【HCS】 エンド・オブ・デザイア(更新停止中) 作:黒廃者
今回ちょっと粗がやばいと自分でも思います←
燕結芽もそんな世界に生まれた刀使の一人、であるのだが……。
「アハハ!あ~そ~ぼっ!」
少々、いやかなり特殊な心持ちをした少女であった。
持って生まれた唯一無二の才を自らの御刀に乗せて、瞳を輝かせながら二人の勇者に振るう姿は、友奈にはまるで新しい玩具を与えられた童女のように見えた。
特に、牛鬼のバリアが発動してからその太刀筋には一切の遠慮などなく、より一層の笑顔で刃を向けてくる。
最初の一太刀をバリアで防いだ後、勇者装束を纏った友奈は神社の外まで反転して後退しながら、なおも牛鬼のバリアで結芽の斬撃を防ぎ続ける。
手甲と刀で競り合い、友奈は結芽の動きを止めた。
「お姉さんたち刀使じゃないみたいだけど、何者?」
「とじ……?私は勇者、結城友奈だよ!」
聞き慣れない単語を怪訝に思いながらも、友奈は自分の名を名乗った。
「勇者?へぇ……よくわかんないけど、強いならなんでもいいよ!!」
嬉しそうに喋る結芽の顔は、ますます喜びに満ちていく。
瞬間、ふっと力を抜き、友奈の体が前方へバランスを崩した。
彼女は力を受け流し、迅移で一瞬にして友奈の背後を取ると、ニッカリ青江の刀身が光り、瞬時に襲い掛かる。
しかし、その攻撃は赤い勇者が割って入ることで未遂で終わった。
巨大な戦斧に弾かれた結芽の体が宙を舞うが、くるりと回転して綺麗に着地。
「! 銀ちゃん!」
「やめてください!あなたも、あたしたちと一緒なんでしょう!?こんなことしてる場合じゃ……!」
「良いとこなんだから邪魔しないでよ。それともあなたが相手してくれるの?それでもいいよ。なんなら、二人一緒でも……!」
銀の乱入でいくらか白けたものの、あくまで彼女は説得に応じる気はないらしい。
率直に言って、二対一という数的優位な立場である勇者たちだったが、それでも目の前の刀使を沈黙させるのは困難であった。
天才剣士として名を馳せる結芽との実力差は、実際に対峙したからこそ歴然であることを理解できる。
ザワザワと、深緑の森が勇者と刀使の境界で揺れる……。
間合いを図りながら、結芽と銀は得物を構えて一言も発さず、ぶつかる時を待つ。
銀の後ろで、友奈は納得できないと言わんばかりの苦い表情をして結芽を見ていた。
どんな理由があっても、人に己の……勇者の拳は振るえない、振るってはいけない。
「お願い、結芽ちゃん!少し話を……」
だから、友奈は対話を諦めない。
「もう……調子狂うなぁ。お姉さん、せっかく強いのにつまんないよ!美濃関のお姉さんの方が戦ってて楽しかっ……っ!!」
と、結芽がうんざりとため息を吐いた直後だった。
「───後ろ!」
【STRIKE VENT】
「「!?」」
結芽が叫んだ時、既にそいつは勇者二人の背後から忍び寄ってきていた。
ハサミのような武器を両腕に携えた仮面ライダー───シザース
不意を突かれ、真っ先に狙われたのは銀だ。
精霊のバリアがある友奈ならばまだよかったというのに……。
「しまっ───!」
戦斧の防御も間に合わない。友奈も思わず手を伸ばすが、シザースの方が僅かに勝っていた。
無防備の銀に、シザースのシザースピンチが迫る……。
しかしその一撃は、ただ一人誰よりも早くその襲撃に気が付き、誰よりも速く動ける結芽によって受け止められていた。
突発的な出来事に、友奈と銀はおろか、シザースすら、仮面の奥で驚愕していると取れるような動きを見せる。
「カニさん邪魔!!」
刀使の能力の一つ【八幡力】によって強化した筋力で、一回りも大きいシザースを押し返した。
「結芽ちゃん!」
友奈が思わず声を上げる。
