僕を見て   作:姉くじら

6 / 15
殺させない

 黒いモヤが広がる。

 

 「先生、侵入者用センサーは」

 

 委員長が訊ねる。

 

 「現れたのはここだけか学校全体なのか、どちらにしろセンサーが反応しないのは向こうにそういうことできる奴がいるってことだ。校舎から離れた隔離空間、少人数になる時間、これは用意周到に画策された奇襲だ」

 

 轟くんが落ち着いて分析をしている。

 

 「13号避難開始! 学校へ連絡を試みろ。電波等でのジャミングの可能性もある。上鳴、お前も個性で連絡試せ」

 

 相澤先生も落ち着いて指示を出している。指示を出しつつも、ゴーグルを着けて捕縛布を手に握って戦闘準備をしている。あの人数を相手取るつもりなのか、そんな無謀では…。

 止める間もなく、相澤先生は飛び出した。

 ヴィランの視線が一気に集まるのが見て取れた。

 特に射撃系の個性を持っているだろうヴィランはいち早く察知し、構えていた。あのままでは着地する前に撃たれてしまう!

 僕の個性で…妨害するか?

 しかし、それでは相澤先生も妨害してしまう。何より先生は僕たちから自分へ注意をひきつけるために飛び出したはずだ。でも、あのままでは…!

 心配は杞憂に終わった。

 先生の捕縛布はヴィランの射撃よりも早く、彼らの身体へ巻き付き、あっという間に戦闘不能にしてしまった。あれは先生が先に個性で射撃系の個性のヴィランを見ていた、ということか。あの一瞬で見分けたのか、信じられない。異形型の個性持ちだろうヴィランが相澤先生に迫るが、先生はものともしなかった。

 近接戦闘において、先生はそこらのヴィランを圧倒していた。

 一瞬で、また複数のヴィランを打ちのめした。

 相澤先生の大立ち回りを見て、ヴィランは脅威だと認識したのだろう。視線が相澤先生に集まっている。…いや、一つ感じる。

 これは、あいつらが現れる前から感じていた視線だ!

 

 「見ている場合じゃない!! 早く避難を!」

 

 飯田くんが叫ぶ。

 まずい! 今こっちへ…、

 

 「ダメだ!! みんな下がって!!」

 

 僕が叫ぶと同時に、先頭きって避難誘導していた13号先生の前に黒いモヤが、ヴィランが現れた。あの一瞬でどうやって移動したんだ。立ちふさがるようにしてモヤを広げている。

 

 「させませんよ…、初めまして。我々はヴィラン連合」

 

 ゆっくりと、丁寧な口調で語り掛けるヴィラン。

 一瞬で回り込まれた事実に焦る内心とは裏腹に、僕は自分でも驚くほど冷静に分析をしていた。

 ただの黒いモヤが、一部で収束し人間らしきフォルムを作っている。あの黒いモヤから先ほど敵が現れたこと、一瞬で回り込まれたことを考えると…こいつの個性は、瞬間移動に類するものだ。

 そんな奴がいま、僕らの前に立ちふさがっている。

 視線を感じる…。

 何を、するつもりだ。

 

 「せんえつながら…、この度雄英高校へ入らせていただいたのは、平和の象徴オールマイトに息絶えていただきたいと思ってのことでして」

 

 驚きと、怒り。

 その二つは僕の思考と感覚を研ぎ澄ました。

 

 「本来ならばここへオールマイトがいらっしゃるはずなんですが、何か変更があったのでしょうか」

 

 ゆっくりと語り続けながらも、そのヴィランが何かを意識していることに僕は気付いていた。

 黒いモヤがじわじわと広がる。

 もしかして…!

 

 「下がるんだみんな!!!」

 

 僕が叫ぶ。

 それと同時に二つの影が黒いモヤのヴィランへ跳びかかった。

 かっちゃんと切島くんだ。

 黒いモヤの実体らしき部分目掛け攻撃する。

 

 「ダメだ、どきなさい二人とも!!」

 

 13号先生が叫ぶ。指をヴィランに向けて構えているが、二人が射線に入っていて使えない。

 やつの視線を感じる、狙ってくる!

 モヤが一瞬で広がる!!

