日本ダービーが終わって。
私の元にある仕事の依頼が舞い込んできた。
というのも次はいよいよ海外進出、姉弟子と共にアメリカに渡る予定なのですけども、日本ダービーの祝勝会もまだ終わってない中で私にもう仕事が来ているのはびっくりなんですけどね。
「写真集の販売ですか?」
「はい! 是非アフさんの肉体美を載せた写真集を出したいと思いまして」
「えー……」
目をキラキラさせている、学園の事務を担当している駿川たづなさんからの言葉にドン引きする私。
私の写真集なんて誰が欲しがるんだろう。皆さん欲しいですか?
そんな乗り気じゃない私にたづなさんは笑みを浮かべたままこう話しを続ける。
「引き締まってる身体とグラマラスなボディ! 絶対売れますよ! しかも、アフさんは女性からも人気が高いですし……」
「……そうですかね……」
「はい! それに新規のお客さんを呼ぶにも良い機会だと思うので」
たづなさんはノリノリで私にそう言って資料を渡してくる。
うん、まぁ、しかしながらルドルフ会長からも直々にお願いされたんで断り辛いんですよね。
そんな風に私が資料に目を通していると背後からガシッと肩を組んでくる先輩が居ました。
「よう! アフ! 何してるんだ?」
「あ、ヒシアマ姉さん」
そう言って、ヒシアマ姉さんと共にひょっこりと顔を出してきた。
その背後からはシャドーロールの怪物、ナリタブライアン先輩は懐かしそうな表情を浮かべながら現れる。
「……写真集か……、あぁ、私もそういえば日本ダービーを取った時にそんな事もしたな」
「はいっ! アフちゃんのグッズも人気ですからね!」
上機嫌にナリタブライアン先輩に答えるたづなさん。
ウマ娘の写真集……、確かにナリタブライアン先輩やルドルフ会長なんかは人気も高いですから売れそうな気はしますけどね。
オグオグことオグリキャップ先輩なんかもたくさん食べる姿が可愛いということからグルメ雑誌の表紙にもなった事がありますし。
そんな事を考えていた私は何か閃いたのかピコン! と耳が上に跳ねると、たづなさんにこう告げる。
「あ、じゃあ、ヒシアマ姉さんと一緒ならやりますよ? 写真集」
「おいちょっと待て、なんでいきなり私を巻き込むんだお前は……」
そう言って、私の肩をガシッと掴んでくるヒシアマ姉さん。
だって、私よりヒシアマ姉さんのビキニ水着の写真の方が人気出ますって、特に青少年は喜ぶと思います。
だって私のそんな写真見ても喜ばないですよ、皆さん、良い身体してる姉弟子とかライスシャワー先輩とかの方が需要ありますってば。
「ほほう、なら私も一緒に写真に出てやるぞ? それなら良いだろう?」
「え、えぇ、構いませんけど……」
「ちょっとブライアン! 何言ってんだよ!?」
なんとそこにナリタブライアン先輩も乱入。
おうふ、なんだか凄いことになってきましたよ、良かったですね、皆さん、ナリタブライアン先輩とヒシアマ姉さんのハッピーセットですよ。
私はあれです、せいぜいポテトの一つくらいの価値くらいしかありませんから。
え? むしろメインハンバーガーですって? またまた。
「私の写真集なんか誰が欲しがるんでしょう、もの好きな人もいるんですね」
「まあ、よくパドックでいつもあんだけ驚かれててそんな事が言えるなお前……」
「ひゃん!! ちょっとっ! ん……っ!?」
そう言って、私の身体をまじまじと見ながらくびれのあたりから胸の辺りまで確認するように触ってくるヒシアマゾン先輩。
まあ、坂路をアホみたいに走ってはいますし、身体は徹底して作っているんですけどね……。
「まあ、これもファンサービスのようなものだ、それに普通に練習風景とか、そんな感じの写真だろう」
「え? 水着写真とか普通にありますよ? グラビア写真みたいなものもして欲しいとクライアントさんから要望がありましたので」
「……うわぁ……」
私はたづなさんの笑顔から出てくる一言に顔をひきつらせる。
いやいや、“大丈夫ですよ! カメラマンやスタッフは全員女性なので!”と言われてもですね……。
まあ、この言葉には流石にブライアン先輩とヒシアマゾン先輩も苦笑いを浮かべていた。
そりゃまあ、トレセン学園の運営費に貢献して欲しいと言われれば協力せざる得ないんですけども。
「仕方ない、一肌脱ぐか」
「わ、私は別にいいだろう!」
「私のことを棚に上げてそれはダメですよーヒシアマ姉さんも良い身体してるじゃないですかー」
「ひぁあ!? 揉むんじゃねー!」
そう言って、先程のお返しをする私。
やられたらやり返す、倍返しだ! という話は置いておいて、お二人が私の写真撮影に付き合ってくださるのは心強いですね。
というか、やっぱりヒシアマ姉さんのは柔らかくて良いなぁ、やばい、思考が変態な親父みたいになってる。
しばらくヒシアマ姉さんを弄っていた私は体を離すと再びたづなさんに向き直る。
「それで撮影はいつから……」
「もちろん、今からです♪」
「うぇ!?」
準備がいいのかどうなのか、そんな満面な笑みで言われるとは思ってもみませんでした。
顔を見合わせる私達三人、これ、もう承諾する前提で話を進めてましたよね!?
