―――四月中旬
朝、何時も通り教室に行くと、ちょっとだけ“ざわ……、ざわ……”としていた。席に着くと、待ってましたと言わんばかりに数人の女子が話しかけてくる。
「ねえねえ織斑君。二組に転校生が来たって情報知ってる?」
「は?」
間の抜けた声が出た。
……こんな中途半端な時に転校、ねぇ。なんて分かりやすい。
あきらかに狙いは俺たち男性IS乗り。しかもこの学園の中途入学者の試験は、入学試験時よりも実技の難易度が上がっていると聞く。それを突破したと言う事は、実力者だと言う事を周りに宣言しているものだ。
「ああ、そう言えば会長がボヤいてたな……」
「そうなの?」
実際はボヤいてではなく、転校生が来る事によって生じる諸処の関連事情に忙殺され更識さんをこっそり眺めてる暇が無い、と言った呪詛の念だったが。
……それでもキッチリ仕事はこなしてるあたり変に優秀だからなぁ……。
と言うか、こっそり眺める為の時間を作る為に自身のスペックをフルに使いすぎだ。さっさと仲直りすれば堂々とスキンシップとれるのに。
「おーっす」
「おはよう」
亮斗と箒も教室に入って来た。
「あ、亮斗君!聞いた聞いた?!転校生来るんだって!」
そして早速自称『情報通』の
「あ?……あ、ああ、二組に来るんだっけ?」
……アイツの妙に歯切れの悪い返し。『転校生』は予定調和って事か。
「亮斗君も知ってたんだ……。あ、じゃあコレは知ってる!?その転校生、中華人民共和国の代表候補生なんだって!」
「綾?なんで正式名称で言ったの?」
「専門は何?総合?射撃?機動?」
「マジマジ。でも専門までは分からなかったわ」
「あ、あれー?私の疑問はー?」
「その話、本当ですの?」
一人の疑問をスルーして話しを進める女子達。そこにオルコットが混ざって来た。
「代表候補生と言う事は、もしや私の存在を今更ながらに危ぶんでの転入ですの……?」
「あー、それは別に関係ないんじゃないかなー?」
俺も同意だった。というか狙いは絶対俺たちだって。
つか、探せば代表候補生にスカウトされそうな娘は意外と居そうな気がする。
「でもウチだって負けてないっしょ。なんたって、一年では一組と四組にしか専用機持ちは居ないし」
胸が超痛い。
「そうそう!――頑張ってね織斑君!」
「私達に学食のデザートフリーパスを!木場君!」
「一緒に食べに行こうね!セシリアさん!」
「欲望に忠実だなぁ」
「「「「「「「「「「「「「「『女子って甘いモノ好きだなぁ』に修正して!」」」」」」」」」」」」」」
そんなハモんなくても。
「甘いわね!そのフリーパスは二組のモノよ!」
行き成り教室の前のドアが開き、大きな声で宣言した人物に全員の視線が向く。
肩だしスタイルに改造した制服の少女だ。勝気そうな碧の瞳に、心なしか、それとも久しぶりに会ったからなのか、少し増量した胸部装甲にもかかわらず全く成長してない小柄な体格からは活発なオーラを出し、
「甘いって、デザートなだけにか?鈴」
その一言に、少女――
「久しぶりに会ったのに、行き成り笑えないジョーク?アンタ、相変わらずねじ曲がった性格してるわね一夏」
「ツッコミ待ちかと思いまして」
「アタシが突っ込み役よ!」
「相変わらず毒されてんなぁ鈴」
「亮斗も久しぶりね。あと、この性格は付き合いが長かった所為よ」
「髪型変えたんだな」
前はツインテールだったのだが。
「解けばアンタ好みのセミロングよ?」
即座に復帰した数名がメモを取った。
……つーかなんで知ってるし……。
かなり混沌とした中で、二つの人物が此方に詰め寄って来る。
「りょ、亮斗?その……」「い、一夏さん?亮斗さん?その……」
箒とオルコットさんだ。だがしかし、残念ながら説明する時間がない。何故なら、
「そろそろ時間だ。席に着け」
時間に正確な姉さん先生が教室に入って来たからだ。それはつまり、後数秒でチャイムが鳴るのと同意。
そんな時報姉さんは、目の前に立つ鈴の存在に気付く。
「む?お前、鳳か……?もうすぐチャイムが鳴る。さっさと自分のクラスに戻れ」
「あ、はーい!あっ、昼休みにね一夏!亮斗!」