 僕は咄嗟に、近くにいたクラスメイトを押し倒すようにして13号先生の近くへ飛び込んだ。

 クラスメイトがモヤにのみこまれる。

 

 「ちっ」

 

 「何だこのっ…」

 

 「みんな!!」

 

 みんなの声が途絶えると同時に視線や意識の数も減っていくのを感じた。

 おそらくは強制的に移動させられたんだ。奴の能力はおそらく黒いモヤでワープゲートをつくることだ。初めは収納する能力も考えられたが…、

 

 「みんなは!? いるか!? 確認できるか!?」

 

 「散り散りにはなっているがこの施設内にいる」

 

 障子くんの言うことが確かであれば、ワープの能力で決まりだろう。僕は近ければ意識を察知できるが、一定範囲外では感知できない。視線や意識が自分に向いていれば話は別だが。

 

 「緑谷ちゃん、ありがとう」

 

 下からすこし苦しそうな声。蛙吹さんだ。さっき黒いモヤを避けるときに巻き込んだのだろう。

 

 「ううん、あ、いまどくね」

 

 「どかなくていい!! 女の子って…、マーベラス…!!」

 

 「すぐにどくね」

 

 覆いかぶさっていた僕の下で彼は息を荒げていた。

 黒いモヤのヴィランは依然としてそこにいた。視線を感じる、峰田くん以外の。

 

 「もう一組は、散らすつもりだったのですが…あなた…」

 

 警戒されている?

 

 「副委員長、君に託します、学校まで駆けてこのことを伝えてください」

 

 黒いモヤがピクリと動く。

 意識が飯田くんへ向いた。

 

 「警報が鳴らず、電話も圏外。妨害系の個性を持つヴィランがいて、それを隠しているはず。それを見つけるよりも君が救援を呼ぶ方が早い」

 

 そうだ、やつらは明らかにこの中だけで事をおさめたい様子だ。それは救援を呼ばれることを、他の教師を呼ばれることを恐れているから。

 

 「しかしクラスを置いていくなど…!!」

 

 「救うために個性を使ってください」

 

 13号先生の、先ほどのスピーチが思い出された。飯田くんもきっと思い出したのだろう。下唇を噛んでいる。

 

 「食堂の時みたく、サポートなら私超出来るから!」

 

 麗日さんがこわばった顔で、明るい声をだす。

 そうだね、僕も、サポートを。

 

 「お願いね副委員長! 僕が指名したんだもん。君ならできるって」

 

 僕もにかっと笑う。できるだけ自然な笑顔をイメージして。

 

 「手段がないとはいえ敵前で策を語る阿呆がいますか」

 

 モヤが広がる。

 

 「ばれても問題ないから語ったんでしょうが!!」

 

 13号先生が指先をヴィランへ向ける。ブラックホールだ。

 殺すつもりはない。13号先生はヒーローだ、殺しはしない。目の前の敵を自分にくぎ付けにする、もしくは捕縛して無力化する、そのつもりだろう。

 でも。

 でも、ヴィランは殺す気だ。

 人の意識に過敏な僕は、やつのやろうとしていることに気付いた。

 13号先生よりも早く。

 しかし、

 

 「先生だめだ!! 閉じて!!!」

 

 「13号、災害救助で活躍するヒーロー、…やはり戦闘経験は一般ヒーローに比べ半歩劣る」

 

 モヤが、13号先生の真後ろへ現れていた。

 

 「自分で自分をチリにしてしまった」

 

 13号先生が倒れる。

 

 「飯田!! 走れ!!!」

 

 「くそう!!!」

 

 飯田くんが駆け出す。

 

 「散らしもらした子ども…、教師たちを呼ばれてはこちらも大変ですので」

 

 ゲートは開かせない!!

