――2月某日・受験日
俺が受ける私立藍越学園は、学費が安く高い就職率をキープしている。試験日も2月の中盤なので、第一希望に落ちた者や最後の頼みと言わんばかりに受ける者も居るので、毎年多くの受験生が志望する。質より量で学費の低さを補う為、それなりの定員設定(一クラス40人前後で8クラス、つまりは300人以上)なのに、ソレを越える志望が届くのだ。そして、俺と亮斗が受験する学校でもある。
――そんな中、俺は今人生の選択肢を選ばされていた。
場所は、藍越学園の試験会場――の隣で同じ日に開かれている、特殊国立高等学校IS学園最終試験会場。その一室の広い大ホールだ。
その中心に一つの『兵器』が置いてある。青白い光を放つ台座『シールドエネルギー補給装置』の上に、二メートル近い全高を持った、武士鎧をイメージしたメタリックグレーの兵器。純国産のIS『打鉄』だ。
ソレが、『誰か』を待つかのように鎮座している。
「ハァ……」
思わずため息が漏れる。
そもそもの予兆として、朝からおかしい事の連発だった。
昨日はしっかりと寝たし、朝刊配達は休ませて貰ったし、朝飯はしっかりと食べた。目は覚めてたし、頭もしっかりとしていた。そしていざ出陣、と気合を入れドアを出た瞬間――耳鳴りがしたのだ。
それ以降、此処に来るまで何度も耳鳴りがし、試験会場に着く頃には頭がボーっとし、試験の間も頭痛に悩まされながらもやり遂げたのを覚えている。その後、まるで夢遊病患者の如くフラフラと通路を歩き――ふと我に気付いた時、打鉄に触れそうな瞬間だったので、慌てて手を引っ込め、――――そして今に至る。
◆
打鉄を前に立ち早数分、いや、もしかしたらもう10分以上は経ったかもしれない。
もうすぐ面接試験が始まろうとしている。今すぐに引き返さなければ、時間的に間に合わないのだが、様々の想いが入り混じりずっと打鉄を見続けていた。
だが漸くある事に思い至り、携帯を取り出し無記名の番号をコール。
『はろはろ~☆たっばねさんだよ~☆ 私に何か用かなー、いっくん?』
ワンコールもせずに相手は出た。
「――お久しぶりです、束さん」
篠ノ之束。ISの生みの親にして、3年ほど前から行方知れずの世界的重要人物。現在に置いても、世界各国――それこそ軍・企業・研究施設に関わらず、裏からも行方を探られている大天
……その割に、偶にウチで呑気にメシ食ってるけどな。
この前来た時は、娘みたいな子!と言われてクロエを紹介された時は、姉さん共々この世界が終わる様な顔をした覚えがある。
まあ今はそんな事関係ないので放置。
「“コレ”、束さんの差し金ですか」
『ナンノコトカナ~? って、もはや疑問形じゃなくて確信で言ってるよね、いっくん』
朝からの耳鳴り。誰一人として来ない大ホール。そしてご都合主義の如く一体だけ置いてある打鉄。――もしかしたら藍越とISが一緒の試験会場という事さえも、篠ノ之束の
「そもそも、男の俺にISが起動するんですか?」
昔、束さんの手伝いの関係で触った事があるが、コアを触っても起動しなかった覚えがある。
『問題ナシナシ! 私を誰だと思ってるのさ! いっくんと後、箒ちゃんが好意を寄せてる憎っくきウザったい子………………りょっちゃんだ! いっくんとりょっちゃんのパーソナルデータをネットワーク内に入れといたから、問題なく動かせるよ!』
「(亮斗……アイツもか)…………ん?あれ、と言う事は」
携帯を離し、耳を澄ます。
と、ドアの向こうから慌ただしい声が響き、
――大変よ!い、いま男の子がISを――
――なッ!それは――
――企業関係者は――
――パルパルパル――
大騒ぎだった。と言うか最後の奴、お前絶対に『刀砲』やってるだろ!?
