「は? もう一度言ってください」
私のいつもの代わり映えのない優雅で穏やかな午後は、ある一本の電話によって壊された。
「いやぁ、ついね」
電話口の先の人物の笑い声が聞こえる。私はあなたを今でも敬愛しているが、ユーモアのセンスはいただけない。Ms.ジョークに指南していただきたいほどに。
「今更あなたに言うまでもないことですが…」
電話口の先で、私が敬愛してやまないその人が笑うを止める。
「わかっているとも」
いや、
「いえ、あなたはわかっていない。あなたが弟子をとる、その意義を」
「軽率だとは言われるだろうね、でも後悔はないよ」
「それほどの人物だと…? その弟子は、知っているのですか?」
「ああ、すまないね。個性については話した」
「…身体については?」
「…いや、話していない」
ふう、と息をつく。
「それで、誰なのです? 弟子というのは」
「おや、意外。もう少しお説教があるかと思ったぜ」
「それをしても聞かないでしょうあなたは」
「すまないな」
「それで、誰ですか」
「ああ、………」
「…」
相手が電話を切るのを確認し、私はスマートフォンを耳から離した。
緑谷出久、中学3年生。
情報はただそれだけ。
敬愛するあなたの判断ですが、正直意図をはかりかねますよ。
探せばきりがない、ということはない。
熟考に熟考を重ねて決定すべきだ。あなたの意思なのだから尊重すべきとも思うが、これだけの情報では判断に困る。
私が直接行く末を見定める必要が、ある。
コンコン、とドアをノックする音。
少し強い、彼女ではないな。
「サー! パトロールの時間ですよね!」
がっちりとした体形の男。上背があり、それに見合う肩幅、半そでの服からのぞく素肌は筋肉でおおわれていることが一目でわかる。筋骨隆々とした体形とは裏腹に、その顔はどこかあどけない。
「言われずともわかっている」
彼は少し前に私がスカウトして事務所へ引っ張ってきた学生だ。
「タハー! ですよね!!」
笑顔を絶やさない彼に、私はヒーローの資質を見たのだ。
「…、すまないが今日はバブルガールと二人で行ってくれ」
「あれ!? 俺はいいですけど、何か用事ですか?」
「ああ、急用ができた」
「じゃあ、僕はパトロールへ行ってきます!!」
元気のある素晴らしい受け答え。バブルガールにも見習ってもらいたい。
「なぜ…、海浜公園なんでしょうか?」
「そりゃあ、ボランティアさ!!」
HAHAHA、とアメリカンな笑い声。
筋骨隆々、一人だけ主線が太い男、オールマイトが腕を広げあたりを見渡した。
あたり一帯がごみの山だ。ごみといっても種々雑多なごみのオンパレードで、生ごみらしきものから車まで個人で持ち得るものなら何でもありそうだ。砂浜一面に続くごみの山でせいで、僕の背丈では海すら見えない。
「昨日ネットで調べたが、この海浜公園の一部の沿岸は何年もこの様のようだね」
「そうですね、何か潮流の関係で漂着物が多くて、そこにつけこんで不法投棄もまかり通ってるようです」
「最近のヒーローは派手さばかり追い求めるけどね、ヒーローってのは本来は奉仕活動なのさ! 地味だとなんだと言われても、そこはブレちゃあいかんのさ!!」
オールマイトが、彼の上背ほどの冷蔵庫に手を置く。メコメコと音を立て、次第に冷蔵庫は折りたたまれていく。
「この区画一帯の水平線をよみがえらせる!! それが君のヒーローへの第一歩だ!!」
大きな音を立て、冷蔵庫がつぶれる。平たくなった冷蔵庫の先に海が見えた。水平線に太陽が光っている。僕はあたりを見渡した。めちゃくちゃな量だ。なにせ車まで捨ててあるのだ。
「緑谷少女は、雄英志望だろ?」
「はい、はいそうです!! 雄英はオールマイトの出身校ですし、行くなら絶対に雄英だって思っています!」
つまりこれは、
「入試当日まで残り10ヶ月、身体を鍛える一環としてごみ掃除を?」
「YES!! そのとおり!! と、まあそれはついでだったりするんだけど」
ついで!?
