織斑一夏は逃げられない   作:ニジョー条

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逃げられた頃の俺

これは過去にあった兄妹の会話。

 

 ――いちか、だいじょうぶ……?

 ――ふ、ふふふっ、このていどのかぜ、おれにはどうってことないぜ!

 

 不安がる双子の妹に、俺はそう答えた。

この記憶は確か、滅多に帰って来ない父が久しぶりに帰って来て、土日を利用して日帰りの旅行をしよう言い出し、――当日なって俺が風邪を拗らせたのだ。

 

 ――でも……

 ――だいじょうぶだって!あさごはんはくったし、あとはとうさんとかあさんとねえさんと、■■■がかえってくるまでねてるだけだからさ

 ――ぅ~~

 

 渋る妹。まあ何時も一緒だったのだ。行き成り片割れが居ない日を送れと言われても、戸惑いしかないだろう。

 だが俺は、■■■や姉さんよりもとある事情で(・・・・・・)精神が大人だった。

 だから、楽しい一日を過して欲しいと思い、後押しをした。

 

 ――これ、もってろ

 ――これ、いちかの

 

 渡したのは“今”の両親に貰った、オリオン座が刻まれた青のブレスレットだ。見た目がカッコイイので、俺のお気に入りだったのだ。

 

 ――それ、かえってきたらかえせよ?そしたらさ、

 ――そしたら……?

 ――いっぱい、■■■がみてきたこと、はなしてくれよな!

 ――…………うん

 

 ようやく納得した■■■は、そのブレスレットを首から下げ、犬の尻尾の様に小さいポニーテ-ルを揺らして部屋の外に出て行く。

(―や、ろ)

 引き留めなくちゃ、――そう思っても、声は出ず、体の感覚さえない。――――当たり前だ、だってコレは、

 

 ――いってきます!

 ――おう、いってらっしゃい!

 

 そういって、妹は出て行った。

 

(やめ、ろ……っ)

 

 

だが……、

 

(やめろ……ッ)

 

帰って来たのは半分に割れたブレスレットだけだった。

 

 

 ――――過去の出来事なのだから

 

 

 

 

 

 

「やめッ――!」

「うおッ?!」

「チッ、あと少しだったのに」

「いや、一夏からしたら、起きてれて良かったんじゃないか?」

 声を上げながら体を起こすと、視界に映ったのは部屋を出て行く妹では無く、中学を共に過ごした友人達だった。

(ああ……、明日が入試試験だから、ラストの追いこみ勉強をしてたんだった)

 一人だけ驚きの声を上げた奴は『五反田 弾(ごたんだ だん)』。お前ありえないだろというレベルの赤い髪が特徴だ。

 一人は短髪の黒髪で、十分イケメンと呼ばれる容姿を持っている『御手洗 数馬(みたらい かずま)』。普段は女の取り巻きが3人居る。

 最後の一人は、舌打ちし、手に水性ペンを持つ男『木場 亮斗(きば りょうと)』。コイツはツッコミ所満載で、名前を見れば日本人なのだが、容姿は外側にはね返った金髪のセミショートに青い瞳、白人特有の白い肌。言うだけなら女性と見間違えそうだが、意外にちゃんと男として見られる、と言う。もうお前二次元の住人だろ!?と言わんばかりのあり得ない奴だ。コイツとは小学校に上がった頃からの付き合いで、一緒に剣道場に通っていた仲だ。ついでに言うとコイツも転生者だ。言動と行動で分かった。

 そして、俺の名前が『織斑一夏(おりむらいちか)』。転生者だ。

 ある日の大学から帰り道で、ガードレールごと潰され、気付いたら4歳くらいの男の子になっていた。憑依じゃないのかとも思ったが、数日経ってから振り返ってみると、微かにだが、生まれ初めて抱きしめられた事や、父親に高く持ち上げられた事などを思い出すので転生だと判断した。