 

 「こっちを見ろ!!」

 

 「何を…っ!?」

 

 ヴィランが驚いている…? 表情が見えないからわからない。急に意識が散ったのでゲートを開き損ねたのだろう。その隙に障子くんが複製椀で飯田くんをかばう。

 

 「…敵をひきつけるのなら、僕に任せて」

 

 走り去る飯田くんに言い放つ。

 

 「あなた…邪魔ですね」

 

 いい塩梅に、挑発にもなったみたいだ。走り去る飯田くんに背を向けて奴は僕と対峙した。僕を先に始末して、飯田くんを追うつもりだとでもいうように。

 だまされないぞ。

 奴は、いまだに飯田くんを意識している。

 隠してはいるが、黒いモヤが出口へ向けて走っているのを視界の端にとらえた。

 僕の個性の効果範囲のイメージはドームだ。空気以外の気体の様なもので満ちたドーム。僕に近づくにつれてその気体の様なものの密度は濃くなり、より意識を感じやすく引き寄せやすくなる。面と向かってこの距離であれば、たとえ僕自身を見ていなくても相手がどこを見て、何を意識しているのか、その程度のことは手に取るようにわかる。

 だから、今、飯田くんを止めようとワープゲートを開こうとしたことも、

 

 「見え見えだ!!」

 

 「っ!!」

 

 警棒を、実体らしき部分へぶちあてる。甲冑の様なそれは金属のぶつかる甲高い音を出して僕の警棒をはじいた。やっぱり硬い。でも相手はすこし下がった。

 

 「…電撃!!」

 

 警棒にはスタンガンも付けてある。ヒットの瞬間に電撃を流した。

 

 「僕がひきつけるって、そういったはずだよ」

 

 ふうっと大きく息を吐く。警棒を持ち替える。

 

 「…あなたを殺して、彼も殺す」

 

 奴は遠目に飯田くんを見てから、僕へ向き直った。

 僕に意識を向けている。本気の殺意だ。

 …だいじょうぶ。

 

 「誰も殺させない」

 

 僕の、僕たちの勝利条件は生き残ることだ。

 オールマイトが来るまで。他の先生が来るまで。

 お前なんかに、僕は負けない。

 

 「ぬかせ!!」

 

 やっぱり、さっきの口調は演技だったんだね。似合ってなかったよ。

 

 

 

 

 

 

 やりづらい相手だ。

 新入生の一人。緑色の髪の娘。

 13号がやられるまで緊張に押しつぶされそうな顔をしていたはずが、いざ私と対峙してからは一歩も引いていない。

 先ほどから初動をつぶされている。まるで先読みをしたかのように。ここは雄英だ、新入生に予知能力者がいてもおかしくはない…か。

 外へ救援を呼びに行った子どもをワープゲートでとばそうと個性を発動する瞬間に、気を散らされる。私の個性は集中力がいる。やみくもに使えば私自身へのフィードバックは無視できない。

 救援は呼ばせない。

 そのためには、全力で殺す。

 私の役目を果たすためには、これしかない。

 霧を奴の逃げ場をなくすように展開し、とらえて、引きちぎる。

 これだ。

 

 「…わかりやすいよ、何を考えているか」

 

 読まれている!?

 霧を展開…っ!! また奴の能力だ!! うまく発動できない!!

 奴の後ろに霧をまわしたせいでガードに使える霧がない。

 器用に警棒を私の本体へ当ててくる。

 大したダメージではないが、一瞬硬直してしまう。

 面倒だ。

 思考を読まれている? そういう能力?

 その手の個性は、たいていの場合、条件を満たすことで発動する。しかし、思い当たる節はない。それに考えが読めているのであれば、すぐさま計画の内容を仲間へ教えるはず。それをしないのは読めるのが浅い思考だけなのか、また違う個性なのか。

 気を散らす、あの個性は間違いなくこの娘のもの。

 少なくとも、この娘は二つの能力がある。

 霧をむやみに使うのは得策ではない。少なくともワープゲートを開くには集中を要する。

 霧を目隠しに、肉薄し、嬲る。

 

 「だから、読めてる」

 

 小馬鹿にした声。娘は軽く私の腕をよけた。

 そして私は驚いた。娘の後ろから迫っていた霧を、こいつは見ずによけた!!

 蹴りが飛んでくる。無理なく避ける。

 …? 今、娘のポーチから何か…落ちて…

 

 「…フラッシュグレネード」

 

 っ!!

 目を!! なぜ私はずっと見続けてしまったんだ!!