……相変わらず嵐みたいな奴。
「しかし昼か」
今日は坂地さんと話し合いがあるんだがなぁ。
◆
―――昼
“知識”通りに箒とセシリアが千冬さん叩かれるのを見つつ、木場亮斗はもうそんな時期だったか、と内心で思う。
……原作とはだいぶ違うからなあ。
セシリアのクラス代表決定祝い会は一夏のケガが治ってすぐにやったし、この世界の一夏はISに詳しいから地面にクレーターを作らなかったので、鈴の来るタイミングが分からなかったのだ。
……まあ、来なかったら来なかったでそういう歴史を歩んでんだって納得するしかないけどな。
仲のいい友人と再会できないのは少し悲しいが、今の俺の立場で中国に居る鈴に会いに行くのは無理な話だ。
……そもそも俺と鈴はそういった間柄じゃねーし、アイツの担当は一夏だ。
そう思いつつ授業内容をノートに書き込んでいると、授業終了のチャイムが鳴った。
「――ふむ、キリも良いので此処で終わろう。クラス委員、挨拶を」
「起立!――礼!」
『ありがとうございました!』
「ああ。次の授業も遅れるなよ?遅れたやつは放課後にアリーナの外周8周だ」
そう言って千冬さんはささっと教材を片づけ去っていった。ちなみにアリーナの外周は5km、つまりは罰で40km。ほぼフルマラソンの距離だ。
「さあ亮斗!朝の女との関係を話してもらうぞ!」
「ですわね。私も気になっていましたの」
箒とセシリアが早速絡んできた。
「良いけど、取り敢えず本人もいた方が分かりやすいし食堂行こうぜ?」
「む?まあ、その方が分かりやすいか」
「それもそうですわね」
「決まりだな。じゃあいち――あ?アイツどこ行った?」
二人が提案を受け入れてくれたので、一夏を伴って食堂へ行こうとしたが、肝心の一夏がいつの間にか席からいなくなっていた。すぐに視線を教室の入り口に目を向けると、のほほんさんに弁当を渡して出ていく寸前の一夏と目が合う。
「亮斗!今日、ちょっと倉研の人と話し合いがあるから、鈴の対応宜しく!」
それだけ言うと、あっという間に出て行った。
……アイツ、逃げたな。
仕方ないので箒とセシリアを伴って食堂へ赴く。
「あ、木場君!鈴ちゃんきたんだって?」
「ああ。今から食堂で待ち合わせだけど来るか?」
「行く行く!」
その途中で、遠見と会ったのでついでに誘う。
「来たわね!ってあれ?亮斗だけ?」
予想通りの反応に、相変わらず素直だなーと内心で呟く。
……まあ、待ち人が来なかったらそんな反応にもなるわな。
自分の面倒を押し付けるとか、ホンっと原作とは大違いだ。その分の報いは受けてもらうが。
「やっほー鈴ちゃん」
「あ!真矢じゃない!久しぶりー!」
中学時代少しだったが親交があった二人が挨拶を交わす。
「二人から聞いてたけど、鈴ちゃんこっちに帰って来たんだね」
「友人ネットワークの伝達速度も変わってないわねぇ。となると、弾達にも伝わってるっぽい?」
「ぽいぽい。俺と一夏で回しといた。――それよりも鈴。券売機の前に居たら俺らが飯にありつけないんだが……」
「あ」
そこまで歴史再現しなくても良いのに。いや、食券だけでまだ昼飯を貰ってないところは違うか。
鈴が退いたので、それぞれ食券を買う。俺は箒製の弁当だが、最近はそれにプラスして吸い物系だ。今日は豚汁うどんにしよう。
早速注文し、お馴染みになりつつある窓際のテーブルに座る。
「んじゃあ改めて、久しぶ鈴」
「再会の言葉と私の名前を混ぜないでよ!!」
「懐かしいだろ?」
「ええ嫌ってくらいにね」
「ねえ、それより早く食べよー」
俺らの会話をまるっきり無視して、遠見が催促してきた。そしてその通りなので、全員して飯を食べ始める。
「――で、亮斗?その、この女とはいったいどのような関係と言うか繋がりなのだ?」
そして開始早々、箒が突っ込んできた。
「どんな関係と言われると、……箒が小4年の時に引っ越した後、5年になってから転校してきた同級生、だな」
原作では一夏の奴がセカンド幼馴染とか訳の分からない単語を使ってたが、俺の考え方で言えば幼馴染と言えば箒と一夏だけだし。
