遥かな、夢の11Rを見るために   作:パトラッシュS

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あけましておめでとうございます。今年一発目の投稿です。


KGVI & QES

 

 

 キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス。

 

 名誉あるこのレースの格付けは最高格のG1に序されている。イギリス国内の平地競走としてはダービー、チャンピオンステークスに次いで、125万ポンドを出す高額賞金競走で、ヨーロッパを代表する中長距離の競走のひとつである。

 

 中長距離の競走としては一流ウマ娘がクラシック距離、2400mで対戦する凱旋門、ダービーに並ぶヨーロッパの最高峰レースとされている。

 

 さて、KGVI & QESと略される事も多いこのレースなのだが、皆さんには正式名称を知っていただきたいと思い、この度、こうしてお知らせしております。

 

 私の心遣いです。えへん。

 

 レースの歴史は古く、1946年の9月にできたキングジョージステークスを1951年に時期をずらしてクイーンエリザベスステークスと統合して出来たレースがこのレースになります。

 

 歴代でこのレースを優勝したウマ娘としては、皆さんがご存知でしょう。

 

 シーバード、セクレタリアトと共に世界最強の三人の一角「イル・ピッコロ」の愛称で知られるリボー。

 

 かの有名な「炎のようなウマ娘」と呼ばれた、13戦11勝の「ファイアーガール」ことニジンスキー。

 

 世界第8位、「ミドルディスタンスマスター」ミルリーフ、「踊るインディアン戦士」ダンシングブレーヴ、「神童」ラムタラ。

 

 などなど、挙げるとキリがないんで、ざっと見ただけでもなんだこの変態メンバーという具合に化け物ばっかりがズラリと雁首揃えてあります。

 

 ふぇぇ……怖いよぉ……。

 

 なんだこれ、本当に化け物ばっかりじゃないですか、なんで、私、こんなレースに出てるんだろ。

 

 

「会場は大盛り上がりだな」

「……えぇ、緊張しかしないですよ、もう」

 

 

 私は控え室で目頭を指で押さえていた。

 

 目眩がしそうなんですけども、まあ、ダービーの時も緊張はしましたが、あれはあくまでも私と同世代のウマ娘しかいなかったからまだよかったんですよ。

 

 今回は先輩達、つまりは最前線でG1を取りあってる魑魅魍魎を相手にしなきゃならないんでね、それは私とて吐きそうにもなります。

 

 メンタルはかなり鍛えたつもりなんですけどね、海外のウマ娘のレベルは頭おかしいのが居ますから、レースした桁が3桁とか普通にありそうですもんね。

 

 

「……さてと、私からは特に言うことはない、……遠山トレーナーとオカさんは既に会場入りしている」

「……はい……」

「後はお前自身との戦いだ、やった事を全てぶつけてこい」

 

 

 目の前に立っているブライアン先輩はそう告げると私の肩をポンと叩き控え室から出て行く。

 

 控え室には私一人、いや、むしろ、皆は気を使ってこうして、私を一人きりにしてくれたのだ。

 

 レース前にスイッチを切り替えたいと思っていたので非常にありがたいですけどね。

 

 私は目頭を押さえたまま静かに精神統一をします。

 

 今回のレースも強敵がずらりと居ます。

 

 特に注意すべきは、スラマニとアラムシャーだろう。

 

 一度勝ったとはいえ、警戒されるのは間違いないです。しかも、私は今回、なんと1番人気。

 

 前回のダービーの勝利がきっかけなんでしょうが、1番人気は1番人気でプレッシャーがかかるというものです。

 

 何故なら、当然、勝つと思われているから、これにつきます。

 

 あのレースは余裕そうに見えて、レースの展開自体はかなり苦しかった展開でしたからね、アラムシャーとダラカニを二人相手に立ち回るのは非常に心臓に悪かったですよ。

 

 物理的にも悪かったんですけどね、なかなか気が抜けないレースでした。

 

 あ、ちなみに海外では私は「イル・ピッコロの再来」なんて呼ばれてます。

 

 誰がチビじゃ! こんちくしょうめ! 

