ギィー、バタン。
チマメの3人の話題が、温泉プールに行く相談から水着を買いに行く相談に変わってしばらく経った時、またもラビットハウスの入り口ドアが開いた。
「お疲れー、チノ。一人で店任せちゃって大丈夫だったか? ここからは私もシフトに入るから……、ってマメの2人、また来てたのか。って、こっちのお客さんもまたか!」
入ってきたのはツインテールの店員、リゼである。「こっちのお客さん」とは言うまでもなく俺のことである。さっきまで俺の前にあったレタス・サンドイッチの皿はチノの手で下げられてしまったので(曰く「食べすぎは太りますよ」)、フードもドリンクもなくただ居座っている客なのだが、そこは彼女は意に介さず、まあゆっくりしていけ、と声をかけるだけだった。そして店の奥の更衣室へと消えようとするところを、チノに声を掛けられる。
「あのリゼさん、午後からは私抜きでお店任せてしまっても大丈夫ですか? マヤさん、メグさんと買い物に行く相談をしていて……」
「ああ、午後からはココアも戻ってくるし、店の方は普通に大丈夫だぞ。……ところで、」
リゼは、居ないよな?と確認する風に店内をぐるりと見渡した後、再び喋り始める。
「チマメ隊。買い物もいいが、『任務』の方は、抜かりなく進んでいるか?」
「『任務』。ココアさんの誕生日プレゼントに渡す、手作りサシェの件ですね……」
サシェとは、小さな袋の中に乾燥したハーブ・香料やドライフラワーを入れたもので、いわゆる香り袋、匂い袋のことである。クローゼット等に入れて服に香りを移して楽しむのが一般的だ。中に入れる材料が手に入りさえすれば年頃の女の子へのプレゼントとしてはうってつけだろう。……そう、材料が手に入りさえすれば。
「ハーブといえばシャロさん。シャロさんに相談して、ココアさんにぴったりな香りのレシピは分かったのですが、材料のうち一つのハーブが、品薄で全く手に入らない状況なんです。」
チノは手元のハーブ図鑑で、1つの種を指し示す。
「ふーむ、フルールのツテでどこかから取り寄せられるってことは?」
「それも聞いてみたんだけど、全国的に品薄らしくて、外国からの発送になっちゃうらしいんだよねー。3週間かかるって!」
「ココアの誕生日、終わっちゃうな……。もう誕生日まであと5日だし、別のレシピにするか、いっそサシェ以外のものにしたほうがいいんじゃないか?」
「この香りがココアさんにぴったりだと思ったので、出来ればこれを作りたいです。このハーブ、貴重なものなんですが木組みの街では野生で生えている可能性があるみたいなので、それが最後の希望ですね。」
「て言っても、街のどこに生えてるんだ? 心当たりがなければがむしゃらに探しても難しいぞ……」