僕を見て   作:姉くじら

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続かない平穏

 思い出すのはガキの頃。

 俺は何だってできた、一番すごかった。

 

 『出久ちゃんは女の子なんだから守ってあげるのよ』

 

 『わかっとるわ!! うるせえババア!!』

 

 変に目立ってトラブルに巻き込まれるデクは、いつもおどおどした様子で俺の後ろをついて回ってた。デクは何にもできなかった。

 内気ではっきりとしない態度が昔から癪に触ってた。

 いやに目につく道端の石コロ。その程度だった。

 何にもできないくせにたまに頑固になる。

 昔からそうだ。

 いつもは目も合わせねえくせに、そーゆー時だけ俺の目を見てくる。

 イラつくんだよ。

 ヘドロの時もそうだ。

 俺の目を見て言いやがる。

 

 『僕が、今度は!!』

 

 今度はってなんだよ。

 俺はてめーをたすけてもねえし、たすけられてもねえ!!

 

 

 

 

 

 

 放課後、僕は目を覚ました。

 少し、昔の夢を見た、そんな気がする。でも、もう忘れてしまった。

 夢の内容が少し気になったけど、頭が回らない。

 ゆっくり目を開く。

 そして僕は悲鳴を上げた。

 見知らぬ天井に、見知った顔があったからだ。

 くりくりとした目に、白い歯が光る。ナイスなマスクを僕は知っている。

 

 「…何をしてるんです、先輩…?」

 

 通形先輩だ。

 笑みを浮かべたまま、一切表情が変わらない。少し怖い。

 

 「これは入学早々に手痛い洗礼を受けたね」

 

 あれ、無視された!?

 言われて、自分の身体を見る。腕も足も、おなかも包帯でぐるぐる巻きだ。無事なのは顔くらいのもの、…擦り傷はあるけど。

 

 「その額の傷は今回のじゃないよね? …いつも髪を下げてるのはそれが原因かい?」

 

 言われて、顔を見られたことに気付いた。

 寝ている間、けがを確認するために髪をかき上げられたんだろう。手で髪を降ろす。

 

 「…昔の怪我です。髪を下げているのは、単に気恥ずかしくって、それで…」

 

 くしくしと前髪をいじる。

 昨日、母に梳かれた髪もいまはもうまとまりを失ってぼさぼさだ。

 

 「ごめんね踏み込むような真似をして」

 

 「別に、…隠し事ってわけでも、つらいことでもないから大丈夫です」

 

 自分で言いつつも、それが自分の本心なのかはわからなかった。

 目をそらしたが、先輩はまだ僕を見ているようで居心地が悪かった。

 というか、通形先輩っていま…、

 

 「…先輩、もしかしていま裸ですか?」

 

 「え!? あ、うん、よくわかったね!! 上の教室から透過してるんだ!! ビックリした!? ビックリすると思ってやってるんだけどね!!」

 

 「…絶対、降りないで下さいよ」

 

 僕は前髪を全力で下して両手で目をふさいだ。

 

 「アッハッハッハ!! ほんとごめん!!!」

 

 全力で笑いながら、全力で謝って顔は消えた。

 あの人、個性の調整は難しいとか言いつつめちゃくちゃデンジャラスなことしてる気がする。

 

 

 

 

 

 

 あの後、看護教諭のリカバリーガールと少し話をした。僕の怪我の大半はリカバリーガールの個性によって回復しているようで、派手に巻かれていた包帯は治しきれなかった少しの火傷の感染症対策としてのものらしい。

 その後、すぐにまた個性を使ってもらい、お腹を除いて全快した。

 身体はどっと疲れたが。

 リカバリーガールに「お腹はまた後日、今やると歩けなくなるよ」と言われ、保健室を後にした。

 …最後の爆破を受けていたら、これじゃすまなかっただろうな。

 教室へ向かう。

 

 「…なんで爆破しなかったんだろう」

 

 教室が近づくにつれ、かっちゃんのことが気にかかり始めた。

 考えても答えは見つからない。

 考え事はあっという間に僕を教室の前まで運んだ。

 ドアを開けると、みんながいた。

 あ、まだみんな帰ってなかったんだ、と思うと同時に一人のクラスメイトと目が合った。

 

