織斑一夏は逃げられない   作:ニジョー条

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決闘は避けられない

―――4月7日・二時限目

「――さて諸君。一時限目と並行して、この時間も特別HRだ」

 教壇でそう宣言する織斑先生。その言葉を、約一名を除き全員が静かに聞く。その約一名――オルコットは、随分手加減された一撃だけでフラフラと自席に戻って行った。

 内心、あの程度でフラつくとは情けない、と思っていたのだが、それ以上の打撃を喰らって『クラクラする』で済んでいる自分の事を思って、軽く鬱になった。

 ――慣れ、そう慣れだよなっ!!人間慣れる生きモノ!

 そう納得し、織斑先生の話しを聞く。

「それではまず最初に、クラス代表を決めて貰う。クラス代表とは、言葉通りクラスの代表、――まあつまりは委員長的な存在の事だ。学生会議や来月行われる『クラス対抗トーナメント』、それ以外にも色々な行事で引っ張りだこになる役職だ。しっかりとこなせば、内申での教師側からの評価は高いぞ?ちなみに定員は一名。――誰か、やりたいヤツはいないか?」

 いやいやいや、その説明で自薦するヤツは中々いないと思うぞ?

「はい!織斑君を推薦します!」

 やっぱり来たなッ!

「私も織斑君が良いと思います!」

「そうよねー、なんたって織斑先生の弟さんだもの!」

「ええ――きっとトーナメント戦で優勝して、私達にフリーパス券(栄光)を持って来てくれるわ!」

「「「「「「「賛成!!」」」」」」」

 欲望に忠実だなオマエら! あと姉さんと比べるな! 姉さん、戦闘能力に関しては人外だから!!

「いいえ、此処は木場君を推薦するわ!」

 良しッ!誰だか知らんがよく巻きこんでくれた!

「フフフっ、普段は爽やか王子様な美少年が、いざ戦いの場に出ると闘志を漲らせ、獰猛な笑みを浮かべ敵へと果敢に向かっていく…………コレは売れるッ!」

「合作を希望するわ」

「あっ、クソッ!先に言われたッ」

「ふん……ジャンル違いね。私は『姉×弟』でいこうかしら」

「あら、アナタそっち系?私は今回、無難に『一×木』にするわ……いや『姉×(一+木)』で行くべきかしら?」

「「「「それ下さい!」」」」

 やっぱ何処にでも居るんだな、作家ってのは。つーか4人か、意外と多いな。常連も居るみたいだし、マジこの教室カオスだな。

 

「納得いきませんわッ!!」

 

 そんな空気を断つように、机を思いっきり叩いた音と、叫ぶような声が同時に響いた。

 場所は教室の後ろ。振り返らなくても誰だか分かる――セシリア・オルコットだ。どうやら立ち直ったようだ。

「クラスの代表を、物珍しいからと言ってやる気も実力も無い男性になど、――唯でさえ先程の件で頭にキているのに、このセシリア・オルコットを抜きにして納得できませんわ!」

 じゃあ何で自薦しないんだよ。アイツ、もしかしてさっき自分で代表候補だって言ったら推薦されると思ってたのか?もしそうなら、ハッキリってバカだなアイツ。欲しいモノがあるなら、自分で動かないと手に入らないのに。――束さんとか、最もな例だな。

「大体、此処(IS学園)がこのような外れの島国などになければ、こんな辺境の地になど赴かなかったものを……っ」

「あっ、おいそれ以上は止め――」

「なんですの!?人の名前を間違えるお猿さんっ!」

 おおぃ、空気読めイギリス淑女。 お前の発言、女尊男卑以前の問題だから!代表候補生とは言え、国を背負ってるの分かってる?!国際問題だからッ! つーか姉さんがッ、織斑先生がめっちゃ見てるからッ!!

「大体、せっかく彼のブリュンヒルデ様に教えを乞う事が出来るのに、貴方達がいるせいで、私のクラス(・・・・・)の気品が下がりますわ!!」

 ゾクリッ、と俺の背筋が凍った。けど周りを見ても、誰一人としてその圧を感じている様子は見られなかっ――いや、箒のヤツが感じてるな。山田先生も顔が青ざめてるし、後ろをチラリと振り返ってみれば、木場のヤツも冷や汗を掻いてやがる。……意外なのは、のほほんさんも笑顔で固まってた。

