遥かな、夢の11Rを見るために   作:パトラッシュS

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海外での生活

 

 凱旋門の道へ。

 

 海外遠征をしている私は徹底的に海外仕様に身体を鍛え抜きました。

 

 まずは、芝に慣れるというのが第一、そして、その次に、私が取り組んだのはフォームの改善です。

 

 身体に負担が掛かる走りを少しでも軽減する為に、これにも精力的に取り組みました。

 

 万全な状態で全力で戦う土台を作る。これこそが、厳しい海外のスケジュールと日本の最後の一冠、菊花賞を取るために必要だと思ったからです。

 

 そして、来るべきキングジョージを獲るためにギアの切り替えにも取り組みました。

 

 

「身体の軸をもう少し重点的に鍛えるべきだな」

「……はい!」

 

 

 トレーニングトレーナーのオカさんの指導の元、私は体幹の改造により力を入れました。

 

 姿勢を低くする私の地を這う走りは身体全体に負担がのしかかります。それを軽減するにはやはり、丈夫な体幹による中和が必要だとオカさんは教えてくれました。

 

 後はギアですね、足のギアをどれだけ高いレベルに引き上げる事ができるかという点です。

 

 私がやるべき走りは理解しています。

 

 

「タイムは上々、うむ、これなら問題なかろう」

「はぁ……はぁ……」

 

 

 もはや、トップアスリートとして、私の名は日本だけで無く、世界でも広まっています。

 

 妥協は許されません、私にはその責任がある……みたいです。

 

 まあ、私は私が走りたいから走るだけなんですけどね、責任とか、期待だとか他人の評価だとかはどうだって良いです。

 

 ただ、目的は一つ、誰にも負けたくない、それだけです。

 

 

「様になって来たな」

「えぇ、遠山さん、だいぶ良くなってきましたよこれは楽しみです」

 

 

 トレーナーの二人はそう満足げに話をする。

 

 教えるべきは全て授けた。後はアフトクラトラス次第、ここからの境地は二人も目の当たりにしたことがない領域に成長しつつある。

 

 海外の一流のウマ娘に一切引けを取らない完璧な強さ、もう、その領域にアフトクラトラスは至りつつあった。

 

 

「……何というか、寂しいものですね」

「嬉しい反面、ですね……」

「これならキングジョージは問題なく勝てるかと……、ただ」

「鬼門は凱旋門か……」

 

 

 義理母は顔を険しくして、オカさんの言葉に耳を傾ける。

 

 凱旋門賞、それは実力を持つ化け物達が集う頂点を証明するためのレースと言っても過言ではない。

 

 アフトクラトラスの実力に疑いようはない、きっと勝つ、そう思ってはいる。

 

 だが、凱旋門賞はそんなに甘いレースではない。

 

 何故ならば、未だ、日本のウマ娘が凱旋門を勝った事が無いからである。

 

 

「……日本からは、ミルファクからあのシンボリクリスエスが出てくるそうだ」

「ハイシャパラルも変わりなく出る予定ですね、それとダラカニ……、……ハードなレースになるでしょうきっと」

 

 

 オカさんの言葉に静かに頷く義理母。

 

 タフなレースになる。それこそ、アフトクラトラスは全力を尽くさねばならないだろう。

 

 きっと7速を使わざる得ない、いや、それを使わずして勝てるような連中ではない。

 

 

「……キングジョージ次第で最悪、凱旋門は棄権を視野に入れておこう……。でなければ」

「アフトクラトラスが壊れる危険性がありますか」

 

 

 義理母はオカさんの言葉に沈黙した。それは、暗に肯定しているという事である。

 

 長年、トレーナーをしていて気づかないわけがなかった。アフトクラトラスが抱えているものに。

 

 何かしら、身体に異変をきたしつつある。確実だが、それはアフトクラトラスの身体を蝕みつつあった。

 

 出来るだけ負担を減らすようにはしてはいるが、こればかりは完治をさせる事は厳しいと言わざる得ない。

 

 

「足……と心臓か……、負担が来てるみたいですね」

「無理に休ませるとコンディションが崩れてしまうからな、……難しいとこだ」

 

 

 私の走る姿を見ながらそう呟く義理母。

 

 適度に負担がかからないように無理なトレーニングはできるだけ避けつつしてはいるが、こればかりは二人は医師ではないため、詳細はわからない。

 

 

「なんにしろ、まずはキングジョージから……だ」

 

 

 義理母は数日後に控えたレースについてオカさんに告げる。

 

 アフトクラトラスの限界値、7速はまだ目の当たりにはしていない。

 

