遥かな、夢の11Rを見るために   作:パトラッシュS

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決着

 

 

 

 イギリスダービーはいよいよ、ラストスパートを迎えようとしていた。

 

 先頭はアラムシャー、2番手にダラカニ、そして、私という順番で進んでいる。

 

 人気のウマ娘が三人、先頭近く、これは最後までわからない。

 

 その距離は残り六百メートル。

 

 しかし、私の目の前には依然として2人のウマ娘が先頭を取り、私を簡単に前にいかせまいとしていた。

 

 先行で差すとはいえ、かなりのハイペースとなった今回のレース、体力の消耗も激しい。

 

 

(右ならッ!)

「甘いッ!」

 

 

 右に出ようとした私だったが、動きが読まれている。

 

 ダラカニさんは一筋縄ではいかない、しかも、私を警戒しながらも先頭を取ったアラムシャーさんを差す為の算段もあるようだ。

 

 もう4速、それでもまだ背中は遠い。

 

 距離は600を切り、400に差し掛かろうとしている。

 

 

「ならさらに外なら!」

「無駄無駄!」

 

 

 私の進路を読み、先に先にと先手を取ってくるダラカニさん。

 

 走りづらいったらない、抜け出すどころから並ばせないように巧妙に仕掛けてくる。

 

 流石は天才と言われるだけはある。

 

 私は苦々しい表情を浮かべた。ただただ苛立ちが募る。

 

 身体をうまくズラしてもついてくる、外へ外へと逃しても合わせてくる。

 

 私は隙があればと虎視眈々と抜くタイミングを伺っているが、単純にダラカニさんは上手い、付け入る隙というのを一切見せなかった。

 

 とはいえ、このまま走っていてもジリ貧になるのは間違い無いのだ。

 

 隙ができないなら強引にでも打ち破るしかない。

 

 私がただただ外ばかりに広がっていると思ったら大間違いだ。

 

 

「ぬぁぁぁ!! ここだぁ!」

「!? 何ですって!」

 

 

 外がダメなら、内から抉るべし! 

 

 すぐに気づいたダラカニさんが内を消そうとしてきますがもう遅い。

 

 内から抉るように加速した私はそのままダラカニさんを弾き飛ばす。

 

 ダラカニさんは表情を歪め、身体をぶらした。

 

 このロスを見落とすほど私は甘くはない、私はダラカニさんと並ぶ。

 

 

『今、ダラカニと並びましたアフトクラトラス! だが、先頭は依然としてアラムシャー! 距離は……400mに差し掛かる!』

 

 

 実況の声に盛り上がる観客席。

 

 デットヒートまでもうすぐ、そして、先頭は注目のウマ娘の三人。

 

 足の速さは先程よりも上がる、さあ、残りはどんどんと無くなる、どうする? 

 

 そんな期待を胸に抱き、皆が注目するのはダラカニでも、先頭を走るアラムシャーでもない。

 

 無理矢理、道を作った1人の日本から来たウマ娘、アフトクラトラスである。

 

 人気は2人よりもないが、そこが見えない気配があった。何かやってくれる、何か起こしてくれる、レースを見ていた観客達はアフトクラトラスが走る姿にそんな力強さを感じていた。

 

 だが、もう、400m、まず先手を取ったのはダラカニだった。

 

 

『ダラカニ! ここで加速! アラムシャーに迫る! 釣られてアフトクラトラスが上がる! だが間に合うのか! どうだ! 残り300m!」

 

 

 残り300m、それを聞いた私は腰を完全に落とし切り、速度のギアを上げる。

 

 5速、以前ならこれで一杯、そして、加えて地を這う走りをここで繰り出した。

 

 先程までの速度とは段違いの速さで一気にダラカニとアラムシャーとの間合いを詰める。

 

 この間とは全く違う、とダラカニは感じた。

 

 異様なまでの伸び、えげつない速さで間合いを詰められる力強さ、しかも、これは全力足りえてない。

 

 

『迫る! 魔王が迫る! 今! 日本が誇る魔王が世界を震撼させます! 地を這う怪物が並ぶ! 今並んだ! どうだ! これは! 押し切るか!』

 

 

 実況にも力が篭る、ダラカニもアラムシャーも並ぶ私を見て表情を歪めた。

 

 もはや、2人も一杯、だが、私はまだギアを5速しか入れてないのだ。

 

 まだ伸びる、伸ばせる、私の足はさらに加速する。小さな身体が二人のウマ娘を置いてきぼりにしたのは100mを切ったところだった。

 

