いよいよ、天皇賞の幕があがる。
席に着き、ミホノブルボン先輩と共にレース開始を待つ私。
静かにレース開始を待つだけでしたが、そんな時、観客席がざわつき始めたのに気がついた。
その理由は観客達の反応からすぐにわかりました。
「おい、あれ見ろよ!」
「チームミルファクだろあれ」
「すげーなあのメンバー」
そう口々に語る観客席に座る人達。
チームミルファクとは比較的に新しく新設されたウマ娘のチーム。
まあ、天皇賞ですから、レースくらいはどのチームも見にくるのは当然ですよ、何を騒いでいるのか。
普通はそう思うでしょう? 私もそう思います。
しかしながら、それは、時と場合によります、この場合は観客達が驚くのも無理ないなとは思いました。
チームミルファクそのメンバーはチームリギル、チームアンタレスに匹敵するほどのメンバーを兼ね備えているチームだ。
そこに所属するウマ娘達は別名、天を駆けるウマ娘と呼ばれている。
そして、そのメンバーといえば……。
「おい、あれ、マイルの皇帝ニホンピロウイナーだぞ」
「あれってトロットサンダーじゃない?」
「それにダンスインザダークもいる!」
そう、英雄という名前に負けないくらいの実績を積み上げてきているウマ娘ばかりなのです。
その姿には気品すら感じます。まあ、うちのメンバーも化け物じみてはいるんですけどね。
賑わっている観客達は次々とミルファクのメンバーの名前を挙げる。
「シンボリクリスエス! クリスエスだ!」
「クロフネか、やっぱ雰囲気凄いな」
「あれ……キングカメハメハだ……」
「うわ! シーザリオ! アメリカ遠征から帰ってきたのかよ!」
「……ゼンノロブロイじゃん……すげぇ」
この錚々たるメンバーである。
一同が集まればリギルやスピカに負けず劣らず圧巻の一言、もちろん、中距離から長距離、マイルまで優秀な人材が集まっているのである。
そして、極め付けはこの人。
「おい……あれ……」
「おいおい嘘だろ、あれって」
「マジかよ、あのメンバーの中にいるって事はミルファクに入る予定なのか」
小柄な身体ながら、長くて美しい綺麗な鹿毛の髪をサラリと背後に靡かせるウマ娘。
そう、彼女の強さは既に周りに知れ渡っている。
英雄の称号を持つ、深き衝撃。
「ディープインパクトだ……」
「きゃあー! 綺麗な髪〜!」
そう、ディープインパクトである。
会場は既にディープインパクトという存在に浮足立ったような状態だ。
名だたるチームが勢ぞろいするのはなんの不思議もありませんが、確かにこれは圧巻ですよね、わかります。
そして、さらにその向こう側からはまた凄いメンツを引き連れた集団がやってきてます。
「……おい、あれ……」
「プロキオンだ……、うわぁ……」
チームプロキオン、ミルファクと同じく比較的新しい部類に入る新設チームではありますが、その面子は同じように凄いの一言に尽きます。
リギル、スピカ、アンタレスの三チームは確かに今まではトレセン学園で注目されるチームではありましたが、その環境は変わりつつあります。
新しい風の到来というやつでしょうかね。
「ミスターシービーだ」
「ロードカナロア、ジャスタウェイ、ハーツクライ、それにブエナビスタ! 」
「カネヒキリまで……」
「ヴィクトワールピサだぞ」
「タニノギムレット……」
「デュランダル! かっけー!」
「ドリームジャーニー……、イカすなぁ」
風を切り、ミスターシービーさんを先頭に力ある若い名だたるウマ娘が歩いている姿が見える。
確か、ミスターシービーさんもニホンピロウイナーさんも一線を一度退いたと聞いていた筈ですけど、何故、こちらの本校に帰ってきているんでしょう。
ナリタブライアン先輩とシンボリルドルフ生徒会長が何やら動いているという話を聞いていましたからこのことだったんでしょうかね? よくわかりませんけども。
そして、プロキオンの方にもまた、周りの方々が一段と目を惹くウマ娘が居ました。
「おい、あれ、オルフェーヴルじゃねぇか?」
「金色の暴君はプロキオンか……」
「えげつない面子だなこっちも」
そう、まるで、ミルファクに対抗するようにこちらも既にオルフェーヴルをプロキオンは勧誘し、取り込んでいた。
それに、プロキオンにはドリームジャーニーも所属していますから多分、その関係上、オルフェちゃんは所属しているんでしょう。
姉妹揃っての所属と考えれば納得ですね。
私もそうだったので、よく理解できます。
そして、アンタレス、スピカ、ミルファク、プロキオンとチームが一堂にこのレース場に集まる中、遅れて来るようにリギルの方々が姿を現しました。
そんな様子を見ていた私は思わず表情を曇らせて隣にいた姉弟子にこう問いかけます。
「なんていうか……レース前にレース場の観客席が凄いことになってますね」
「あれだけ揃えばそうでしょうね」
姉弟子は関係ないと言わんばかりに興味がなさそうに私に告げる。
まあ、アンタレスは叩き上げが基本ですからね、別に強い面子がいようが倍走って力をつけてねじ伏せるスタンスですし。
ゼンちゃんがまさか、ディープインパクトちゃんと同じチームなのは驚きましたけどね。