こうなったら致し方ありません、というわけで私達はたづなさんに率いられて写真撮影を行う現場に移動する事となりました。
それから数時間後。
私達はプールサイドで水着に着替え、女性カメラマンさんから色んなポーズをお願いされたりしています。
ぐぬぬ、不本意とはいえ、これも人気取りとトレセン学園に協力するためやむ負えません。
「はーい、それじゃヒシアマゾンさんと抱き合う感じで、寄せてもらって、はい」
寄せる? 寄せるって何処を? 胸をか!
私とヒシアマ姉さんはカメラマンさんからの要望通りに抱き合う形で胸を付け合わせている。
何やらアシスタントの人の鼻息が荒いような気もするんですけど大丈夫なんでしょうかね? 女性みたいですけども。
一方、ビキニ姿で豊満な胸を付け合わせているヒシアマ姉さんと私はヒソヒソ声でこんな話を繰り広げている。
「おい、もうちょい右に寄れよ」
「そんなこと言ってもー」
気持ちは分かりますよ? うん。
グラビアやってる人達ってこうしてみると大変なんだなって思います。
青少年の皆、ちゃんと感謝するんだぞ。
なんなら、神棚に掲げてもバチは当たらないから、私の写真集は特に。
ヒシアマ姉さんとのツーショット写真が終われば次はナリタブライアン先輩とのツーショット。
次は一緒に寝転びながら身体を密着させるという写真だ。
これはあれだね、普段が普段だからもう慣れてるといいますか、割と自然体といいますか。
こんな時にブライアン先輩のヌイグルミとなっていたことがいい方向に働くとは思いもよらなんだ。
「良いですねー、こっち見て下さーい」
そして、写真を撮る際、ブライアン先輩はサービスだと言わんばかりに私の頬に軽く接吻をする。
カメラマンはいい写真が撮れたとご満悦の様子だった。
それから、同じような写真を何枚か撮った後、場所は練習場に移る。
私のトレーニング風景や走る姿を写真に収めるためだ。
まずは、ヒシアマ姉さんと併走する時の写真から撮る。
「うおりゃあああ!」
「ヒシアマ姉さん! 写真撮影! 写真撮影だからこれ!」
だが、火のついたヒシアマ姉さんが走る間にヒートアップしすぎて全力疾走しはじめた為、面倒な事に。
仕方がないので静止する為にヒシアマ姉さんを止めるしかないですね、ついでにお灸を据えないと。
そういうわけで私は追いかけたヒシアマ姉さんを捕まえると尻を揉んで鎮圧しました。
「ん……っ!? ば、ばか!? わかった! わかったから!? 尻から手を離せぇ!? 」
「ぜぇ……ぜぇ……全くもう何やってんですかー」
その戯れ合う写真をカメラマンは逃さずパシャりとしっかりと収める。
抜け目ない、流石はプロのカメラマン。
アシスタントの娘はなんだか悦に浸っているようでした。あれ? よく見たらあの髪色、アグデジちゃんなんじゃね?
