織斑一夏は逃げられない   作:ニジョー条

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一夏vsセシリア

―――第三アリーナ・客席

 亮斗とセシリアの戦いが終わり、次の試合までの15分の休憩の中。観客席のあまり目立たなさそうな場所で、更識簪は先程の戦いを分析していた。

 ……彼のIS、《黒式》だっけ……? 近距離戦闘寄りって織斑君から話しは聞いてたけど。

「あの武装……」

 荷電粒子砲とは違ったけど威力は申し分なかった、と簪は考査する。ついでに織斑くんの嘘つき、と分割思考の一つで罵っておく。

 取り敢えずあの武装だ。あれ一つで接近戦と遠距離攻撃の両方を兼ね揃えているのは、正直凄いと思う。攻撃の三大要素『斬って良し、刺して良し、撃って良し』の三拍子そろっているのだ。

 ……流石は篠ノ之博士、って言うべきなのかな……?

 そんな事を考えていた簪は、自分に向かって足音が近づいて来るのを察知する。普段は立てない足音を発ている事に少しの嬉しさを感じながらも、一目散に逃げ出したくなりそうになる――が、

 ……今は、ダメ……!

 今此処で逃げだせば、この先、何時機会が訪れるか分からなくなってしまうので必死に抑える。何より、

 ……お、織斑くんが作る、トマトカレーが食べられない……!

 某ゲームで有名なアレだ。彼の料理の腕前はこの一週で十分知っている。ならば食べなければ損だ。――それに、盗って来てしまったモノは返さなきゃいけない。

「隣、良いかしら?」

「…………どう、ぞ」

 なんとか声を出す。

 チラリと横目で見れば、隣に座るのは自分と同じ水色の髪の女性。おね――生徒会長さんだ。

 会話は無い。ただ、無言の応酬が数秒ほど続き、

「……――っ、あ、あのっ!」

 意外にも、先に動いたのは簪からの方だった。横に置いてあった鞄から小型のノートPCを取り出し、楯無に差し出す。

「も、持って行っちゃって、ごごごめんなさい……!」

 ……か、噛み噛みだぁ。

 顔を伏せているのでバレて無いだろうけど、泣きそうなのを我慢。少しの間ビクビクしながら待っていると、

「ん。返してくれて、有難う」

 手から重みが無くなった――受けとってくれたのだ。内心ほっとするが、

 ……盗って行っちゃったの、私なのに……。

 礼を言われ、逆に居た堪れなくなった。このままだと、また心にも思っていない事を言ってしまいそうなるので、用件も済ませたので早急にこの場を去ろうと思い腰を上げる。

「そ、それでは私はこれで失礼」

「彼の試合を見ていかないの?」

 最後まで言い切る前に、向こうから問われ、ハッとして目の前の人を見る。

 会長は、私を見ていなかった。会長が見ている先は、試合会場のピット。其処から飛び立ったのは、純白の装甲を持つISを身に纏った織斑くんだ。

 ……アレが白式。

 スペックだけで言うなら、既存のIS中最速の機体であり、武装が一つしかないピーキーな機体。

「簪ちゃん」

 急に名を呼ばれ、反応せずに居ると、会長は更に言葉を続けてきた。

「これはIS学園の生徒会長としてでもあるし、お姉ちゃんとしての言葉よ」

「え……」

 話し方が、何時もの余裕のある話し方じゃなかった。その事実に、何故か耳を傾けてしまう。

「彼に深入りしない方がいいわ。表面上の付き合いだけにしなさい」

「ど、どう言う事……?」

 この間訊いた自己破壊願望の事だろうか?でも、それだけで目の前のおねえ――会長さんが警告する事だろうか?

「解らなさそうね。――なら、この試合を見て行きなさい」

 そう言ってお――会長は、私の事を一瞥もせず、試合会場の方を見ていた。

 ……なんか、悔しい。

 その感情は、織斑くんへなのか、それとも目の前の人へなのかは分からない。だが、なんか悔しかった。

 ……こ、このまま逃げるのもイヤだから……!

