僕を見て   作:姉くじら

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どうして

 『海浜公園謎のクリーン化、デートスポットに最適!!』

 

 今朝の小さな記事を見て、私はあの人見知りな少女の姿を思い浮かべた。先ほど彼女からの合格報告を受けた。「当たり前だ」と返したが感嘆の声が漏れていたかもしれない。

 ぼさぼさの緑の髪をのびるままにしている、伸びた前髪が目元を半分ほど隠したその姿は内気な彼女の性格を表していた。時折見せる意志の強さは、前髪を通しても目が語っていたが。

 しかし、今度は手元の朝刊を見て少しばかりため息をついた。

 海浜公園のごみ撤去は年末に終わって以降、数週間して発見されマスコミによって周知されることとなり、今ではデートスポットとしてほどほどに人気を博している…らしい。

 私の思い違いでなければ、今日の夜に彼女と会って話をするのだと彼は言っていた。

 おそらくは、この海浜公園で。

 デートスポットで女子中学生と内密の話をするオールマイト…。私は“予知”の個性を持っているが、そんなものなくとも明日の一面の見出しは一言一句間違いなくあてられるだろう。

 

 『まさかの相手は中学生!? オールマイト、秘密の会合!!』

 

 考えずとも、まずいことはわかる。

 オールマイトがマスコミのことに疎いことも私は知っている。そのせいかどうかわからないが、新聞を握る私の手はじんわりと手汗をかいていた。

 スマートフォンを握る。

 

 「…ええ、お久しぶりです。ええ、ええ、はい。…そのことですが、場所をですね…」

 

 

 

 

 

 

 合格通知を開封したその翌日、僕は電車で1時間ほどゆられてある場所へ来ていた。

 サーナイトアイの事務所。

 オールマイトから連絡があって、ここへ来るように言われた。

 サーナイトアイの事務所も、知っている。覚えている住所の場所へ行くと雑誌で見たオフィスが見つかった。そしてその入り口に長身の男性が立っていた。

 サーナイトアイだ。

 彼もこっちへ気づいたようだ。

 

 「改めて、合格おめでとう」

 

 「あ、ありがとうございます」

 

 「オールマイトなら、中で待っている」

 

 「あ、はい。…緊張しますね」

 

 何せサーナイトアイの事務所に入れるのだ、ドキドキする。彼に連れられ、招かれた部屋の扉を開けるとそこにはあのオールマイトと見覚えのない学生服の男性がいた。男性には見覚えはなかったが、着ている学生服は見覚えがあった。雄英だ。なぜ、雄英の生徒がここに…?

 

 「私がすでにいる!! そして合格おめでとう!!」

 

 オールマイトが手を差し出してくれた。僕は一瞬躊躇したけど、手を差し出し、握手した。

 

 「ありがとうございます…!! あなたの、おかげです」

 

 「一応言っておくが、学校側に君との接点は話してないし、私は審査はしてないからね。君そういうのずるだとか気にするタイプだろ」

 

 「お気遣いありがとうございます」

 

 ぎゅっと握り返される。大きな手だ。

 

 「オールマイトが雄英の先生だなんて…驚きました。だからこっちへ来てたんですね、だってオールマイトの事務所は東京都港区…」

 

 「やめなさい」

 

 痛い、強く握られた。

 なにか悪いことしただろうか。

 

 「学校側から発表があるまで他言はできなかった、後継を捜していた折に雄英側からたまたまご依頼があったのさ」

 

 「もしかして…うしろの方が、その後継に…?」

 

 気になっていた。

 雄英の制服を着ていることもそうだが、この場にいるこの人物はいったい誰なのか。どこかで見覚えがあった。しかしどこで見たのだろう…。

 彼は、ずい、とオールマイトの横へ並び、こぶしを握り締め、こう言った。

 

 「俺がーーーー…来た!!!」

 

 僕は、オールマイトの横で、そのセリフを言う勇気を称賛したい。

 どう反応してよいやらわからなかった。

 笑っていいのか、ツッコめばいいのか。

 

 「よォし、ツカミは大失敗だ!!」

 

 ハッハッハ、と笑う彼。その笑う姿を見て思い出した。去年の雄英の体育祭でインパクトのあるハプニングを起こしていた人だ。成績こそ振るっていなかったが、観客に強い印象を残していた。

 

 「俺は通形ミリオ!! 雄英の2年…、新3年生だ、君の先輩だね!!」

 