ついででこのごみを片付けようとか言ってるのかオールマイト。
スケールが違うなぁ。
「正直、緑谷ガール、君は現時点でそこそこに鍛えられているんだよ」
「身体を鍛えるのは主目的じゃない、と?」
僕は普段から自主トレをしていたし、そこらの人に比べれば身体能力は高い方だ。
「身体、だけに絞った話をするならね。これからやることはすべてを鍛える!!」
「すべて…?」
「個性は使えるのかい?」
「!! いえ、まだ。視線はいつも感じていますから、使うというよりは常時発動するものだと思うんですが…」
「ノンノン! そういうことじゃない、個性を把握する必要があるってことさ!」
「把握…? すいません意味が」
ふむ、と顎に手を添えるオールマイト。
「今では下火だが、一昔前の個性のない時代、スポーツの一流のアスリートたちは何故一流になれたと思う?」
「…努力したからでしょうか?」
「すべからく努力はしただろうね! でも違う、正確には努力の質が違う!!」
「より努力したから、そういうことですか?」
「いいや、効率の良い努力をしたということさ」
効率の良い努力…?
「たとえば、脚力強化の個性をもった人物がその個性を知らず腕ばかり鍛えているとして、緑谷少女はどう思う?」
「もったいない…と」
「そう、もったいないんだよ!! これから10ヶ月身体だけを鍛えるなんて!!」
「個性を、鍛えるべきだと…」
「そうさ!! さらに先のたとえ話でいうなら、脚力強化の個性だからと言って足だけを鍛えてもさして効果は得られない。脚力は全身のパワーをよどみなく伝えることでより大きな力になる。テレフォンパンチより腰を入れたパンチの方が強いのはそういうことさ」
オールマイトが一呼吸置く。
「つまり、全身を、個性を意識して、把握して、すべてを統合して鍛え上げるべきだということさ!!」
「個性を意識して把握する…でも私は個性がいまいち何か感じ取れなくて」
「“でも”が多いぜ緑谷少女! 大丈夫、初めにやることは決めている! これさ!!」
そういってオールマイトが取り出したのは、色とりどりのスーパーボールだった。オールマイトの体躯だと僕が手で鷲掴みにするほどの大きさのスーパーボールも、一見してビー玉サイズだ。
「スーパーボールをどうするのですか?」
「まあ見てなって」
そういってオールマイトはスーパーボールが大量に入った袋を足元に置き、十数個を握った。ごみの山に隠しておいたのだろう。
オールマイトがごみの山を指さす。その先、数十メートル先に廃車が数台積んであった。
オールマイトが手の中でスーパーボールを転がし、構えた。
次の瞬間、車のボンネットが大きな音を立ててへこんだ。
スーパーボールを、親指ではじいてとばしたんだ。なんというパワーだろう。スーパーボールで指弾をして、あの威力とは。
「これを、避けてもらう」
「はい!! …!???」
避けてもらう?
避ける? あれを?
思わずオールマイトを凝視する、マジで言ってるのかオールマイト!?
にかっと笑うオールマイト。
マジで言ってるぜオールマイト。
「…けっこう喜怒哀楽が激しいんだね緑谷少女」
オールマイトの笑い声。
僕死ぬんだ、これから。
オールマイトが葬式に参列してくれるのかな…。
指定した位置に立つ僕。
オールマイトとの距離は、野球というスポーツでのピッチャーとキャッチャーの距離以上といったところだ。先ほどの廃車との距離とそうは変わらない。
つまり、当たれば、ボンネットがへこむほどの威力というわけだ。
ボンネットが、へこむ、程の。
しかも、おそらくは、何発も同じものが。
それ以上に僕を悩ませるのは速度だ。
威力はしかたない。
いや、仕方なくないけど。
スーパーボールは軽い。ニュートンの運動方程式ma=Fは、力が一定であれば質量と加速度は反比例することを示している。
廃車に衝突した時のあの衝撃、つまり力積を考えるならば、そしてスーパーボールの質量を考えるならば、その速度はいったい如何ほどの…。
ぐっと手を握る。
地面を踏みしめる。
瞬きはできない。
避けるために、すべてを使う。オールマイトの意図はそういうことなのだろう。
個性を完全に自分のものにするための訓練。
今もオールマイトの視線は感じている。
だが、この距離だといまいちどこを見ているかわからない。距離がありすぎてオールマイトの目が、視線がどこを向いているか見えない。
見る?