再び腰を下ろした。

 

 

 

 ヨッシャキタァァァァァァァ!!!クククッ、ハハハッ!久しぶりに嗅ぐ簪ちゃんの匂いは格別ゥゥゥウ――ッ!?コレ、私と同じシャンプー使ってる!くぅ……!簪ちゃん最高!同じ製品なのに、簪ちゃんが使うと最高級の香水よりもイイ香りだわ!!クククッ、流石私!私流石!こういう時に誘導尋問系のスキルを持っていた良かったわッッ!!

 

 

 

―――戻って第3アリーナ上空

「ギャップがひでぇだろうな、アレ」

 今俺は、ハイパーセンサーを使い、会場の何処かで妹ジャンル系ハメコンボ好きエロゲ会長に、ノーパソを返している筈の更識さんを探していたのだ。

 で、見つけたシーンが一目散に立ち去ろうとしていていた更識さんを、あの会長は一言二言しゃべって、事もあろうか更識さんを隣の席に戻させた場面だった。

 ……俺をダシに、煽って反抗心を刺激。更識さんに見稽古を付けるついでに、自分の欲望も充たしやがったよあのエロゲ会長。

 二人の心境が解るだけに、あのシーンを見て出てきた最初のセリフだ。

「? 何かおっしゃいました?」

「唯の独り言だよ。そう言えば、アイツとの試合は完勝?」

「いえ、良い所まで追い詰められましたわ」

 と言う事は、デカイ口叩きながら亮斗は負けたのだ。

 ……からかうネタゲット。

「機体は大丈夫なのか?負けた言い訳は聞きたくないぞ」

「御心配無く。同じ候補生の先輩が、『こんな事もあろうかと』と言って予備パーツを幾つか取り寄せてありましたから」

 オルコットの性格が慢心と高飛車な性格だから不安だったが、ちゃんと頭が回ってる人は居るようだ。しかも浪漫が分かる人。

 ……まあ、SFの塊みたいな分野のIS道に入る奴なんて、どう考えても“そっち”方面に両足どころか、全身浸って滲み込んでる様なヤツしか考えられんしなぁ。

 取り敢えず向うの心配は要らないようなので、試合に集中する事にする。

 ISでの戦闘はコレで三回目。こっちは最強相手に受験試合一回、昨日のエロゲ好き会長と4時間ぶっ続けの訓練と、実機でのたった一時間の訓練だけ。対して、相手は月に数十回はこなし、数百時間以上は乗ってきた代表候補生。

 ……これ、どっちが凄いんだ……?

 いや、向うだって国家代表辺りと数回は模擬戦をしてるはずだ、と考え、自分を否定する。

そしてすぐに意識を切り替え、目線は拡張領域内にある武装一覧に向けられる。其処に、この機体に搭載されている唯一の武装があった。

 ……恐れるな。

 息を大きく吸いゆっくりと吐き出す。意識を少しずつ戦闘思考へと切り替え、――己の奥深くに閉じ込めた『俺』を解き放つ。

 

 二日間の鍛錬の間に、エロゲ好き会長から指摘された事があった。

 曰く、力の込め方も体捌きも十分に出来ているが、攻撃する瞬間だけ力任せになりがちだ、と。ついでに、それだと自分の拳も傷めるゾ☆、と言われ。後者の発言でイラッと来たので、乱取りしながら自分でもどうしようもない破滅思考の事を、説明ついでにお披露目した所、これまた力尽くの荒技でこの自己暗示を修得させられた。

 

 だが、付け焼刃の技能だとしても、今までとは全く違う感覚に至った事は間違いなかった。

 ……ああ、良い気分だ。――良い気分で斬れそうだ。

 なんか間違ってる気もするが、別に良いや、と思考を破棄。

「全力で来い、オルコット」

「ええ、亮斗さんとの一戦で分かりましたわ。貴方方は油断できない相手だと。故に、最初から本気で行きましょう。――この試合、亮斗さんも見て居られるのですから」

 ……見てねーって、入れ違いで更衣室だっつーの。

 内心でツッコムが、それと同時、もう一つの事に気付く。

 ……落ちたか。まあ、俺に害がある訳じゃないから良いや。

 と言うか寧ろもっとやれ、とエールを送っとく。それと同じ位に、無駄だと思うがな、とも否定する。だってアイツの本命は箒で、箒の本命も亮斗だし。

 ……さっさとくっ付け――いや、やっぱ卒業辺りまで待って欲しい。売れ残りの俺に卒倒するし。

『両者、準備は良いか?』

 管制室に居る姉さんから通信が届く。

「私は何時でも」

「準備だけは良い」

 後は本番だ。

 

