遥かな、夢の11Rを見るために   作:パトラッシュS

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帰還

 

 翌朝。

 

 ベッドの中で何やらモゾモゾと動く小さな身体、そう私です。

 

 いやー昨日は疲れましたわー、筋肉痛がすんごいです、足がプルプルすりゅのー!(震え声)

 

 足がプルえすぎて語彙力もプルって来やがりましたよ、あふん。

 

 

「うぐー……」

 

 

 私は脹脛らへんをさすりながら目をゆっくりと開けます。

 

 筋肉痛はほんと慣れませんよね、夜中に足攣るのは本当にやめて欲しいです。

 

 そして、眠りから覚めて、ゆっくりと瞼を開けた私は同時に戦慄します。

 

 

「おはよう♪ アフちゃん」

「…………」

 

 

 目の前に居たのはなんと半裸のメジロドーベルさんでした。

 

 なんで上着てないんですかねぇ? あれー? 私、昨日、ブライアン先輩の部屋で寝てたはずなんだけどなー、あれー? 

 

 しかも、ガッシリハグされてた気がするんですけどなんで私の隣にドーベルさんが居るんでしょう? 

 

 なんか事後っぽい雰囲気醸し出してますけども、可笑しいなー。

 

 

「アフちゃんの寝顔可愛かったわよ♪」

「とりあえず服を着ましょう、何が起こったんですか? 私の身に一体何が?」

「ふふふ、それはね? 夜中にアフちゃんの寝床に……」

「待って、もう大体把握出来た気がします」

 

 

 私は手を差し出しながらメジロドーベルさんを制する。

 

 なるほど、ブライアン先輩の部屋から私は誘拐されたわけですね、しかも、寝てる間に、あのハグされてる私をよくもまあ拉致出来たものだと感心します。

 

 ここ、よく見渡せばメジロドーベルさんの部屋ですしね。

 

 

「……私を脱がしている意味は……」

「え? 互いの肌を通して体温を感じたかったからに決まってるじゃない」

「さも当然みたいに言う事じゃないですけどね? 当たり前みたいに言ってますけども!」

 

 

 ドーベルさんと同じく上半身裸にされている私は軽くチョップをして突っ込みを入れる。

 

 下はパンツだけにされてんじゃあないですか、私の可愛いパジャマはどこ行った!? 

 

 あのクマさんパジャマお気に入りなんですよ! 

 

 良い値段で買えた可愛いパジャマなんですよ! 

 

 それを脱がすなんて! なんてことを! ……ん? でもよくよく考えたらブライアン先輩達と賭け事してしょっちゅう脱いでんな私。

 

 なるほど、道理で最初、なんかスースーするなと違和感を感じなかったわけだ。

 

 アフチャン・ザ・バーバリアンと化している気がします。

 

 よし、棍棒作るしかねぇなこれ、まあ、そんなアホな考えは一旦置いておくとして。

 

 

「……よし、じゃあ起きて着替えなきゃ……」

「まあまあ、アフちゃんそんなに焦らないで? ね?」

「にょわぁ!?」

 

 

 立ち上がろうとした私はへんな声を上げると肩を掴んできたメジロドーベルさんからベッドに引きづり込まれる。

 

 やべぇよやべぇよ……。

 

 メジロドーベルさんと至近距離でメンチ切りあっているこの状況、あ、見つめ合っているですね、あ、はい。

 

 この間のヤンキー先輩達のせいでへんな言い方しちゃいましたよ、全く。

 

 目と目が合う〜、瞬間す……。

 

 いや、何言ってんだ私! そんなに見つめないで溶けちゃう! 

 

 

「いやー! こんなところに居たら死んじゃうー!」

「まあまあまあまあ」

「まあまあまあって何がまあまあなんですかっ! 私は起きるぞお前!」

「静かにしないとお口、ディープインパクトして塞ぐわよ?」

「…………」

 

 

 お口ディープインパクトするとは(哲学)。

 

 ディープインパクトさんが聞いたらどんな顔するんでしょうね、オブラートに包んだ表現にしたんでしょうけど。

 

 え? ディープインパクトさんにディープインパクトする? 

 

 一体何を言ってるんですかね? 

 

 心臓にAEDでも当てるのかな?(すっとぼけ)。

 

 

「……アフちゃんに最近会えなくて、寂しかったんだから……たまにはね?」

「……うぐ……っ、そ、そんな顔で言わないでくださいよ……」

「もう、たくさん心配したんだからね……」

 

 

 そう言って、メジロドーベルさんは私を抱き寄せると頭を撫でてきます。

 

 感動的ですね、メジロドーベルさんの優しさに私も感無量ですよ、こんな心遣いをされて嬉しくないわけがありません。

 

 そう、半裸でなければね、なんかやばい絵面なんですよ、悲しいなぁ。

 

 あ、そう言えば言われてましたっけ。

 

 私、隙だらけというか穴だらけだからすぐに押しに弱いって……、こういうとこやぞ! アフトクラトラス! 

