私の弟子を自称するウマ娘、ドゥラメンテ。
まあ、皆さんはもうご存知かも知れませんね、かのキタサンブラックを二度も負かした怪物、それがこの娘です。
私はいま、そんな娘と共にランニングをしている最中です。
まあ、軽く汗流す時もあっても良いと思うんでね。
「アフちゃん先輩! ダービーもそうなんですけど! 朝日杯や皐月賞での激走は本当に凄くて!」
「うん、……あ、うん、そ、そうだね」
苦笑いを浮かべながら熱弁する彼女に若干、引く私。
いやね? わかるんですよ、何というか戸惑いの方が強いといいますかね?
うん、でもなるほど、この娘はなかなかクセが強いですね、だから私なのか、納得しちゃいましたよ。
「アフちゃん先輩?」
「ん?」
「ところで、私達、今どこ走ってるんですかね」
そう言いながら、ドゥラメンテちゃんはわざとらしくおでこに手を当てたままキョロキョロと辺りを見渡す。
ん? どこ走ってるかですって?
そんなん私が知るわけないやん、その証拠にさっきから変な冷や汗が出てますからね。
うん、そうです、道に迷いました。
「うーんこの……」
「ほぇ? ……どうしたんです?」
「いや、我ながら自分のポンコツ具合を今更思い出しまして」
そうでしたね、私ポンコツでしたわ。
自分で言うのもなんですけどね、まあでも、走ってきた道戻れば良いからへーきへーき!
そんな中、ドゥラメンテちゃんは目をキラキラさせながら私を見つめてきます。
「アフちゃん先輩! そんなとこも可愛いです!」
「どこがやねん!」
うん、なんかズレてますねこの娘も。
アッフは思う、なんで私の周りはこんな感じのウマ娘しかいないんだろうと。
みんなトレセン学園のウマ娘は基本どっか大事なネジが外れてるウマ娘ばっかりなんですよね、だから強いんでしょうけど。
「迷子とかいつ以来だろう」
「アフちゃん先輩ご安心を! なんとスマートフォン! 私持ってきてるんで!」
「おぉ! でかしました!」
なんだこの娘、使える娘ではないですか。
ふむ、よろしい、ならば私のそばで弟子になるのを良しとしましょう!
え? 私の方が使えないって? なんだこのやろう。
あーでも、姉弟子もこんな感じなんでしょうかね? うーん、気持ちがわかるなー、妹ができたみたいな。
長女、姉弟子、次女、私、三女、ドゥラちゃん。
……なんだこの三姉妹、癖しかないぞ。
「アフちゃん先輩! わかりました! 現在地!」
「どれどれ……? ……英語表記でよくわかりませんが、なるほど、私達の居る場所はここらへんなんですね」
なるほどわかりませんがわかりました。
私、英語を勉強した方がよろしいですね、間違い無いわ、だって、ドーベルさんがいないとわけわかめなんだもの。
ついに本当の意味で私もトリリンガルマスコットになるのかー、感慨深いですね、まだ勉強の『べ』もしてませんけども。
となりにいるドゥラメンテちゃんはなんだか楽しそうだ、だって尻尾ぶんぶん振ってるもの。
「じゃあ、帰り道もわかったことですし! 早く戻りましょう!」
「せやな」
サンキュードゥッラ。
こうして道に迷った私はドゥラメンテちゃんをあてにして、帰ることにしました。
迷子とかいつ以来だろうね、うん。
私がランニングしながらそんなことを考えているとドゥラメンテちゃんはこんな質問を私に投げかけはじめる。
「アフちゃん先輩、あの……質問があるんですけど」
「ほえ? また改まってなんです?」
ドゥラメンテちゃんに首を傾げながらそう問いかける私。
なんだろう質問って、私に答えられるのなんてやばい筋トレのやり方とか頭おかしくなるトレーニングとか、後、身体の絞り方くらいですけど。
あ、それとヒシアマ姉さんの下着の種類と、知り合いのウマ娘のバストサイズくらいかな?
全然使い物にならん知識ばかりじゃないですか、なんてこった。
「じ、実は……その……どうやったらアフちゃん先輩みたいになれるのかなって……」
「え? 私みたいになりたいの?」
そう言いながら、モジモジするドゥラメンテちゃん。
そうだなー、私みたいになりたいのかー、いやー、ロクな事にならんぞ絶対。
ルドルフ会長からは怒られるし、公衆の面前でコスプレさせられるし、胸はしょっちゅう揉まれるし、セクハラされるし、アホみたいなトレーニングを毎日しなきゃならんし。
ブライアン先輩にしといた方が良い気がするんですけどね、なぜよりにもよって私なのだ。
……まあ、なりたいと思うのは自由なので、そうですね、強いて言えば。
「そうですねー、まず手始めにルドルフ会長に面と向かってお尻弱そうって言うところからですね」
「な、なるほど、それに一体どんな意味が……」
「死を覚悟する度胸がつきます」
私でもあんまり言わないような事を後輩に教えると言うね。
ドゥラメンテちゃんからもお尻が弱いなんて言われたらルドルフ会長、いよいよ泣きますよ。
いや、この場合、私に飛び火するのか、またお説教かぁ、壊れるなぁ。
「なるほど! 度胸がついて勝負強くなるわけですね!」
「そういう事ですね、流石、弟子一号」
そんなわけないです。度胸は確かにつきますけどね。
まあ、肝っ玉が太くなるって意味では間違ってないとは思いますけど、ただし、学校からは問題児認定されますよ、間違いなくね。
私なんて異端児なんて呼ばれてますからね、麒麟児の間違いでは?