 そう言って彼も手を差し出してきたので、僕もまた握手しようと手を出した。

 間違いなく手が重なるだろう瞬間、僕はぎょっとした。

 手が、すり抜けた。何も触れた感覚がない。

 

 「すごい!! これがあなたの個性!? “すり抜ける”個性ですか!?」

 

 「アッハッハ、今度のツカミは成功だ!! 掴めてないけど!! アッハッハッハ!!」

 

 僕はまた、笑ってよいのかわからず、曖昧に笑みを返した。

 

 「そう、これが僕の個性。“透過”だよ。ありがとうすごい個性って言ってくれて、君の個性は聞いてるよ。“人の意識を感じ、引き寄せる”個性、良い個性だね」

 

 「あ、え、ありがとうございます」

 

 うれしい、なんだか僕って、個性をほめられることはすごく素直に受け止められる気がする。

 

 「まだ、未調整で…。全然うまく扱えてる実感はないんですけど…、ほめてもらえるのはうれしいです」

 

 「個性は使いこなすために慣れが必要だ。一年足らずで形だけでも成し得たのは、すごいと思うよ。俺も調整に苦労していてね、ようやくモノにでき始めた。それでも俺は今の一発芸ができるようになるのに一か月はかかった…」

 

 “すり抜ける”個性…。どんな感覚なんだろうか。無敵に思えた個性だけど、とても繊細なもののようだ。

 

 「…後継は、断ったよ」

 

 「え!?」

 

 「君の断った理由も聞かせてもらった。俺も君の理由と同じさ、見栄っ張りなんだ。俺はこの個性でヒーローになる、意地なんだ」

 

 「…そう、ですか」

 

 僕はオールマイトが気になって見た。その僕にオールマイトは気付いたようで、にかっと笑って答えてくれた。

 

 「HAHAHAHA、続けて二人もフラれちゃうなんて!! HAHAHA…」

 

 笑い声に力がない。

 意外と気にしてる? センシティブだなオールマイト。

 オールマイトがあたりを見渡し、サーナイトアイを見ると、ため息をつきつつ、こう続けた。

 

 「あの、この部屋。ちょっと変えないか? ファングッズに囲まれてしゃべるの結構恥ずかしいんだが…」

 

 元気がなかったのは、別の原因らしかった。

 後ろでサーナイトアイが「なぜだ…」と独りごちていた。

 記念タペストリーをバックに見るオールマイトは、すっごく貴重な光景だったのに、残念だ。

 

 

 

 

 

 春を迎えた。

 

 「出久! ティッシュは持った!?」

 

 「うん」

 

 「ハンカチも!?」

 

 「うん! 持ったよ、時間ないんだ、急がないと…」

 

 「出久!」

 

 「なに、急ぐって…」

 

 お母さんは雄英の制服を着た僕の姿を見て、ちょっと目を伏せてから、

 

 「超カッコイイよ」

 

 すこし、目が潤んでいる。お母さん泣き虫なんだ、昔から。

 僕も人のこと言えないや。

 最近、お母さんに似てきたかもしれない。

 

 「…うん、いってきます!」

 

 すこし駆け足で学校へ向かう。

 登校中、僕は期待と不安でドキドキしていた。

 毎年300を超える倍率を潜り抜けてきた猛者が、クラスメイトになるんだ。

 たどり着いた僕のクラス、1-A。その教室のいやに大きな扉の前で、僕は深呼吸をした。

 祈りつつ、扉を開く。

 …かっちゃんとは別のクラスであってほしい。

 

 「机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の制作者方に申し訳ないと思わないか!?」

 

 「思わねーよ。てめーどこ中だよ端役が!」

 

 うっ、と声が出た。

 

 「ボ…俺は私立聡明中学出身の飯田天哉だ」

 

 見覚えがある。眼鏡をかけた、試験で出会ったあの彼だ。

 

 「聡明? くそエリートじゃねえかぶっ殺し甲斐ありそうだな」

 

 「ブッコロシガイ!? 君本当にヒーロー志望か!?」

 

 耳を疑うような言葉なんだと、僕も今再確認した。今までかっちゃんの暴言を聞きなれてたから、すこし感覚がおかしかったんだ。

 教室の入り口でかたまっていた僕だが、飯田くんと目が合った。

 

 「俺は私立聡明中学の飯田天哉だ、試験では自己紹介できなかったからな」

 

 「ぼ、僕、…私は、緑谷出久、です」

 