結芽は無視してシザースの排除行動に徹していた。
刀使の力を駆使して追い詰めていく。それは、さながら獲物を狩る肉食生物のような激しさを持ちながら完璧に近いまでに洗練された剣術で一切の反撃を許さない一方的なワンサイドゲーム……。
友奈と銀がその圧倒的な光景に息を呑む中、卑劣な奇襲を仕掛けたシザースは、ほとんど結芽のサンドバッグ状態で、ついに膝を屈するしかなくなった。
「さっきやっつけたと思ったんだけどな……意外としぶといんだ。でも……」
勝利を放棄したのか、シザースはピクリとも動かずへたり込んでいた。
反対に勝利を確信した結芽は御刀を頭上へゆっくりと振りかぶり、獲物にトドメを刺すべく、笑いながら一太刀を振り下ろした。
「弱いんだから引っ込んでてよ!」
【GUARD VENT】
しかし、シザースは新たなカードをバイザーに一瞬で装填する。
もともと、このライダーは防御性能に定評がある。総合的なスペックこそ結芽には遠く及ばないが、ただ一点そこだけを見るならば、シザースは結芽よりも上だ。
「な……!?」
あっさり受け止められた太刀に驚きを隠せない結芽。
それもそのはず。
結芽は友奈たちと邂逅する直前、既に一度このシザースを撃退している。だが、その時の対決においてシザースはまともにカードを使っていなかった……手の内を隠していたのだ。
故に生まれた一瞬の隙。
右腕に装着されたシザースピンチが嫌な音を鳴らしながら、一瞬で結芽の腹部を貫きえぐった。
戦闘の際、御刀を通して自身の扱うカラダをエネルギー体へと変化させ運動能力を向上させる【写シ】が剥がれる。
ヒヤリとする友奈と銀だったが、実体である結芽のカラダへの負担は軽微の痛みと疲労感のみ……。
「こんのっ!」
自らの油断に苛立ちながら、再度写シを張ることもせず追撃を受け止めるが、シザースは水を得た魚の如き激しさで結芽を追い立てる。
変則的な動きに、なかなか調子が戻らない結芽……。
その流れを断ち切ったのは、赤き勇者の一閃であった。
銀がシザースを吹き飛ばしたのとほぼ同時に、友奈が結芽を強引に回収し、神社の敷地内へと後退。銀もそれに続いた。
奇しくもそれは、つい先ほどの真逆の行い。
「な───」
ダメージはなくとも衝撃で大樹に激突するシザースを横目に、結芽は面白くなさそうに仏頂面を勇者に向ける。
対し、銀は得意げに歯を覗かせてはにかんだ。
鳥居の向こうで、シザースは立ち上がっていた。
武器は未だ健在、戦闘続行の意思を示すかのように視線を三人へと向けている。
しばらく立ち止まったまま睨み合う両勢……。
「追ってこない……?」
時間にして十数秒ほど。
明確な違和感を胸の奥底に感じた友奈がポツリと呟いた時、シザースはそれを察知したかのような予想外の行動に出る。
「────え?」
今度は銀が思わず声を上げる。
シザースは、突如武装を解除し、背を向けて神社から遠ざかっていった。
急速に静寂を取り戻した世界で、友奈はますます困惑を極めていくのだった……。
軽症にも満たないとはいえ、まともにシザースと戦った結芽。
彼女はシザースが去ったあと、「白けちゃった」とだけ呟いて、先の戦闘で油断したことを根に持ったためか、境内の日陰に移動して一人でぶつぶつと自身への文句を垂れている。
とりあえず問答無用で斬りかかってくる心配はしばらくしなくて済みそうだ。
「……近くに奴らはいないみたいです」
銀が神社の周囲をぐるりと一周して戻ってくる。
「一先ずは安心、していいのかな……」
とは言え、現状は何も進展してなどいないから、ずっとこのままでいるわけにもいかないが。
これまで遭遇した敵はタイガ、インペラー、シザース。
