと歩いていた。

 

 最近、食事にプロテインつけとけとミホノブルボン先輩から言われているので、それを脇に抱えながらだが、ちなみにニンジン味である。

 

 その道中、私はあるウマ娘とすれ違った。

 

 

「およっ…?」

「……………」

 

 

 そう、すれ違ってしまったのである。

 

 すれ違ったウマ娘は私個人的には、こいつはヤベェ、目を合わせたらなんか色んな意味でやられそうと思っているそんなウマ娘である。

 

 無視無視、巻き込まれたらなんかめんどくさそうだし、あやつはくせ者すぎる。

 

 そう思って、すれ違った途端にちょっと足のスピードを上げようとしたその時だった。

 

 

「あー! もしかして! お前! 噂の新人なんじゃねーかぁ! おーす! 私はゴールドシップって言うんだけどさぁ!」

 

 

 私の努力も虚しく、肩を馴れ馴れしく組まれて悲しくも捕まってしまった。なんでだよ。

 

 いや、このタイミングで捕まるとか、しかもよりによってゴールドシップである。このウマ娘の事はよく知っている、色んな意味で有名なウマ娘であり、問題児である。

 

 芦毛の綺麗な髪に、一見美人そうに見えるが侮るなかれ、そう思ったら大怪我じゃ済まない。このウマ娘の気性の荒さは折り紙つきである、気分屋でやる気がなければレースも凡走し、かなり、扱いが難しいウマ娘なのだ。

 

 具体的に何がやばいかと言われると、そう、このウマ娘は120億円を一瞬にして紙屑と化した。世界を変えるのに3秒もいらないを体現したウマ娘である。

 

 別名、120億のウマ娘(私命名)である。

 

 金船どころかタイタニックやないかい!!

 

 そんな中、このステマ配合の弊害を最も体現したと言っても過言ではないウマ娘に私は現在、絡まれてるんだけどもどうしたものか。

 

 そう、ここは無難に話をすれば良いのだ、はじめましてー、今日はどうしたんですか? みたいな?

 

 すると、そんな私の意思に反して絡んできたゴールドシップから出た言葉はこんなものであった。

 

 

「あのウイニングライブ見たぞー! お前! なかなかやるじゃんか! あの踊りは凄い笑ったわ! いやー凄いわ、うん」

「…………マジか…」

 

 

 なんと、この人、私のあの恥ずべきウイニングライブという名の黒歴史を目の当たりにしていたのである。

 

 あの、ウイニングライブは踊りは適当で完全に笑いを取りに走っていたような気はする。

 

 みんなが真面目に踊ってる中、私だけ珍妙な踊りやヨサコイ踊りやソーラン節なんかをしていたのでそれは目立つ筈である。

 

 頑張って見様見真似で覚えた伝統的な阿波踊りまでやってのけたのに…。

 

 ウマぴょい伝説に阿波踊りはやはり無理があったか…、ガッデム。

 

 そんな事が重なったせいか、変に目立ち、ゴールドシップことゴルシちゃんに目をつけられてしまったという事なのだろう。

 

 私も問題児の枠に入るらしい、なんてことだ。

 

 

「まぁまぁまぁ、積もる話もあるだろうからさあ! ご飯でも食べながら話そう! なっ!」

「えー…」

 

 

 こうして、ニンジン味のプロテインを脇に抱えている私はゴルシちゃんに連行される事になった。

 

 トーセンジョーダンを身代わりにはできないんだろうか…。

 

 ナカヤマフェスタ先輩がいれば、従姉妹だし、なんか面倒な話にもならない気がするんだけども、ちなみにトレセンにいるマックイーン先輩はやたらとメジロ家のお嬢様キャラでやってるみたいだけれども一言言っておきたい。

 

 メジロ家の家系、貴女をきっかけにヒャッハーな世紀末の家系になるんですよと。

 

 そう、メジロ家の豪邸の窓ガラスは全て割れ、広い庭ではマッドマックスばりの改造車がずらりと並び、不良ウマ娘達の溜まり場に…。

 

 想像しただけでも逃げたくなるなこれ、そんな実家、私でも嫌だ。いや、私の実家も大概でしたねそう言えば。

 

 こうして、ゴールドシップから捕まった私は小さな身体を引き摺られながら食堂に向かうのでした。

 

 

 私の災難は続く。

 

 








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