 「緑谷くん…、君と一緒のクラスになれてうれしい。実技試験では世話になったのだし、いつか必ずこの恩は返すよ」

 

 「恩、だなんて…、私も、その飯田くんに助けられたし…その、お相子だよ」

 

 僕もうれしいって言いたいけど、言っていいのかな、大丈夫かな。

 

 「あれ!? やっぱりその緑色の髪は!! たすけてくれた人たちだよね!?」

 

 後ろに、いつかの彼女が立っていた。僕がたすけて、たすけられた彼女。

 麗日さんだ。

 

 「あ、あの!! 入試の時、ありがとう!!」

 

 「へ、え? 何!? 何のこと?」

 

 「あ、えと、入試前に転ばないようにしてくれた、から、そのお礼…」

 

 「…あー、いいんよいいんよ!!」

 

 パタパタと手を振る彼女。

 

 「というか、髪梳いたの!? イメチェン!?」

 

 「え? あ、これはお母さんがしてくれて…」

 

 「似合ってるね!! 今日って式とガイダンスだけかな? 先生ってどんな人だろうね、緊張するよね」

 

 …すごい。

 女の子って、こんなに話すの!?

 どう答えれば…、というかどの話題にこたえれば…?

 目が回りそう。

 

 「お友達ごっこがしたいなら他所へ行け」

 

 声をかけられた。

 下の方から。

 見ると、麗日さんのうしろに何か…いや誰かいた。廊下で寝袋に入っている男の人がいた。

 

 「ここは…ヒーロー科だぞ」

 

 教室のみんなも静まり返っていた。

 

 「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

 

 先生みたいなことを言い出した。

 というか先生なんだろうか。そうならば、この人もプロヒーローのはずだけど、寝袋から出てきた男の人を僕は見覚えがなかった。

 

 「担任の相澤消太だ、よろしくね」

 

 担任!?

 ということは間違いなくプロヒーローなんだけど、こんなくたびれた人いただろうか。

 相澤先生はごそごそと、先ほどまで先生が入っていた寝袋をあさって服を取り出した。

 

 「早速だが、コレ着てグラウンドに出ろ」

 

 手に握られていたのは体操服だった。

 …なんで先生が持ってるんだろう。ちょっと僕は不思議に思った。

 

 

 

 

 

 

 「個性把握…テストォ!?」

 

 「入学式は!? ガイダンスは!?」

 

 麗日さんが尋ねる。くたびれた人が答える。

 

 「ヒーローになるならそんな悠長な行事に出る時間ないよ。雄英は“自由”な校風が売り文句。それは“先生側”もまた然り」

 

 押し黙る生徒たち。

 …入学式楽しみにしていた親御さんとか大丈夫かな。

 

 「…飯田、中学の時50m走は何秒だった?」

 

 「5秒48です」

 

 …速くない?

 

 「じゃあ個性使っていい、走ってみろ」

 

 飯田くんがスタート位置に立つ。クラウチングスタートから走り出した。

 そしてあっという間に終わった。

 

 「3秒04」

 

 驚くほどの速さだった。

 見ると、ふくらはぎから排気筒の様なものが出ており、煙を吹いている。音も、そうまるで“エンジン”だ。

 生徒たちから歓声が上がる。

 飯田君の好タイムに、そしてこれからやることに気が付いて。

 

 「まず自分の“最大限”を知る、それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

 相澤先生が話すが、誰も聞いて無いようだった。

 

 「なんだこれ!! すげーおもしろそう!!」

 

 「3秒ってまじかよ」

 

 「“個性”思いっきり使えるんだ!! さすがヒーロー科!!」

 

 沸き立つクラスメイト。一方で、僕は冷や汗をかいていた。まずいかもしれない。

 

 「…………面白そう……か。ヒーローになる為の三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい? よし、トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し除籍処分としよう」

 

 前言撤回だ。

 かもしれないじゃない、間違いなくまずい。

 

 「生徒の如何は先生の“自由”、ようこそこれが雄英高校ヒーロー科だ」

 

 個性を活用した体力テスト。

 正直、あまり活用方法はない。自分の身体を意識し、より無駄なく体を動かす。しかし、それは人の域をでないことは明白だ。

 しかし、それでもやるしかない。

 

 

 

 

 

 

 第一種目  50m走       6秒48  13位

 第二種目  握力       51㎏  15位

 第三種目  立ち幅跳び    2m21㎝ 14位

 第四種目  反復横跳び    54回  11位

 第五種目  ボール投げ    49m  16位

 第六種目  持久走(1500m)   4分12秒  8位

 第七種目  上体起こし    26回  16位

 第八種目  長座体前屈    49㎝  10位

 