 だが、イギリスダービーで見せたまるで日本刀のような切り裂くような追い上げは鳥肌が立つような凄まじい走りであった。

 

 

「ぬーん」

「うわ!? アフ先輩身体柔らかすぎ!」

 

 

 トレーニングを終えてストレッチをする私に驚いたように声を上げるドゥラちゃん。

 

 私のストレッチ見ると毎回、同じ感想が出るんですよねー、股割りしたらこんくらいできるよドゥラちゃん。

 

 ペターンとストレッチを続ける私にドゥラちゃんは目をキラキラさせる。そんな中、私達に近づいてくるシャドーロールの怪物さんが……。

 

 

「ようアフ、ん? 見かけない顔だな?」

「あ、ブライアン先輩」

「どうも」

 

 

 そう言いながら、ニコニコと笑顔を見せて、ナリタブライアン先輩に軽く会釈するドゥラちゃん。

 

 おや? 顔合わせはこれが初めてでしたっけ? 

 

 にぱっと笑顔を浮かべたドゥラちゃんはブライアン先輩に敬礼しながら元気よく自己紹介を始める。

 

 

「はじめまして! 私ドゥラメンテって言います! アフちゃん先輩の一番弟子です!」

「何? アフお前、いつの間に弟子など……」

「なんかできちゃいました」

 

 

 私はブライアン先輩にさも当然かのように告げる。

 

 できちゃったものは仕方ない、うん、なんかできちゃったんだもん、子供ができちゃったみたいなノリみたいな感じですけど。

 

 元気よくて可愛くて良い娘でしょう? そして、あざといですからね、この娘。

 

 

「あ、お近づきの印に……」

「お、なんだ? 名刺か?」

「いえ、メイド服着たアフちゃん先輩の写真です」

「ちょっと待てぇ!? なんでそんなもの持ってるんですかぁ!?」

 

 

 私のメイド服の写真だと! それ、学園祭とレースの時にたこ焼き売って回った時に着てたやつじゃないですか! 

 

 てか、なんで持ってるんですか? え? おかしいですよね! 

 

 しかも、胸がパッツンパッツンな奴だから、これ胸のボタンが吹き飛んだときのメイド服だ! 

 

 なお、それを受け取ったブライアン先輩、さりげなく胸元に仕舞った模様。

 

 

「うん、良い後輩だな」

「えへん!」

「えへんじゃないが」

 

 

 本人の目の前で本人の恥ずかしい写真をなんの躊躇なく取り引きするこの人達はなんなんでしょうね。

 

 ドゥラちゃん、そこは胸張るとこじゃないです、はい。

 

 あと、ブライアン先輩、ホクホクしたような顔しないでください。

 

 さて、そんなやりとりはさて置き、トレーニングの続きをしなくてはですね。

 

 私は軽く腕を伸ばしながら、ブライアン先輩にこう告げる。

 

 

「今日の併走はペースを上げてください」

「ん? 構わんが大丈夫なのか?」

「えぇ、キングジョージも近いですからね、最終調整に向けての追い込みです」

 

 

 私はブライアン先輩に問題ないと言い切る。

 

 なりふり構ってられませんからね、がんばるぞ、フンスフンス! 

 

 とりあえず、やれる調整はやっておかないと、相手が相手ですし、油断は一切できません。

 

 ワイヤーで綱渡りしてるようなもんですよ、私より強いウマ娘はまだたくさん海外には居るでしょうからね。

 

 すぐに追い抜いてやりますけども。

 

 それからはブライアン先輩と付きっきりで併走トレーニングに勤しみました。

 

 やっぱりブライアン先輩は強いですね、うん。

 

 ブライアン先輩も8月に海外G1レースに出るみたいなので一石二鳥というわけですよ。

 

 

「ブライアン先輩はインターナショナルSでしたよね」

「あぁ、強敵とされるウマ娘も出るレースだな」

 

 

 私は併走しながら、冷静な口調でブライアン先輩と話をする。

 

 一筋縄ではいかないレースになる事は間違いない。

 

 ブライアン先輩は肩を竦めながら、何事もないかのようにこう話を続ける。

 

 

「それくらいは覚悟の上だ。だから外に来た、強いウマ娘を倒すためにな」

「私についてくる方便だとばかり思ってましたけど」

「まあ、2割ほどそれもある、が、そうでなくても私は海を渡っていたさ」

 

 

 そう言って、フッと軽く笑みを浮かべるブライアン先輩、本当かいな。

 

 私は疑いのジト目をブライアン先輩に向ける。まあ、疑っても仕方ないんだけども。

 