 まあ、ぶっちゃけどっちでも良いんだけどね。だってどっちにしたって生まれたての赤ん坊から人生始めたのは確かだし、『俺』が『織斑一夏』である事は変え様のない事実なんだから。

 ただ、何故だか知らないが、3~4歳辺りの記憶が酷く曖昧で、大部分の事を思い出せなかったのだ。

 だがそんな事を考えている余裕はなく。織斑一夏として、姉――織斑千冬と二人で四苦八苦しながら生き。姉の人生初の友だちが天才を通り越し、大天才だと言う事が分かり、才ある者同士は惹かれあうのだと察し。この世界には前世に存在した企業や会社(主にゲーム関係)やアニメが無いと悟り愕然とし。件の大天才――篠ノ之束にプログラミングを教えて貰いながら彼女の趣味を手伝ったり、某同人弾幕ゲームを製作してネットで売って生活資金の足しにしながら数年経った時、

 ――世界が一変した。

 その原因は、前述した姉の友人『篠ノ之 束(しののの たばね)』。別名『天災兎』『対人コミュスキルゼロ兎』『子供以下の対人認識女』『No.1おっぱい』『テロ兎』『年考えろよ兎』と呼ばれる(殆ど俺しか言わないが)女だ。

 と言うのも2年ほど前に、彼女はその鬼才な頭脳で宇宙空間でも活動可能なマルチフォームスーツ『インフィニット・ストラトス』、通称『IS』の基礎理論を構築し、発表したのだ。

 しかし世界はIS理論を一蹴した。何故なら、そのISの搭乗資格を持てるのが女性だけだったからだ。凄いのは認めるが、女性だけにしか動かせないというのは欠陥だ、と。

 向こうも正論を述べているが、そんな事で、自分中心で考える篠ノ之束には理解できなかった。

――だから彼女は考えた。

 

“なら、世界を自分中心で動く世界にしよう”、と。

 

 そして僅か2年で実証機を造り、証明した。

 やり方は天災の名に相応しく、ド派手で豪快で非常に分かり易かった。

 まずISの持つ量子理論を用いて作ったPCでもって、世界中の軍事基地をハッキングし掌握。

 その後、約2400発以上のミサイルを日本の首都へ向けて発射。

 各国の軍隊が撃ち落としきれず、そのまま首都に向かってしまった半数以上(つまりは1200発以上)のミサイルを、IS実証機『白騎士』一機で迎撃。

 その後、その性能を証明した『白騎士』を、捕獲または撃墜しようと送り込まれた即席連合艦隊の大半を無力化し、追跡を振り切って雲隠れ。

 死者も0と言うその実証に世界は注目した。圧倒的な性能、既存のどの兵器よりも強力で、縦横無尽な飛行性能。

 世界は手の平をひっくり返してISに喰いつき、世界は一気にIS一色になり、世論もISを使える女性優遇の社会になった。結構傲慢な女性も居るが、それでも全体の2、3割程度だがまともな人格の女性はいる。その点を考慮してみると、女性の地位が上がった以外、前の世界と特に代わり映えしない世界だということだ。

 ……いや、こっちの方が技術面では上だな。

 なんせ、至る所に空間パネルの看板や商標を見る事があるのだ。近未来である。ドラえもんである。こっちでもやってた。

 

 とまあ色々語ったが、俺たち中学生――特にIS適性のない男子は普通に高校に行くか中卒で就職の二択なので、現在懸命に勉強中と言う訳だ。俺は別に成績低い訳じゃないが、時には復習するのも良い勉強になるで彼等の試験勉強に付き合っている。

「わりぃ寝てた」

「気にすんな。俺達も頭使い過ぎたから、一休みしてたしな」

「うん、それに一夏は結構ハードな日々送ってるからね。疲れるのも仕方ないと思うよ」

 弾と数馬がそう言ってくる。

 