 「なんていうか、普通だね」

 

 麗日さんが、言いにくそうにしつつも、もっともなことを言った。

 普通だった。

 全ての種目で自己ベストを更新したが、成績は振るわなかった。皆は個性を活かして一つは大記録を打ち出していた。その中にあって僕は、ちょっと足が速かった程度だ。

 本気でやった。

 個性だって使っている。

 しかし、なにかもっとうまくできたんじゃないかって考えてしまう。

 

 「だ、大丈夫だよ!! きっと」

 

 僕がうなだれていると、麗日さんが慰めてくれた。

 そういう麗日さんは、ボール投げで無限という大記録を打ち立てていた。

 

 「んじゃ、パパっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明するのは時間の無駄なので一括開示する」

 

 目をつぶっていた。

 見たくない一心からだろうか。心臓の音が気になって先生の声が耳に入らない。

 どうか除籍は…。

 

 「ちなみに除籍はウソな」

 

 相澤先生の声が耳には入ったが、頭に入らない。

 クラスメイトのみんなもフリーズしていた。

 

 「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

 

 心底、人を小馬鹿にするように鼻で笑う先生。

 へなへなと、力が抜ける。

 この人、嫌いだ。

 

 「あんなのウソに決まってるじゃない…、ちょっと考えればわかりますわ」

 

 後ろでポニーテールの利発そうなクラスメイトがそうつぶやく。たしか持久走でバイクを出した子だ。

 君も嫌いだ。

 

 「そゆこと、これにて終わり。教室にカリキュラム等の書類あるから目を通しとけ」

 

 そう言って先生は去っていった。

 

 “20位 緑谷出久”

 

 僕は最下位だった。

 僕はまだ、やるべきことが多い。学ぶんだ、これから。

 オールマイトに顔向けできない。

 

 

 

 

 

 

 「相澤君のウソつき!」

 

 「オールマイトさん。見てたんですね、暇なんですか?」

 

 「“見込みゼロ”と判断すれば迷いなく切り捨てる、その君が前言撤回。それって君もあの子に可能性を感じたんだろう?」

 

 「君も? …あのテストでは測れない、そう感じた。見込みがないとわかったならば、また話は別です。…半端に夢を追わせることほど残酷なものはない」

 

 

 

 

 

 初日が終了し、下校時間となった。

 リュックが重たく感じるほどに、僕は疲れていた。体力テストもそうだけど、高校初日ともあって気疲れというか、人疲れともいうか…。

 でも、麗日さんにはちゃんとお礼も言えたし。今日一日よく頑張ったぞ僕。

 

 「保健室へ行っていたが、どこかけがしたのかい?」

 

 「え、わっ、飯田くん…。あ、その、無理な体の使い方をしたから、ちょっと筋肉痛で…」

 

 そう、無理をした。

 動けなくなるぎりぎりを狙って、力のすべてを出し切れるよう全力を個性把握テストで出し切った。おかげで全身筋肉痛だったので、保健室へ行っていたのだ。

 

 「そうか…、しかし相澤先生にはやられたよ、教師がウソで鼓舞するとは…」

 

 僕もやられたよ飯田くん。

 

 「お二人さーん! 駅まで? 待ってー!」

 

 後ろから麗日さんが駆けてきた。

 

 「君は∞女子」

 

 ∞女子!? 耳を疑うネーミングだった。

 

 「麗日お茶子です! えっと飯田天哉くんに…、あれ?」

 

 あ、僕まだ自己紹介してない!?

 何が“今日一日よく頑張った”だよ僕!!

 

 「ぼ、僕は! じゃない、私は緑谷出久です!」

 

 「僕?」

 

 「あ、え、いやその。目立つから、私っていうようにしていて…」

 

 は、恥ずかしい。

 顔が赤くなる。まっすぐ麗日さんの顔が見れない。

 

 「えー! いいじゃん僕!! かわいいよ!? ね、飯田くん?」

 

 「かわっ…、うん、まあ人それぞれ自由だと思うよ」

 

 飯田君、珍しく歯切れが悪いな。

 

 「ね!? いいと思うよ、出久ちゃん!!」

 

 出久ちゃん!?

 すごい! 下の名前で呼ばれちゃった!

 こ、これは僕も麗日さんのこと「お茶子ちゃん」って呼んだ方がいいの!? オールマイト教えて!!

