Decipit exemplar vitiis imitabile   作:トラロック

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§004 亡国の吸血姫

 

 のんびりとした二人だけの生活の合間に『キーノ・ファスリス・インベルン』の記憶について分析を始める『サトル・スルシャーナ』という男性。

 気が付いたら異世界に来てしまった異邦人の彼は先の見えない生活に不安を()()()()感じていた。

 本来ならば大慌てするところだが自身の肉体を構成するアバター(偽装分身)の性質のお陰で不安要素のほとんどは軽微に抑制されている。

 見た目はアンデッドモンスター『死の支配者(オーバーロード)』だが、心と感じ方は人間のまま。

 もちろん、常日頃からモンスターとしての性質が顕現しないか、不安に思うことも多少はある。

 今は見た目を人間の男性に偽装し、周りの目は騙せている。――一部の看破能力を持つ者には無意味だが。

 

(毎日の調査はさすがに無理か……。もう少し効率的に使えないものかね)

 

 愚痴を言いつつキーノの記憶を覗き見ては必要な事を書き記す。彼女には魔法の効果について説明していないし、単なる瞑想の一種としか言っていない。

 それと自分の記憶力はモンスターの恩恵なのか、短期的にはずば抜けて鮮明に覚えていられる。――都合の悪い事は忘れるようにしている。それが本当に効果が現れているのかは自信が無い。

 忘れた事を自覚できたら、それは忘れていないのではないか、と。

 毎回、キーノを抱き寄せている格好になるのも二人だけの時であれば平気になっているが、他人には見せられない。もちろん、恥ずかしいから。

 いずれは向かい合ってキスとかいかがわしい展開に持ち込むのがサトルの知っている文化(カルチャー)だ。

 そこは自身が白骨死体のアンデッドモンスターである為に欲望が暴発することが無いので、問題行動には発展していない。――そうでなければきっと、と思うことはある――

 見た目は十代ほどの小柄な少女であるキーノ。

 幼いゆえに異性と触れ合う事に()()抵抗を感じないのかもしれない。

 

 それはそれで好都合だ。

 

 サトルは今の状況を十全に活用する。

 それはそれとして無防備になっていくキーノは確かに可愛い娘だ。そう感じる心は今もある。だが、そこまでだ。

 おそらくその他大勢の女と一緒で、たまたま一緒に居るだけに過ぎない旅の道連れの一人――

 彼女だけが特別だ、と思うことは恐らくこれからも無い、と言えるかもしれない。

 

(永遠に一緒というわけにもいかないし、これから仲間を募らなければならない)

 

 だからこそ、他の仲間一人ひとりに対して同じだけ時間をかけていくのは非効率的で、面倒臭い。

 他人を理解する事はとても大事だと思ってはいるのだが、心の底まで仲間として付き合う気はこれっぽっちもありはしない。

 

◇ ◆ ◇

 

 覗き見る記憶は当人の視点のみしか映さないし、俯瞰して窺えないのが難点だ。それと見るだけで音声までは都合が付かない。

 尤も――、毎回状況がリセットされる魔法の仕様によって手間隙がかかるのも問題だった。

 分かった事と言えば貴族令嬢のキーノが悪の組織に攫われ、何らかの儀式に使われたところで異常事態が発生。そこから記憶が途切れ途切れとなっているが、モンスターや冒険者に追われる事態になり、後にサトルと出会うというもの。

 細かな会話まで聞いているとMPはすぐに無くなってしまう。時間的猶予を思えば雑な情報しか得られないのは致し方ない。

 

(……月並みな陰謀もの。ただ、それがいつの事なのかまでは分からない)

 

 見た目は少女だが、途方も無い年月が過ぎている事もありえる。

 現に彼女は一向に成長の兆しを見せていない。――アンデッドモンスターだから。

 

(そういうイベントキャラと出会った俺は正しく主人公だな。しかし、ここから彼女を使ってどんなクエストをこなせばクリアとなるんだ?)