 俺の一日を簡単に話すと、

 まず朝早く――大体2時半時に起床し、新聞配達のバイト。これは早朝のみで、学校側にも家庭事情として認可して貰っている。キツイが体力を付けられ、尚且つ給料も出ると一石二鳥だ。

 7時近くに家に帰り、軽く汗を流し朝飯の準備。米は自炊機だし、おかずは基本大量に作って作り置き+昨夜の残りで手軽に1品+味噌汁+漬物といった具合なので、大した手間じゃない。弁当のおかずにもなるし。姉さんは仕事柄たまにしか家に帰ってこれないので、だいたいこんな感じだ。

 俺も姉さん(隠している様だが、IS学園で教師である事は調べてある)も、別にお金に困ってる訳じゃない。姉さんは職に付いてるし、俺はネットでアプリゲーム『刀砲Project』(ぶっちゃけ東○Projectのパクリ)の販売と、早朝の新聞配達でそこそこ儲かっているからだ。ちなみにこの「刀砲」、結構売れている。

 ちなみに一作目の内容は、IS界最強のブリュンヒルデこと“博麗 千(はくれい せん)”が幻想世界という妖怪と人が共存する世界に迷い込み、たまたま暴れまわっていた魔法使い一家と戦う、という設定だ。二作目からは相方がおり、ソイツの名前は“タバ姉さん”。“千”が接近戦主体で、“タバ姉さん”は遠距離主体のプレイヤーキャラだ。ちなみにまだ2D画面。制作側が俺しかいないので、作るのも一苦労だ。亮斗?アイツはテストプレイヤーだ。

 

 ――また話しがズレたので戻そう。

 

 平日なら学校があるし、土日祝日はきちんと休みを取っているので、体を壊す事は無い。そもそも今の肉体自体、潜在能力というかポテンシャルが高いから、しっかりとマッサージや休息を取れば問題ないのだ。

 放課後は食材の買い物か、ソレがなかったら夕食の支度の時間まで弾達と駄弁ったり、出された課題をしたり、家に帰り『刀砲』のグラフィック制作やプログラムを組んだりして過している。

 そして夜。就寝時間は10時と決めているので、その間に好きな事をしている。此処最近は受験勉強がメインだが、それでも風呂に入る前に数十分ほど竹刀を振っている。偶に姉さんが相手になってくれる時があるので、対人戦の勘が鈍らないので有難い事だ。

 そして風呂に入り、姉さんが居る時は、最後に姉さんの晩酌のお供を軽く作って寝床に入る。

 学生としては結構多忙な方だが、それでもまあ結構充実した日々多くっている。そして、出来る事ならこのまま何気ない日々を過ごしたいと思っている。

 目下最大の重大ポイントと言えば、

「(――どうか、天災が変な動きをしませんように)」

波乱万丈な人生なんていらない。平穏な人生を歩みたいのだ。

「無駄な気がするがな」

「黙ってろ亮斗」

 あと、ナチュラルに心を読むな!

「落ちたらウチで雇ってやるよ」

「うっせぇ! 不吉な事言うな!! それに、そんなことしたらブラコンの蘭に殺されるだろうが、――俺が!!」

「どっちかって言うと、料理人としてのライバル関係っぽいがな」

 そうだとしても、あの子は俺を殺意の目で見て来る。――その理由が、お兄が良く話す話題が俺たち中心の話で、その中で俺が一番料理が上手いからだそうだ。

 ……俺、ホモじゃねえから!!

「僕としては受かって欲しいな。藍越って遠いから疎遠になるし――主に僕の精神的安穏の為に」

「友達甲斐の無いヤツだなオイ!」

 俺はただ、恋する女性に男性視点からのアドバイスをしてやっただけなのに。

「ソレが有難迷惑だよっ!お陰で段々と外堀も埋められて来てるんだからね?!仕返ししようとしても、一夏は女性関係に関しては整理してあるし!」

 そりゃあ、俺、小説とかに出てくる鈍感系主人公じゃねえし。

 外見から言えばイケメンに分類されるから、告白された事もある――が、その大半が一目惚れして遠目から眺め、イベントがあるごとにラブレターで呼び出され告白、と言う流れだ。ある意味、初対面で告白される様なものだ。付き合える訳が無い。