 「おお緑谷来た!! おつかれ!!」

 

 逆立った赤髪の男子生徒、…名は何と言ったっけ。

 彼が僕に気付くと、教室にいた他のクラスメイトも僕に気付いて近づいてきた。

 

 「いやぁアツい戦いだったぜ!! 緑谷さん!!」

 

 「ナイスファイトだったぜ!! すげえハングリー精神だよな!!」

 

 「エレガントには程遠かっ…」

 

 「よく避けたよー!! 見ずに蹴り避けてたもんね!? あれって個性!?」

 

 一気に話しかけられて、困惑する。

 というか、みんななんで僕のこと知ってるの!? 自己紹介してないよね。名前も知らないし、どうすれば…? ありがとうって言えばいいのかな。

 

 「俺ぁ切島鋭児郎、今みんなで訓練の反省会してたんだ!」

 

 僕が困惑しているのに気付いたのか、赤髪の人が自己紹介してくれた。

 

 「俺! 砂藤」

 

 「僕は青山…」

 

 「私、芦戸三奈! よく避けたよー!」

 

 「蛙吹梅雨よ、梅雨ちゃんと呼んで」

 

 みんなが一斉に自己紹介してくれた。

 

 「わわ…、私は…緑谷出久です…」

 

 こんなにも人に囲まれて話した経験がなく、僕の目はどこへそらしても誰かと合いそうで、視線は右往左往していた。ぐるぐると落ち着かない目は、ふと麗日さんと目が合った。

 

 「あれ!? 出久ちゃんその怪我! 治してもらえなかったの!?」

 

 麗日さんが指さす。見られているのは、僕の顔!?

 あれ、おかしいな。さっきお腹以外は全部治してもらったはずなのに。

 もしかして…。

 

 「その頬のガーゼ」

 

 言われて、手をやるとたしかにあった。

 

 「これ、はずし忘れたんだ…。ほら全快」

 

 目の前ではがして見せると、麗日さんがほっと息をついた。

 

 「ごめんね!! あんなに体張って頑張ってくれたのに回収できなかった」

 

 麗日さんが頭を下げる。ぼくはびっくりして、

 

 「え、いやいやいや!! 僕の作戦がうまくいかなかったんだ…、麗日さんのせいじゃない」

 

 そう、僕の作戦。

 かっちゃんと飯田くんの二人を相手に総力戦になっても勝ち目はない。だから僕は初手で決めにかかった。それが通じなかった時点で、苦しい戦いになることは明白だった。もっと言えば、初手の作戦が失敗した後のことを考えきれていなかったことも良くなかった。場当たり的な戦法で勝てるはずがないのに…。

 反省しなくては。

 

 「でもでも…」

 

 「けがもないし、次勝とう、ね」

 

 僕がそういうと、麗日さんはすこし呆気にとられた顔をした。

 

 「…へ、変なこと言った?」

 

 「ううん、少し意外だっただけ」

 

 僕たちはその場で少し話をして、解散した。

 皆が帰宅する中、僕は教室でひとり去っていくかっちゃんの後姿を見ていた。

 僕たちは幼馴染だ。家が近所で帰り道も同じ。

 昨日は僕が意図してかっちゃんの帰り道を避けたけど、今日は…。

 

 「…爆豪くん」

 

 話しかけた。

 

 「…なんだよ」

 

 かっちゃんは足を止めたがこっちを見なかった。声は苛立ちを隠しきれていないが、かっちゃんにとってはいつものことだ。話しかけるのは…久しぶりだから、緊張するけど。

 

 「その、…あの…」

 

 「用がないなら話しかけんな!」

 

 再び歩き出す。

 

 「その! なんで、最後撃たなかったの?」

 

 思ったよりも大きな声が出た。

 …いや、違う。僕は、個性を隠してたわけじゃないって言いにきただけで。気になっていたからつい。

 返答がない。緊張で、少し手が震える。

 

 「…病院送りにしてほしかったのか?」

 

 依然こっちを見ずに、そうかっちゃんは答えた。

 僕は咄嗟に、

 

 「違う」

 

 「何が違うってんだ!! 俺はそんな優しくないってか!? ぶっ殺すぞ!!」

 

 優しくないっていうのは…、僕は何も言わないけど。

 