 これがお友達。

 …楽しい。

 同年代の子と、会話するのも久しぶりだ。

 中学時代、僕はずっと教室で黙ってた。

 オールマイト、僕、友達ができたよ。

 至らない弟子だけど、友達ができたことぐらいは喜んでもいいですよね。

 夕方。

 帰ったら、お母さんに一目で「出久、お友達出来たのね!?」と見抜かれた。

 そんなにわかりやすかったかな、僕。

 

 

 

 

 

 翌日の午後。

 

 「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!」

 

 オールマイトが教室へ現れた。歓声が沸き起こる。カリキュラムを読んだ時から知っていたが、本当かどうかとクラスメイト達は半信半疑だった。

 

 「オールマイトだ…! すげえや本当に先生やってるんだな…!!」

 

 「シルバーエイジのコスチュームだ…! 画風が違いすぎて鳥肌が…」

 

 全面的にクラスメイトの意見に賛同する。

 もう、学校という空間にオールマイトがいることの違和感がものすごい。そして再認識する、オールマイトがトップヒーローであるということを。本来であればお話なんて、まして僕なんかを弟子に取ってくれる人じゃない。

 

 「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地をつくるための様々な訓練を行う課目だ!! 早速だが今日はコレ!!」

 

 オールマイトの掲げたカードには“BATTLE” と書かれていた。

 

 「戦闘訓練!!」

 

 おおっ、声を上げるクラスメイト。それは期待からか、不安からか。…かっちゃんは絶対に期待からだ。

 

 「そしてそいつに伴って…こちら!!」

 

 オールマイトが教室の壁を見るようにジェスチャーする。

 すると、壁から収納棚がせり出してきた。

 

 「入学前に送ってもらった“個性届”と“要望”に沿ってあつらえたコスチュームだ!!」

 

 「おお!!」

 

 クラスメイトが再び沸き立つ。

 

 「着替えて順次グラウンドβへ集合だ!!」

 

 僕はコスチュームを抱えて更衣室へ向かう途中、家での会話を思い出していた。

 

 『出久あのね! 入学祝い!!』

 

 『ジャンプスーツ!?』

 

 『ノート見ちゃって、描いてあったから…。お母さんね、ひどいこと言ってしまったって、ずっと引っかかってたの。あの時、出久が無個性だって言われたとき、私はあきらめちゃった…。出久は諦めずに夢を追い続けてたんだね』

 

 その時の母は、泣いてなかった。

 

 『ごめんね出久、気付いてあげられなくて。いつもそう。でも、これからはいつも見てるから』

 

 やっぱり、堪えきれず目じりに涙は浮かんでいた。でも満面の笑みをたたえて僕を激励してくれた。

 そんな母の顔を、浮かべていた。

 最新鋭じゃないし、便利な機能はさほどない。

 でもこれが僕のヒーローコスチューム!!

 母のくれたジャンプスーツに手を守るグローブ。膝や肘のサポーターに、サポートアイテムや救護グッズを入れるポーチ。そしてオールマイトを模したマスク!!

 ちょっと本人の前でかぶるのは恥ずかしい気がしないでもないけど、せっかく申請したんだ。

 それに…素顔をさらすのはちょっと恥ずかしいし。

 

 「あ、出久ちゃん!! かっこいいね! 地に足ついた感じ!」

 

 「麗日さん! その、お、お茶子ちゃん、も似合ってる、よ」

 

 「要望ちゃんと書けばよかったよ…、パツパツスーツになった。恥ずかしい…」

 

 麗日さん、けっこう大胆なコスチュームだな。

 ボディライン丸見えだ。

 そして、やったぞ。僕、下の名前でお友達を呼んだぞ! 自然に! 僕成長したぞ!!

 

 「先生! ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか?」

 

 クラスメイトが質問する。

 フルフェイスヘルムで顔がわからなかったが、声で飯田くんだとわかった。かっこいいコスチュームだな。

 

 「いいや! もう二歩先へ踏み込む! 屋内での対人戦闘訓練だ!! これから君たちは“ヴィラン側”と“ヒーロー側”に分かれて2対2の屋内戦を行ってもらう!! いつぞやのロボットのようにぶっ壊せばOKじゃないことに気をつけろ!! 状況設定はこうだ!!」

 

 ヴィランがアジトに核兵器を隠している。

 ヒーローはそれを処理しようとしている。

 ヒーローは制限時間内にヴィランを確保する、もしくは核兵器を回収する事が勝利条件。

 ヴィランは制限時間まで核兵器を守り切るか、ヒーローの確保が勝利条件。

 オールマイトから語られた設定はこのようなものだった。

 …アメリカン!!