『では二回戦目、織斑一夏対セシリア・オルコットの試合を行う!』

 

 雪片弐式を抜き、顔の横に持って行く。切っ先を相手に向けた弐の太刀の構え。

 対するオルコットは、左右の非固定浮遊武装の下方かから2つのパーツを分離させた。

 ……アレがBT兵器。確か、自律行動じゃなく、使用者の思考伝達で動くんだっけ。

 資料はエロゲ好き会長に、更識さんの『題:PCの前でウトウト』の写真とマスターデータで手を打った。

 ……なら楽勝だな。

 内心でそう言い聞かせ、一つのプログラムを起動。右の眼前に一つのモニターを表示させる。

『開始!!!』

「――斬るか」

「撃ち抜きますわ」

 直後、一夏がトップスピードで疾走するのと、ビット2つからの射撃は同時だった。

 その攻撃を、一夏は、

「……!」

 下半身を上に持ち上げ、反動で少し高い位置に身を置く事で避けた。

「貴方もですかッ!」

「軌道が見えるからな」

「ハッタリを……!」

 一夏の目には、嘘やハッタリでは無く、しっかりとセシリアの攻撃の軌道が見えていた。

それを成しているのが、一夏が右の眼前に表示させた一つのモニターだ。

 ……プログラム正常稼働。バグも、今の所なしか。

 二日間の間、エロゲ好き会長に鍛えられながらも、更識簪に好きなモノを作ると言う交換条件で《打鉄弐式》を借り、組み上げた『射線予想プログラム』だ。ハイパーセンサーとロックオン感知、熱源感知のシステムを連動させており、ロックオンされた瞬間ハイパーセンサーが銃口向きと射線を読み取り、“撃たれた際の銃口の延長上のライン”を教えてくれるのだ。

 ……更識さんには、感謝しなくちゃな。

 エロゲ好き会長にはしない。なぜなら、彼女とは生徒会の雑務を引き受ける契約だからだ。

 それに、と心で繋げ、

「見せる、って言っちまったからなっ……!」

 水平状態のまま瞬時加速。その爆発的な加速を得たまま、

「――ッ!」

「きゃぁッ?!」

 勢い良く、左肩からオルコットに激突。オルコットの胸が自分の左ほほに当たっているが、

 ……斬るのに邪魔だッ!

 即断。体勢を立て直そうと離れようとするオルコットに対し、俺も左腕で払いつつ体を右にズラし、

「その足、貰ってくッ!」

「嫌ですわよ!!」

 オルコットの左足のユニットを、ロールする勢いで下から斬り払った。

 相手も危機を察したのか、左足を右に寄せ全力で横にズレた為、左足を斬り飛ばす事は無かったが、体勢が崩れた。

 対する一夏は、横ロールしている状態。右手に持った雪片は、真上を指している。

「ぉお――!」

 そこに更に捻りを加え、勢いを付けて、――右手を開く。

 ……雪片大車輪ってな……!