見る必要があるのだろうか。オールマイトは言っていた、僕の個性は“視線を感じる”のだと。
感じとる、どこを見ているのか。
オールマイトが手を挙げる。
合図だ。
やばいやばいやばい。
遠目にオールマイトが袋からスーパーボールを握る様子が見えた。
僕を見ている。
どこだ、どこを狙うんだ。
顔、顔だ。
体中に、五感とは別の感覚を感じる。
顔を今は狙われている。
ボールが、矢のようなボールが飛んできた。
僕は既に半身をずらして、それをよけつつあった。そして避けた、はずだ。
はず、というのも見えないせいだ。
痛くないから、おそらく避けたのだ。
後ろから衝撃音が聞こえた気がする。
腕!
今、腕を狙われた感覚があった。
そして、ボールが確かに僕の左腕をめがけ飛んできた。
大丈夫、避けられる。
ボールは見えないが、感じ取れる。
また後ろで轟音。
避ける、避けられる。
矢継ぎ早に飛んでくるボールを、僕は確かに避けている。
オールマイトのボールを!!
すごい、なんだこの感じ。
視線以外に、何か感じている。
僕の体が、手に取るようにわかる。姿勢や、内部の骨、筋肉に至るまで、理解し掌握している感覚だ。意識して使うことで普段以上のパフォーマンスを発揮している。
オールマイトが両手にボールを握る。
二個同時にボールが飛んでくる。
でも大丈夫。
一つは左肩、もう一つは右足だ。わかっている。そしてすでに避けている。
次々に飛んでくるボール。
むしろ、狙う場所をこっちから選べるのではないか?
以前のヴィランとの戦いでは漠然と僕自身を見るように言って、ひきつけたが、僕の身体の一部、例えば手を狙うように、ひきつけることも出来るのでは?
左手だ、左手を狙え!!
狙われた!!
左手を狙われた感覚があった、そして左手のあった場所をめがけて確かにボールが飛んできた。
すごい、すごいぞ僕!!
これならより簡単に避けられる。
矢継ぎ早に、僕の思う場所へ飛んでくるボール。
今頃、後ろの車のボンネットはぐちゃぐちゃだろう。
あれ?
オールマイトが僕を見ていない。
ボールが、僕の半身ずれた横を通り過ぎる。
どうしたのだろう。
後ろから轟音、と共に体へ衝撃が走る。
痛い!!
背中に、激痛が走る。
「ぐっ…、あ」
思わず振り返る。そこにはぐちゃぐちゃにひしゃげたボンネットの車があった。変わったのは姿だけではなかった、位置が違う、角度が変わっていた。
「跳弾、か!!」
「その通り!! よく避けたじゃないか!!」
「ひゃっ」
いつの間にか僕のすぐ後ろにいたオールマイトに驚いて妙な声をあげてしまう。
やだな、恥ずかしい。
「さ、最後のは受けてしまいました…」
「うん、まあ当てるつもりで少し速く撃ったからね」
あっけらかんと答えるオールマイト。痛みをこらえながらも、僕も「ははは」と笑った。個性だ、個性を感じ取って、使うことができたんだ。
僕が、個性を。
「オールマイト!! ありがとうございます!! 私は視線ということばかりに気を取られていました、正確には私の個性は違った。意識、人の意識、特に自分の意識を感じ取り、おそらくは人の意識を引き寄せることができる個性です!!」
「え、そうなの?」
マジで、と続けて言いそうなほどの、意外そうな声。あれ?
「え、わかっていてこの特訓をしたのでは…?」
このボールをとばす距離にしろ、最後の跳弾にしろ、わかっていて僕の個性を引き出すためにしたものだと思ったのだけど、あれ?