それから次はナリタブライアン先輩との併走、ここは真面目な写真をしっかりと何枚かカメラに収めてもらう。
立ち姿を保ったままの姿や、勝負服で互いに見つめ合いながら駆ける姿など、色んな角度からさまざまな写真を撮ってもらいました。
そして、最後に私の単独写真。
もちろん水着を着た際に撮った写真もあるんですけど、シャツ姿の写真とかチャイナドレスを着た写真、メイド服を着た写真などを撮ります。
それから、練習着を着ての真剣な姿、トレーニングジムで筋力トレーニングに勤しむ姿などの日常的な写真を織り込みつつ、私の駆ける姿を中心に写真を撮ってもらいました。
ナリタブライアン先輩やヒシアマゾン先輩に協力してもらった写真集、出来上がりが楽しみですね。
ここまで苦労したんだから諭吉さんをたくさん稼いでもらわないと(ゲス顔)。
そのあとは私の破天荒さを載せたいということだったんでやきうのお姉ちゃんになったり不良の格好したり、なんかそんなバラエティ色が濃い写真をたくさん撮りました。
そんでもって今、写真撮影が終わりぐったりしているところです。
「あー、ちかれた……」
「おつかれアッフ」
そう言って、肩をポンと叩いてくるのはエアグルーヴ先輩。
今回の仕事はシンボリルドルフ会長の公認の仕事なので、直々にお願いされましたし、まあ、たづなさんが紹介してくる時点でそうなんですけどね、やらざる得ないですよね、やり切ってやりましたけど。
まあ、こうして無事に一仕事終えましたし、お小遣いもちょっと貰えたので、新しいシューズとか服とか買いましょうかね今度。
そんな事を考えながら生徒会室でお茶を啜る私、今日はついでに海外遠征の為の学校手続きも終わらせましたし、これで、ひと段落つきましたね。
すると、生徒会室の扉をノックする音が響く。
「すいませーん! アフちゃん居ますか?」
「ん?」
私の名前が挙がり、扉の方へと視線を向ける。
生徒会室の扉が開き現れたのは元気印の笑顔を浮かべている短い黒鹿毛の髪をした少女、スペピッピことスペシャルウィークさんでした。
私は首を傾げながら訪ねてきたスペシャルウィークさんにこう問いかける。
「スペピッピ、どうしたんですか?」
「名前がまた新しいのに!? あ、いや、それはいいんですけども……」
「後輩からスペピッピ呼びは良いのかお前……」
エアグルーヴ先輩からの冷静なツッコミ。
え? エアグルーヴ先輩もエアピッピって呼ばれたいんですか? うん、なんか空気抜けてるような名前だなそれ。
一方、スペシャルウィークさんは”可愛いから許します”と器のデカさを見せつけてきました。いやー、懐がデカイ先輩は違いますね。
え? 私は胸がデカイからおんなじようなもんだですって? やかましいわ!!
まあ、スペピッピの以前の呼び名が太腹ウィークさんとかお願いマッスルした方がいい先輩とかド天然記念物先輩とか呼んでましたからね私。
それに比べたらマシですよ、スペちゃんだから許された、スズカさんなら私、粛正されますからね。
皆さん胸に対する毒舌と弄りは用量を用法を守って正しくぶちかましましょう。お姉さんとの約束ですよ?
さて、話が逸れましたが要件を聞きましょうかね。
「どうされましたか?」
「うん! あのね! 私のダイエットを手伝って欲しいんだけど……」
ほう、ダイエットとな。
これは恐らく、昨晩、体重計に乗って悲鳴を上げたに違いありませんね、スペ先輩のお腹周りを摘んでみる。
うん、プニッてしてて柔らかかった、こりゃいかんぞ(白目)。
というか女の子として体重維持とか、そういう事にもうちょっと関心もって欲しいなぁ、私はホラ、環境が環境なんでそんな事気にしなくてもガリガリ削られちゃいますから逆に食えって言われます。
オグオグさん? あぁ、あの人は特殊です。体重増えない上に調整は自身でうまくできる人ですからね。
ご飯どこに行ってんだろ……。
「うーん……、私でよければ。……まあ、サイドチェストできるくらいにはなんとかできると思いますけど」
「そこまで望んでないんですけど!?」
私のまさかの返答にびっくりしたような声を上げるスペピッピ。
ゴリゴリマッチョなスペちゃん、うん、合成写真感が半端じゃない。まあ、早い話がアンタレスの練習すれば3日で20キロ位は軽く落ちるんですけどね。
仕方がない、ここは私が一肌脱ぎますか、ほんと最近脱いでばかりだな私。
こうして、今日から私とスペシャルウィークさんの肉体改造計画が始まるのでした。
まあ、海外に遠征行くまでの間だけなんですけどね。