 親しくなってから告られた事もあるが、その8割近くが、『織斑千冬が姉』と言う理由だ。口には出して無かったが、姉さんを見た後で、えらく積極的に迫ってきたから一目瞭然だ。

 そんな理由で、女性と付き合った事は“殆ど”無い。あっても俺の日常に合わせられなくて別れたり、実はオタク系だったのを知って別れたり等々。

「ハァ……勉強する気分じゃ無くなったな。……帰るか」

 帰って明日の準備と、夕食の支度と、……あ、そう言えば姉さんが飲むビールが無くなってきたな。ならついでに数日分の食材を買っとくか。

「だな。要は半分以上点取れれば良い訳だから、満点取る必要ないし」

 俺の言葉に亮斗が同意し、道具を片付け始める。

 そう言えば、コイツもモテそうなのにそう言った噂とか話しを聞かないな……やっぱり箒の事が気になってるのか……?

「俺も帰るか。そろそろ蘭から『帰って、こないの……?』ってメール来そうだし。……知ってるか?アレ、文面だけなのにヤンデレの口調で言われてる気がすんだぜ?」

 そりゃ俺が教えたし。言うと殴って来そうだから言わないけど。

「僕の平穏も終わりか。何故か男同士で遊びに行く時だけ、あの子たち付いて来ないから気を使わなくて済むし」

 それも俺の恋愛指導の賜物だ。以前「数馬は男も惚れる程良い男だが、衆道の毛はないから安心しろ」「偶には一人にさせてたり、同姓との時間をあげる事も重要」「年がら年中一緒だと、一緒に居るのが当たり前になって、意識されなくなる」と指導したのだ。こっちは感謝されそうだけど、男に泣き付かれる趣味は無いので話さない。

「「「「ハァ~~」」」」

 溜息が重なった。

「お互い、苦労するな」

「お前ほどじゃないがな」

「同感。つーかテメェが大半の原因なんだが」

「この元凶めッ!」

「テメェらのシワ寄せを倍返ししただけだよ!!」

「「「最悪だ、お前!!」」」

 失礼な奴らめ、と思ったが、コイツらが居たお陰で楽しい学園生活を送れた事は、凄く感謝している。だからこそ、これからも平穏な生活をしていきたいと、切に願った。

 

 

 

 

 

 

 

 終わりが近い、と、心の片隅で少なからず感じていたとしても。

 

 




織斑一夏の歴史(早見表)
4歳――
 “織斑一夏”として目覚める
 前世であったゲームやアニメが無い事に愕然。姉経由で篠ノ之束に色々学び、プログラマーとしてお金を稼ぐ

5歳時――
 白騎士事件

6歳時――
 自作ネットアプリ『刀砲Project』配信。3Dゲームと言う事で有名になる。
 自室にZUN神社を奉る。一夏「ビールを奉納っと」
 剣道場に通う。篠ノ之箒、木場亮斗らと知り合う

8歳時――
 姉及び篠ノ之束が学園を卒業。
 保護プログラムにより篠ノ之家が引っ越し。

 同年、凰鈴音が転校してくる。
 鈴を苛めていた男子生徒に対し、木場と共に肉体言語で紳士とはなんぞやと叩きこむ。
 一夏「汝らは何ぞや」
 亮斗「我らは神士の代理人!紳士道の代行者!」

12歳時――
 中学入学。弾、数馬らと知り合う。
 新聞配達バイトを始める。

 篠ノ之束が行方を暗ます。束「私は《縛られない人》ッッッ!」


13~14歳時――
 鈴に告られるも、とある理由でふる。一夏「酢豚ばかりじゃ飽きる」
 鈴、中国へ帰郷。鈴「一流の料理人になるわ!」

15歳 ←今ここ

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