「いやあ、ヴィランとの戦いですっごい避けっぷりだったから、これは伸びるかなって…HAHAHA!!」
まったく違った。
あれぇ、けっこう抜けてたりするのかなオールマイト。
「ふむ、“人の意識を感じ取り、引き寄せる”個性か、良い個性じゃないか!!」
オールマイトがサムズアップする。
僕は満面の笑顔でそれにこたえた。
「はい! ありがとうございます!!」
その日の特訓は、それで終わった。
あの日から毎日、オールマイトに作ってもらった訓練メニューを続けている。
海浜公園のごみ掃除は、僕の身体づくりに役立っている。
特に個性について。
ごみを運ぶ、細かく分解する、そのために必要な体の動きを意識して行う。
これは僕に最適な訓練だった。
今すべきことが、すべて詰まっている。
オールマイトは毎日会ってくれるわけではない。当たり前だ。
一週間に一回、もしくは隔週に一回ほどでオールマイトは海浜公園に訪れて、例のスーパーボールの特訓をしてくれる。
初回のスーパーボールは本気ではなかったようで、回数を重ねるごとに速くなるボールを避けるのに僕は必死だ。
でも僕も成長している、できている。
個性は日増しにより強くはっきりと感じるようになった。
そして、それが自然と感じるようにも。
オールマイトに個性を教えてもらったあの日、僕は急に手が増えたような、そんな感覚だった。
異物だと、自分のものじゃないと、個性を感じていた。
しかし今はもう自分のものだ。
まだまだ精度はあげられるだろう、応用も考える余地が十分にある。
僕は、あの日から歩き出したばかりなんだ。
歩き出して間もない赤子。十数年の間、個性を使い続けたライバルに追い付くためにはもっと頑張らなくては。
受験へ向けて、夢へ向けてひたむきに努力する。
元々学業では好成績を修めていたこともあって、個性や身体作りの特訓に身を入れることができる。
受験へ向けて脇道逸れてる暇はない!! …のだが、最近悩みがある。
僕の、思い違いでなければ、なんというか、人につけられている。
時折、僕を見る人がいる。
最近分かったことだが、僕の個性には制限範囲がある。厳密な距離はわかっていないが、単純に遠くからの視線には鈍感になるし、意識を自分にひきつける力も弱くなる。
僕をつけている人はどうやら慎重な人なようで、だいぶ遠くから見ている。
遠すぎると漠然としか感じ取れないため方向もわからない。
もう一つのわかったことは、僕は視線の違いを感じ取れる。
犬が匂いで判別できるように、僕は意識、視線で判別できる。
何度か感じた視線はすべて同一人物だった。
もしかすると、オールマイトに特訓をつけてもらっていることを知った誰かなのかもしれない。
問題は、それがただのオールマイトのファンなのか、それともヴィランなのか。
うんうんと、うなりつつ僕は大型トラックの廃タイヤを運んだ。
ずいぶんと海浜公園はきれいになった。
この調子なら受験までに余裕をもってあたり一帯のすべてのごみは撤去できそうだ。
タイヤを軽トラックへ積む。
よし、あと一息だ。
冬になり、年末を迎えた。
僕はついにごみをすべて片付けた。
最後のごみを軽トラックへ積み、僕は大きく息をついた。
やった、やり遂げたぞ。
思えば、何かをやり遂げた体験は初めてだ。
「オーマイ…グッネス!! やりやがったな!! すごいぞ緑谷少女!!」
照れくさい。
頭をかく。
「あなたのおかげです…、私、やりました…!! できました…!!」
「予定よりもずっと早いぜ!! このエンターテイナーめ!! これは早めに準備して正解だったな!!」
「準備…ですか?」
「ああ!! ほら、スーパーボールだけどね、前はごみがあってぶつかってくれるから回収も楽だったけど、今は見渡す限りの水平線、きれいなものさ。ここで私がボールを吹っ飛ばしたらどこまで飛んでいくやらわからないからね。片付けた先から不法投棄をするわけにもいかないだろ? ヒーローが」
HAHAHAとわらうオールマイト。
僕は曖昧に笑みを返した。
「そこで、新しい訓練を考えた!!」
「新しい訓練…」
「そのためにまずは彼を紹介しよう」
オールマイトの影に隠れていた人が現れる。
背の高い、細身の男性だ。緑の髪に金のメッシュ、眼鏡ごしにみえるするどい眼。
僕は彼を知っている。
そして、その視線を思い出した。
「まさか、ストー…」
「ストーカーしていたわけではない、人聞きの悪いことを言わないでいただきたい」
「おや、二人は初対面じゃないのか」
「いや、初対面ですよオールマイト」
まあ、初対面だけど。
しかし、この人が僕の訓練に…?
「というわけで、こちらのサーナイトアイが君の訓練を手伝ってくれることになった!!」
「手伝うかはまだ未定ですオールマイト」
「え、あ、そうだっけ、ごめん…」
「あ、いや、謝っていただかなくてけっこうです」
なんだか、ぎくしゃくしてる…?