 「完璧主義者の君が、最後に手を抜くわけがない。僕を気絶させるか、なにかで、行動不能にするつもりだった」

 

 「ボケてんのか、お前は気を失ってただろうが」

 

 「でも、あの最後で、君は一撃受けた」

 

 「最後のラッキーパンチでいい気になってんのかテメー!!」

 

 かっちゃんが振り返って僕を見る。

 

 「ち、ちがうよ。そうじゃない」

 

 僕が目をそらす。ちがう、そうじゃない。

 何を僕は話そうと…。

 沈黙が続く。

 

 「…俺に勝てるつもりだったのかよ」

 

 かっちゃんにしては、静かに訊ねた。

 

 「…負ける気はなかった。…つ、次は勝つよ」

 

 かっちゃんは少し僕の目を見て、背を向けた。

 

 「てめーは今日俺に負けた。それだけだ!! 次やっても、俺が勝つ、そんだけだ!! 相手が…誰であってもだ!!」

 

 そういって、かっちゃんは去っていった。

 僕はそれ以上引き下がれなかった。去っていくかっちゃんを見て、大きく息を吐いた。まるで今まで息を止めていたような気分だ。

 …僕も帰ろう。

 

 「おや、緑谷少女! 何を話していたんだい!?」

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。朝に保健室でリカバリーガールにお腹を治してもらい、教室へ。

 HRで相澤先生が教壇に立つ。

 

 「昨日の戦闘訓練お疲れ、各々やるべきことを見つけろ。さてHRの本題だが、急で悪いが今日は君らに…学級委員長を決めてもらう」

 

 「学校っぽいの来たーーー!!!」

 

 みんなが、ほっとしたのがわかった。

 また個性把握テストの様なことをするのではないかと身構えたのだ。

 ほっとして、みんなが一斉に挙手してアピールし始める。

 

 「委員長やりたいです、それ俺!!」

 

 「ウチもやりたいス」

 

 「僕の為にあるヤツ☆」

 

 「リーダー!! やるやるー!!」

 

 「オイラのマニフェストは女子全員ひざ上30㎝!!」

 

 みんながやりたがっている。最後の…峰田くん? には絶対なってほしくない。

 普通科だったら雑務って感じでここまでのとりあいにはならないだろうけど、ここヒーロー科では集団を導くっていうトップヒーローの素地を鍛えられる役なんだ。

 中学までこんな役回り見向きもしなかったかっちゃんも、目の色を変えて挙手している。そう語る僕も控えめながら挙手している。…柄じゃないけど、できるのであれば経験して損はない、はず。訓練にもなるし。

 

 「静粛にしたまえ!!」

 

 静かになる。

 

 「多くをけん引する責任重大な仕事だぞ。“やりたい者”がやれるものではない!! 周囲からの信頼あってこそ務まる聖務…! ここは民主主義に乗っ取りこれは投票できめるべき議案!!」

 

 と語る飯田くんは、誰よりも高く手を挙げていた。

 

 「日も浅いのに信頼もクソもないわ飯田ちゃん」

 

 蛙吹さん、クソって。

 

 「そんなんみんな自分に入れらぁ!」

 

 「だからこそ、ここで複数票を得た者こそが真にふさわしい人間だということにならないか? というわけでどうでしょうか先生!?」

 

 「時間内に決めりゃ何でもいいよ」

 

 と言いつつ相澤先生は寝袋にくるまった。先生、合理性とHR中に寝ることは関係ないと思うんだけど。

 投票かぁ。

 切島くんが、自分に入れるだろって言ったけど、その通りだと思う。でも僕は、その前の飯田くんの言葉も同時に思い出していた。

 

 “やりたい者がやれるものではない”

 

 僕は、心情として言えば委員長はやりたくない。ただヒーローになるためにいい経験ができる、そう思った。それだったら…、ちゃんと資質のある人になってもらうべき…なのかもしれない。

 全員の投票が終わる。そして開票。

 

 「僕、二票も!!?」

 

 二票で八百万さんと並んでいた。

 僕は、飯田くんに入れた。飯田くんは、それなのに一票だけ…?