「で、中三になる前に親の都合で中国に引っ越すまで俺らとつるんで、色々やらかした女傑の一人でもある」
「ちょっと、変なこと言わないでよ!アレはアンタらが変なこと企てて私らに迷惑が掛かったからでしょっ!そうよね真矢?!」
「え?私!?……いやいや私は翔子と一緒に見守ってただけだし、笑いながら木場君たちを鎮圧してたのって凰さんと咲良じゃなかった?」
遠見の言葉に対し、鈴は少しの間 考え――、
「思い出の美化ってよくある事よね」
「それはあるかもしれねーが、改ざんは良くねーだろ」
「うっ!わ、分かってるわよ?!それより!一夏の奴はどこ行ったのよ!」
「さてな、妹属性持ちの娘のところじゃねーの?」
「あんの野郎っ相変わらずか……ッ!」
適当に言ってみたら鈴の怒りゲージを貯めただけだった。
……普段の行動が行動だし仕方ないか。
◆
「ッ!?」
背筋に悪寒が走った。
『おや?どうしたんだい?』
ソレを、通信先の相手――坂地添さんは目敏く気づいた。
場所はIS学園内のセキュリティの高い通信室。その十の小部屋に区切られた一つ。
……でもさっきの嫌な感じ。選択ミスったか?でも坂地さんとの話し合いは前々から決まってたことだしなぁ。
ちなみに、普段は整備室で更識さんとのほほんさんと一緒に昼を取っている。
「それで、今日はいったいどんな用件で?」
『まず初めに、――ありがとう』
画面越しに頭を下げられた。
何事かと思う前に、頭を上げた坂地さんが言葉を繋ぐ。
『弐式の事、感謝しているよ。彼女の件は私もどうにもできなくてね、心苦しく思ってたんだ』
……この人、行動はアレなことが多いけど良いヒトだ……!
「気にしないで下さい。俺が好きにやってる事ですから」
『――そっか。いやーやっぱりキミもそう思ってたんだね!未完成のままじゃ弐式ちゃんも辛いよね!!』
「彼女ってISの方かよ!!」
もちろん簪君の事も気にかけてるさー、なんて結構棒読みで言ってやがるが。前言撤回。やっぱりこの人はオカシイ。
『弟君は簪君のISが完成して嬉しい、私は弐式が完成して日の目を見せる事ができるのが嬉しい。簪君はISが完成して嬉しい。つまりwin-win-winの関係って事で納得しようじゃないか』
間違っちゃいないけど無理やり纏めやがった。
「……良いですけど、装備に関しては?」
『専用装備に関しても開発凍結にはなってないから、少人数ではあるけど開発を進めている。――それで本題なんだけど。白式の改修案の事だよ』
「――何か問題がありました?」
腹が減ったので、自作サンドウィッチに伸ばしかけていた手を止めた。昼メシにありつけるのは少し先になりそうだった。
『理論、技術的、ウチの予算的にも問題はないけど、ただ弟君が扱えるのか、と言うのが問題だね』
「つまり実力を示せと」
『そういう事。――できるかい?』
「やります」
いい返事だ、と坂地さんが笑う。
『そういう真っすぐな所、チフユとそっくりだよ』
「姉弟ですから」
さらに大きな声で坂地さんが笑い、
『――イチカならやりそうな気がしてくるね』
……あ、名前。
『こっちの企画も少しずつだが進めておくよ。上にバレない様こっそりとだけどね』
「感謝します――けど、大丈夫なんですか?主にスタッフの負担とか休みとか」
坂地さんフッ、と笑みを零すと。
『ISに尽くし、ISの為に倒れる。ISに人生を捧げた者にとって最高の人生だと思わないかい?私の人生』
「自分だけに負担を強いてるのを褒めるべきか、倒れたら周りが迷惑するからと怒ればいいのか……」
この人なら本当にサービス残業して寝ずにISイジってそうで怖い。
『そっちでも出来る部分は進めてても良いけど、その際は事前にレポートを送って欲しい。許可を出すかは上の判断が必須なんでね』
「じゃあまずは両肩のアーマー取っていいですか?」
『いいよ?』
案を出したら即座に許可された。
そもそも何故あんな戦隊ものっぽい肩アーマーが付いてるのだろうか?オルコットさんや打鉄、さらに弐型やラファールを見るに全機肩むき出しなのに。あれか、男の子だから戦隊ものに憧れてると思ったのだろうか?
