カタパルトに足を固定。
「弟君」
傍らに居た坂地さんが声を掛けてくる。
「取り敢えずの応急処置として打鉄の腕を取り付けたんだが、動きに問題は無いかい?」
手を開閉し、調子を確かめる。
「ありません。感謝します、坂地さん」
少しぎこちないが、パーツの問題では無く、本体である俺の左腕だろう。血は止まり傷もある程度は塞いだが、激しい動きをすればすぐにまた開く、と診断されている。
……裂けるかもなあ。
更識さんとの約束は少しだけお預けだ。こんな手で料理なんざ衛生上悪いし、食材に対して申し訳が立たない。
「それで、勝機はあるのかい?」
「負けに行くつもりはありません」
「うん、良い返事だ。――キミとはまた話しをしたいね。設計力はまだまだまだまだだけど」
まだ、言い過ぎです。
「キミが考えるアイディアは結構面白い。……タバネが興味を持つ訳だ」
「その所為で今、こんな苦労してますがね」
「良い事じゃないか!未知の体験は心が躍るよ?!」
否定できないから困る。
『無駄口はそれまでだ。準備は良いか?一夏。あと坂地、お前はさっさとこっちに来い。邪魔だ』
スピーカーから姉さんの催促が来た。
「相変わらず厳しいねぇ、……それがまた良いんだが」
今なんつった?この人。
「時間の様だね。健闘を祈るよ」
「……ええ」
坂地さんが退出するのを見届け、俺もピットから飛び立つ。
対面側のピットを見ると、亮斗も飛び立つ所だった。初戦と同じ場所まで移動し、静止。初めに口を開いたのは亮斗からだった。
「よう。ボロボロじゃねーか」
「どっかの誰かさんの所為でオルコットがマジでな」
そう言いつつ亮斗の纏う黒式を観察。
……全体的な感じは白式と似ているな。非固定浮遊武装は背中に、腰の両側面にあるアーマー、先っぽが尖ってるから、もしかしてスラッシュハーケンか?
俺が描いた穴だらけの設計図の中の内の一つ。ソードブレイカーの様な二又の鏃に有線式の武装だ。もし束さんが俺の描いた設計図の幾つかを採用して造ったのだとしたら、
……やっぱりか。
注意深く《黒式》を見ると、左右のアームの肘側が少し盛り上がっていた。恐らくは右に折り畳み式の『短剣』、左には伸縮式の『短槍』が収容されている筈だ。
……取り敢えずざっと見た感じ、
「お前、モルモット扱いだぞ?」
「やっぱ、そー思うか」
白式が『完成された機体』に対し、黒式は『取り敢えずオモシロソーだし積んでみた☆どお!?いっくん!?』と言った感じ。要は実験機。遊び半分で組んだ機体と言っても可。
「良かったな。束さん、お前の事はモルモット程度には認識してるらしいぜ」
なんとも言えない顔をされた。
『おいバカ二人。準備は良いな?』
「「バカは酷い」」
と言うか、教師としてその言葉遣いは良いんだろーか?
『良いようだな。――では3回戦目、試合開始!!』
合図が為された。
意識を日常から、戦闘へと切り替える。そして俺達が初めにした事は、
「は!やっぱりバカだな、一夏」
「お前ほどじゃない、バカ亮斗」
一足の距離まで近づき、お互いの武器を具現。正眼に構えで、武器を交叉。
剣道における試合開始の構えだ。
「ソレが雪片弐式か、――良い得物だな」
「俺が持つにはちょっと重いけどな。――それに、“識って”るんだろ?この武器の機能」
「まあな。それはお前だってそうだろ?俺のルガーランスⅢ。名前と云い、こんなの思い付くのはお前ぐらいなもんだ。……束さんにデータ渡したのか?」
「パクられたってのが正解だな」
「あっそ。……いい加減始めるか」
接触は一瞬。剣と槍の腹が接触し、
「オォォォッッ!!」
「ハァアアアッ!!」
一閃。お互いに放ったのは袈裟懸け。それが両者の間でぶつかり、火花が散る。
「「……っ!」」
剣を戻す。
「シッ――!」
二手目は亮斗の方が速かった。俺から見て、左からの胴薙ぎ。それを後ろに下がる事で避ける。
◆
……強い。
それが亮斗の、一夏に対する評価だ。今も踏み込んで放った胴薙ぎだが、アイツのエネルギーシールドを削れた手応えがしなかった。
ISを扱う上で重要な事は、“どれだけISの事を理解しているか”だ。つまりISを乗りこなすには、搭乗時間の多さでは無く、ISそのもの対する知識、つまりハード面だけでなくソフト面の知識も必要になってくる。
その点、一夏が持つ知識は馬鹿にならない。
武装や機体情報に関しては公開されている範囲でしか知らないと思うが、全てのIS共通点であるPICやシールドエネルギー、ハイパーセンサー、コアネットワーク、絶対防御の発動条件などと言った基礎中の基礎の知識。そして、それ等を動かしていく為のプログラミング技能に関しては、専門職の人間と話しが出来るレベルだ。つまり、
……野郎、シールドの範囲を絞りやがった……!