 

 「緑谷さん、並んでいますしどちらが委員長をするか決めましょう」

 

 「や、や、八百万さんどうぞ!!」

 

 すごく大声が出てしまった。そして咄嗟に委員長を譲ってしまった。

 

 「じゃあ委員長は八百万、副委員長は緑谷だ」

 

 教壇に立つ。

 少し、現実を受け止めきれない自分がいる。なんで僕が。クラスメイトを見渡す。かっちゃんが、なんでテメーがって顔でにらんでた。怖い。

 飯田くんはひとりうなだれていた。なんで他の人に入れたんだろう。

 

 

 

 

 

 

 お昼になった。

 僕はいま、友達と食堂にいる。友達と。

 麗日さんに誘われたのだ。

 

 『出久ちゃん! いっしょにご飯いこー!!』

 

 『え、いいの!?』

 

 『え!? いいよ!?』

 

 びっくりして聞き返してしまった。

 

 「人すごいね…」

 

 「ヒーロー科のほかにサポート科や経営科の生徒も利用するからな」

 

 そして何とはなしに飯田くんも同席することになり、三人で食事をとっている。

 

 「いざ副委員長やるとなると務まるか不安だよ…」

 

 「ツトマル」

 

 「大丈夫さ、緑谷くんのここぞという時の胆力や判断力は“多”をけん引するに値する。だから君に投票したのだ」

 

 もしかして、と思っていたけど一人は飯田くんだった。

 そしてもう一人はたぶん…。

 

 「でも飯田くんも一票入ってたね?」

 

 「あ…それ私、です」

 

 小さく手を挙げる。

 

 「そうだったのか、うれしいが、民主主義は君を選んだ。君がなるべきだ」

 

 「でも飯田くんも委員長やりたかったんじゃないの? メガネだし!」

 

 何気にざっくりいくよね麗日さん。あとさっきから食事に集中しているのか、会話が雑な気も、しないでもない…ような。

 

 「“やりたい”とふさわしいか否かは別の話…。僕は僕の正しいと思う判断をしたまでだ」

 

 僕?

 

 「“僕”…!!」

 

 「出久ちゃんに続いて飯田くんも…かわいい路線?」

 

 「違う!!」

 

 びっくりした。すっごい大声出てたよ飯田くん。

 

 「前に言われたまま、じゃないけど…人それぞれだし、いいと思う。私の言えたことじゃない、けど」

 

 「ちょっと思ってたけど飯田くんって坊ちゃん!?」

 

 僕が精いっぱいフォロー(?)した横で、麗日さんがざっくりと訊ねた。

 

 「…それが嫌で一人称を変えてたんだが…。俺の家は代々ヒーロー一家なんだ。俺はその次男でね、ターボヒーローインゲニウムを知ってるかい?」

 

 「もちろん!! 東京の事務所に65人ものサイドキックを雇ってる大人気ヒーローだよね? まさか…」

 

 「俺の兄さ」

 

 自慢げだ。でもわかる、すごいヒーローだもん。

 

 「規律を重んじ人を導くヒーロー。そんな兄にあこがれた。人を導く立場は俺には早いのだと思う。それは入試の時に痛感した。上手の緑谷くんが就任するのが正しい」

 

 なんというか…。

 

 「なんか初めて笑ったかもね飯田くん」

 

 そう、笑った顔は初めて見た、気がする。

 「そんなことはない」と否定する飯田くんを見て、すこし僕は親しみを抱いていた。目指すヒーロー、僕にとってのオールマイトが飯田くんにとってはインゲニウムなんだ。

 ふふ、と笑ってご飯を食べようと箸を持ち上げて、落とした。

 警報。

 食堂のみんなが腰を上げて、何事かと囁く。

 

 「セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難してください」

 

 放送だ。

 セキュリティ3って何のことだろう?

 

 「セキュリティ3って何ですか?」

 

 飯田くんは早くもその場にいた先輩たちに訊ねていた。

 

 「校舎内に誰か侵入してきたってことだよ! 三年間で初めてだ、君らも早く!!」

 

 先輩たちは既に屋外への避難を始めていた。

 僕たちも避難しようとしたときには、食堂のみんながいっせいに避難をはじめ、出入り口は人でひしめいていた。人に押されて身動きできない。というより、このままではけが人が出てしまう。

 人に押されて壁際へ押し込められる。

 窓から外が見える。…あれは報道陣?