「非常識な――!」

 オルコットの驚愕する声が聞こえる。

 目に見える状況は。縦回転しながらオルコットに迫る雪片と、更に後ろに下がりながら、左右のどちらかに避けようとしているオルコットが見える。――が、

 ……距離が近いから無理だ。

 後ろに向かって瞬時加速でも行えば避けられるだろうが、オルコットの戦闘データを見る限り、瞬時加速を用いた高機動戦闘は行った事は無い。

 故に、

「どう出る!セシリア・オルコット……!」

 体勢を立て直す最中、幾つか自分でも候補を考えつつ向こうの動きを見続け、――候補の中の一つを、オルコットは選択した。

 すなわち、両腕に寄る防御だ。

 長銃を量子化し、インターセプターと声に出して近接用のショートブレードを横にして構えた。若干の違いはあるが、それでも想定内の動きだった。

 …………つまらん。

 一気に心が冷めた。

 体勢を戻し、すぐさまフルスロットルで加速。加速した瞬間すぐにスラスターを止め、機関内に圧が溜まったタイミングで再びの再点火――フルブーストの瞬時加速だ。ソレにより一瞬でオルコットに接近。

 そのオルコットは、雪片が当たる瞬間、下から掬い上げる様に上にトスし、一つの動きを取った。

 右腰のバインダーが動き、此方に銃口を向けたのだ。得た情報から察するに、追尾型のミサイルだったと思い出し。

 ……良いね!そうこなくちゃ!!

 く、と口元に笑みが零れ、――真っ直ぐ突っ込む。そして、銃口に向かって左の貫手を突き出し、

「諸共に吹き飛べッ!」

 直後、銃口から発射された瞬間のミサイルと左の貫手が衝突し、炸裂した。

 

 

 

 

 ……なんて無茶苦茶……ッ!

 爆煙が立ち込める中、全力で後退しながらセシリアは息を呑み、戦慄した。

 普通なら、あの場面で取る行動は回避だ。実際、自分が戦った人達は誰もが回避を選択肢していた。中には迎撃する方々も居たが、間違っても突っ込んで来た存在は居ない。

 ……まして、負傷覚悟でなんてッ……!

 まともな育ち方をしていない。まるで野生の獣だ。

 そして、その獣はまだ戦いを止めていない。試合終了のブザーが鳴っていないからだ。即座に姿勢制御し、スターライトmk-Ⅱを展開。最後に見た彼の位置を思い出し、

「――!」

 一射。

 “敵”を視認している暇など無い。そんな時間()、相手が自分の懐に迫る時間を与えるだけだ。

 撃ち出された光撃は、彼が居るであろう位置に向かって行き、――爆煙から光が一閃され、打ち消された。

 ……やはり、ただでは撃ち落とさせてはくれませんわね。

 煙が晴れる。彼の姿が露わになり、ハイパーセンサーを通して観客の小さい悲鳴が聞こ――、

 

「イケメンを傷つけるなんてッ!」

「血だらけになっても戦う男――否、漢」「イケますねぇ、それ」

「前のヤツ邪魔よ!描けないじゃない……!」「はあー!?ポジション取りは基本よ!?」

「M?Mなの?」「違うわよ、オルコットさんがSなのよ」「…攻め受け?」「「「「「「「それだ!!!」」」」」」

 

 えたくないが聞こえた。

 ……それだ!じゃありませんわよ!あと、だれがSですか!私はどちらかと言えば、亮斗さんに攻められる――って違いますわよ私っ……!!

 変な方向に思考がズレたので、急ぎ修正。改めて彼の姿を見る。

 白い装甲は装着者共々煤に塗れ、見た感じ中破以上といった所だ。中でも酷いのが左腕。左腕の装甲は砕け、生身の左腕にも幾つもの裂傷があり血が流れている。

 唯一無事な右腕には、先程何処かへ飛んでいった剣――ユキヒラニシキが握られている。恐らくは、自動返還機能だ。

 

 ISの武装は、必ずISに登録する必要がある。と言うのも、持ち運びを便利にするだけでなく、登録された武装は、所持者から一定の距離が開くと自動で量子変換し、格納領域へと戻る事になっている。これは安全性や、回収し忘れた武装が万一盗まれたりしない為にする防犯機能でもあるのだ。

 