『それで?他には何かあるかい』
「それじゃあ――」
その後、色々と話し合い、気づいた時には5時限目が始まるチャイムの音。
話の切り上げタイミングをミスった、と内心で後悔してもすでに遅く。昼飯を食べ損ねたのに加え授業の遅刻、初犯と言う事で放課後にグラウンド4周―― 一周5kmなので20km――の罰を受けることになった。
◆
時は進み放課後。時刻は七時近く。
「だいぶ遅くなったな」
既にグラウンドには人影はなく、漸くハーフマラソン越えの距離を終わらせたところだ。
これからはなるべく無断欠席は避けよう、と内心で誓う。なんせ更識さん達と過ごす時間が減るからな。
その更識さんと言えば、特殊武装系を除く弐式のプログラムが漸く完成した。あとはインストールと機体の組み立て、実際に動かし各種テストをクリアすれば完成となる――特殊武装なしだが。
「IS作るのって大変なんだな」
俺の知ってるISの製作過程は白騎士だけ。しかも束さんが担当しており、俺が参加した時にはもうパーツやら何やらが全て揃った状況。俺がやったことと言えば、デバックやデザインのみだ。
……むしろ俺必要?っていう段階だったな。
それでISの製作に携わったなんて言われても肩書負けする。
「なに辛気臭い雰囲気出してんのよ?」
「ん?よお、鈴」
昇降口の扉に寄り掛かる鈴に、手を挙げて答える。
その鈴は、ん、と軽く返事しつつこちらに近づき、手に持っていたスポーツドリンク缶とタオルを差し出してきた。
「お、さんきゅー」
受け取ったタオルで汗を拭き、プルタブを開け喉を潤す。キンキンに冷えたやつではなく、買ってから時間が経っているのか若干冷たさが和らいでいて飲みやすかった。
……一年経つのによく覚えてるな。
「ふう、生き返る。――さてと、改めて久しぶ鈴」
「だから再会の挨拶と私の名前を掛けないでよ」
むう、流石にもう二度ネタだったか。
「お約束だろ?」
「嫌なお約束ね!」
不機嫌に顔をそむける鈴。だがすぐに顔を赤くしてこちらに向き直った。
「一夏っ!」
「何?」
「こ、この後アンタの部屋に遊びに行っても良い?!良いわよね!?」
「いや俺の部屋はちょっと……」
「べ、、別に亮斗が一緒だって構わないわよ?中学の時だって誰かの家に集合とか良くしてたんだし」
「いや、まあその通りなんだけど」
「なんか歯切れが悪いわね……、まさかっ」
……バレたかっ。
「一夏。まさかのまさかとは思って聞くけど、――ルームメイトは亮斗よね」
これが答えだ、と言わんばかりに顔を逸らす。
「ふ、ふふふっ」
「り、鈴、さん?」
妖しい笑い声につられ鈴を見ると、
「―― 一夏」
「はひっ!」
綺麗な笑顔でほほ笑む魔王様が居ました。
「案内しなさい」
「い、いやでも」
「し な さ い」
「さ、sir,Yes,sir!!」
「マムよ」
確かに鈴の反応は正しい。むしろコレが普通の反応だ。現に入学初日に更識さんと初対面の時だって厳重ロックの上 バリケード付きの対応だったしな。
だがそれ以前に、
……さっきから鈴の態度。焦燥か?確かに異性と同室ってのは色々マズいのってのは分かるけど、どーもそれ以外の理由がある気がする。
分からない。分からない、がどうやら国元に帰った後に色々あったみたいだな。
……まあ取り敢えず。
「鈴。部屋に案内するのは良いが、まずは着替えさせてくれ」
「四十秒で終わらせなさい」
「ついでに夕飯の買い物-」
「三分待ってあげるわ」
「……バルス」
「はっ、ワロス」
……此奴っ、突っ込みの切れ味が上がってやがるッッッ!!