 

 自分には帰るべき家があり、仕事がある。

 元の世界の時間が止まっている事はありえないとしても――。いや、そうであれば今更戻っても惨めな生活が待っているだけとも言える。

 かつての仲間と連絡を取ったところで――

 

(近代的な文化が無いところがもどかしい。ゲームだと思えば楽だ、というのは楽観視しすぎていないだろうか)

 

 せめてゲーム時代に仲間と作り上げた『ナザリック地下大墳墓』だけでも見つけたい。

 そこには(おびただ)しい宝と様々なアイテム類が貯蔵されている。それらを手に入れるのにどれだけの苦労をかけたことか。

 

 いや、そういうこだわりを捨てなければ――

 

 失ったものに固執していれば自分は先に進めない。

 この世界で生きる上で取捨選択は必須――

 

(俺は一人だ。キーノといつまでも一緒とも限らない。……供にするにはまだ多くの時間と経験が足りないだけだが)

 

 他人の人生を自分の都合で捻じ曲げていい理由になるのか。もし自分なら嫌だと言える。

 キーノ本人はいつまでも一緒に居て欲しいと願うかもしれないし、新たな恋に目覚めないとも限らない。

 自分は白骨化した骸骨だ。肉体を持つキーノは肉体を持つ誰かを選ぶべきだ。

 

◇ ◆ ◇

 

 一通りの情報を得た結果としてはサトルにキーノを救う理由が見当たらなかった。

 拘りが無いと実に無感動だ。これでは新たな仲間を得ても愛着など皆無――

 自分への失望しか得られない。

 それが分かった今は新たな可能性を追求すればいい。時は無限にある。

 ――という前向きに気持ちを切り替えられたらいいのだが、過去の想い出を引きずる自分には簡単には出来ない難題だ。

 それはそれとしてキーノの今後の扱いも考えなければならない。

 ある程度の実力を身に付けさせて二手に別れるか、それとも使い潰す方向に進むか、だ。

 

(言葉としては悪いのだが……。事情を知る存在は自分にとって邪魔であり、必要であるという……。この矛盾した気持ちをどう解決したものか……)

 

 サトルが苦悩している間、キーノは瞑想を日課として過ごしている。

 静かな暮らしは彼女にとっては日常であり、慌しい一日とは無縁であった。

 近代社会の事情を知らないお陰とも言える。

 

「……ちょっと休み過ぎたな」

「飲食を必要としないから蓄えはまだ充分だよ」

 

 朗らかな答えが返ってくると苦笑を覚えるサトル。

 これが今の自分の日常だ。

 元の世界なんて関係ない、という風に――

 

(……だが、俺には諦められない理由がある)

 

 違う世界から来た異邦人だから。

 元の世界に戻ろうと考えるのは自然だ。いや、自然の摂理だ。

 異物を許容するほどこの世界は寛容なのか、と疑問を覚える。――もし、寛容であれば疑念が解消される。しかしそれでも、往復できない以上はいつまでも留まるべきではない、気がする。

 

◇ ◆ ◇

 

 記憶の探訪を終えた後、サトルは今後の展望について考え始める。

 元の世界に戻るにせよ、この世界の情報を手に入れないことには始まらない。

 一番の懸念というか問題点は同じ境遇のプレイヤーが見当たらない事だ。

 

(仮に居たとしても同じように苦悩し、寿命で死んでいる可能性がある。不死性も同様に)

 

 現に不死性の自分が苦悩しているのだから他のプレイヤーとて同様に手段を手に入れる為に奔走する筈だ。

 この世界で一生を過ごすと決めた場合ならば手持ちのアイテムを譲ってもらうことも可能かもしれない。その時、強引な方法を取れば互いに良い結果にならないのは明らかだ。

 順当に味方に引き入れる事が望ましいが、説得材料が自分にはあまり無い。

 結局は自分の為の願望が強い。だとすれば相手側も同じだと言えないか、と。

 

(宝の持ち腐れ……。戻れない状況で自らの願望を丸出しにする理由はきっと短絡的な人間くらいだ)

 

 仲間が居ればサトルとてもう少し建設的な思考が出来たかもしれない。

 プレイヤー一人として何が出来て、何をすべきかを自分ひとりで考えて答えを出さなくてはならない。

 正直に言えば、頭は大して良くない。ゲーム的な思考だけが取り柄とも言える。

 そんな状態で自らが望む結果を出せるとは到底思えないし、幸せな展望も浮かばない。

 

(開き直って何かとんでもないことでも……、と思って高揚する感情は次から次へと抑制されるしな)

 

 いっそキーノの裸でも拝んでみるか、と思わないでもない。

 多少の性欲が刺激されるだけで不毛に終わる。いや、不毛しか残らない。

 それを残ると言うのは表現としては正しいのか怪しいが――

 