 

 激流に身を任せ同化する……これぞ柔の拳!

 

 あ、私のおっ◯が柔らかいという意味ではないです、はい、柔らかいですけどね。

 

 いや、そんなことを言うとる場合か。

 

 

「あひゅい!? 弄らないで!?」

「あ〜……柔らかい〜……」

 

 

 私を弄りながら悦に浸るドーベルさん。

 

 やめろー! 言ったそばから揉むんじゃあない! 

 

 あ! 下はあかんて、アウトですって!

 

 このままじゃやられる! その時、アフに不思議なことが起こった! 

 

 

「とう!」

「あっ……!」

「はっはっは! 黙ってやられる私ではありませんよ! グラウンドでのトレーニングが私を呼んでます! さらば!」

 

 

 そう言って、素早くベッドから飛び出した私はなんとシャツとパンツのみという格好で部屋を飛び出しました。

 

 辛うじて飛び出す時に、上を羽織るものがあって助かりましたけどなかったらパンツのみで廊下を疾走する羽目になるところでしたよ。

 

 流石にこの胸のデカイのを晒しながら走るのは抵抗がありますし。

 

 私のブラジャーは一体どこだ! 

 

 

「アフ!? お前、なんて格好で……!?」

「おぉ! フジキセキ先輩! 良いところに!」

「いや、タイミング的に良く無いだろどう見ても」

 

 

 私の格好に頬を赤くしたフジキセキ先輩にバッタリと廊下で出くわしてしまいました。

 

 ふむ、私的には助け船が来たくらいには感じているのですがね。

 

 だってこの格好ですよ、いい加減なんか着たいです。

 

 

「とりあえず……部屋に戻れお前」

「いや、自分の部屋に拉致されたんですよね」

「どういう状況なんだお前は…」

「毎度、深刻な拉致問題に晒されている私に一体何を言ってるんですか!」

「なんでさも当然のように言うのか……」

 

 

 私は頭を抱えているフジキセキ先輩に必死に告げる。

 

 なんでや、頭抱えたいのはこっちやぞ! なんで私、パンツとシャツだけとかいう意味わからない格好になっとんねん! 

 

 そういえば私、まともに最近、自室で寝れてない気がしますね、基本、ナリタブライアン先輩に抱き枕にされてるから致し方ないんですけど。

 

 

「……お前、ただでさえデカイんだから胸くらいは下着は付けておけよ……」

「だって寝返り打つと寝苦しいじゃないですか」

「この無駄な脂肪め」

「鍛えてるんですけどね、触ってる通りです」

 

 

 おかしいなー、胸筋付いてもいいはずなのになんでこんなにポヨポヨしてるんでしょうね。

 

 何気なく忌々しげに私の右胸を鷲掴みにしてくるフジキセキ先輩に肩を竦めながら困ったような表情で私は告げます。

 

 ふむ、全くその通りです。

 

 

「まぁ、それはいいが……ミホノブルボンのやつがお前を探してたぞ?」

「ほえ? 私をですか?」

「あぁ、ライスシャワーの天皇賞、近いんだろう? その併走をするからと言っていたがな」

「……! それは、急いで行かないとですね!」

「あぁ、でもその格好でグラウンドに出るなよ? 痴女ウマ娘って言われるぞ」

「わかってますよ」

 

 

 フジキセキ先輩の言葉に苦笑いを浮かべ、そう答える私。

 

 とりあえず自室に帰って身支度をしてグラウンドに行かなくてはですね。

 

 下着また消えてなければ良いですけども……。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 それから自室で着替えた私はいつものように練習着に着替えてグラウンドへ。

 

 そこでは既に併走しているミホノブルボン先輩とライスシャワー先輩の姿がありました。

 

 二人は真剣な眼差しで互いに並びながら走っています。

 

 

「……相変わらずだなぁ……」

 

 

 グラウンドに出た私はそんな二人の姿を目の当たりにして思わず笑みをこぼしてしまいました。

 

 あの二人が走っている姿を見るのが懐かしくて、いつも当たり前のように見ていた光景なのにもう随分と前のことのように思えてしまいます。

 

 

 

 そんな二人の姿を眺めていた私の肩にポンと誰かが手を置いてくる。

 

 背後をゆっくりと振り返る私。

 

 何というか、その手は暖かくて懐かしい感じがした。

 

 優しさがあって、私にとって、その手はかけがえのないもののように感じてしまう、いや、身体が直感的にそうだと訴えてきた。

 

 

「……ふっ……、あの二人が走る姿をまたこの目で見れるなんて、長生きはしてみるもんだね」

 

 

 そこには、優しい笑みを浮かべている一人のトレーナーが立っていた。

 