 そしてコンビの決定はくじ引きの結果、僕は麗日さんとコンビとなった。

 対戦相手は飯田くんと、…かっちゃんだった。

 かっちゃんは、対戦相手を告げられると、一瞬だけ僕を見て、足早に去っていった。

 飯田くんが後を追って建物の中へ入っていった。

 僕たちは五分後に突入する。

 

 「建物の見取り図、覚えないとねコレ」

 

 「うん、…」

 

 大きく息を吸って、吐く。

 緊張が、目に見えてわかる。…手が震えている。その手を麗日さんも見ていることに気付いた。

 

 「緊張するね」

 

 その言葉は、「自分も緊張してるから、大丈夫だよ」と言っているように聞こえた。

 

 「うん、…相手が飯田くんとかっちゃ…爆豪くんだから…、身構えちゃって」

 

 「爆豪くんと知り合いなの?」

 

 意外そうな声。

 

 「…中学が一緒だったんだ。すごい人だよ、才能があって…、自信に満ちて…」

 

 昔からそうだった。

 

 「…麗日さん」

 

 「お茶子って呼んで!」

 

 「ご、ごめ…お茶子ちゃん、…作戦があるんだ」

 

 

 

 

 

 そして五分が経った。

 屋内対人戦闘訓練のスタートだ。

 僕はとなりの麗日さんを見る。目が合って、うなずきあう。

 一階の窓から潜入する。

 中は、見取り図から想像できなかった死角が多かった。奇襲に気を付けるべきだが、その点にかけて僕は少し自信がある。

 僕は“人の意識”を感じ取る。それは視線以外でも、例えば足音で僕の場所を探ったり、モニターを通して僕を見たりしても、距離に応じて僕は感じることができる。ただ、視線以外はとても微弱にしか感じられない。数人の人間が僕を見ているだけでも、他の意識はもう判別できない。それほどに微弱。

 でも今は、この建物内では近くにいるのは麗日さんだけ。麗日さん一人が見ている程度であれば、視線でなくとも他の意識はすぐに感づける。

 微弱ゆえに方向まではわからないだろうが、意識されている、ということは感知できる。

 そしていま、彼らは僕たちに気付いていないことが僕にはわかる。

 足音を消して慎重に、でも大胆に進む。

 

 「おそらく、最上階…かな」

 

 5階建てのこの建物の4階まで上がったところでそう予想した。4階のフロアに上がっても僕を意識する人がいない。これは核兵器のあるフロアで待ち伏せている可能性が高い。そしてそれはおそらく最上階だ。

 

 「すごいよ出久ちゃん!!」

 

 麗日さんが小さく手をたたいてほめてくれた。

 

 「え、えへへ」

 

 …ちょっと気が緩んだかもしれない。引き締める。

 最上階には部屋は一つしかなかった。その部屋の扉を慎重に開ける。彼らはやはり中にいたようで、すぐに視線を二人分感じた。やっぱりばれた!! 見つからず、スニーキング出来たら最高だったんだけど、仕方ない。

 

 「行くよ!! 麗日さん!!」

 

 「うん!!」

 

 突撃する。部屋には巨大な張りぼての核兵器があった。そしてその前に仁王立ちしている二人。

 麗日さんは、…作戦通り物陰へ隠れるようにして核兵器へ向かって走っている。

 そう。僕は麗日さんにこう伝えた。「僕が見えない場所へ必ず移動して、合図したら耳をふさいで目を閉じて」と。

 僕の個性は人相手に強力に作用する。

 相手がどこを見ているかわかれば、先んじて行動も出来るし。相手の行動を僕へ誘引することも、意識を僕へ引き寄せることで行動の阻害も出来る。

 もちろん限界はある。

 “引き寄せる”個性での限界は、時間だ。ずっと僕に意識を向けさせることはできないし、短時間に何度も使うと相手も慣れてしまう。

 そして無視できないデメリットがもう一つ、対象を選べないということだ。

 この個性を使えば、距離に応じて、範囲内全ての人の意識を引き寄せてしまう。

 だからこそ麗日さんにああ言うほかなかった。

 後ろ手でピンを引く。

 

 「僕を見ろ!!」

 

 これが合図。

 引き寄せられるのは僕に向かってのみ、でもたとえば手や足などピンポイントに引き寄せることも出来る。

 もう一つ、わかっていることは僕の身体に触れていたものであれば、短時間意識を引き寄せる対象に出来るということ。

 例えば今回は、このスタングレネードに!!