 

 「麗日さん!! 蛙吹さん!!」

 

 「「お茶子って/梅雨ちゃんと、呼んで!!」」

 

 上空へ、投げ飛ばされる。

 感覚がおかしい、どっちが地面だ。

 くそ、やられた。

 遠くから、ゲートの開く音がする。

 ゲームオーバーだ。

 雄英高校、やってくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 「やったよ!! やったよ出久ちゃん!!!」

 

 「やったわ緑谷ちゃん」

 

 二人が僕へ笑いかける。

 

 「うん!! 今のうちに…っ」

 

 眩暈。ふらふらと、足元がおぼつかない。何かにつかまる。

 

 「だ、大丈夫!? 何か攻撃をうけて…!?」

 

 麗日さんが僕の手を握ってくれていた。

 

 「だいじょう、ぶ。すこし個性の使い過ぎというか…、すぐ回復するから」

 

 僕は、僕以外へ向けられる意識も感知できる。それは僕に近い場所のものほど感知しやすい。だけど今回は範囲ギリギリ、飯田くんに向けられた意識をずっと感知していた。自分自身と飯田くんの二つ、消耗も激しい。

 

 「13号先生を運ばなきゃ」

 

 「麗日さ…お茶子ちゃん、お願い」

 

 「うん、それはいいけど」

 

 「僕は、広場へ行く」

 

 「なんで!? もう助けは呼んだし逃げなきゃ…!!」

 

 「私も賛同できないわ、危険よ」

 

 先ほどから、個性で分かっていること。

 

 「相澤先生が、やられた。たすけにいく」

 

 

 

 

 

 「個性を消せる、素敵だけどなんてことはないね。圧倒的な力の前ではただの無個性だもの」

 

 愉快そうに笑う男。体中に手の装飾品をつけている。

 来て、早々に後悔をしている。

 離れた草陰から、麗日さんと蛙吹さんとで様子を見ていたが、今はもう見つからないか不安でしょうがない。

 黒い大男に、相澤先生は組み敷かれていた。腕はつぶされ、頭から血を流している。

 なんだあの黒い大男は…? 見た目もそうだが、それ以上に、奴はいったい何を見ているんだ…? 意識がどこに向いているのか、わからない…。

 組み敷いている相澤先生さえ、見ていない。

 

 「死柄木弔」

 

 手だらけ男の後ろに、あの黒いモヤが広がる。

 

 「黒霧、13号はやったのか」

 

 「行動不能にはできましたが、散らし損ねた生徒がいまして、一名逃げられました」

 

 「…は? …はー…、黒霧、おまえ…、おまえがワープゲートじゃなかったら粉々にしたよ…」

 

 ガリガリと首をかきむしる男。

 

 「今回はゲームオーバーだ、帰ろっか」

 

 帰る?

 帰るだと?

 何を考えているんだ。これじゃただいたずらに雄英の危機意識をあおっただけだ。まるで遊び…!!

 …!

 殺気を感じた。

 

 「その前に平和の象徴としての矜持を少しでも…」

 

 「さがって二人とも!!」

 

 二人へかざした手が、広がるよりも前に、やつは僕へ手を伸ばした。

 

 「折って帰ろう」

 

 伸びてきた手を、顔に届く前にはじく。

 やばい、やばいぞ。やばすぎる。

 二人へかざした手ですぐさま警棒を握り、顎を狙う。

 振りぬくより先に、避けられる。

 また手を突き出してくる。

 なにか、まずい。

 何故、殴ってこない。武器を使わない。この手は、なにかまずい!!

 警棒で、右手をはじく。

 

 「良い動きだ…いやになるぜ雄英」

 

 はじかれた手をさすりながら、にやにやと、笑いながら、僕を見る。

 なんだ、なんなんだこいつ。

 さっきのモヤのやつはわかりやすい殺気を出していた。

 わからないこの男。僕を狙っているけど、まるで僕を見ていない。

 

 「でも…、脳無、やれ」

 

 視線だ!!