 そういえば今朝、オールマイトの教師就任についてニュースを得ようと大勢正門前にいた気が…。

 

 「何かと思えばマスコミ…、皆さんおちつい、痛!」

 

 隣で声がする。飯田くんだ。彼も侵入したのがマスコミだと気づいたらしい。

 

 「いってえ!!」

 

 「ちょ待て、人が倒れた! 押すなって!!」

 

 人の波は、勢いを増している。このままではけが人が…。

 どうしよう…。いや、どうしようじゃない、落ち着かせるんだ。大丈夫だって、伝えるんだ。

 僕なら…、それが…。

 隣を見ると、飯田くんと目が合い、頷いた。

 

 「僕の能力!! 見える場所じゃないと効果が薄い!! 飯田くん!! お願い!!」

 

 「任された!! 麗日くん! 俺を浮かせろ!!」

 

 飯田くんが手を伸ばす。麗日さんがそれに、ぎりぎりでタッチする。

 飯田くんの身体が浮き上がる。すかさず僕は彼の足をつかんだ。

 よし!! 見ろ!! 足を止めて注目しろ!!

 

 「皆さん…大丈ー夫!! ただのマスコミです! なにもパニックになることはありません大丈夫!! ここは雄英!! 最高峰の人間にふさわしい行動をとりましょう!!」

 

 みんなが飯田くんを見てる。足を止めて。

 かっこいいな飯田くん。

 その後、警察が到着しマスコミは撤退した。

 けが人もほぼなく、午後の授業は平穏に行われた。

 僕と八百万さんが教壇に並び立つ。

 

 「では、他の委員を決めようと思います」

 

 「そ、その。いいですか! 副委員長は、飯田君にお願いしたいんです」

 

 八百万さんの話を遮って、そう告げた。

 飯田くんが、僕を見た。僕は頷く。

 

 「あんなふうにかっこよく人をまとめられるんです、その、私は飯田くんがやるのが正しいと、思います」

 

 「だ、だが。それは君もあの場で…」

 

 「それを言うと麗日さんだって協力したし、その、僕は人前に立つの苦手だから…」

 

 断る方便をさがして、つい本音を言ってしまった。

 

 「いいんじゃね!? 飯田、食堂で超活躍してたし!! 緑谷さんでもいいけどよ!!」

 

 「かっこよかったぜ飯田!!」

 

 クラスメイトの賛同の声におされてか、飯田くんが頷いた。

 

 「副委員長の指名とあれば仕方あるまい!!」

 

 ちょっとほっとした。

 …そういえば、今まで考えてなかったけど、どうやってマスコミは学校にはいりこんだのだろう。

 

 

 

 

 

 

 『オールマイト!? 見てたんですか?』

 

 『ああ、すまないね。すこし君と爆豪少年に用があったんだが…、爆豪少年の方は大丈夫そうだ』

 

 『何話してたんだいって聞いた割には、話分かってるみたいですね』

 

 『アッハッハ!! すまない!! 聞き耳立ててしまった!! …落ち込んではないようだね』

 

 『え?』

 

 『弟子の様子が気になったのさ』

 

 『落ち込みはしません。…負け続けてますから。でも悔しい…』

 

 『よくやったと私は思うよ。それに君のことだ、次に生かすために反省もしているんだろう。困ったときは頼りなさい、私は君の師匠だ!』

 

 『………はい』

 

 『…ずいぶん歯切れが悪いね?』

 

 『その、目をかけてもらって、迷惑ばかりかけてると思いまして…その、ありがとうございます』

 

 『迷惑だなんて思っていない!! 前にも言っただろう? 気にすることはない』

 

 『…オールマイト! わ、私ずっと気になっていたことが…』

 

 『…なんだい? 何でも聞いてくれたまえ!!』

 

 『なんで………』

 

 …。

 ……。

 ………。

 なぜ…か。これ以上話さずにいることは彼女に対して不義理ともいえる。誠実で思いやりもあり、そして頭の回転も良い彼女のことだ、きっと話さずともいつか気づく。

 現状、話さずにいることすら彼女を信用していないとも言える。だが、責任ある身としては致し方ない面もある。

 

 「MISSOURI SMASH!!」

 