まあ、冗談はこの辺にしておきましょうかね。
「まあ、真面目な話をしますが、……単純に強いウマ娘になりたいって事ですか?」
「……ぁ……は、はい、もちろんそれもですけど……」
しばらくペースを上げて走っていた私はそう問いかけるとタオルで汗を拭いながら、ゆっくりと足を止める。
強いウマ娘になりたい、というのであれば正直、私である必要はない。
それこそ、単純に強いというウマ娘ならば、トレセン学園にもたくさんの凄まじい実績を持ったウマ娘は山ほどいる。
ルドルフ会長もG1を7勝してますからね、本来なら私みたいな事を言っちゃダメな人なんですよ、私はもう振り切っちゃってますけどね。
「……単に強くなりたいならば、チームリギルが良いでしょう。わざわざアンタレスに来る事はありません」
「!!? ……ち! 違います! もちろん強くなりたいですけど! 私が憧れているのはアフちゃん先輩で……」
ドゥラメンテちゃんは慌てた様子で私にそう告げます。
しかしながら、ドゥラメンテちゃんには才能がある。アンタレスでなくてもそれはきっと開花するはずだ。
私に憧れる、ということが一体どんな意味なのか、できれば、可愛い後輩に悲しく苦しい思いはして欲しくないというのが私の本心だ。
「……地獄を見ることになりますよ? ウマ娘としてのタガを外す覚悟は貴女にあるんですか?」
要するに、やれんのか! オイ! って事です。
まあ、こればかりは私もなんも言えません、結局は本人次第なんですよね。
強くなるために、死ぬ覚悟を決めれるのか、アンタレスの皆様は既に覚悟を決めてる方ばかりですからね。
「……も、もちろんですっ!!」
「ふむ……なら、義理母にまずは練習をつけてもらいなさい、話はそれからです」
私はそう告げると再び足を動かし、ドゥラメンテと共にホテルに戻るように走ります。
何日もつか見ものですね、入門だけでもかなりの実力を持ったウマ娘ですら絶叫するというのに。
何にせよ、ドゥラメンテちゃんが潰れてしまわないようにしなくてはいけませんね。
「なら! それさえクリアしたら良いんですね! わっかりました! なら、アフちゃん先輩! もし私がクリアしたらハグしてください!」
「は?」
私はドゥラメンテちゃんの言葉に思わずポカンとしてしまう。
え? ハグ? ハグってあのハグですよね?
なんでどうしてそうなったんでしょう? おっかしーなー、私さっきまで真面目な話をしてたつもりだったんですけどね。
「は、ハグ?」
「はい! アフちゃん先輩をハグして寝るとすごく良いって聞きました!」
え? それって、ハグして寝てって言っとるんか?
嘘やろ! そんなん聞いてない! てか誰ですかまた余計なことを吹き込んだ人は!!
白いウマ娘かブライアン先輩か……、言っても心当たりが多すぎて困るんですけど。
「あ! 後アフちゃん先輩!」
「次はなんです?」
「充電切れました!」
「うっそだろお前!!」
ハグの次は地図が無くなったぞ! 私の脳処理が追いつかない! なんですかこの展開は!
ランニングの前に私のパンツは一つなくなり、そして、ハグはせびられ、道に迷って見ていた地図が消えました。
そして、挙句に私達は迷える子羊となったのです。ウマ娘だけど。
「でも方向的には多分あっちであってます」
「雑ゥ!」
絶対、めんどくさいからこっちで合ってるやろ、みたいな感じで言ってますよこの娘。
雑スギィ! なんだろう姿が重なるぞ! 一体どんな奴に……あ、私だったわ。
なんだ、この娘も似たもの同士か、ナカーマ。
というわけで無事にホテルに帰ることができました。通話するものは今度から海外の外に出る時には持ち歩こうと思います。
ほら、スラム街とか、治安が良い場所だけとは限りませんからね。
「帰ったらトレーニングです。死ぬ気でやりなさい、いや、死ぬけど、物理的に」
「はい! 師匠!」
私の言葉に元気よく答えるドゥラメンテちゃん。
素直な娘って可愛いですよね、え? 私は捻くれすぎですって? 否定できないんだなこれが。
でも、皆さんの事が好きなのは本当ですよ? 感謝してます。本当ですよ? 嘘じゃないですからね? ね?
まあ、なんにしろ、この娘の成長が楽しみです。
私も……いつまで元気に走る事ができるかわかりませんからね。
こうして、憧れてくれる後輩ができるだけでも嬉しいです。