 6速までギアを上げた。

 

 

「行かすか!」

「取らせないわ!」

 

 

 私に合わせるように速度を上げる二人。

 

 一杯にもかかわらず、そこから上げるなんて、やはり世界のウマ娘は違うなと笑みが溢れる。

 

 だが、差は次第に出てきた。速度を上げた二人も私の速度に驚きが隠せない。

 

 

「なっ……まだあがるのかッ!!」

「これ以上は……ッ!」

 

 

 自分達の限界値の上をさらに上回る速度。

 

 アフトクラトラスが叩き出すのはそんな度肝を抜く足の回転速度だ。

 

 一週間前とは全く別人、ダラカニは思わず唇を噛み切る。

 

 

「ふざけるなァ!」

 

 

 日本のウマ娘如きが、イギリスの伝統的なダービーを勝つ? 

 

 こんな事が許せるはずがない、いや、許せない、私のプライドが許さない。

 

 ダラカニは食らいつこうと足掻く、足がここで砕けても構わない、アフトクラトラスにだけはダービーを取らせてたまるか。

 

 そんな彼女に私は冷たい眼差しを向け、静かにこう告げる。

 

 

「お前は所詮、そのレベルだよ」

 

 

 その瞬間、ダラカニの表情が愕然としたものに変わった。同時に怒りが湧き出てきているようだった。

 

 それはそうだろう、アフトクラトラスは一度負かした相手だ。負けるなんて微塵も思わなかった。

 

 何故だ、なんで勝てない、一週間前、確かにこのウマ娘に私は勝ったのだ。

 

 そんなウマ娘が何故、私を見下している。

 

 私が何故コイツの後ろで走っているんだ、ふざけるな、こんな事が許せるか。

 

 

「アフトクラトラスゥ!」

 

 

 気がつけば恨みにも聞こえる声をダラカニは溢していた。

 

 お前さえいなければ、こんなレース、私が1着で勝てたのに。

 

 イギリスダービーという栄光を日本という国のウマ娘如きに奪われる。

 

 こんな屈辱はダラカニにとってありえない事だった。

 

 

「へっ! ざまみろ」

 

 

 二人をぶち抜いた私はダラカニに中指を立ててそのまま真っ直ぐにゴールを見据える。

 

 私は回転数を上げた足で地面を蹴り上げる力をさらに上げた。

 

 身体が軋みを上げる、だが、構わない、これでも私の一杯では無い。

 

 一気に加速した瞬間、観客席から大歓声がこだました。

 

 ある者は頭を押さえ絶叫し、目の前の信じられない光景に世界のウマ娘達も仰天した。

 

 

『アフトクラトラス! アフトクラトラス先頭! 信じられません! 信じられない! このウマ娘、どこまで強いのか! アラムシャーを抜き、世界のダラカニを引き離していきます!』

 

 

 世界の壁は高い、確かにそうだろう。

 

 だからぶち壊す力をつけてきた。死ぬ気で今まで義理母と走ってきた。

 

 無茶だと言われるトレーニングをずっとしてきたのは、全ては人外になる為だ。

 

 私はウマ娘という枠組みを既に外している異端児である。

 

 厳しいトレーニング、ありえないほどの練習量、それを経て、強者とは極みに達するのだ。

 

 ゴールをぶっちぎった私は力強く拳を上げる。

 

 その瞬間、観客席からは拍手と大歓声が木霊した。

 

 

『アフトクラトラス! 今、1着でゴールイン! 日本に続きイギリスのダービーまでも制覇! このウマ娘はどこまで強いのか!?』

 

 

 日本の第六天魔王、ここにあり! 

 

 実況からその言葉が木霊した結果、中継されているトレセン学園や日本のファン達はお祭り騒ぎになっていた。

 

 日英ダービー制覇、あの怪物の三冠目はなんと本場イギリスのダービーである。

 

 渋谷のスクランブル交差点では大騒ぎとなっていた。

 

 レースを終えた私はゆっくりと深呼吸をして呼吸を整える。

 

 走った足は燃えるように熱くなっていた。

 

 私の側にすぐにオカさんが駆け寄るようにやってくる。

 

 

「大丈夫か? アフ?」

「えぇ、なんとか……しかし、結構しんどかったですね」

「お前が7速まで行ったらとひやひやしたぞ……、調子はどうだ」

 

 

 私にそう言って、心配そうに問いかけてくるオカさん。

 