 あ、私は海外においても相変わらずブライアン先輩のぬいぐるみです。もう私を卒業して欲しいんだけどなぁ、そろそろ。

 

 

「相手に不足なしだ、派手に勝ってやるから心配するな」

「まあ、前哨戦は私が勝ってきてあげますよ」

「ははっ、言うようになったじゃないか」

 

 

 私の返答にご機嫌なブライアン先輩。

 

 先輩のレース前に景気付けって大切ですからね、その前にブライアン先輩は重賞レースが控えてるんですけども。

 

 ブライアン先輩の実力なら問題ないでしょう、だって日本が誇るシャドーロールの怪物ですよ? 余裕余裕! ……多分。

 

 

 それから、私はキングジョージに向けての最終調整を来るべき日に向けて徹底的に行いました。

 

 時にアフチャンネルで告知したり、トレーニングしたり、アフチャンネルであざとい集客告知を挟んだり、トレーニングしたり、アフチャンネルで皆さんに媚びうったりしましたけどなんの問題もありません。

 

 みんな喜んでるから良いんです、無用な詮索は無しです良いね? 

 

 こうして、私は日々逞しく、厳しい海外の地で順調に適応していくのでした。

 

 

 適応って言うと、なんか爬虫類みたいで変な気分なんですけどね。

 

 そして、練習終わりには可愛い弟子がニコニコしながらタオルを嬉しそうに持ってきてくれます。

 

 

「はい! 師匠! タオルです!」

「あ、ありがとう、ドゥラちゃん」

 

 

 ドゥラちゃんに渡されたタオルで汗を拭う私。

 

 そんな中、こんなあざとい後輩をこの人が見逃すはずが無いですね? 

 

 はい、笑みを浮かべてますが目が笑っていないメジロドーベルさんがスポーツ飲料を片手に持って登場です。

 

 なんかピリピリしてますよ? あっれー? おかしいなぁ。

 

 

「あらあら、そこに居るちんちくりんなウマ娘は誰かしらね?」

「え? アフちゃん先輩のことですか?」

「あのさぁ……」

 

 

 確かにちんちくりんとは言われますけども、飛んできた弾を華麗に私に直撃させるとはこの娘、図太過ぎィ! 

 

 ちんちくりんとは失礼な! 私、こうみえてもダービーウマ娘なんですよ! しかも、日英のね! 

 

 え? でも根本は変わらない? 

 

 

「違うわよ! アフちゃんじゃなくて貴方よ貴女!」

「ほぇ?」

「ほぇ、……ってドゥラちゃん……」

 

 

 可愛い、こいつキョトンとして首傾げてやがる。絶対狙ってやってるでしょう! この娘! 

 

 メジロドーベルさんはご立腹。

 

 それはそうだ、私にちんちくりんなんて言い切るなんて大したもんですよ、私のことを理解してるドーベルさんのナックルパートが飛んできますよ! 

 

 

「アフちゃんはね! ちんちくりんじゃなくてちょっとお馬鹿でアホなだけなの!」

「ちょっと、なんのフォローにもなって無いんですがそれは……」

 

 

 ぐふぅ! アゾット剣で背中を刺された! おのれマーボー! 謀ったな! 愉悦じゃねぇよアホちん! 

 

 メジロドーベルさんの無情な一撃に吐血しそうになる私、まさか、上乗せされるなんて誰が予想できようか。

 

 そんな中、ドゥラちゃんはドーベルさんの言葉に納得したようにポンと手を叩く。

 

 

「あぁ! なるほど! アフちゃん先輩は全部知識がおっぱいにいっちゃったんですね! 納得です!」

「そうよ!」

「なんて納得の仕方をしてるんですか! そうよ! じゃないです!」

 

 

 二言返事で何返してるんですか! ドーベルさん! 

 

 あれ? 私、サンドバッグなってないですか? 大丈夫? メンタルがボコボコにされてる気がするんですけど。

 

 最近、頑張って英語覚えてるんですけど、最近覚えた英語はふぁっきゅーって英語なんですけどね、使いどきはわかります、今です。

 

 I'm gonna fuckin' kill you!! 

 

 汚ねぇ英語を最近覚えてどうすんだって話なんですけどね。

 

 こいつらなんてファッカー共だ、とんでもないぜ。

 

 あ、私も含まれます? さいですか……。

 

 こうして、何やら二人はどうやらレースでケリをつける事になりました。

 

 その間の私に対するメンタルダメージはどうしてくれようか……本当に。

 

 これが、動画配信者になってしまった者の末路ですか、悲しいなぁ……。


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