イギリスダービーからしばらくして。
私はいつものようにトレーニングをし、来るべきキングジョージと凱旋門に向けての準備を着実に行っていた。
相変わらず義理母の扱きは容赦ないです。7速を使いこなせるようにしないといけないのは理解してますが、さらにハードになった気がするなぁ。
「ぬふぅー……足が痛いよー、ヒシアマ姉さんにセクハラしたいよー、お風呂入りたいよー」
私はグデーとしながら、ベットに倒れる。
きついから仕方ないね、私はなんにも悪くない。むしろ頑張ってるから褒めてたも。
尻尾をふりふりしながら、ベットに横になる私は深いため息を吐く。身体の疲労はかなりきてますしね。
姉弟子はあれです、あの人はサイボーグなんでいくら練習しても大丈夫なんですよ。
私はポンコツマスコットなのでこの通りです。あふん。
「頑張るしかないな、よし、またランニング行くか!」
そうして、私はベットから跳ね起きるとランニングウェアに着替える。
とりあえず、イギリスの島一周目指して頑張ろう! 無理だけど!
そうして、外に出ようとした私でしたが、扉を開けて泊まっているホテルの角を曲がろうとした時でした。
「あいたっ!」
「おうふ」
角で見知らぬウマ娘と衝突してしまいました。
なんか、ポヨンって今なったけど、見なかった事にしてください。…そうだよ、私の胸が弾んだ音だよ! 悪いか!
おかげで怪我は無かったんですけど、見知らぬウマ娘を胸で押し倒してしまいました。
すまぬ、私が悪いんじゃないんだ、無駄に育ったこの胸が悪いんだ。
「だ、大丈夫ですか?」
「……は、はい、すごく柔らかかったので……」
「そうか……、柔らかかったですか」
その返答に私はなんとも言えない表情になる。
見知らぬウマ娘、ポニーテールの荒々しい鹿毛の髪に澄んだ瑠璃色の瞳、そして、気の強そうな目つきをしたそのウマ娘は私を見上げるようにして差し伸べた手を掴む。
そして、顔を上げて私の顔を見た途端に彼女は目を輝かせると、ガシッと手をつかんできました。
な、何事じゃ! 討ち入りか!?
私はあまりの出来事に思わず焦りました。え? えっ? なんで両手で手を握られてるの私。
「あ、アフちゃん先輩じゃないですか!! まさかこんなところで会えるなんて!?」
「ほわぁ!?」
「わ、わわ! 感動的です!! いつもアフチャンネル見てます! うわぁ、手があったかいなぁ」
なんだこいつ! メジロドーベルさんと同じ匂いがしますよ!
ふわぁ!? またド変態が増えたのか!(酷い)。あ、そうだ(唐突)警察に連絡しよう(確信)。
もう私の周り、なんか変なウマ娘の包囲網ができてるんですってば!