「サトルはいつも唸ってばかりだね」

 

 ベッドの上でいつもの儀式のように瞑想するキーノ。ここ数日は魔法を使わず、ただ膝に乗せている。

 彼女の言葉で現実に思考が戻る。

 深い思索に耽ると周りが闇に閉ざされるようだ。

 善ではなく悪に傾いたステータスだからか。良い考えに物事が動いてくれない。

 背後から見るキーノの金髪を軽く撫でる。――抱き締めるよりは簡単に出来る。ついでに耳にも触れる。

 適度に風呂に入っているせいか、骸骨の手だとしても触り心地の良い髪に安堵を覚える。

 女の子として身だしなみに気をつければ外に出しても恥ずかしくない存在となる。

 もし、腐りかけた死体のクリーチャーならもっと早期に見捨てていたかもしれない。

 吸血鬼(ヴァンパイア)というモンスターは数は少ないが存在は確認されている。その中でもキーノは異質だ。

 元々モンスターとして存在していたわけではなく、後付だ。

 一部の職業(クラス)は極めればモンスターそのものになったり、不死性を得たりする。それと似たような事をキーノは――この世界独自の特殊技術(スキル)のような『生まれながらの異能(タレント)』と呼ばれるものがある――取得しているようだ。

 本人に自覚が無いのは珍しいことではなく、気がついた時に生まれながらの異能(タレント)を得ている事が殆どだ。

 取得条件は様々だが、意図的に得る事は出来てない。またはその方法が知られていない。

 そのせいか、キーノは人間でありモンスターである。

 

◇ ◆ ◇

 

 サトルの知識で彼女を元の人間に戻せるかと言われれば『不明』と答える。

 そもそも生まれながらの異能(タレント)の知識が乏しい。

 可能性の話では有り得ない事もなさそうな気配は感じている。

 問題は彼女の実年齢だ。

 仮に人間に戻せるとしても一気に老化して、そのまま老衰しては無駄死にさせる事と同義になってしまう。

 人の尊厳を取り戻して息を引き取りたい、という願望でもあればいいが――

 キーノは今のところ自殺願望を持っていない。

 早く人間に戻りたい、という強い願望もない。

 

「朝日を浴びて消滅するような事が無ければ……、私は生きていたい」

 

 吸血鬼(ヴァンパイア)は日光が弱点だ。だが、簡単に滅びるモンスターではない。

 弱体化するだけだ。

 日光の攻撃魔法が存在するので、それのことを危惧しているようだ。――教えたのはサトルだが。

 

「知性の足りないアンデッドモンスターであれば……、だが。キーノは知性を保てている。余程、状態の良い状況だったんだろう」

「このままだと腐ってくるかな?」

「年齢を経たアンデッドモンスターは強力になる、というのが通説だ。だから知識もより蓄えられる、と思う。脳みそのない骸骨(スケルトン)系だと怪しいかもしれないが……。それとて強力になれば知性を得る可能性がある」

 

 アンデッドモンスターと()()()()で脳味噌が腐ってくる、という仕様などは聞いた事が無い。――動死体(ゾンビ)系にでもならないかぎり。

 ゲーム的に言えば時間経過で肉体が損傷してはプレイヤーとして行動する事が難しくなる。それもあって首を傾げた。

 もし腐るならばモンスターではなく、()()()()()でなければ納得できない。それと外部から何らかの手段を講じない限り、異形種としての特性で守られるのでは、と考えている。――サトルは自ら選択して今の姿になっている。

 自然環境のアンデッドモンスターは元の世界には存在しない。これはあくまでゲームの知識での話だ。

 

「肉体的なペナルティが甚大であれば……。例えば知性が下がるとか。そういうのが無ければ……この先もっと賢くなる確率が高い」

「それは楽しみだ」

 

 賢くなるのであれば、とキーノは喜ぶ。

 人間の都市で生活するのが難しい事は理解している。だから無理は言わない。

 それとアンデッドモンスターになって数年は経過している筈だ。肉体的な腐敗は認められない。

 サトルの知識でも徐々に肉体崩壊が――自然に――起きる()()には覚えがない。

 

◇ ◆ ◇

 

 蘇生に関して実年齢が関わってくる場合は話が変わってくる。

 長寿の種族であれば二百年くらいはどうもしないが人間の場合は蘇生に失敗し、そのまま灰になる可能性がある。

 寿命経過が止まっていれば復活する可能性はあるけれど、それはあくまで希望的観測に過ぎない。

 信仰系を嗜んでいないとはいえ復活方法を()()()()()()()()()()()()