 その圧の発生場所である織斑先生が、オルコットが続きを言うよりも速く、口を開いた。

「――話しは分かったオルコット。なら織斑、木場、オルコットの3名で試合をして貰う。形式は総当たりとしよう」

 一気に捲し立てる織斑先生に、流石のオルコットも口を挟めないでいる。

 ……たくっ、唯でさえ姉さんはブリュンヒルデとか言われるの嫌いなのに、日本人(自分達)の事を猿だの、辺境の地だの言うから。……今夜は姉さんの好きなモノでも作るか。

「試合日は来週の月曜だ。異論は無いな?あっても呑み込め。――では少し早いが、授業を始めよう。山田先生」

「え?あっ、は、はい!ええっとそれでは皆さん、『ISの基礎理論』の教科書を出して下さい!」

 織斑先生のプレッシャーが治まり、山田先生が慌てて授業の準備をする。そのアワアワした姿を見た生徒達は、漸くと言った感じに息を吐いていた。

 ……うーん。これもある種の才能か?

 姉さんが絞めて、山田先生が癒す。実に飴と鞭な関係だ。どっちがどっちだかハッキリ分かる。

「――織斑。今、変な事考えたな?」

「イエ!ワタクシメハ、ナニモカンガエテオリマセン!」

 何で分かるのさ。

「――ふん、まあいい。丁度良いから織斑、現在ISコアが全部で(・・・)幾つあるか答えてみろ」

 セーフっ!なんとかセーフ!!……で、ISコアだっけ?

「500です」

 言った瞬間。教室の時が止まり、次に笑い声が教室中から湧きあがった。

 ……俺、なんか変な事言ったか?

「えっと、織斑君?その――」

「織斑。何故その答えを言ったか、全員に分かる様に説明しろ」

 山田先生が何かを言う前に、再び織斑先生が言葉を発してきた。

「何故、て。そもそも束さんが造ったコアの数は500じゃん。織斑先生だって知ってるでしょう?」

「今回だけタメ語は見逃してやる。次からはちゃんと丁寧語で話せ。――なら、何故世界中にバラ撒かれているISコアは467個なのか分かるか?」

「その数が、他国が争わず、文句も言われない最低数を満たしているからです」

 詳しく説明すると、ISはISコアと腕部やPICシステムが詰まった脚部、それに加え非固定浮遊部位(アンロックユニット)から成っている。その為、ある程度の技術力が無ければISは完成まで成り立たないのだ。

 それ故に束さんは、アメリカ・ロシア・中国といった大国や、ある一定の水準の技術レベルを満たした国の各企業、研究施設、国家に配った必要最低数のコアが、

「――467個と言う訳です。ちなみに、残りの33個は全部束さんが持ってます。以前ソレ踏んづけて尻餅ついたり、肩凝った時にツボを刺激するのに丁度良いって言ってました」

 説明し終わったんだが…………なんか教室内が微妙な空気だ。

「ああ、説明御苦労。――あと織斑」

「はい?」

「私はコアが500個あるとは誰にも言ってない。親しくなった友人やIS委員会にもな。教科書にも467としか記載されていないし、各国が束を狙うのも、コア目当てではなく、アイツの知識目当てだ」

「マジ?!あれっ?と言う事は俺、墓穴掘った?!」

「ああ、見事な自爆っぷりだった」

 最初の方も流し読みすんじゃなかったぁぁ!!

「――そんな訳で諸君。そこのバカには期待しておくと良い。ISの知識に関しては国家代表どころか、専門の技術師と同レベルだ。当然、来週の試合でも代表候補生に引けを取らない試合(・・・・・・・・・・・・・・・・)を見せてくれるだろう」

 しかも嵌められたぁぁぁああーーーー!!

 と内心で叫ぶがもう遅い。周りからは先ほどとは違った期待の視線と、約一名の憎しみの籠った視線が俺に集中していた。

 ……うわぁ、もうヤダ。貝の様に引き籠りてぇ。

 

 

 

 

 

 

―――二時限目終了

 結局。二時限中はずっと視線が集中していた。それに加え、再び他クラスや上の先輩方の見世物状態の休憩時間。

 ちなみにオルコットは、授業終了後、足早に教室を出て行った。

「ちょっと良いか」

 そんな中、勇気ある少女が声を掛けて来た。

 黒のロングストレートをポニーテールにし、無改造の女子生徒用制服を着た、凛とした佇まいの少女。6年振りに会う幼馴染だった。

「箒か、久しぶり」

「箒?――おお!箒じゃん!!……随分、印象が変わったなぁ~」

 俺が言った名前に、亮斗が反応した。つーかお前、何処見て言った?いや分かるけどな?!

