トレセン学園、分校。
「ほぇ〜…めっちゃでかい」
間の抜けたような声を溢す私はそう呟きながら校舎を見上げる。
話には聞いていたが、一眼見て、めっちゃ綺麗な校舎でした。
規模はトレセン学園よりもデカく、私はつい、金持ってんなーとか内心呟く。
流石はレジェンドウマ娘達が通う学校といったところでしょうか、というかこれ、どう見ても大学っぽいんですよね雰囲気。
そんな中、ハヤヒデさんが私の方を見て一言。
「ふむ、確かにデカイな」
「だろ? 姉貴。だから抱き心地が最高なんだ」
「身長に似合わず凶悪なモノを持っている、これは強いわけだ」
「あの、どこ見て言ってます? 二人とも」
姉妹揃って、私の弾む胸を見ながら一言。
いや、確かにデカイとは自分でも思いますけどもね、このタイミングで言いますかね。
しかも、興味深そうに見つめてくるものだからなんとも言えない感じになってしまいました。解せぬ。
てか、分校の前に来てこんな事やっとる場合かぁー!
私はブライアン先輩に近づくとジト目を向けて見上げます。
するとハヤヒデさんはコホンと咳払いし、気を取り直したようにこう話をし始める。
「…ま、まあ、話は逸れてしまったが、ここがトレセン学園の分校だ」
「見ての通り、綺麗な校舎だろう? なぁ、アフ?」
「わかりましたから抱きつかないでくださいよ、もう」
そう言って、ジト目を向けている私に御構い無しに抱きついて頬ずりしてくるブライアン先輩。
胸をワシワシしないで、揺らさないで(切実)。
そんなこんなで校舎へ足を踏み入れた私達でしたが、まあ、綺麗な校舎ですよ。
中庭には噴水がありますし、購買も充実していました。後でたこ焼き食べよう。
そして、ウマ娘達がトレーニングを行っているグラウンドでは至る所でトレーニングウェアを着たウマ娘達が居ます。
それも名だたるウマ娘ばかりですね。
「やあ、ブライアン、来てたのか?」
「えぇ、テンポイント先輩、今日はよろしくお願いします」
「ふふ、やめてよ、堅苦しいのは僕は苦手なんだから」
そう言って、ブライアン先輩に話しかけてきたのは流星の貴公子ことテンポイント先輩だ。
綺麗な栗毛の髪を束ね、可愛らしい容姿に気品さが滲み出ており、また、滴るように頬に汗が付いている。
流石は流星の貴公子だけあって物凄く可愛らしい顔立ちをしたウマ娘の方でした。
しかも、スタイルも良いというね、やはり伝説のウマ娘は違うなぁ(こなみ)。
そんな中、テンポイント先輩の後ろからズイっと現れる一人のウマ娘が…。
「よぉ、ブライアン、今日は新顔連れてきたのかよ?」
「エリモジョージさん」
「おっ、そのちっこいのが噂のアフトクラトラスか? …はっはーん、こりゃゴルシの奴も気にいるわけだ」
「ぴぃ!?」
そう言ってニコニコしながらエリモジョージさんは私に近づいて来ます。
見た目はバリバリのヤンキーウマ娘です。やべぇよやべぇよ…。
鹿毛の綺麗な髪と鋭い目つき、そして、凛とした美人だけども、圧がやばいですはい。
ですが、その瞳は何故か優しく暖かいものでした。彼女は私の肩をガシッと掴むとニコニコ笑みを浮かべながらこう告げてきます。
「カブトシローの奴にも教えてやんねーとなっ! 聞いてるぜ? お前さんの話はよくな」
「あ、あははははは…」
「あたしもお前さんみたいなのは嫌いじゃないんでね、皐月賞、勝つんだろ? あたしらが教えられる事ならお前さんに全部やるよ」
そう言って、エリモジョージさんは私に告げてきました。
正直、めちゃくちゃ最初は怖かったんですけど、意外にも良い人すぎて私びっくりしていますわ。
人は見た目によらないんですねー、ブライアン先輩もですけども。
「準備してグラウンドに来な、待ってるよ」
そう言って、乱雑に私の頭を撫でるとテンポイント先輩と共に立ち去っていくエリモジョージさん。
そんな中、ブライアン先輩は私の横に並び、ゆっくりと口を開き始める。
「よかったな、アフ」
「えぇ、良い人で良かったです」
「…ふっ、あの人はあぁ見えて面倒見が良いからなぁ、気まぐれだけど」
「そうなんですか?」
そう言って、私はブライアン先輩とビワハヤヒデ先輩と共に更衣室に向かい歩き始める。
すると、ビワハヤヒデ先輩はゆっくりと私に向かい語りはじめる。
「…テンポイント先輩やエリモジョージ先輩は、あぁ見えて、いろんな困難を乗り越えてきたんだよ」
「そうだな、姉貴の言う通りだ」
「そうなんですか?」
「あぁ…、それは本人達から教えてもらえ、私が話すのも筋違いだろうからな」
そして、トレーニングウェアを身につける私はビワハヤヒデ先輩の言葉に首を傾げる。
確かにトレセン学園でレジェンドと呼ばれている方々だ。それこそ、伝説的な逸話もたくさんあることだろう。
私はエリモジョージさんが待つグラウンドへとやって来る。
広々としたグラウンドは綺麗に整地してあり、ちゃんと坂やダートまで全て揃った設備がある。
流石はトレセン学園の分校といったところだろう。
待っていたエリモジョージさんの横には黒鹿毛の綺麗な長髪、そして、新聞を広げているこれまたバチッと鋭い目つきの怖そうなウマ娘が立っていた。
ヤンキー多過ぎィン! 怖いわ! いや、見た目に囚われてはいけないですね。