「本当、素人とは思えませんわ……」

 代表候補生の上位に居る者たちはそういった機能を十全に使いこなすし、武装を手元に戻させない為に距離の把握すら行う。

 ……だから化け物揃いですのよ。

 そして、目の前に居る彼もまた、その化け物連中の領域に片足突っ込んでいる。ライオンの姉の弟はやっぱりライオン、結局はそう言う事だ。

 ……ですが、

「もう負けられません!!」

「ん、じゃあ頑張ってくれ」

 決意を新たにした所で、彼に軽く受け流された。心なしか、少し高度も下がった気がする。

「あの……、気の所為かと思いますがテンション下がってません……?」

 そう言えば、先程から自分の剣――ユキヒラニシキをずっと見ていたのを思い出す。

「ん?ああ、なんつーか、俺はまだ姉さんに護れてばっかなんだな、って思い知ってな」

「それはそうでしょう。あの方はモンド=グロッソの総合部門優勝者(ヴァルキリー)。私だって届くかも分からない高みに居るのですよ?」

 今更な事だ。私程度に後れを取るようでは、到底辿りつけない頂きだ。

 だが、私の言った事を否定するように首を横に振って、

「いや、そう事じゃないんだ。――俺は、まだまだ姉さんの手の届く範囲に居るんだなって事を痛感させられてな。そして、“ソレ”を利用してでしか勝ちも拾えないんだ、って」

 言っている意味がよく分からなかったが、恐らくは、

 ……“何か”を掴みましたね。

 そもそも亮斗さんの《黒式》に彼の天才、篠ノ之博士が関わっていると言うのなら、織斑一夏にも関わっていない筈が無いのだ。

 ……何かあるとしたら、あの近接武装。

 あの時、自分が撃ったレーザーを打ち消した光刃。恐らくはアレだ。エネルギー系の武器は、実体剣や実体弾と違い、当たればシールドエネルギーをかなり削る。

「ですが、当たらなければどうという事はありませんッ!」

「いやお前、どっちにしろ近づかれたら終わりじゃん?」

 うっ、と言葉を詰まらせた。

 ……な、何か最初の時と随分と性格が違いませんか?!

 明らかに違うと思うが、今考える事は彼の性格のではなく、勝つ為の工程だ。残っている武装は、右のミサイル兵装以外は全て残っている。だが恐らく、相手は此方の性能を把握している。ついでに言うと、私が取る戦術も大体は知っているだろう。

 ……ど、どうしましょう……っ。

 内心の動揺を押し殺し、スターライトを構えてみたが、対策が一向に思い付かない。BTとの同時操作、もしくは偏光制御射撃が使えたらもっと幅が広がるのだろうが、出来ない事を願っても仕方ない。

 ……取り敢えず、撃って当てれば勝てますわね……!

 漸く覚悟も決まり、相手に意識を集中する。

 

 

 

 

 構えは顔横に剣を置く、弐の太刀の構え。ただ今までと違い、左腕が負傷している為、右腕一本で支える。こういう時にアームが付いていた事を有難いと思った。

 けど、正直言って邪魔だった。特に肩部の戦隊モノっぽい肩当て。

 ……なんだよコレ、当たり判定の箇所が増えるだけじゃねーか。

 つまりは本気で束さんに言われたとおり“自分好みのIS”の製作だ。別名『俺の考えた最強のIS』である。

 ……まあ、今は勝ちに行くだけだ。

 顔はオルコットに固定したまま、横目でチラリと一つの表示を見る。其処には一つのプログラム『零落白夜』と表示されていた。

 ……まさか、此処でその名前を目にする事になるとは……。

 

『零落白夜』

 嘗て姉さんが発現させ、使用していた単一仕様能力(ワンオフアビリティ)。仕様は『シールドを斬り裂き、搭乗者本人への直接攻撃』。

 要は、防御無視で本体に直接攻撃して、絶対防御を強制発動させエネルギーを消費させるのだ。

 

 ……けど、発動させた際の光刃のエネルギーは、こっちのシールドエネルギーを消費させる。

 言わば諸刃の剣。さっきも一秒に満たない時間しか使ってないのに、一気に30近く持ってかれた。

 こんなにも扱い辛いスキルで姉さんは無双したのだ。 だが、今はそんな姉を持てた事を有難いと思う。そして、個人技能である単一仕様能力を、どうやってISに組み込めたかと言う事も思考の隅っこにブン投げる。束さんの思惑とやらも放棄。