「帰って良いですか?」
『えー!そしたら、昔、いっくんが私の手伝いしてたって情報流しちゃうよ?』
「脅しか?! ――アンタ知ってるだろ?俺がIS嫌いだって」
ISは、――アレは俺の周りの人達の人生を狂わせた。姉は一躍有名になったが、その分普通の人が得られるであろう“幸せ”が消えた。幼馴染の剣道少女は今も各地を転々としているらしい。他にも公園でリストラされた中年男性や、女尊男卑の風潮のせいで男から避けられ、泣く泣く婚期を逃した●十代の女性。男が店主と言うだけで値切られた八百屋のおっちゃん等々、多くの人から愚痴を聞いた。つーか子供に愚痴んな、いい歳した大人が。
『女尊男卑』。これが今の世の中だ。ソレを齎したのもISだ。“女はISが使えるから偉い”“どんな理不尽な事を言ってもやっても、女性なら許される”そんな風潮だ。弾達と遊んでた時も、行き成り“これ買って?”と言われた時は、思わず全員で言葉のフルボッコにしたのは良い思い出だ。
『ん~そこを曲げ欲しいな~って、束さん思ってるんだけど』
「無理です」
別に俺が居なくても、亮斗の奴が居るから良いじゃん。
『じゃあ仕方ないか。――くーちゃん!』
「了解です、束さま」
「へ?!――おわっ?!」
後ろから声がしたと思ったら、背後から押され――打鉄に触れてしまった。
キイィィンと音がし、脳裏に様々な情報が流れ込み、最後に女性の幻影が見えたと思ったら俺の視界はいつもよりも高く、その身は打鉄を纏っていた。
だがそんな事よりも、先程俺の背中を押した人物を見る為に背後に振り返る。振り返った先、虚空に溶けて行くよう姿が消えゆく銀髪の少女を見つけるが、
「それでは失礼します」
「待――ッ!」
そう言い残し消えた。
俺の思考を読み取ったのか、ISが自動的にハイパーセンサーの解析を掛ける。ドアが開けられた様子も、壁を突き破ったりしていないのでまだこの部屋に居る筈だ。
――だが、その予想に反し、ハイパーセンサーには何も引っ掛からなかった。
……無駄に技術力高けぇよあの兎!
「――はぁぁ、……オイ兎さん」
『何かな、狸の皮を被った狼さん?』
まだ繋がっていた束さんに話しかける。
最早この段階まで来てしまった以上逃げられないだろう。せめて、日常を再びブチ壊してくれやがった事や、これから先来るであろう苦労に対して、この兎に次ぎ会った時はタダじゃすまさない事を忠告しておく。
「今度会ったら、その豊満なお胸様を啼くまで揉みしだく。覚悟しろ」
『何言ってるのさ、いっくん。 束さんは何時でもおっけーだよ?』
「…………………………ゑ?」
『おっと流石に凡人共でもISが起動した事ぐらいは気付くか~。それじゃあいっくん、またね!』
「え?あ、ちょ――!」
言いたい事を言い、即座に通話が切れた。
……あるぇぇぇえ?選択肢間違えたか俺?!