これだけ広大な森だ……三体だけではない可能性を否めなくなった今、対策もなしに迂闊に歩き回るにはこれまで以上にリスクが高いことは明白である。
何にせよ、彼女たちには情報が足りなかった。
「まだ神社の中は調べてなかったね。入ってみようか」
結芽とシザースが立て続けて現れたことから忘れていたが、そういえばそうであったなと、頷きながら、銀と境内へと向かおうとする……。
「────そこにいるのは誰だ?」
「「「!」」」
声がして、三人がその方向へと注意を向けると、木の陰から、訝し気に眼力を強めた男性が姿を現した。
仮面の者を除き友奈が遭遇した、少なくとも会話の通じる人間は銀、結芽に続いて三人目。それも初めての男性だ。
「……騒がしいと思い散策から反転して戻ってきてみれば、驚いたな。ようやくまともな姿をした人間と出会えるとは」
男性は三人をぐるりと見渡すと、たちまち表情から警戒の色が消え、小さく微笑みを浮かべた。
「え、それじゃあ、もしかして!?」
「ああ。君の想像する通りで間違いない。俺は織田作之助。君達と同じ、遭難者さ」
「私は結城友奈です」
「三ノ輪銀です!」
「…………燕結芽」
「立ち話もなんだから中に入るといい。なに、仮面の奴らについては心配しなくていい。俺はこの神社を拠点にしているのだが、連中は絶対に鳥居を潜ろうとはしないからな」
そう言って男性──『
「ふむ……概ね、状況は同じだよ。気が付いたらこの世界にいて、妙な連中に襲われてここに辿り着いたのは君達がやってくる一時間ほど前だ」
四人は床に腰掛け、互いの状況を報告し合った。(結芽だけは少し離れたところで御刀の鍔に引っ掛けてある猫のストラップを弄ったり、時折胸元に掌を押し当てて何かを確認するような仕草を取りながら聞き手に徹していた)
神社の中に入るという経験は、関係者か祭事か、よほどのことでなければすることがないだろう。
しかし偶然にも友奈、銀、結芽の三人は、自らが持つ力の行使に神か、又はそれに近しいものを必要としており、目の前の光景と似たような施設には心当たりがあったため、新鮮さはなかった。
電気は当然通っていないため薄暗く、木造の独特な香りと静寂がもたらす緊張が、外の世界とは異世界であるような、まさに境界の隔たりを感じさせる。
そんな中で最も奇妙なのは、神社であれば必ず祀られるであろう神の存在が、どこにも見当たらないことであった。
友奈と銀はまずそこに違和感を覚える。
無論、存在がどこにもない、とは文字通りの意味ではなく、設備のことだ。
この神社にはそれらしい設備が、どこにも置かれていないのである。
直接目にしたことはなくとも、神社には神様がいるのだから大小なりともそういうものがなくてはおかしいのだ。
しかし、ない。奥の中央には、なんだか不安を煽るような奇怪なデザインの丸く大きな鏡が置いてあるだけであった。
まさかあの鏡が神の代わりなのだろうか……いや、それにしては周囲の装飾が殺風景すぎる、と友奈は感じていた。
一区切りついたところで、作之助がふと呟いた。
「しかし、神世紀に勇者に刀使に荒魂……どれも聞き慣れない単語ばかりだな」
「わたしも勇者なんて聞いたことないよ。刀使でも荒魂でもないのにあんな風に飛んだり跳ねたりする人間見たことないし。あ、でも紫様なら素でできそう」
結芽も話に加わる。
「それを言うならあたしも未だに信じられませんよ。二人が西暦の時代の人だなんて……まるで時間だけじゃなく、生きてきた世界まで違うみたいです」
「……この疑問は一先ず後回しだな。幸い、人間社会の一般常識が異なるほど大きな差はないようだし……友奈?」
作之助が難しい顔をしながら両手を上げて議論の終了を促したところで、作之助は途中から存在感をなくしていた友奈に気づいた。