「ああ久しぶりだな。一夏、それにりょ、亮斗っ。そ、それで少し良いだろうか?」

 ザ・アイコンタクトスタート!

(――どうするよ?亮斗)

(この視線の群れは精神的にクルから賛成)

(同意。――すまん、ホントは二人っきりが良かったんだろ?)

(ばっ、俺と箒はそんなんじゃねえよッ!)

(はいはい、“まだ”ね。りょーかい)

(おい!まだ話しは――)

 強制カット。

「俺は良いぜ。廊下……は駄目だな。体育倉庫裏……もダメだろうな。屋上行こうぜ。――な?亮斗」

「くっ、後で覚えてろ一夏。――ああ、行こうぜ、箒」

「そ、そうか!では行くとしよう!」

 

 

 

 

―――IS学園・校舎屋上

「「いやぁ、空気がうまい!」」

 外に出た瞬間、口から出た言葉がソレだった。

「そんなにキツかったか?」

「オイオイ箒さんよォ、『キツイか?』だと?キツイに決まってるだろ!!」

 亮斗がそう言うが、お前、最初寝てたの覚えてるか?その意見には同意してやるが。なにせ全方面から女性特有の匂いがするし、何処を向いても目が合って、顔を赤くされながら手を振られたり、笑みを返されたりするのだ。

「お前は何も分かってないな箒!あの視線は相当にクル!見られてるだけで物理的な重圧が産まれるなんて初めての体験だぞ!?」

 不本意だが束さんとの“経験”が無かったら、立つことも出来なかっただろう。……“息子”が起っちまうから。

「そ、そうか……」

 俺達の気迫に押され、たじろいだ箒。救いの女神さまにこれ以上当たっても仕方ないので、一度深呼吸して気持ちを落ち着かせる。

「ふう。改めて、久しぶりだな箒」

「だな。大体6年振りか」

「ああ、そうなる。……それにしても、行き成り代表候補生と決闘とは、――大丈夫なのか?」

「「さぁ……?」」

 だが対策はある。取り敢えず第三世代の専用機と、量産前提の第二世代では性能的に差があるから、オルコットの貴族意識を煽って学園にある第二世代である『打鉄』か『ラファール・リヴァイ』に変更させて、後はまあ、自主錬でどれだけISの機動に慣れられるかといった所だな。

 といった事を説明すると、二人から恐ろしいモノを見る目を向けられた。

 ……失敬な。

「し、しかし驚いたぞっ。ニュースを見てたら、行き成りお前達二人がISを動かしたと報道された時は」

 色々揉めた末に、埒が明かないから二人ともIS学園に入れて、取り敢えず問題の先送りにしよう、って言うのが真実なんだけど、ソレを聞いたら二人の反応が面倒なので言わない。

「――特に一夏は、な」

「あー……」

 そう言えば、箒も知ってたな。俺がISを嫌ってるって。

 正確に言うなら、IS自体は嫌ってないのだ。ただISに夢中になってる政府と世界と、理不尽にIS(チカラ)を振り回す人が嫌なのだ。ISに罪は無いのは分かっている。けど不確定な“世界”やら“政府”などを恨んでも切りが無い、だから結局はISを八つ当たりのように恨んでしまう。…………ダメだな。自分でもよく分からん結論になりそうだ。

「そ、そう言えば亮斗!」

 そんな俺の纏う、何とも言えない空気を何とかしようと再び箒が声を出す。

「この去年の夏の剣道大会で優勝したのだろ?毎月発行される全国中高生スポーツ新聞で読んだぞ!」

「ん?ああ、そう言えば箒も優勝したんだっけ?決勝戦は男女で別の日だったから、俺も後になって知ったぜ」

 普通なら男女纏めてやれば良いのだが、こんな所でも女尊男卑の影響が出ており、“子供とは言え、男と一緒にウチの娘の晴れ舞台を穢されたくない”と言ったどっかの金持ちの女性が教育委員会とスポーツ連盟に言った為、男女の決勝戦の日は別々なのだ。……全く以てアホだとしか言えない。

 とは言え、俺もコレ以上気を使われたくないので、気持ちを切り替える。

「大会の記録映像見たけど、最後の面打ち、結構良い感じで決まったんじゃないか?見てるこっちも、気持ち良いくらいの良い一閃だったぞ」

「み、見てくれたのかっ?私も、あの時ほど剣と一体になれた瞬間は無いと思ったな(ほ、本当は、亮斗が今も剣道を続けていてくれた事が嬉しかったからなのだが、――い、言える訳無いッ……!)」