 

 側から見たら今の私、考える人っぽい、どうでも良いんですけど。

 

 

「よし!」

 

 

 私はパンパンと顔を叩き立ち上がる。

 

 さあ! いざ行かん! キングジョージへ! 

 

 ……と、その前にやる事があるんですけどね、とりあえず私は携帯端末を取り出すとあるウマ娘達に連絡。

 

 しばらくして、私の控え室のドアがノックされ、2人のウマ娘が入ってくる。

 

 

「アフちゃん先輩! 来ましたよ!」

「どうしたの? アフちゃん」

 

 

 そう言って、私が呼び出したのは何事かとばかりに問いかけてくる2人。

 

 うん、さっきまで意気込んでたんだよね、私。

 

 いよいよレースだとばかりにスイッチも切り替えてたつもりだったんだ。

 

 ですが、ここでメジロドーベルさんとドゥラちゃんを召喚! 

 

 

「あのー……とても恥ずかしいのですが……」

 

 

 そう言って、私は2人の前で言いずらそうに顔を赤くしながらモジモジする。

 

 いや、まあ、その大変言いづらく恥ずかしい事なんですけども、なんで今頃気づいたのかなーって我ながら思います。

 

 まさかね、胸の晒を巻いてないなんてね。

 

 さっき気づきました。私はね、基本、レース前には巻いとかないと胸がね……。

 

 

「えっと……晒を巻くの手伝って貰えませんか?」

「!? なるほど! そういうわけでしたか!」

「……はぁ……アフちゃん……」

 

 

 巻いてなかったのかとばかりに頭を抱えるドーベル先輩。

 

 ごめんなさい、忘れてたんですよ。

 

 ほら、私はね、胸がおっきいから毎回晒を巻いてないと大変な事になるんです。いうならば、ボクサーが試合前にバンテージ巻くようなものですよ。

 

 

「んしょ……んしょ、じゃあちょっと手伝ってください」

 

 

 上着を脱ぎ脱ぎしながら2人に告げる私。

 

 上着を脱いだ途端に一緒にたゆんと揺れる私の胸が目に入ってくる。……毎度のことながら本当にこいつになんでこんなに栄養いってんでしょうね。

 

 スズカさんが見たら目が死んでそうです。それか、蔑んだ眼差しを向けられそう。

 

 一方、ドゥラちゃんは目をキラキラさせながら、興奮気味に私に近づいて胸を持ち上げてきます。

 

 

「うわぁ! アフちゃん先輩の改めて見るとおっきい! 柔らかい!」

「これこれ、玩具じゃないですよ?」

 

 

 たゆんたゆんと揺らしてくるドゥラちゃんに困ったような表情を浮かべる私。

 

 苦笑いを浮かべるしかないですね、私だって困ってるんですよ、こう言ってはなんですけど、スズカさんが羨ましいです。

 

 ポヨンポヨンと揺れる自分の胸を見てるとなんだか悲しくなるのはなんですかね。

 

 

「……なるほど話はわかったわ、あ、アフちゃん」

「鼻血でてますドーベルさん」

 

 

 私はジト目を向けながら、晒を手に持つドーベルさんに告げます。

 

 ドゥラちゃんなんて見てください、遠慮なしに私の胸に顔を埋めてますからね、何しに来たんだお前。

 

 とりあえず、締めすぎない程度に巻いてもらいたいのです。解けてもダメなんですけども。

 

 

「……はぁ、ママの懐かしい暖かさが……」

「良いから早よ巻け」

「あいてッ」

 

 

 ズビシッとドゥラちゃんの頭にチョップを入れる私、このままにしてたら吸われそうでしたしね、何がとは言いませんけど。

 

 ドゥラちゃんはプクーと頬を膨らませると渋々私のバストサイズを測り始める。

 

 まあ、サイズはあまり以前よりも変わってないはずです。あまりでかいとあれですしね、萎んではないでしょうけれども。

 

 

「うーん、やっぱりおっきい……とりあえず巻きますよー」

「うん、お願い」

「ドゥラちゃん、いつでも良いわ」

 

 

 というわけで2人に協力してもらい晒を巻きます。

 

 私は両手で胸を支えなきゃならんので、塞がっちゃうんですよね、そうしとかないとズレちゃいますから。

 

 ある程度、巻き巻きすると大丈夫なんですけどね。

 

 

「ひゃあ!? ちょ、ちょっと優しく……んっ!」

「強めにしとかないと」

「そうなんだけど、……うー……」

 

 

 クソめんどくさいです、ちくしょうめ! 