いや、嬉しいのは嬉しいんですけどね、そんな熱い眼差しを向けないで、私溶けちゃう、真夏のアイスクリームみたいになっちゃう。
そんな中、私の手をつかんでいるウマ娘の背後から聞き覚えのあるお嬢様の声が聞こえてきた。
「もう! ドゥラメンテ! 勝手に散策しては駄目だと……あら?」
「あ、ヤンキー先輩だ」
「誰がヤンキーですの!?」
そう言って、顔を見た途端の私の第一声がヤンキー先輩というかなり失礼な言葉を浴びせるこの人。
みんな大好きメジロマックイーン先輩、その人である。
いや、ヤンキーなのは、私、間違ってないと思うんですよ、はい。
だってあれじゃん、イギリスダービー観に来てたの私知ってますし。
しかも、お隣にズッ友のサンデーサイレンスとかいうとんでもヤンキー連れてたじゃないですか、貴女。
「いや、それは……、あの娘がですね……」
「いやもう無理ですって、この間、貴女のとこのトレーナーから貴女からロメロスペシャルされたって聞きましたから」
「もぉおお!! なんで余計なことを話すんですのぉ!」
そう言って、頭を抱えるメジロマックイーン先輩。
しかも、貴女、この間、特攻服買ったじゃないですか、変装してて、バレないとでも思ったんですかね? いや、私、普通にわかりましたよ、周りにいた皆さんもですけど。
そんな、まだある突っ込みを言うべきか言わないべきか迷いましたけど、これ以上、刺激すると腹パンされそうだからやめときました。
私はまだ死にとうない、はいはい、お嬢様お嬢様(煽る)。
さて、話は戻るんですけども……。
「えっ!? 貴女、ドゥラメンテなんですか!!」
「ん? あ、はい、そうですよー」
そう言いながら、私の手をスリスリしてヘブン状態になっているドゥラメンテちゃん。
いや、もう離しなさいよ、なんでそんなに嬉しそうにいつまでもスリスリしてるんですか。
私はとりあえずジト目を向けながら手を離すと、ドゥラメンテちゃんはあっ、と声をこぼして名残り惜しむような目を向けてくる。
そんな目をしても駄目なものは駄目です。
「……それで、マックイーンさんはわかるんですけど貴女が何故ここに……」
「それは……」
「はい! 私がマックイーンさんにお願いして連れてきて貰いました!」
そう言って、元気はつらつに手を挙げて答えるドゥラメンテちゃん。
うん、可愛いけど、なんだこいつあざといぞ。
え? 私もあざといですって? うるせぇ! ちくわでぶんなぐるぞ!
まあ、可愛いということですね、後輩って属性はズルイと思います。あ、私もついてましたね後輩属性(今更)。
私に先輩(ハート)と呼ばれたい人、手をあげてください、呼んで差し上げましょう。
私の場合、その後、アイス奢れ(真顔)とせびるまでがテンプレですけどね。
「そうでしたか、また、私のレースを見たいなんて変わってますね?」
「ウイニングライブもバッチリです! 今までの全部見てます! 10回以上見直しました!」
「黒歴史を頭に焼きつけとるんかい!」
私は思わず頭を抱えた。
中学生の時、あいたたたたなノートをクラスメイトの目の前で音読される気分、翌日学校に来れなくなりますよね普通。
ふと今までのウイニングライブを振り返れば、ほら、私のウイニングライブってまともなの何にもないんですよ、ねーよそんなもん。
うまぴょい伝説をブライアン先輩と歌った時くらいしか記憶に無いです。
ブライアン先輩のうまぴょいは可愛かった(こなみ)。
普段あんなんだからギャップがね、ルドルフ会長もするからびっくり、普段のキャラ考えなさいよと私は思いました。
そうルドルフ会長本人にからかい半分で言ったらタンコブができました。やっぱり恥ずかしかったんやなって。
まあ、話を戻しましょうか。
「私、全部好きです! アフちゃん先輩の下着も買ったんですよ!」
「ぬあー! それ! 私のパンツ! どこから出回ったんですかそれー!」
消えた私のパンツの一つを何故かドゥラメンテちゃんが持っていたという七不思議。
それと、ついでにブラジャーも持っていたらしい、どこの誰だ! こんな事をしたのは!
まあ! 私もヒシアマゾン先輩のパンツをオークションにかけたから人の事言えないんだけどね!