 

(キーノを復活させるメリットが俺にあるかどうか、だ)

 

 彼女を特別視できていない以上、今の段階では半々といったところだ。

 話相手としての価値はある。それと記憶を見せてもらった。

 少なからずの恩は感じている。

 現金な性格だと自覚しているが、つくづく嫌な野郎だなと我が事ながら辟易するサトル。

 

(肉体のある人間であったなら少しは前向きに努力したのかな。それとも乳首か……)

 

 何にしても如何わしい想像ばかり浮かぶこと請け合いだ。

 都合のいい魔法をたくさん持っている。それと自分は結構、如何わしい想像もできる。

 今はアンデッドモンスターの特性が働いて想定よりも感情が抑制されてしまっているので、至極淡白な状態になっている。

 そうでなければ膝を抱えたまま黙って一日を無駄にしたりはしない。

 

(……でも、結局は自分の目的の為に彼女を利用する事自体は変わらない)

 

 その内容に差異があるだけだ。

 手を伸ばせば届く位置に幼女(キーノ)が居る。

 肉体的な成長が見込めないのが残念な所だ。

 

◇ ◆ ◇

 

 真面目な男性として思考を切り替える。ここのところは淡白なアンデッドモンスターに感謝だ。

 キーノの問題は一先ず置いておくとして、次は何をすべきか。

 冒険者の仕事をしてランクを上げるか、少し遠出を計画するか。

 いや、仲間の募集が先だった。

 何ごとも中途半端になりがちで困ったな、と苦笑する。

 

(キーノが着いてくるのを邪魔だと感じれば……、俺はとことん嫌な奴だ。……だが、アンデッドの側面としては煩わしさを感じる事があるから……。この気持ちの葛藤にどこまで抗えるかが肝だな)

 

 人間であればキーノと共に行動する事に異を唱えたりはしない。――いや、アンデッドの側面を恐れる可能性も否定できない。

 それでも適切なアイテムを渡して今に至るし、吸血鬼(ヴァンパイア)としての側面は――今のところ――抑えられている。

 亜人は想定できないから無視するとして異形はとことん淡白だ。

 同種であれば仲間意識が持てるかもしれないし、孤独を愛するかもしれない。

 何にしても今すぐ手放す予定ではないとしても――

 

(この問題を片付けなければ仲間を募っても良い結果になるとは到底思えない)

 

 それでは駄目だ、と言う自分が居る。

 昔の仲間に拘りすぎている事は自覚しているが、それにしては酷い人間だ。――それが異形種としてのあり方ならば嫌悪感いっぱいだ。

 自分の仲間を大切に出来ない奴はそこらのクズと変わらないじゃないか、と。

 サトルは仲間を大事にしたい。けれども、疑り深い性格を拭いきれない。

 

「……頑張って働こう。考えても仕方がない」

 

 声に出して自分に活を入れる。

 自分は孤独を愛する孤高の戦士ではない。

 多くの仲間達と楽しく冒険がしたいだけの一プレイヤーだ。――かつてはそれだけが楽しみの冒険者だった。

 

◇ ◆ ◇

 

 キーノも大事だが目的遂行も大事だ。

 この世界で自分が何処まで通じるのかを――

 サトルは仕事を休止し、冒険者組合にて情報収集しつつ仲間候補を探す。キーノには知識面で頑張ってもらう事にした。

 魔法詠唱者(マジック・キャスター)はとにかく知識が全てと言ってもいいくらいの職業(クラス)――。現地の知識収集は彼女に任せておけばいいだろうと判断する。

 流石に何でもかんでも自分ひとりで出来るわけではない。時間もそれ相応にかかる。

 分担作業は何かと便利だ。その点ではキーノの存在はとてもありがたいといえる。

 冒険者組合にて面接を開始するのだが、パーティ構成については考えていなかった。

 基本で行くか、奇を(てら)うか。

 目立つ行動を()()()()()()()()どちらでも構わない。

 

「面接の応募に応じてくれた理由は何ですか?」

 

 組合の一室を借りての面談。

 数をこなすごとに意外と自分は様になっているのでは、と思えてきた。

 商談と違い、失敗の多い仕事だ。成功を気にする必要が無い分、自分の気持ちで判断できるのだから気持ち的には楽だ。それとアンデッドであるがゆえのメリットとして相手が威圧しても精神的に動じない。