シールドの展開範囲を体や機体ギリギリまで縮める事で、シールドエネルギーを削られる回数を減らしたのだ。
けれど弱点もある。
シールドの展開を判断するのはIS側にあるので、人体に近ければ近い程、その分シールドの展開が急ぎの展開になる。ついでに言えば、此方の攻撃が強ければ絶対防御が発動する。
要は高火力の攻撃を当てるか、手数で押しきるかってとこだな。
……そういう戦い方は、黒式の得意とする戦術だ。
◆
薙ぎの一閃を避け後ろに下がる最中、亮斗が手にしていたランスを量子変換し、拡張領域へ戻したのを一夏は目にする。
……手数で攻める気か。
《白式》には出来ない戦術。ちょっとムカつく、自慢かコラ。
そう思っている間に《黒式》の左右のアームの外側が開き、右手に直剣、左に短槍を握る。そして、
「行くぜ!」
声と同時に加速。フェンシングの様に右の直剣を突き出して来る。
その刺突を後ろに下がりつつ、縦に構えた雪片でしのぎ――視界に鉄の鏃が視界に映る。
体ごと右に捻る。先程まで左目のあった場所を短槍が突きぬけた。
「避けやがった?!」
「避けるわーー!!」
引き戻そうとする槍の柄に向かって、下段からの振り上げの一閃を放ち、
……零落白夜!
◆
一瞬の交叉。
その一瞬で、短槍が柄から二つに断ち切られた結果だけが残った。
……展開が早ぇ!!
『零落白夜』。作中で“織斑一夏”が駆る白式の、代名詞とも言える圧倒的攻撃力を誇る単一仕様能力。何物をも斬り裂く無双の一刀。ソレが今、目の前にあり、すぐに元の鋼のブレードに戻った。
覚えている“知識”では、発動したら単一仕様能力を切るまで発動し続ける能力だったので、多分自動で能力を強制停止するプログラムでも組んだのだろう。
……坂地さんも白式の応急措置をしてたみたいだしな。
まあそれはともかく、初めて見た零落白夜の感想と言うと、『美しい』の一言だ。
雪の様に白く、存在する事で、身を切る事さえ厭わない研ぎ澄まされた抜き身の刀。まさしく
その鍛えられた一刀が、最愛の弟である一夏と共に在る。
……羨ましいなチクショウ!
俺は前世も含めひとりっ子だ。兄弟・姉妹が居る感覚が分からないので、ソレを持っている一夏が羨ましい。ソレが例え、家事が駄目で身内には厳しい性格だろうと、綺麗なお姉さんとくれば尚更だ。
そんな想いを込め、隙を狙った一撃は見事に防がれた。
……相変わらずバカげたスペックだな、オイ。
本当に目立つのが面倒なら、その高スペックなステータスを隠せと言いたい。家事も出来て、頭の出来も良くて、容姿も整ってて、運動神経も良いから女子にかなりモテるのに、鈍感でも無いのに原作みたくとことんフラグを折っていくとかマジふざけてんのか!?
……ああ、思い出したらマジムカついてきたっ!!