 軽く、気を失う程度の手刀をヴィランの後頭部へ当てる。

 私が雄英の教師に就任して以来、つまりこの近辺に住み始めて以来ヴィランの出現は減った。

 喜ばしいことではある。

 しかしそれは、いまだに平和の象徴として私が必要とされていることの証左に他ならない。

 

 「きゃああ轢き逃げーー!!」

 

 「んーー…。遅刻するとやばい…んだけどナー!!」

 

 声の方角へ跳ぶ。

 …若干だ、若干ではあるが私の力は衰えつつある。少しずつ、ほんの少しずつではあるが。ヘドロ事件での無理は私の活動時間をいくばくか縮めた。

 しかし、そうあれと願われる以上、わたしはそうあるべきなのだ。

 最悪の事態は常に想定しているが、これ以上不義理は通せない。

 なによりも、ふさわしかったといっても15の少女なのだ。

 やはり私がしっかりせねばな!!

 

 「隣町で立てこもり事件だってよ!」

 

 「ムム!!」

 

 

 

 

 

 入学三日目の午後。

 

 「今日のヒーロー基礎学だが…、俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見ることになった」

 

 なった…?

 あらかじめ決まっていたわけじゃないのか、特例なのかな。

 

 「ハーイ! 何するんですか!?」

 

 「災害水難なんでもござれ、人命救助訓練だ!!」

 

 相澤先生が“RESCUE”と書かれたカードを掲げる。

 

 「レスキュー…、今回も大変そうだな」

 

 「ねー!」

 

 「ヒーローの本分だぜ!? 鳴るぜ! 腕が!!」

 

 「水難なら私の独壇場、ケロケロ」

 

 みんなが沸き立つ。

 確かにこれぞヒーローって感じだしね。僕も憧れたのはオールマイトのあの救助姿なのだから。

 

 「おい、まだ途中だ」

 

 ギロっとにらまれる。クラスメイトが、僕を含めて硬直する。やっぱ怖いな相澤先生。

 

 「今回はコスチュームの着用は各自判断。訓練場は離れた場所にあるのでバスで行く。以上、準備開始」

 

 憧れのヒーローに近づくための訓練だ。頑張るぞ。

 着替えを済ませて外へ出る。

 

 「あれ、出久ちゃん体操服だ、コスチュームは?」

 

 麗日さんが訊ねる。

 

 「あ、うん。戦闘訓練でボロボロになったから…」

 

 「ボロボロの服着ればいいのに…」

 

 「え!?」

 

 後ろを見ると、峰田くんがいた。

 え、何。今のいじめ? いや、なんだか違う。すごく残念そうな顔をしている。なんだかこっちまで悲しくなるような…そんな顔をしている。

 いや、着ないよ? そもそも修理に出してるし。

 

 「ちっ」

 

 舌打ちされた。

 すごく、なんだろう。傷ついた…?

 

 「バスの席順でスムーズにいくように番号順に二列で並ぼう!!」

 

 飯田くんが笛を吹いて号令をかけていた。

 やる気満々だ、横で委員長の八百万さんがすこし引いている。

 そして、バスに乗り込み、

 

 「こういうタイプだったか、くそう!!」

 

 飯田くんは愚痴った。バスは横向きと進行方向向きの入り混じったシートのタイプだった。

 

 「意味なかったなー」

 

 横で芦戸さんがダメ押しをした。なんというか雄英の生徒ってみんなざっくり思ったまま言いすぎじゃない?

 僕が引っ込み思案過ぎるのかな、いやそんなことないよね…?

 

 「私思ったこと何でも言っちゃうの緑谷ちゃん」

 

 「え? あ、ハイ!? 蛙吹さん!!」

 

 「梅雨ちゃんと呼んで」

 

 ちょうど考えていたことをそのまま言うもんだから、びっくりして少し声が裏返ってしまった。恥ずかしい…。

 

 「あなたの個性って、なに?」

 

 「あ、えっとね。わ、私の個性は…“人の意識を感じて、引き寄せる”ことができるものなんだ。たとえば…視線を感じて引き寄せたり、とか」

 

 話すと、みんなが僕を見た。

 え、なに?