「………………」
「友奈?」
聞こえていないのか、名前を呼んでも彼女は返事をしない。
「友奈さん?」
銀も呼びかけるが、やはり反応がない。結芽も怪訝な視線を送る。
「おい友奈!」
作之助が、右手で友奈の肩を軽く叩いた。
「うぇ!?」
「どうかしたか?」
「あ、いやその……入った時から気になってるんですけど……」
ようやく我に返った友奈が、そう言って指さすのは、あの奇妙な鏡。
「それか。確かに不思議なデザインだが、何の変哲もない、祭事か何かのためのものだと思うが」
「そんな鏡見て、なにか面白いわけ?」
「うーん、そういうわけじゃないんだけど……なんでだろ?あははは!」
不自然さ故に沈黙が支配する……友奈は自らが作り出してしまった状況をどうするべきか困惑し心の中であたふたし始めた。
「…………とにかく、今はみんな休むといい。念のため俺は外で見張っているから、何かあれば呼んでくれ」
と、ここで気を利かせた作之助が切り替えの一言。
友奈はホッと胸を撫で下ろし、彼に小さく頭を下げた。
「いろいろとありがとうございます、織田作さん!」
『織田作』────そう呼ばれた直後、外に出ていこうとした作之助の足が止まる。
「……気にするな。まだ事態が好転したわけじゃない」
彼は振り返ることなく、優しくそう言って出入り口から外に出て行った。
作之助の影が見えなくなると、結芽が友奈に問いかける。
「おださくってなに?」
「え?何となくそう呼んだ方が親しみやすいかなぁ、なんて……」
「いいですねぇ、じゃあせっかくだし織田作で統一して呼ばない?」
「はぁ?なんでわたしまで!?」
「固いこと言うなよつば〇郎~!」
「畜生ペンギンじゃないし!!」
畜ペンが世界共通かはともかく……。
結芽とも少しは打ち解けられたと確信する友奈であった……。
キーン……。
(───?)
瞬間、異変は起こった。
(やれやれ……こうも懐かしく感じるとは)
そんな談笑の欠片を、作之助も密かに聞いていた。
織田作という愛称は、実は友奈のオリジナルというわけではない。彼が織田作という呼ばれ方をしていたのは、随分前からだ。
(今頃何をしているのやら……)
まだ作之助がヨコハマと呼ばれる街のポートマフィアに属していた頃。
それは今は遠い先の世界。
彼は、そこにいるであろう友に想い巡らせる……。
鳥居の傍に、何者かの気配を感じた。
(あ、頭がキーンって、割れ……痛い!?)
友奈は突然の強烈な頭痛と耳鳴りに苛まれ思わず床にうずくまる。
その様子に気付いた二人が驚いて駆け寄った。
「友奈さん!?」
「ちょっと、大丈夫おねーさん!?」
呼吸は荒く、全身に冷や汗がべっとりとこびりついていた。
時折我慢できず声が漏れ、明らかに異常を訴えていることは外部からも容易に見て取れるだろう。
このままではまずい……銀は立ち上がって、「織田作さん呼んでくる!」と結芽に投げつけるように言うと、急いで外へ飛び出した。
「織田作さん!友奈さんが倒れて────え?」
「何してんの!?」
扉を開けたまま呆けている銀を見かねた結芽も外に出てきた。
作之助は、銀髪の女性と向き合っている。
両者は緊張感を解くことなく、ただ見合っていた。
「……だれ?」
「さ、さあ……」
顔を見合わせ困惑する銀と結芽。
すると、沈黙を破り、女性が口を開いた。
「なぜ、私がここにいる?」
「なに……?」
言葉のニュアンスの妙さに眉を顰める作之助。まるで自身が存在していることそのものに困惑しているかのようだ。
彼女はその表情から当惑の色を隠すことなく、次の瞬間、確かめるように、衝撃的なことを口にした。
────私は、
「「「!?」」」
時同じくして。
友奈の意識が、闇へと溶けていく…………。