 視線が、集中している。

 投げる。

 そして轟音と閃光が部屋を包む!!

 これが僕の作戦! 強制目つぶし、だ!

 僕は既に耳栓をしているし、目は片方の手でガードした。

 二人はおそらく動けない。この隙に、核兵器の確保をする!

 二人を通り抜ける。

 核兵器は目の前!!

 手が届く!

 

 「っぐ!?」

 

 「きゃあ!?」

 

 横から衝撃をうけ、僕は吹き飛ばされていた。麗日さんを下敷きにして。いったい何が!? いや一体誰が!?

 

 「大丈夫!? 起きて!!」

 

 下で麗日さんが叫ぶ。

 ズキっと脇腹に鋭い痛みが走る。見ると大きく服が破けて火傷を負っていた。

 起き上がって振り返る。

 やっぱり、そこにいたのはかっちゃんだった。

 

 「なんで…!?」

 

 「聞こえねえよクソが!! 閃光は防げたが耳までは間に合わねえ、クラクラする。なんでって顔してんなオイ!! 隠し事得意なテメーの考えなんざ、お見通しだコラ!!」

 

 くそっ!!

 かっちゃんはやっぱりすごいよ!! 恨めしいほどに!!

 構えつつ、後ろの麗日さんが無事なことを確かめる。爆発をもろに受けたのは僕だけのようだ。

 

 「爆豪少年!! 核兵器の近くでの爆破は危険だ!! 次、先ほどの距離で撃ったなら強制終了で君らの敗けとする」

 

 オールマイトの声。

 かっちゃんは、聞こえてないようだが、僕の反応を見て放送があったことは分かったらしい。

 

 「…ちっ」

 

 かっちゃんが向かってくる。

 右の大ぶりで僕の脇腹を、さっき負傷したところを狙ってくる!!

 難なく避ける。

 突き出された腕は隙だらけだ。

 よし、これなら腕をつかんで…。と、思ったその時、また爆発。

 

 「っぎ!」

 

 後ろにいた麗日さんが吹き飛ぶ。

 何故? と思うのと同時に、納得する。今は核兵器を背にしている、これなら使えるわけだ。

 くそっ、使えないと思い込んでしまった。だけどのびた腕は隙だらけ! 掴んで、投げる!

 その時、僕への視線が増えたのを感じた。これは麗日さんじゃない!!

 咄嗟に、後方へ跳ぶ。僕がいた場所を鋭い蹴りが通り過ぎた。

 

 「っくそ!!」

 

 飯田くんだった。

 こんなにも早く回復するなんて!?

 

 「すまん!! 足を引っ張った!!」

 

 「まったくだこのメガネ!!」

 

 二人が僕を見る。そして気付く。飯田くんは完全には回復していないことに。僕への視線が定まらない、まだ視力も聴力も完全には戻っていない。

 後ろの、とばされた麗日さんを見やる。

 荒く息をついているが、立ち上がっている。

 …。

 僕への視線を感じる、麗日さんが僕を見ている。

 後ろ手でハンドシグナルを送る。

 そして、もう一度個性を使う。

 僕を、僕の手を見ろ。

 僕の“引き寄せる”個性は相手にとって僕が見えないときに使うと効果が薄い。だけどそれは利点でもある。麗日さんに柱の陰に隠れてもらい、僕の個性から逃れてもらう。

 もう一度視線を集める。そして同時に麗日さんが僕の個性にかかってないことを確認する。

 再びポーチから取り出して手に握る。

 

 「誰がもう一度食らうか!?」

 

 かっちゃんが吠える。

 僕はかっちゃんへ向かって駆けだした。

 おそらく飯田くんはまだ戦力外、しかし直に回復する。今…、決めなくては!

 視線を集めた手から、投げる。

 かっちゃんの視線が、投げられたものへ向かうのを感じた。

 一瞬遅れて爆発…しない。

 

 「目をつぶるよね、さっきのがあるから」

 

 投げたのは石ころ。

 麗日さんにはブラフのため隠れてもらった。

 核兵器までは距離があって届かないけど、この一瞬の隙に飯田くんだけでも確保する!