サーナイトアイといえば一昔前に五年ほどオールマイトのサイドキックを務めたヒーローだ。
とても、仲が良かったはず…。
「さて緑谷出久、私はサーナイトアイ、オールマイトから話は聞いている。弟子になったと」
手が差し出される。
「はい!! お世話になっております!!」
うわあ、すごい眼力。
恐る恐る握手する。
背筋が自然としゃんとのびてしまう。
「わたしの話を遮らないこと。私は自分からオールマイトへ無理を言って君に会わせてもらっている」
「いやいやいや!! 無理だなんて!! 私からもぜひお願いしたかったんだよ!!」
ぶんぶんと手を振るオールマイト。
めちゃくちゃ砂を巻き上げている。あ、目に入った。
「オールマイト、あなたも話を遮らないでいただきたい」
「あ、ごめんなさい」
オールマイトにも手厳しいなこの人。
「私はオールマイトに君の訓練の手伝いを頼まれている、だがそれとは別件で君とは会って話をしたかった。訓練の手伝いをするかどうかは、その話のあとに決める」
「…」
つい話って何ですか、とききそうになる。というかサーナイトの視線が僕の口へ向いたためぎりぎりで気付いた。
「…オールマイトの後継を、断ったというのは本当か?」
どくん、と心拍が強く、そして速くなったのを感じた。
僕は、あの日のことを思い出していた。
街角で、オールマイトが僕のヒーローへの道を開いてくれたあの日のことを。
オールマイトのお礼と訂正、そして提案。
その提案を僕は…。
「…ええ、本当です、お断りしました」
「なぜ」
「私は…、無個性でした。正確には無個性だと思い込んでいました。私はヒーローになりたかったけど、無個性の私では無理だと、当時の私はどこか悲観的だったと思います。個性さえあれば、と」
そう、僕はいつも言い訳をしていた。
個性さえあれば、僕だってヒーローにって。
「言い訳にしたくないんです、本当に個性があったんだから。弱虫のいくじなしの私には戻りたくない、それに…オールマイトが…」
「オールマイトが?」
「オールマイトがほめてくれたんです。良い個性だって、私も思います、良い個性だって」
サーナイトアイの目を見る、人の目を見て話すのは久しぶりな気がする。
思えば、オールマイトともまぶしくって目を見て話してなかった。
だめだな、僕。
「こんな良い個性を持ったんです、私は、この個性でヒーローになりたい。夢なんです」
「オールマイトの個性を、受け継ぐことを断る理由になっていないように思うが?」
「そ、それは、ごめんなさい。その、ただの見栄なんです。自分の個性だけでヒーローになりたい。恩をあだで返すような真似だってことは重々承知しています」
「あだなんて、ちっとも思っちゃいないさ緑谷少女!!」
「…ふむ、いいだろう。用意したまえ、訓練は手伝おう」
「あ、え、ありがとうございます!!」
ふっと緊張がほどけるのを感じた。
自然と笑みがこぼれる、いかんいかん気を抜いては。
「オールマイトの秘密を知ったのだ、せめてプロヒーローにはなってもらわなければ困る」
「もちろんです!!」
認められた?
どうなんだろう、でも訓練は手伝うってことはそういうことなんだろうか。
でも、どっちにしても僕は本気で訓練するだけだ。
ちょっと気分は浮つくけど、気合を入れなければ。
あの二人がそろって僕の訓練を手伝ってくれるだなんて、夢みたいだ。
絶対に雄英に受からないと。
この人たちの顔に泥を塗るわけにはいかない。
「“見た”だろ?」
オールマイトが小声で私に話しかける。
「ええ、見ました」
「どうだったのさ、彼女」
「女子中学生の普段の生活が気になるとは、オールマイトあなた出歯亀の趣味が…?」
「ちがうよね!? むしろ君が率先して見ているじゃないか!! いやそうじゃなくってね…」
どうも私のジョークはオールマイトに通用しない。
価値観の違いというやつだ。
「君から見て、彼女はふさわしかったかい?」
オールマイトが後ろを振り返る。
緑髪の女子中学生、緑谷出久。
身体は鍛えられている。良い個性を持っている。強い眼をしている。
確かにそうだ。
そして、良い笑顔だ。
「それを決めるのはあなただ。私じゃない」
あっという間に試験当日を迎えた。
僕はいま、雄英高校の正門の前にいる。
昔から憧れた雄英だ。
数多くのヒーローを輩出したこの高校について、僕は一般人が知り得ることなら何でも知っている。
夢で何度もくぐった正門は、イメージした通りの姿だ。
でも夢見ていたころとは、僕は違う。
10ヶ月の訓練は、確実に僕を変えた。
踏み出すんだ。
10ヶ月前に歩き出した僕の、ヒーローへの第一歩だ!!
オールマイトを背負う原作の彼は、絶対に無個性じゃない。