◆
「ハ! 当たれば一撃必殺?!ガード不可?!要は当たらなきゃ良いんだろッ!!?」
「隠し武器満載?!手数で勝負!?全部叩き潰せば良いじゃねえかッ!!」
亮斗が断ち切られた柄を捨て、短剣を両手で持ち、脇構えで接近。
傷口が開いた左手を柄に添え剣を縦、八相の構えで一夏が迎え撃つ。
「「テメェ!斬るぞ!!」」
同時に言い、
「ハーケン!!」
牽制で亮斗が左のハーケンなアンカーを射出。レーザー有線式のソードブレイカーが一夏の胸部に向かって突き進む。
ソレに対し、一夏は構えを変える。右横に縦構えの雪片の刃先を、正面の左向きの水平持ちに変更。そしてタイミングを見計らい、
「ッ――!」
身体を左に移動させながら、柄尻で打撃。ソードブレイカーが一夏の右後ろへと飛んでいく。
対して、一夏は攻撃に移す。方法は刺突。狙いは一番早く届く顔面。
「クッ……!」
それを亮斗は右にズレ、さらに自身を縦軸にしてロール。短剣が一夏の左側をかすめる軌道をなぞる。
亮斗の狙いを察した一夏は、左腕を柄から離し、振り払いつつも自身の位置を微修正。左の非固定浮遊武装を、亮斗にぶち当てる軌道を取る。
そして、
「ぐ……ッ」
「ッ゛!!!」
激突。
亮斗は一夏の非固定浮遊武装に叩かれ、短剣は剣腹を叩かれたのか、半ばからたたき折られていた。
対する一夏は、折る為に強く叩いた衝撃で更に左腕が激痛に襲われ、思考がリセット。
両者とも行動が止まるが、ISは止まらない。数コンマの間で既に2メートル程の距離が空く。
「ま、まだまだあ!!」
逸早く体勢を立て直したのは、亮斗だ。
身体を動かし一夏の方を向き直り、折れた短剣を投擲。
「――っ、あ、ああっ、まだだッ!!」
そこで一夏が復帰。
だが構わず左の腰部を外し手に持ち、右手にルガーランスを抜き一夏に向け、
「一夏ァァァァ!!!」
フルブースト。
その間、一夏はハイパーセンサーで捉えていた短剣をPIC操作で機体を動かし回避する。
「亮斗ォォォォ!!!」
後ろに下がりつつPIC操作で停止。弐の太刀に構え、前に向かって加速。
お互いの得物が型を変える。ルガーランスは剣先から二つに割れ、プラズマが発生。雪片は刀身が消え、鍔が上下に開放。
「「――勝負ッ!!」」
一夏が動きを止める。
ルガーランスからレーザー砲が放たれ、零落白夜の光刃がそれを打ち消しながら一夏が再加速。
お互いのシールドエネルギーがガリガリと削られていき、
「あ、やべ」
零落白夜の発動設定時間が過ぎ、光刃が消失。レーザー砲が一夏を呑みこんだ。
◆
亮斗は止まらない。
事、戦いにおいては冴える感が“敵”が居ると訴え、高まった集中力が思考を加速させ、ただ敵を打倒する為に身体が動く。
撃ち終わりと同時、腕を引く動きながら開いた砲塔を――、
……いや、このままだ。
――閉じず。そのまま二の太刀へと構える。
……来る……!
「――ォォオオオ!!」
その通りに光を突きぬけ、一夏が吶喊して来る。すぐさま白式の状態を確認。
雪片は融解して使い物にならない。右のアームと両脚、非固定浮遊武装の装甲はボロボロ。一夏本人も額から血が流れている。結論として、
……よくもまあ、動いてられる……っ!
パイロット、IS共に限界に近いだろう。だがそれでも戦いを止めないのは、諦めが悪いのか、アイツの自壊願望か、それとも新しく“芯”を得たか。
だがそれでも、
……向かって来るなら倒す。
篠ノ之流。子供の頃からずっと続けてきた剣。
初める切欠は、強くなる為と、
そして、10年。研磨し続けた技は、黒式と言う剣を得、業へと至る入り口に辿りついた。
……だからよ一夏、
「男の一途を舐めんなッ!!!」
身体を下へ。ルガーランスが拳の下を滑り通り、剣腹でかち上げる。上げた腕をそのまま振り回し、狙いは一夏の胴へ。
対する一夏も動く。避けられたと察するや否や、膝を動かすのを捉える。
その事に、やっぱりな、と内心で呟く。
あの時もそうだった。コイツのコレは、負けず嫌いなのではない。ただ単に“身体が動くから”という理由で動いている。だが、そんな死に体の動き、
……見えてんだよ
だからと言って、油断も慢心もしない。動けるから戦うのなら、動けなくさせるまでだ。
《黒式》が俺の思考を読み取り、ルガーランスに命令を送る。そして、開いたままの砲塔にプラズマが発生、
……やっぱり束さん、考え方がオカシイぜ!!
「シークレットモード」
その砲塔を閉じる。
プラズマが内部で膨れ上がり、刀身から光が溢れる。その光がルガーランスの周りを覆う様に形成。
待機中に思考を巡らせ、坂地さんにも考えを聞いて“一度だけ”ならと言われたオリジナルの技。
……その名も、
「月光!!」
プラズマで形成された光刃が白式の脚部を焼き斬り、そのまま振り抜く。剣の軌跡をなぞるように、その直線状にエネルギー波が放たれた。
黒式がルガーランスの状態を察し、再び砲塔が開口し、余剰熱を放出。
『勝者!木場亮斗!』