 何やら途中でブツブツと小さな声でしゃべりだした箒。だが生憎と、この距離なら耳の良い俺達には何とか聞こえるのだ。そう言えば、確かに男子の決勝戦は、女子の前に行われたんだっけか。

「(愛されてるなーオイ)」

「(う、うっせぇ!!)」

 亮斗をからかっていたら、急に箒が遠くを見て、

「父上達は、見てくれてただろうか……?」

 ポツリと声に出した。

 箒の親父さん、篠ノ之柳韻(りゅういん)さんと、妻であり、箒と束さんの母・珠樹(たまき)さん。俺と姉さんもかなり世話になった人達だ。

「柳韻おじさんか、……良い人だったな」

「「死んでないから!」」

 亮斗の定番なボケに、俺と箒が突っ込む。

「冗談だ。けど、やっぱり柳韻おじさんとは全然会えないのか?」

「ああ。手紙のやり取りはしてるから元気だと言うのは分かっているのだが、ここ数年は会ってない。……最後に会ったのは、中学に上がる時だったか」

 確か『重要人物保護プログラム』だったか?本気で狂ってるとしか言いようがないな。保護じゃ無くて束縛だろうに。しかも、本当の重要人物である束さんには逃げられてるし。

「そう言えば一夏。その……姉さんとはよく会ってたのか?先程の話しの様子だと、よく会っていた感じがするのだが?」

 まあ、あの話し方だったら誰だって気付くか。

「ああ、不定期にふらりとウチに来ては、メシ食って愚痴っていくぞ?」

 この前なんかエロい事――じゃ無かった。エライ事しでかしてくれたしな。

 あの後、朝早くに『嫌な予感がした』と言って急遽帰って来た姉さんに、バッチリ事後を目撃された。その後、修羅神と化した姉さんに、俺とクロエはリビングで正座させられ、姉さんと束さんはガチ喧嘩。それはもう――――凄かった。

 箸は砕け、フォークとナイフは飛び交い、スプーンは床に突き刺さり、お玉とフライパンで音響兵器が鳴り響き、ソファはひっくり返るわ、窓は何時の間にかマジックミラーの強化ガラスになってるわ、お互いの関節を極めようとするわ、俺のシャツで血を拭うわと――アレはもう人類の頂上決戦だった。

 最後は姉さんも束さんも笑いながら殴り合ってたから、問題は無いと判断して後片付けを頑張った。クロエ?一緒に風呂に入ったら、出てきた時にはグッタリしてた…………フシギダナー(遠い目)。

まあ、流石にそんなことまでは話せないので、心の中に留めておく。

「俺、束さんとは全然会ってないんだが……?」

「そりゃあお前、束さんに嫌われてるじゃん」

 主に箒が原因で。お前が箒を貰う際は、『御宅の娘さんを下さい』じゃなく、『お義姉様の妹様を下さい』になるだろうな。

「私も全然会っていないな」

「え?マジ?……ああ、そう言えば遠目で見たとしか聞いた事なかったな」

 盗撮もしているみたいだけど、ソレは言わないでおく。姉――と言うより人としての尊厳も失くさせるのはどうかと思うのと、今この瞬間だって盗み見ているかもしれないからだ。

 ――と言うか、何故俺があのあの人のフォローをしなくちゃならないんだよ。

「あの人、箒の事気に掛けてたぞ?お前の生活を滅茶苦茶にしちまった事、結構、気にしてたみたいだったしな」

「姉さんが…………取り敢えず竹刀にしておくか」

「「何する気だっ?!」」

 いやその獲物でナニするか分かるけどよ、竹刀の前は何だ?!木刀か?それとも真剣か?!

「おっとそろそろ教室に戻るか」

「「待てぇぇえい!!」」

 露骨に逸らしやがったよコイツ! …けど、6年前の俺達もこんな感じで笑いあっていたのだと言う事を思い出し、

「「ははっ」」

「ふふっ」

 思わず笑いが込み上げ、三人同時に噴き出した。

 ……まあなんだ、かなり変則的で特殊すぎる学校だけど、

「これから3年間、宜しくな、箒」

「まあなんだ、……再会できたことは嬉しいぜ」

「ふふ、――ああ、宜しくな一夏、亮斗」

 こうして気の置ける友人と再会できた事だけは感謝してやっても良いな。

 

 

 

 

 

 

 でも授業に遅れるのはヤバいので、他二人を妨害しながら教室へと、競歩(※校則:廊下は走らない(緊急時を除く))で急いだ。

 

 

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