 ですが、そんなオカさんに対して私はサムズアップをしながら苦笑いを浮かべる。

 

 かなり神経をすり減らすレースでした、特に後半のダラカニさんとの駆け引きは一瞬迷いましたからね。

 

 6速に一気に切り替えて置き去りにするか、4速のまま、強引に並ぶか。

 

 私は今回、後者を選びました。いや、本当に後者を選んどいてよかった。

 

 そうでなければ最後の直線で7速を使わざる得なかったですからね。

 

 アフちゃんストライドとかふざけた名前つけてますけど本気で身体の負担がやばいんです。

 

 長ければ長いほど、余計に身体に負荷が掛かるので本当に7速は使いたくなかったんでね、6速で仕留め切れて助かった。

 

 そして、呼吸を整えている中、私を真っ直ぐダラカニさんが睨むように見てきました。

 

 しかし、彼女はすぐに視線を外し静かに立ち去っていきます。

 

 デイラミさんはそんなダラカニさんに近寄るとこう声を掛けていました。

 

 

「……お疲れ様」

「……帰る」

「……ウイニングライブは?」

 

 

 デイラミさんのその言葉にイライラが頂点に達していたダラカニは強い口調でこう話をし始めた。

 

 自分のプライドが許さなかった。

 

 日本のウマ娘にイギリスダービーを渡したという事実が、今まで見下していた日本のウマ娘という存在に負けた自分の至らなさが許せなかった。

 

 なら、やる事は一つだけだ、そいつらを倒せる力をつければ良い。

 

 

「そんなものやってる暇があるなら今から走るわ! ……次は誰にも負けないようにね!」

 

 

 苛立ちが篭っている口調だったが、ダラカニは認めていた。

 

 確かにアフトクラトラスは強かった。

 

 だからこそ、負けた事が何よりも悔しかった。一度負かした相手に負けるほど悔しいものはない。

 

 ダラカニはデイラミと共に会場をすぐに後にしてしまった。

 

 そんな中、レースが終わったと共に私の元へ皆さんが一気に駆け寄ってきました。

 

 

「アフ! よくやったな! おめでとう!」

「すげぇ……すげぇぞ! お前!」

「流石ね! アフちゃん!」

「特訓の甲斐があったな!」

 

 

 一週間でよくぞここまで、皆が口々にしたのはその言葉だった。

 

 海外のターフに順応するには時間がかかる。それを私は一週間で克服し、さらには、7速まで速度を上げるアフちゃんストライドを身につけるに至った。

 

 ギリギリのせめぎ合いもあり、ハラハラするレース展開だったが、蓋を開けてみればアフトクラトラスの順応力と本来の力強さを存分に発揮したレースになった。

 

 観客席からはプリティリトルレディーとか聞こえてますけど気のせいですね、リトルって私のことか? オォン!(汚い)。

 

 何はともあれ、こうして1着で勝てたのは嬉しい誤算ですね、えぇ。

 

 

「ところでさ? 海外のウイニングライブって英語で歌うんだけど、アフちゃん大丈夫?」

「……えっ……?」

 

 

 私はメジロドーベルさんのトンデモ発言にきょとんとする。

 

 いや、聞いてない聞いてない、え? 英語で歌うんですか? 私、トリリンガルマスコットとか言ってますけど、基本、日本の地方方言だけですからね。

 

 英語? フランス語? スペイン語? 

 

 え? 何それ、食べれんの? ってレベルですよ、そんなん勉強する訳ないですやん。

 

 こんな事は許されない、そうか、私は英語で歌わなきゃいけないのか。

 

 頑張って覚えよう、暗記すればワンチャン……。

 

 無理だよん、そんなんできへんよ! 

 

 

「ん? どうしたんだアフ?」

「あふっ!?」

 

 

 ナリタブライアンさんから肩を叩かれて思わず変な声が出ちゃいました。

 

 はっ! 思い出すんだ! 私! なんか日本人でも英語喋れないけどそれっぽい事言ってた人はたくさんいたはず! 

 

 ロバートとか! ルーとか! なんかその辺の人達! 

 

 いや、あかーん! あの人達の英語は英語じゃないから! 

 

 これはおもろい! 傑作や! 学食食い過ぎた! とか言ってる人の英語とか本場の人に通用するわけがない。

 

 学食食い過ぎたってなんもおもろないやんけ。

 

 そんな感じで私はウイニングライブに臨む事になりました。

 

 な、なんとかしないと、足が震えてきやがった。誰か、たちけて……。

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