そんな俺の内心の混乱を他所に、無情にもホールの扉が開いてく。
「此処からも反応が!――こっちも男の子!? しかもイケメンキターー!!」
「はぁ……もう、我慢しなくても良いよね、俺?」
今世で一番苦労しているのが、顔が良いからと言う理由で言い寄って来る女性だ。前世では顔が良い男を羨ましいと思っていたが、実際にイケメンになると苦労も多いのだと、心底理解出来た。
2時間後―――
「さて一夏、用意は良いか?」
「……積んだな、俺」
アレから2時間が経ち、現在の場所はコロシアムの様な広い場所。観客席には白衣やスーツ姿の女性達。前者は自分の周りに空間モニターを展開し、後者は輝かんばかりの視線を此方に向けて来る――が、その視線の先は俺でなく、俺の目の前に居る打鉄装備の姉さん――いや、《ブリュンヒルデ》織斑千冬だ。一部、俺に侮蔑と憤りと羨望の視線を向けて来る女性も居るが、そんなのはここ数年の生活で慣れたので無視だ。
あの後は結構大変だった。検査に続く検査、更に追加で検査して、ISの基本と動かし方を数分で教えられ、そして今現在、世界最強の名を持つ《ブリュンヒルデ》こと、私生活では駄姉の称号を持つ織斑千冬と、IS学園入学試験の模擬試験が始まる所だ。
最早ツッコミ所が分からん。ISの知識は、束さんの手伝いをする過程で基本的な事は覚えたが、実際に動かすのは初めてだし。しかも相手が相手だ。
……つーか、何でド素人に最高峰のIS操縦者が相手なんだよ?! どっかの廃人ゲームだと、旅だった瞬間に勝負を仕掛けてくるトレーナーが伝説のチャンピオンみたいなもんだぞ?!しょっぱな難易度ルナティックでプレイする様なものだぞ?!どう考えても無理ゲーだろ!!
「ルールは分かってるな?シールドエネルギーはお互い600。得物はIS用ブレードのみ。お前に合わせ、私も移動範囲は地上のみで空中機動は禁止にしておこう」
「…………そりゃ有難いことで」
多分、今の難易度はハードくらいだ。せめてセカンド、もしくはノーマルくらいに下げて欲しい。
「ああ、手加減はするし全力機動はしないぞ? 負けても、お前と亮斗はIS学園に入学せざるを得ないだろうからな。だから――」
そう言って、宣言通り片手一本、それも利き腕じゃない左手だ。その左手にIS用刀型近接ブレードを構え、
「勝つ気で来い」
一瞬にして30メートルもの距離を縮めて来た。
「ッ!!!」
ただの振り下ろしの斬撃に体が反応し、バックステップをしながら片刃剣で受け流す。
だが、PICによって浮遊している状態だった為、予想よりもさらに後方へと下がってしまった。
「く――ッ!!(――やっぱ知識と実際に動かすのとじゃ、全然違うな!)」
慌ててブレーキを掛け、姿勢を正す。一瞬、PICを切るかどうかを迷ったが、
「良く聞け一夏!」
それよりも速く、姉さんが迫って来た。
「(ちょ、はやッッ!!)何さ姉さんッ!」
二撃目が来た。 攻撃方法は先程と同じ、正面からの振り下ろしだ。
動きを止めてしまった瞬間を狙われたので、必然的に受けるしか選択がないが、普通に受け様とは思わない。やる事は一つ、攻撃は諦め、受け流し中心の防御を選択する。
ギャリッッ!!っと金属が擦れる音を立て、何とか二撃目を防ぐが、シールドエネルギーが20程削られた。
これがもっと上の実力者――それこそ国家代表クラスであれば、回避と同時に攻撃くらい余裕で出来るだろう。
「私は、ISに関する事は一切しゃべらなかったし、お前がISに関わらない様止めていた」
姉さんの言葉に、声は出さずとも肯定する。姉さんは、疲れて帰って来ても、酒を飲んでいようとも、雑誌やIS関係のドラマやドキュメントは見せなかったし、口にも一切出さなかった。
「だが、お前は自分から関わっていた……ッ!」
「……ああ、姉さんには、黙ってたけど、結構調べてたよ、俺」
しゃべってる間にも斬撃は続く。