あんな馬鹿げた値段するパンツなら大英博物館に展示されてそう(こなみ)。
いや、今はそんな事はどうでもいい!(酷い)。
私の水色の花柄が入ったパンツがドゥラメンテちゃんの手にある事が問題なんです。
ホテルの廊下で普段、履いてるパンツを開示される事ほど恥ずかしいものはないですよ。
「と、とりあえずしまって! それ!」
「ふーん、貴女そんなの履くのね」
「見るなぁ! この! ……えい! 貴女もそんな大したパンツ履いてないじゃないですか!」
「きゃああああ! なんでスカートを捲ってるんですか貴女はぁ!」
そう言って、ドゥラメンテちゃんが持っていた私のパンツを観察していたメジロマックイーンさんのスカートを捲る私。
パンツを見ていいのは見せる覚悟のあるやつだけだ(意味深)。
誰だこんな変態みたいな名言作ったやつ、剣で心臓ぶっ刺されてしまえ。
ちなみにマックイーンさんのパンツは黒でした。頑張った感がある黒でしたね。
「はぁ……はぁ……、あぁ、なんか疲れた」
「……もう……貴女は……本当に……!」
顔を真っ赤にしながら息を切らせる私とマックイーンさん。
一方、元凶のドゥラメンテちゃんはケロっとしている。こいつはいつか大物になるで、間違いない。
とりあえずランニングウェアを着直した私はコホンと咳払いするとドゥラメンテちゃんにこう告げる。
「私は今からランニングがありますから、とりあえず部屋に帰りなさい」
「ら、ランニングですか!?」
「おい、私のパンツをグシャっとすんな!! それ早く仕舞いなさい!」
そう言って、何故かランニングと聞くだけで力を込めて私のパンツをグシャっとするドゥラメンテちゃんに声を上げる。
そう言われたドゥラメンテちゃんはポケットに私のパンツを仕舞うと改めて私に向き直る。
何事もないように私のパンツをよくポケットに仕舞えるなと思う、普通さ、返すじゃん?
あ、そのパンツ、もう君にあげるよ、もうどうでもいいや。
ドゥラメンテちゃんはしばらくして目をキラキラさせたまま、私にこう言い迫ってきた。
「私も是非お供します! いえ! させてください!」
「お……おう、別に構いませんけど……」
「やったー!」
そう言って、ぴょんぴょんとその場で喜びをあらわにするドゥラメンテちゃん。
貴女の背後見てみなよ、マックイーンさんゲンナリしてるよ、疲れたみたいになってます。
全く誰のせいだ、こんな酷い事になったのは。
あ、私が、マックイーンさんのスカートを捲ったのも一因だって? はい、否定できませんね、スカートで私の前に立つのが悪いです。
大丈夫、私も良くされますから、しばらくしたら慣れます。
最近、アフちゃんセクハラ慣れしたねって巷で良く言われてるんで。
慣れたら駄目なんですけどね普通。
「よーし! なら、アフちゃん先輩! ちょっと待っててください! 弟子一号! ドゥラメンテ! 行きます!」
「なんか君、帝◯魂も付いてきた?」
恐ろしい自称弟子が出てきたものだと私は思った。
あかん、私に憧れる後輩がまともなはずがなかった。
いや、私がまともじゃないからな、そりゃそうなるな、当たり前だよ。
ルドルフ会長! 何故、彼女を止めなかったんですか! あいつはヤベーからやめとけって!
そして、付け加えるなら入ってるチームも頭のネジぶっ飛んでる人達だぞって言っておいてくださいよ!
ライスシャワー先輩も、姉弟子、タキオン先輩、バクシンオー先輩、バンブー先輩、メイセイオペラ先輩、ナカヤマフェスタ先輩と私を含めまともな先輩誰もいないんだぞって!(酷い)。
え? ドゥラメンテちゃんもその部類に入るから問題ないって話、もしかして。
「よし行きましょう!」
「………………」
ランニングウェアに意気揚々と着替えてきたドゥラメンテちゃんを前にして私はなんも言えなくなってしまった。
だって目がめっちゃキラキラしてるもの、助けを求めるようにマックイーン先輩に視線を送ると、何故か親指で首切る仕草をされた後、下に向けられました。
そして、私に向かって中指立てて立ち去ってしまいます。あの人、本当にお嬢様ですか?
そういうわけで、私はこのドゥラメンテちゃんとランニングに行く事に。
尻尾をぶんぶんと横に振り目をキラキラさせているドゥラメンテちゃんを横目に見ながら私はクソでかいため息を吐くしかありませんでした。