 もし、人間種であれば大柄な人物とかに恫喝されたら逃げ出す自信がある。

 本来のサトルとしての人格はそれほど大した人間ではないし、小心者に近い自信がある。少なくとも会社の上司に楯突く度胸は無い。――というかそんなことをしたら生きていけない社会だ。

 

「仲間になるのに理由が居るのか?」

「俺が貴方を信用して使う為です。基本的に諍いは勘弁してほしいので」

 

 打算無くして仲間にならない。それがこの世界の規則(ルール)であるならばどうしようもない。

 かつてのギルドは少なくとも弱者根性によって結束が硬かった。――諍いが無いとは言わないけれど。

 それと同等の基準を希望するわけではないが、やはり互いに信頼しあいたいものだと思った。

 全員が得体の知れない相手ならば一気に解散に追い込まれる事態も想定される。

 

◇ ◆ ◇

 

 一人二人と基準に合わない者を見送り、本日五人目の挑戦者を迎える。

 運がいい事に冒険者の人口は多く、ここ『アーグランド評議国』でも数万人規模が登録されていると聞く。

 それだけ人口が多い、というよりは敵が多いと見た方がいい。

 最強種たる(ドラゴン)が支配する国だが、彼らは自分で行動するほど活動的ではない。――彼らの敵が現われれば話は変わると思うけれど。

 長寿のクリーチャー特有ののんびりした風潮とも言える。

 短命の種族は生き急ぐ傾向にあるし、不死性は基本的に内に引きこもって惰眠をむさぼる。

 サトルもうっかりすれば数十年ものんびりと暮らしそうになる気持ちに何度かなりかけた。それだけ危機意識が欠如しているとも言える。

 

「仲間になるにはお主の信頼を勝ち取らねばならないのか」

「背中を預ける仲間とはそういうものでしょう?」

 

 危機意識が欠如しかけているのに仲間意識はしっかりと強く残っている。

 何らかの拘りだけは強く残るのが異形種の特性のひとつ、なのかもしれない。

 一般的なアンデッドモンスターは()()()生者を憎んでいる。しかも多くのクリーチャーに適応されている。

 単なる私怨ではない。――そういう()()を植えつけられている、ような気がする。

 

「最初から信頼がありそうな人物かどうか分からないですけど」

 

 それでも一定の基準を満たしてくれないとサトルは困る。

 最初から信頼厚い人物など居るわけがない。それでも雰囲気くらいは感じ取れると信じて面談を続けている。

 あえて無茶な要望を出し、相手がどのように反応するかで信用度が分かる。

 中には狡猾な者も居る。それもまた想定内だ。

 仲間を一番信用できない自分が判断するのだから。

 

◇ ◆ ◇

 

 かつてのギルドメンバーの半数近くはサトルが選んだ訳ではない。

 自分はギルドを創設したリーダーから引き継いだ。

 その人は偉大で、且つ強くて頼もしい存在だった。

 流石にそういう人に自分もなれるとは思わないが、仲間から信頼される人間にはなりたいなと思った。

 

(スパイを警戒した挙句、新たな仲間を得る事が出来なくなったのは誰のせいだったか)

 

 その当時はギルドランクを上げる事に皆が一生懸命になっていた華やかな時代だった。

 面談だけで全てがわかるわけではない。しかし、それでも分かる事がある。

 

 こいつは仲間の価値が無い。

 

 そう思わせる奴ばかりが現われる現状――

 種族的な特性か何かかと思うのだが、ゲーム時代よりシビアな状況にサトルは頭を悩ませていた。

 正直に言えば解決方法が分からない。

 今のままではキーノと二人っきり。というより彼女以外に適任が居ないという状況は望ましくない。

 これは少女と二人っきりだから、という事ではない。

 

(パーティを組むに当たって仲間同士の信頼関係は必須だ。……俺がリーダーをやるかどうかはまた別の話しだが)

 

 流れ的にはサトルがリーダーになるのはほぼ確定と言っても良い。

 最終的には別の者にやらせたい。――今の段階では自分が全てを決める立場なだけだ。

 要求水準は出来るだけ下げたくない。自分が望むパーティは簡単に瓦解してほしくない。いや、誰だってそう思うはずだ。

 

 


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