 確保用のテープをいまだ前後不覚であろう飯田くんにかけたところで、僕はぎょっとした。

 かっちゃんは目をつぶってなどいなかった。

 それどころか僕に向かって突進し、両手を開いていた。

 爆発。

 とっさに部屋の出口へと跳んだ。それでも爆風は僕の身体をさらって吹き飛ばし、僕は出口を通り抜け壁に激突した。

 少し眩暈がする。

 震える足をたたいて、立ち上がる。

 

 「残念だったな麗日くん! 核兵器へは触らせないぞ!」

 

 少し遅れて飯田くんのそんな声が聞こえた。麗日さん、タッチできなかったか…。

 かっちゃんの視線と足音を同時に感じた。

 

 「…」

 

 無言でかっちゃんがにらみつけてくる。

 僕は、悔しくって睨み返した。

 

 「…勝てるとでも思ってんのかデク」

 

 「…まだ負けてないよかっちゃん」

 

 「個性使えるようになって調子に乗ってんのか、かくしてた個性使って、華々しく高校デビューってか、ああ!?」

 

 僕はふらつく身体でファイティングポーズをとる。きっと情けない顔をしてる。体中が打撲やら火傷やらで痛い。マスクもさっきの爆風で吹き飛んでしまった。

 

 「…違うよ」

 

 「何が違うんだデクてめぇ!!」

 

 「君にも、認めてほしいから!! 戦ってるんだ!!」

 

 負けたくない!

 かっちゃんが爆風をブーストに近づいてくる。狙いはわかっている、顔だ。

 ポーチに手を突っ込む。

 

 「一辺倒だなオイ!! 飽きたわボケ!!」

 

 右手を隠したまま、接近する。その行動は意外だったようで、一瞬表情が変わった。しかしすぐさま気を取り直して右手を突き出してきた。

 かっちゃんごめん、僕の突進にぴったり合わせて爆破するつもりだったんだろうけど、僕はもう少しだけ速く走れるんだ。

 ぐっと最後の数歩に力を籠める。足が痛むのを感じた。

 懐へ入る。

 虚を突かれたらしいかっちゃんは咄嗟に左手で爆破しようとする。でも、それよりも僕の方が早い!!

 右手を振りぬく!!

 

 「っぐ!?」

 

 かっちゃんはまだこぶしの届かない距離で攻撃を受けたことに驚いたようだ。

 急に伸びたリーチに、かっちゃんは僕の右手を見て納得したようだ。

 僕の右手に握られていたのは警棒、伸縮する特殊警棒だ。

 ヒーローコスチュームを考えたとき、同時に武器も考えた僕はこの特殊警棒を選んだ。

 まさかバットを四六時中握っているわけにもいかないだろう、と考えて。

 かっちゃんが爆破し、後退する。

 渾身の一撃を頭に当てた。今は意識が揺れているはずだ。

 追撃をしようと、足を踏み出す。

 激痛が走る。

 さっきのダッシュの無理がたたった。痛みで少し体勢を崩す。

 かっちゃんが、この隙を逃すはずがない。

 見るとすでに振りかぶっていた。

 この大振り、食らってしまったら、終わる!?

 直後の痛みを想起して、僕は目をつぶってしまった。

 絶体絶命…!?

 …。

 爆破はされなかった。

 

 「っち! クソが!!」

 

 かっちゃんが振りかぶった腕を止めていた。

 咄嗟に僕は警棒を持ち替えて下から上に振りぬいた!!

 顎に、ヒットする。

 かっちゃんがたたらを踏む。

 まだ、あと一撃…!!

 

 「終了だ!! 時間切れ!! ヴィランチーム勝利!!」

 

 踏み出した足は、僕を支えることを忘れたように力を失い、僕はその場へくずおれた。

 意識がもうろうとする。

 倒れた僕を、かっちゃんが見下ろしていた。

 僕の頭を支配していたのは、負けたことの悔しさではなかった。なぜ最後、爆破しなかったのか。無表情で僕を見下ろすかっちゃん。

 かっちゃん、どうして…。

 そこで僕は意識を失った。




麗日お茶子、ボール投げ無限とはいったいどういうことだろうか。
もし、あの計器が3ケタまでしか計測できなかったとするなら、少なくとも彼女は1000mもの距離を移動できるだけの速度でもってボールを投げたのだ。
無風時の空気抵抗を考慮に入れるならば、彼女が投げたボールの水平方向の初速は実に時速860㎞を超える。
彼女は浮かせれば勝てる、と言うが、正直殴れば勝てる。
…きっと追い風だったんだろう。
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