すると、私の姿を見つけたエリモジョージさんがニコニコとしながらそのウマ娘に私のことを紹介し始める。
「ほら、カブトシロー、テメェの2代目だぞ」
「あん?」
「ど、どうもー…」
「このドチビがか?」
私に降りかかってくる第一声がこれである。
これには私も思わず苦笑い、いやー、先輩ですからね、私とて無礼な態度なんか取れないですよはい。
すると新聞を読んでいたカブトシローさんはため息を吐くとエリモジョージさんにこう一言。
「わりぃがよ、餓鬼の子守すんなら俺ァ帰るぜ? そんなに暇じゃないんでな」
「まあまあ、そう言わず、私としてもお二人に是非教えていただきたいなと…」
「テメェに言ってんじゃねーよドチビ、お前さんに魔王とか付けた馬鹿は目が節穴なんじゃねーのか? なぁ、ジョージもういいか?」
「…おいおい、カブトシロー、そりゃあんまりじゃ…」
そう言って、明らかに喧嘩腰のカブトシローさんは私の態度を見て明らかに面白くない奴を連れてくんなとばかりにエリモジョージさんを睨む。
ふーん、なるほど、なるほど。
人には触れてはいけない暴発ラインというものがあります。
よーし、よくここまで啖呵を切ってくれたものですね、ここまでくれば、さすがの私もプッチンプリンですよ。
私の好きな言葉を今ここで皆様に送りましょう。
『喧嘩に身分の上下なし』です。
ブチッと来た私はドスの利いた声で早足でカブトシローさんの元に近づいて行くと首襟を掴んでごつんと頭突きを交えてメンチを切ります。
「おう、ちょっと待たんかいワレェ!」
「あ? なんだコラ」
「こっちが下手に出てりゃ良い気になり腐りよってのぉ、今すぐしばきまわしたるわァ!? ゴラァ」
何故か関西弁が出てきて難波の金融道みたいな言葉遣いでカブトシローさんに迫る私。
その瞬間、分校のグラウンドの温度が氷点下まで下がり切ってしまう。走っていた数人は顔面蒼白である。
こんなことになれば当たり前である。
しかしながら、エリモジョージさんは一人、面白そうに笑いながらその光景を眺めていました。
なんか、グラウンドの一箇所だけVシネマが始まってますね、はい。フレンズのみんなー集まれ〜!今から血生臭い殴り合いの時間だぞー!
殺し合いという名のな! 多分、記憶が飛ぶまで殴ればきっと全て丸く収まりますよ。
「は、ははははははっ…!! 良いねェ!」
「あ? 何笑っとるんじゃワレ」
「合格だよ…。やるじゃねぇか、お前」
そう言って、カブトシローさんは襟を掴んでいる私の手を掴むと笑みを浮かべ、それからそっと引き離す。
そして、改めて私の方に向き直ると改めて嬉しそうにしながらこう話しをしはじめた。
「悪いな、試すようなことしてよ。俺の渾名、『魔王』って渾名を使ってる奴がどんな奴なのか、隠し事無しに見たかったもんでちょっと煽っちまった。すまん」
「別に今からしばきあいでも私は構いませんが?」
「…それも面白そうな誘いだけどよ、皐月賞前だろ? お前さん。俺も馬鹿じゃない」
そう言って、一転して私の肩をポンと叩いて来るカブトシローさん。
ブチギレていた私もこれには気が削がれてしまいため息を吐くと不機嫌そうな表情を浮かべる。
せっかく一発ぐらいぶん殴ってスッキリしようと思っていたのに肩透かしもいいところである。
エリモジョージさんは笑いながら私を見ながらカブトシローさんとこう話しをしはじめた。
「癖が強いっちゃ聞いてたけど、あんな啖呵を切れるとはな、ブライアンの奴も気に入るわけだ」
「俺相手にあんだけの事が出来る奴なんてそうそう居ないしな、面白いよお前さん」
「…なんか疲れましたわ、何にもしてないのに」
呆れたように感心する二人の言葉に深いため息を吐く私。
聞いた話によると本質を見抜くためにわざわざ芝居をして、煽ってきたらしい。
根性が無いウマ娘か気合いが入っているウマ娘かどうか見極めるためだそうだ。
言うの遅かったらほんとに容赦なくぶん殴ってたところでしたよ。私の剛腕で殴るとどうなるか? みなさんならご想像がつくかと思います。
この二人、グルでやってやがりましたわ、ほんと冗談じゃ無ければ殺し合いも辞さなかった勢いだったんですけどね。
私のおもくそ鍛え抜かれた剛腕によるボディブローが発揮できなくて残念です。
分厚いコンクリートの壁くらいなら易々と破壊できる自信があるんですけどね。嘘です、イキリました、普通に手を痛めて悶絶してのたうちまわると思います。コンクリートはちょっと厳しいですね(悲しみ)。
上機嫌の二人はニコニコしながらこう話しを続ける
「まあ、あたしらがどんだけあんたに教えれるかはわかんないけど、走り方や勝ち方を盗んでいってくれよ」
「レース中に舐めた事する奴の黙らせ方も教えてやるよ」
「…はぁ、よろしくお願いします」
こうして、私はこのヤンキーウマ娘であり、伝説のウマ娘であるお二人から指導を受けることとなりました。
ど根性とかそんなちゃっちなものじゃあないです。
これが、私じゃなくてメジロドーベルさんやゴルシちゃん、ステゴさんだったら大乱闘不可避でしたよほんとに。
それをわかった上でやっていたみたいですけどね。
しかし、皐月賞でこの二人から教わったことを実践したら競走中止になるのではないでしょうか?(危惧)。
そんな危機感を感じつつ、私はお二人から気合いの入った指導を受けるのでした。