「――勝ちに行く」

 もう迷わない。立ち塞がるなら斬る。邪魔するなら斬る。俺の想いや考えてる事も斬り捨てる。

 ……俺は、世界最強の一振りと、世界最強(ブリュンヒルデ)の力を持っている。

 逆を言えば、それだけの重責を背負っているのだ。

 ……負けは赦さない。他の誰でも無く、俺が俺を赦さない。

 コレが、本当の『覚悟』だ。最早、俺はこの剣と共に歩んでいくしかない道を選んだのだ。

「――忠、勝つ」

 その為に、一夏は前へと出た。

 

 

 

 

 後退し、引き撃ちするセシリア。

 セシリアを追い、接近戦へ持ち込もうとする一夏。

 エネルギーを消費し、的確に狙撃する者。回避するも、次第にエネルギーを削られていく者。

会場を縦横無人に飛び回り、ただ相手を倒す為に動き続ける二人。戦況は一見互角。

 だが次第に、会場に居る全員が分かるまでに流れが傾いていた。

 その事実が一番知る事が出来たのは、指令所にいる山田真耶と篠ノ之箒だった。

「織斑君、凄いですね」

「これが、一夏……」

 山田真耶はデータから導き出された統計から、一夏がこの短時間で白式の機動に“合わせた”事に。

 篠ノ之箒は、幼馴染であり、自身の恋路を手助けし、また阻害する少年の技量と心の奥底にあった闘争心に。

「…………」

 その中で、ただ一人無言でモニターを見つめる千冬は、内心で安堵の息を吐いた。

 一つは、一夏が雪片を持ってくれた事に。そしてもう一つは――、

「――フン」

 其処まで考え、自分自身の愚かさに反吐が出そうになる。

「あの、どうしました?ちふ……織斑先生?」

「なんでもない篠ノ之。――それより、そろそろ片が付くぞ」

 己の何もかも呑み込み、普段通りに振る舞う。

 ……まあ、一夏の勝ちだろうがな。

 身内贔屓なのも入った予想だが、あながち外れていない。一夏は零落白夜の特性を、使用する際の条件も含め知っているのだ。

 ……さて、勝った後、アイツなら天狗になる事は無いと思うが、……負けもまたアイツの為だ。

 考えるのはこの後の段取り。この後戦う一人は怪我、ISは共に中破という状況。教師としては止めに入らないといけないが、恐らく二人は決戦試合を望むだろう。下手したら土下座までして懇願して来る。

 流石にそれは面倒だ。

 やるべき事は搭乗者の応急処置と、ISの応急処置・再調整だ。代用品で打鉄のパーツを使用すれば、時間は短縮できる。問題は搭乗者―― 一夏の方だ。

 ……20分。それくらいあれば、止血と表面の傷を塞ぐ事は可能か。

 今の医療技術の高さに感謝だ。

 其処まで思案し、意識は再びモニターに向ける。

 試合は既に、削り合いへと変わっている。一夏は相変わらずオルコットを追い、オルコットは――、

 ……狙撃銃をやられたか。

 銃口部分が焼き切れていた。使えないと悟ったのか、格納領域へと戻さず、一夏に投げる事で一瞬の壁とし、BT兵器を1つ展開していた。

 思わず感嘆の声を零す。

 ……オルコットは移動とBT兵器の同時操作は出来ないと聞いていたのだがな。

 恐らく極限まで高まった集中力だ、ソレを可能としたのだろう。

 一つのBT兵器を、前に突き出した右手で持つような位置に置いている。BTを狙撃銃に見立てて、狙撃のイメージングを行っているのだろう。

 ……さあ、正念場だぞ?二人とも。

 

 

 

 

 ……80……ッ!