 私はその人の姿を見て言葉を失う。

 

 なんで、この場所にこの人が居るのか。

 

 どうして、私の横にいるのか、理解が追いつかなかった。

 

 いや、それ以上に胸の奥から熱いものが込み上げてくるようなものさえ感じる。

 

 気がつけば、私は自然と頬から涙が溢れ出ていた。

 

 私の居場所がまた帰って来てくれたようなそんな安心感さえ、感じてしまう。

 

 そのトレーナーの視線の先にはミホノブルボン先輩とライスシャワー先輩の二人が写っている

 

 私は震える声でその人の名前を呼んだ。

 

 

「……お母……さん?」

 

 

 そう呟く私の隣に立つトレーナーは笑みを浮かべて乱暴に頭を撫でてきた。

 

 いつものような元気な姿、私はもう二度とこんな姿が見れないと思っていた。

 

 ここにいるはずがない人がそこに立っている。

 

 いつか帰ってくるという約束。

 

 あの人が目の前に立っているという現実に私は思わず言葉が震えていた。

 

 

 トレーナーとしての復帰は絶望的だろう。

 

 

 医者からはそういう話を私は聞いていた。

 

 そして、私はその言葉を聞いて絶望感を胸に抱きながらも毎日もがいて走り、トレーニングに身を置いて振り払ってきた。

 

 皆に明るく振る舞う中、私は義理母のことを思い、そして、姉弟子のことを思いこのトレセン学園でチームの皆と向き合ってきた。

 

 そして、そんな私の目の前に信じられないものが写っている。

 

 ある程度、覚悟していたつもりだった。

 

 だからこそ、私は懸念があった。

 

 それはその大事な人が無理して病院を抜け出してきたのではないかという考えだ。

 

 

「でもお母さん……身体は……」

「大事な娘達を残して簡単に私が死ねるか……遅れたが、こうして帰ってきたんだよ」

 

 

 私はその言葉に目を丸くする。

 

 義理母は問題ないとばかりに私の顔を見つめながら力強く頷く。

 

 そんな中、私の背後からゆっくりとこんな声が聞こえてきた。

 

 

「お師匠様の言う事は本当よ、アフトクラトラス、ちゃんと医者からは許可を得ているわ」

 

 

 そう言って現れたのは花束を抱えているオハナさんの姿だった。

 

 その表情は実に嬉しそうな顔をしている。まるで、めでたいと言わんばかりに明るい表情であった。

 

 オハナさんは花束を義理母に送りながら続けるように語り始める。

 

 

「ご退院おめでとうございます」

「こりゃ、わざわざすまんな」

「いえ、摘出手術に薬、ご闘病は大変でしたでしょう。よく頑張られたと思います。復帰されて私も嬉しいです」

 

 

 そう言って、オハナさんから差し出された花束を受け取る義理母。

 

 私が知っている史実、それならばと前までは思わず身構えていた。

 

 だけど、今、目の前で起こっている事はなんだろうか? 私は今、奇跡を目の当たりにしているんじゃないんでしょうか。

 

 サイレンススズカ先輩が走れないと言われた大怪我から奇跡の復活を遂げた出来事。

 

 私の頭の中でふとその姿が蘇ってきた。

 

 私は勘違いをしていたのかもしれない、姉弟子が負けた菊花賞を見て運命は変えられないものだと思い込んでいた事もある。

 

 だけど、違うんだ。

 

 きっと運命は自分で切り開くものなんだ。

 

 気がつけば、私の頬からは溢れでるように涙が次々と頬を伝って流れ出ていた。

 

 

「……うっ……ぐす……っ……」

「はぁ、泣き虫だなお前は相変わらず」

 

 

 そう言うと、義理母は優しく私を抱きしめてくれた。

 

 なんの言葉も出てこなかった。

 

 ただ、もう戻って来ないと思っていた場所がまたここにできたことがひたすら嬉しかっただけなのだ。

 

 私の家族、父も母も居ない私にとっての唯一の家族。

 

 一度、バラバラになったものが元に戻ってくれたことが嬉しくないわけがなかった。

 

 ライスシャワー先輩も、ミホノブルボン先輩も、そして、義理母も居る。

 

 必死にひた隠していたものが、流れ出てくるみたいに次から次へと頬から流れ落ちてきた。

 

 私は抱きしめてくれる義理母の温かな身体を抱きしめながら、静かにこう告げる。

 

 

「…………おかえりなさい」

 

 

 私の言葉に静かに頷く義理母。

 

 義理母も姉弟子も皆に向けた言葉だ。

 

 そんな義理母と私の姿を併走を止めて、遠目から眺めているミホノブルボンの姉弟子とライスシャワー先輩。

 

 二人は優しい笑みを浮かべ、そんな私達を見守るように優しく見つめていた。

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