とはいえ、三冠ウマ娘候補が私除いて二人、さらに、リギルのルドルフ会長、ナリタブライアン先輩、プロキオンのシービー先輩を入れると計5人も集結しています。
まあ、シンザン先輩やセントライト先輩がここに居れば歴代三冠ウマ娘が総集結という凄い絵面になるんですけどね。
史実を知っている私からしたら卒倒ものです。なんだこのヤバい人達。
鉢合わせした各チームはそれぞれの席に着席する。
そして、その席は奇しくも近く、まあ、学園に関係するウマ娘の観客席がたまたま近いことなんて珍しくもないんですけどね。
でもね、私、思うんです。
空気的にあれは近くに座らせたらいけないんじゃないかって。
だってね? 何というか闘争心がバチバチといいますか。
良い例えをするなら、敵対するライバルチームを隣り合わせに座らせているようなそんな感じです。
見てみてくださいよ、あそこだけなんだから空気感が違いますから。
そして、何故だかピリピリと張り詰めた空気の中、声を上げたのはシンボリルドルフ生徒会長でした。
「シービー先輩、お久しぶりですね」
「あら、ルドルフじゃない? 貴女達も天皇賞の観戦」
「えぇ、天皇賞は伝統あるG1レースですからね」
そう言って、笑顔でミスターシービー先輩に話しかけるルドルフ会長。
だが、ミスターシービー先輩はそんなルドルフ会長にこんな話を懐かしむように語り始める。
その口調はどこか、棘があるようなそんな話し方であった。
「懐かしいわねぇ……ねぇ、ルドルフ、私と貴女が最後にやり合ったのもこの天皇賞だったわね」
「…………えぇ、そうでしたね……」
「まさか、貴女とこうして並んで天皇賞を見ることになるなんてね」
「…………」
そう言って、意味深にルドルフ会長に語るシービー先輩。
そんな中、ルドルフ会長は静かにその言葉を聞いて、それに対して返答をしようとはしなかった。
三冠ウマ娘が激突した天皇賞での対決、あの時の結末をルドルフ会長は知っていたからだ。
すると、ミスターシービー先輩はルドルフ会長にこう告げはじめる。
「貴女の才能は大したものだわ、……貴女はどうかは知らないけれど私はあの日の天皇賞で貴女から味わった挫折、悔しさは忘れもしない」
「……そうですか」
「あの後、怪我をして、引退を医者からもトレーナーからも勧められたわ、だけど、私はこうして帰ってこれた」
そう淡々と語るミスターシービー先輩。
その手には握り拳が出来ており、力強く握りしめている。言葉にも力が入り、ルドルフ会長に笑顔を見せてはいるものの内心は闘志で溢れていた。
三冠ウマ娘、その称号を得ながらもルドルフ会長の力に及ばないウマ娘、そう呼ばれてきた。
悔しくないはずがない、だが、その悔しさをバネにしても、結局はルドルフ会長に最後まで勝つことはなかった。
怪我をして、挫折し、長い期間、分校でリハビリを行ってきた。そして、その期間を埋めるべく体も作り上げてきた。
そして、シービー先輩はまたトレセン学園に戻ってきたのだ。
あの時の雪辱をいつか晴らさんとせんために。
「……貴女には感謝しているわ、本校に戻れるように根回ししてくれてね」
「当たり前ですよ、それくらいは」
そう言って、肩を竦めるルドルフ会長。
ミスターシービー先輩をトレセン学園本校にもどしたのせたのはルドルフ会長がナリタブライアン先輩と協力し、根回しを行なったためだ。
その理由は、最強のウマ娘を決める誰もまだ見たことの無い夢の11R、WDTの為である。
あの伝説の三冠ウマ娘、シンザン先輩も今はこの場にはいないが現在、トレセン学園本校に在籍中だ。
ルドルフ会長の根回しをしてもらったシービー先輩は続けるようにこう話し出した。
「ふふ、でもまぁ……、貴女に挫折を与えるのはもしかすると私の役目じゃないかもしれないけどね」
「…………」
「……よく覚えておくといいわよ、金色の暴君って名前をね?」
ミスターシービー先輩は沈黙するルドルフ会長はまるで確信を持っているかのように告げる。
火花を散らすようなやり取り、何というか場外乱闘とでも言うのですかね、これは。
プロレスとかでよく見るやつやぞ、これ。
あー巻き込まれたくないなー、やだなー。
だが、そんな二人の会話を聞いていた一人のウマ娘が一言、彼女達にこう告げる。
「……ふふ、お二人とも何か勘違いをしているんじゃないんですか? まだ、お二人はご自身が頂点でいると思っているんですかね?」
「…… 君は……」
「ディープインパクトですよ、会長」
そう言って、肩を竦めるディープインパクトちゃん。
あの二人の会話に入って行くなんて勇気あるなー、私なら無理ですね、やっぱりディープインパクトちゃんは凄いです、はい。
それから、ディープインパクトちゃんは話していた二人に対して面と向かい話しをし始める。
「既にわかっているんじゃないですか? ルドルフ会長。私、そして、……あそこに座るアフトクラトラス先輩に倒されるんじゃないかと…思ってらっしゃるのではないですか?」
「ファッ!?」
唐突に名前を挙げられた私は変な声が思わず出てしまう。
なんだ! 流れ弾が変なところから飛んできたぞ! どういった流れでそうなった!