 シールドエネルギー残量を尻目に、一夏はセシリアを追う。

 ISが動く毎にエネルギーを消費していく事を考えれば、あと数秒程で勝負を掛けなければ、零落白夜発動分のエネルギーすら使ってしまう。

 ……焦るな、嘆くな、諦めるな。

 全て、今までの自分の事だ。生きる事に焦り、生き残ってしまった事に嘆き、未来なんてどうでも良いと諦めた。

 だが、これからはもう、それじゃダメなのだ。

 

 ――顔面狙いのレーザーを最小限の動きで避ける。

 

 その為に、この試合は勝たないといけない。勝って、終わらせる。

 ……今までの『自分』をッ……!

 

 ――胴狙いの一撃を、縦回転のロールで避した、

 

 ……マズイッ!

 回転した分、距離が空く。致命的な“間”だ。

 その間を更に開けるべく、オルコットが動きを見せる。左のバインダー――BTミサイルが――放たれた。

 極限まで高まった思考が、全ての動きをスローに見せる。その中で一夏は行動を起こす。

 ……やれる。

 

 ――12メートル

 

 ロールした勢いで、体は右へと向いている。其処から左へと体を回し、右手に持った雪片弐式を、縦回転で上向きに投げる。

 ……やってやる。

 

 ――9メートル

 

 続く動きで、肩当てに手を置き外す。

 ……これから先を考えれば、この程度の無茶、平然とやってのけなきゃ駄目だ。

 

 ――5メートル

 

 加速。

 ……もう逃げないって決めた。

 

 ――2メートル

 

 ……もう、戦うって、

「決めたッ!!」

 ミサイルをギリギリまで引きつけて、その弾道を見切り、右の脇下へ通す様に体を動かす。その際、弾道上に手に持った肩当てを放り投げておけば、

「――ッ!!」

 背後でミサイルと肩当てがぶつかる。音と衝撃が背後から届き、更なる加速を得る。

 ……届け……っ、

 視界に映るのは、先程投げた雪片弐式。

「届けぇえ!!」

 届く。指先が柄の先端に引っ掛かり、雪片が落下から一瞬停滞した。

 その瞬間を逃さず、逆手状態で柄をしっかりと握り、――オルコットの下側へ向かって瞬時加速。胴体があった位置を、二条の光が通過。

「お」

 オルコットの真下を通り、マニュアルによるPIC制御で180度反転。今度は真上へ向かって瞬時加速。

「おお……!」

 通り過ぎ様、雪片で右の非固定浮遊武装を引き斬る。金属を裂く音を聴きながら、再度PIC制御で急停止。オルコットに視線を向け、

「これでッ!」

「舐めないで頂きたいですわッ!」

 1つのBT兵器の銃口が此方に向いていた。

 予想通りの動き(・・・・・・・)。故に俺は、

「貫けぇぇッ!!!」

「またですのッ!?」

 雪片を投擲。

 その後を追い、柄頭に足裏を乗せ更に加速。

「秘剣!|Gソードダイバーー!!」

「何処が秘剣ですの――――ッ!!」

 オルコットが何やら叫ぶが無視。むしろ集中が途切れたのか、BT兵器の攻撃は来なかったので逆に好都合。

 ……零落白夜発動!!

 距離が一瞬で縮まり、光刃が左の非固定浮遊武装を斬り裂き、オルコットの体を霞めるように過ぎる。

 ……獲ったッ!!

 即座に零落白夜を停止。落ちていく雪片弐式を無視して、残りのエネルギーを視界に捉え――、

『勝者、織斑一夏!!』

 勝利宣言を得た。

 

 

 




2条「かなーり久しぶりの投稿。最後の辺り足早になった気が(汗」
1夏「なんでこんなに遅くなったよ?」
タバネ「言い訳どうぞ、さんはい!」
2条「いやな?IS小説書いてたらいつの間にかシンフォギア書いてたんだ。そしたら何時の間にか軌跡SSのフォルダと禁書SSのフォルダが出来てて、どっかに行ってたスパロボSSとマナケミアSSが発掘してさー…………整理しようとしたら設定が出来あがってた。あと仕事が激忙しくなった」
全員「最後のだけにしとけよ!」


結局自業自得乙な話。境ホラ面白いよね?!閃の続編も楽しみです!あと禁書11巻楽しみです!………あれ、また筆記する余裕が無くなる?
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