 

 夢と希望が詰まってるとか上手いこと言ってもダメです。こんなものは脂肪の塊なんですよ、あ、筋肉ももちろんついてますけどね。

 

 いやー、最初から巻いとけって話ですよね、反省しています。次からはそうしよう。

 

 

「おぉ、すごい弾力性だ」

「……うん、確かにこれは……、アフちゃん……」

「……何も言わんでください……」

 

 

 ドーベルさんの言葉に私もこれには苦笑い。

 

 こいつ、おてんば過ぎるな、全く誰に似たんだか、え? 私に似てるって? 自分の子供じゃないんだから(憤怒)。

 

 特に下乳が凄いとかドゥラちゃんが口走ってますけど、スルーです、スルー、なんだよ下乳が凄いって、確かにわかりますけどね! 

 

 

「よし、とりあえずこんなものですかね」

「十分ね」

「確認の為に何故揺らすのか」

 

 

 私の胸をしたからユサユサと揺らして晒を確認するドゥラちゃんとドーベルさんにジト目を向けながら告げる。

 

 晒が解けないかの確認なんでしょうけど、愉悦感に浸ってる感じがありますからね、この2人。

 

 私はとりあえずその上から下着をつけて、勝負服の上着を着る。

 

 

「まあ、こんなもんですか、うん」

 

 

 ちゃんとフィットしているのを確認して、私はふぅとため息を吐く。

 

 レース前だというのにバタバタですよ、まあ、私らしいと言えばそうなんですけども。

 

 さて、準備が整いましたし、いざ出陣。

 

 

「頑張ってくださいね! アフちゃん先輩!」

「アフちゃんなら大丈夫、勝てるわ」

 

 

 2人に見送られながら控え室を後にする私。

 

 スイッチはもう切り替わってます。さて、後はレースで勝つだけですね。

 

 やってやろうじゃねーか! ってノリで大体やれてましたから、多分、今回もやれる筈です。

 

 杉神様にお願いしとかなきゃ、御供物はレインボーバットで良いですね。

 

 私を呼ぶ声が聞こえる、パドックの舞台に誘う声だ。

 

 私は頬を叩いて待っている観客達の前に勢いよく姿を現した。

 

 

「お、アフだ、出てきたな」

「凄い人気だね、あの娘」

 

 

 アグネスタキオン先輩は私が出てきた途端に盛り上がる会場を見渡しながらそう呟く。

 

 確かに辺りの客は1番人気である私を見た途端に口笛を鳴らしたり声を張り上げたりしていた。ここまで人気になる日本のウマ娘も珍しいだろう。

 

 というのも、やはり、前回のイギリスダービーの私の破天荒ぶりとダラカニを破った事が人気に拍車をかけているのは間違いないだろう。

 

 最近、アフチャンネルの登録者数がすごい事になってるんですよね、あ、皆さんちなみにチャンネル登録よろしくお願いしますね。

 

 してくれた方にはもれなく抽選で私の写真集を差し上げます。……うん、特に私から皆さんにあげれるものってそれくらいしかないですからね、申し訳ない。

 

 他に欲しいものがあれば要望は聞きます(叶えるとは言っていない)。

 

 

「ヘーイ! センキューセンキュー!」

 

 

 私はニコニコしながら笑顔を振りまき皆に手を振る。

 

 サムライガールとかヤクザガールとかクレイジーとか聞こえてきますけどね、なんだその扱い、実況はハーデスとか言ってるし。

 

 ハーデスさんは魔王でなく冥王なんですが……それは……。

 

 でも、人気があるのは悪くはないですね、飛び交う英語は何言ってるかわからんけども。

 

 気を取り直して、私は真顔になりマントを脱いで勝負服を披露する。

 

 ここ最近まで絞りに絞った身体、このレースにはもちろん油断をせずに全てをかけて調整してきた。

 

 後はレースに勝つだけだ。

 


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