変な声を上げた私に皆の注目が集まる。やめて! 見ないで! 私溶けちゃう!
そんな私の様子を見て、ルドルフ会長は意味深な笑みを浮かべます。
なんだその仕方ないみたいな、いや、やめてください、その悟ったような表情は。
「アッフ、お前かぁ……」
「まぁ、 アッフなら色んな意味でもう会長は超えてるな、怒りも何度通り越したことか……」
「なんで私そんな扱いなんですかっ!?」
そう言って、ジト目を向けてくるヒシアマゾン先輩と呆れたように肩を竦めるエアグルーヴ先輩。
……うん、でも否定できないな、でも私をアッフって呼ぶ呼び方流行ってるんでしょうかね?
そんな越え方は嫌だった、既に時お寿司なんですけどね。
そういや、お寿司最近食べてないな私。
そして、変な声を上げる私の顔を見たルドルフ会長はクスッと笑みを浮かべるとディープインパクトちゃんにこう語り始める。
「それも仕方ないかもしれないな……だが……」
笑みを浮かべていたルドルフ会長は言葉を区切るとディープインパクトちゃんの目を真っ直ぐに見据える。
そして、一変して真剣な表情を浮かべ、ディープインパクトちゃんにこう告げた。
「私をそう簡単に倒せると思わないことだ、アフもお前にも私は負ける気は微塵もないよ」
「……っ、……ふふ、そうでなくてはこの学園に入った甲斐がないですからね」
そう言って、ルドルフ会長の返答に満足気に笑みを浮かべるディープインパクトちゃん。
そんな中、今まで二人の会話を腕を組んだまま黙って聞いていたシャドーロールの怪物はゆっくりと口を開く。
「なんにしろ、三冠ウマ娘だけで開催するWDT……いや、
確かにナリタブライアン先輩の言う通りですね、普段からそんな風に真面目ならいいのに(小声)。
その前には有馬記念もありますし、冬のレースは大レースが大賑わいです。
とはいえ、今回はこの天皇賞(春)、春のクラシックの中でも大レースの一つを皆さん見にきているわけですからね、という訳でもっと仲良くしましょうよ、必要ならたこ焼き焼いてあげますからね? ね?
「……それはいいですが、皆さんレースが始まりますよ」
そう言って、そんな風に盛り上がる皆さんを他所に冷静な口調気に告げるミホノブルボン先輩。
流石、姉弟子! 私にできないことを平然とやってのける! そこに痺れる憧れるぅ!
その言葉に皆は静かに席に着くとレースの開始を静かに待つ。
レース前のファンファーレが会場に鳴り響くと観客達の合いの手が入り、会場を盛り上げる。
「さあ、昨年のレースからファンはミホノブルボンとメジロマックイーンとの対決を見たいと思っていましたが、今日この場にいるのは名優メジロマックイーン、今年はあのミホノブルボンの三冠を阻んだライスシャワー、そして、力をつけてきたマチカネタンホイザなど、実力者ばかりとなっております」
各自、ゲート入りしたウマ娘を見ながら実況はその様子を語る。
ライスシャワー先輩の姿が電光掲示板に映し出されるが、どうやら見る限り落ち着いた様子。
私はその姿を見て少しホッとしました。
実況はスギさんと呼ばれるベテランの実況の方、なんだか、聞いていると安心感がありますね。
「さあ、いよいよ天皇賞春の発走です」
そして、そのレースの火蓋が切って落とされる。
パァンという音と共に一斉に開くゲート、その音と共に足に力を込めたウマ娘達が一斉に飛び出る。
「さぁ、15人が今ゆっくりと飛び出しました。早くも9番メジロパーマーが行きます、あぁ、外からメジロマックイーン、メジロマックイーンも行きます」
先頭を取ったのはメジロパーマー先輩。
逃げの戦法に対してマックイーン先輩は先行で走るような感じでしょうか、ライスシャワー先輩は無理に行こうとしている気配はありませんでした。
足を溜める戦法なのでしょう、ライスシャワー先輩はしっかりと控えています。
いよいよ始まった天皇賞春、序盤はレースは長距離レースらしいゆっくりとした立ち上がりを見せていた。