姉さんが本気で来ているのなら、俺はしゃべれもせず即負け決定だっただろう。――つまり手加減されている。斬り上げが入ってないし、一撃一撃の間が空いているし、振る時も一秒程停止――つまり、何処から一撃を繰り出して来るのか教えてくれているのだ。
「私の苦労は、無駄だったな一夏!!」
斬撃のパターンが増えた。最初は振り下ろしのみだったのが、次第に袈裟切りと逆袈裟が加わり3パターンに。
「――そう、だな」
削られていくシールドエネルギー。既に400を切った。
だが此方としてもただ単にやられているばかりでは無い。少しづつ、知識と実際に動かした感覚を繋ぎ、次第にISの機動をモノにして行く。
次第に動きの良くなるが、比例するように一撃が強くなり、剣速も速くなっていく。
「お前の人生は、これから先もISとは無縁の生活では居られなくなる!」
「元から、だよッ!」
多分、姉さんから束さんを紹介された時、束さんに出会った時から、俺の人生は殆ど決まっていたのかもしれない。
「お前が、ISを嫌ってるのは、知っている。だが――」
その先は言わせなかった。
振り下ろしの一撃に合わせ、一歩を踏み込み姉さんの刀をかち上げる。そしてついでと言わんばかりに、もう一歩踏み込み斬撃を放つ。
――――が、流石は世界最強。紙一重で躱された。
そのまま数歩距離を空け、俺と姉さんが向かい合う。
「――姉さん、一撃勝負だ」
構えは顔の左側に、地面と水平に持つ刺突の構えだ。足は肩幅に開き、左足だけ一歩下げる。
シールドバリアーは既に120を切った。この一撃に全てを込めるので、恐らくは急所に入れられ、シールドエネルギー切れで俺の負けだろう。
……だが、例え負けると分かっていても、最後まで全力を尽くす!!
「……良いだろう」
俺の構えを見て、言葉少なく頷く姉さん。
構えるのは正眼の構え。基本中の基本の構えだが、姉さんが構える事で、極致に至っている錯覚を覚える。
「「…………」」
一瞬の空白。お互いの視線が絡み合い、――動いた。
仕掛けに行ったのは俺だ。
「篠ノ之流奥義――!」
篠ノ之流とは、篠ノ之家に伝わる剣術だ。俺達織斑姉弟が習った篠ノ之流は、後の後を基本とした守りの剣だ、今で言うとカウンター型と言っても良い。自ら仕掛ける事はせず、降り掛かる火の粉だけを払う撃剣だ。
だが時代の流れと共に、先の先を打てる技も産み出された。それが、今俺が放つ技。
其の名を、
「桜花七式二の太刀《陽炎》!!」
技の種は刺突――と見せかけた、攻めのカウンター。敢えて相手の懐に飛び込む事で攻撃を誘い、相手の攻撃を受け流し、カウンターで決める技だ。
知識では理解している瞬時加速を、拙いながらも用い一直線に攻める。
だが、
「――良い、一撃だ」
その一撃を見て、姉さんは微かに笑っていた。歓喜と哀愁を混ぜ合わせた様な、育ち飛び立って行く雛を見守る親の様なそんな顔をしていた。
「見せてやる、一夏。篠ノ之流の終点、カウンター型の極致を」
「勝負!!!!」
交叉は一瞬で終わり、――――直後、勝敗が決したブザーが鳴り響いた
木場君のISをどうしようか検討中
誤字、脱字、これおかしくね?って部分があったらどうぞ御一報を
本作設定―― 織斑一夏 ――
・鈍感じゃない
・転生者
・原作と違い、あまり笑わない
・何気に高スペック肉体
・プログラマー
・自作魔改造PCあり
・篠ノ乃束の助手・担当『一部プログラミング』『白騎士造形』『使いっ走り』『専属マッサージ』
・織斑千冬の弟・役割『家事全般』『専属マッサージ師』『男だけどオカン』『頭痛の種』
・×主人公 ○主役
・篠ノ之流剣術門下生
・『刀砲Project』ZUN主代理人・HN「IKA(いっかー)」
・準・厨二病患者
・デートくらいはした事がある
・でもキスすら未経験
・理由は『実はオタク』と言う事実が分かるから
・デート相手曰く「顔も血筋も鍛えられた体も良いのに、良いのに……っ!」
・あと鈍感じゃない