 

 「いいなぁそれ!! めっちゃ目立つってことだろ!?」

 

 「人の目一気に集められんのか!? すげー!! 人気すぐでそう!!」

 

 「使い道多そうね…ケロケロ」

 

 わ、びっくりした。

 みんなが、ほめてくれた…?

 

 「そ、そうかなぁ。え、えへへ」

 

 「ちょろいわ緑谷ちゃん」

 

 あれ、いまなんか失礼なこと言われた気がする。

 

 「しかし使い道多いってのはいいな、俺の“硬化”は対人戦では強えけど、いかんせん地味ってのもあるしなー」

 

 「そ、そんなことないよ。すっごくかっこいい!! プロにも十分通用する“個性”だよ!」

 

 「プロなー! でもヒーローも人気商売みてえなとこあるぜ!? 緑谷さんの“個性”はその点最高だな!」

 

 「あ、えへへ、そんな…」

 

 「やっぱりちょろいわ緑谷ちゃん」

 

 むう、仕方ないんだ。なんというか個性褒められるの、慣れてないというか…。褒められなれてないというか。

 

 「僕のネビルレーザーは派手さも強さもプロ並み」

 

 「でもお腹壊しちゃうのヨクナイね!」

 

 ざっくり言った!? あ、青山くん落ち込んでいるのが見てわかる。

 

 「派手で強えっつったら、やっぱ轟と爆豪だな」

 

 「ケッ」

 

 かっちゃんがそっぽ向く。

 

 「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気でなさそ」

 

 あ、蛙吹さん!?

 

 「んだとコラ、出すわ!!」

 

 「ホラ」

 

 蛙吹さん、僕に同意を求めないで。お願い。

 

 「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」

 

 「てめぇのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!」

 

 僕の手は知らず知らず耳に当てられていた。恐ろしい。かっちゃんがイジられている…!! 信じられない…!! さすが雄英…!!

 

 「もう着くぞ、いい加減にしとけよ…」

 

 相澤先生の一言でみんなが静かになる。…さすが雄英。

 

 

 

 

 

 

 ついた先はUSJだった。まるでアトラクションのように区切られてありとあらゆる災害が再現されていた。

 そして、本当に名前もUSJだった。

 待っていたのはスペースヒーロー13号だった。この人も先生なんだ…!! 雄英すごい!!

 

 「わー私好きなの13号!!」

 

 横で麗日さんがぴょんぴょんはねる。

 

 「えー始める前にお小言を一つ二つ…三つ…四つ…。皆さんご存知かと思いますが、僕の個性は“ブラックホール”どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」

 

 知っている。横の麗日さんもファンだけあってコクコク頷いている。

 その個性で13号は多くの人々を災害からすくいあげたのだ。

 

 「人を救うために役立つ個性ですが、同時に簡単に人を殺せる力です。超人社会は“個性”の使用を資格制にし、厳しく規制することで一見成り立っているようには見えます。しかし個々が容易に人を殺せる“いきすぎた個性”を持っていることを忘れないでください。相澤さんの体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトさんの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを知った。この授業では、人命のために“個性”をどう使うか学んでいきましょう!!」

 

 かっこいい。

 みんなが話に聞き入っている。

 

 「以上、ご清聴ありがとうございました」

 

 みんなが歓声を上げる。

 僕も、拍手をしていた。

 人を笑ってたすけるヒーロー。僕はなるんだ。

 …。

 ……?

 視線を感じる、今までにない視線だ。まとわりつく…いやな…。

 

 「ひとかたまりになって動くな!!! 13号!! 生徒を守れ!!」

 

 モヤだ。黒いモヤから人が出てくる。視線はあれらのものだ。

 

 「何だアリャ!? また入試みたいにもう始まってるパターン?」

 

 切島くんが言う。

 違う、そうじゃない。あれは…、

 

 「動くな、あれはヴィランだ!!」

 

 相澤先生がゴーグルを着ける。

 

 「13号に…イレイザーヘッドですか…、先日いただいたカリキュラムではここにオールマイトがいるはずなのですが」

 

 「どこだよ…、せっかく来たってのに、オールマイト、平和の象徴がいないなんて…」

 

 この視線は、

 

 「子どもを殺せば来るのかな?」

 

 悪意だ。

 




緑谷のふともも、by峰田
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