 あの大男だ!! そう思ったときには僕の顔のすぐ横をこぶしが通り抜けていた。

 避けたんだ。そう思ったときにはもう片方のこぶしが飛んできていた。

 くそっ! 意識が読みづらい!! どこを狙っているのか、いまいちわからない。

 二発目のこぶしを後ろへ跳んで躱そうとする。

 地面をけって、少し離れてから悪手だと気づいた。

 振りぬかれたこぶしは、僕に触れることなく、風圧のみで僕を吹き飛ばした。

 

 「うっぐ…!!」

 

 反則だよ、こんなの。

 三人まとめて吹き飛ばされ、真正面から受けた僕は一番遠く、上空へ吹き飛んでいた。

 不思議と意識ははっきりしていた。

 右腕で、風圧をガードしたおかげだ。その代わり、腕は折れてしまった。

 勢いを失い、高度が下がる。

 この高さからの落下を、僕は経験したことがないけど、これは…。

 けがじゃすまないな。

 …近づく。

 …地面が近づく。

 ぶつかる…、…ぶつからない?

 

 「もう大丈夫!! 私が来た!!」

 

 オールマイト!

 僕は、上空でオールマイトに抱きかかえられていた。

 そして、着地と同時に相澤先生をかっさらい、ヴィランの横を通り抜けた。

 見えたわけじゃない、ただ、気付いたら横に相澤先生と、麗日さん、蛙吹さんがいた。

 

 「皆、相澤くんをたのむ。意識がない早く!!」

 

 オールマイト…、笑っていない。

 

 「速いな…目で追えない。でも思ったほどじゃない…、本当なのかな…? 弱ってるって話…」

 

 紛れもない殺気だ。

 僕を相手取っていた時とはまるで違う。紛れもない殺気を、オールマイトに向けている。

 

 「お、オールマイト!! あの黒い大男!! まるであなたみたいな力を!! きっとあいつが…!!」

 

 「緑谷少女、大丈夫!!」

 

 にかっと笑う。

 そしてヴィランに向かっていった。

 

 「CAROLINA…SMASH!!」

 

 クロスチョップ。オールマイトの力にかかれば、海も割れる威力になる。

 しかし…効いていない。

 

 「なら、これはどうだ!!」

 

 バックドロップ。

 粉塵が巻き起こる。人間が繰り出したとは思えないほどの破壊力。

 大丈夫だ…オールマイトだもの。

 ヴィランが勝てるはずがない。

 そう、安堵しかけた僕を、晴れた粉塵から現れた光景があざ笑う。

 バックドロップで地面にたたきつけられるはずの黒い大男は、体を二分して上半身でオールマイトをつかんでいた。本当に二つに分かれたわけではない。黒いモヤだ、やつが黒い大男をワープさせたんだ。

 

 「目にもとまらぬ速度のあなたを拘束するのが脳無の役目、そしてあなたの身体が半端にとどまった状態でゲートを閉じ、引きちぎるのが私の役目」

 

 視線を感じた。

 殺気じゃない。オールマイトの視線だ。

 僕を見ていた。

 

 「ごめん! 蛙吹さ…梅雨ちゃん!!」

 

 「頑張ってくれてるのね、なあに緑谷ちゃん」

 

 「相澤先生担ぐの代わって…!!」

 

 「うん、…けどなんで」

 

 言い終わるよりも先に僕は駆け出した。

 僕の感じたオールマイトの視線。

 自意識過剰だと思う。ただの勘違いだとも思う。でも、まるで…、たすけを、求めるような…!

 だめだオールマイト。

 僕は、まだあなたに恩返しも、なにも!!

 駆けだした先には、黒いモヤが広がっていた。

 

 「浅はか」

 

 ヴィランが言う。

 駆けつつ、涙をぬぐう。

 こんな時だからこそ、意地はらないと。

 

 「どっちが?」

 

 精いっぱいの挑発。

 直後に爆発音。

 かっちゃんだ。

 黒いモヤが吹き飛ぶ。

 僕が感じていた視線は、もう一つ。かっちゃんだ。

 合図も何も出していない…、けれど、

 

 「さすが、かっちゃん…。そう来ると思った」

 

 かっちゃんがモヤ男を押さえ込む。

 

 「平和の象徴はてめぇら如きに殺せねえよ」

 

 氷結が地面を走り、黒い大男を凍らせる。轟くんだ、切島くんも!

 

 「出入り口をおさえられた…、こりゃあピンチだなぁ…。脳無…、爆発小僧をやっつけろ、出入り口の奪還だ」

 

 何を…!? 今奴は轟くんが凍らせて…っ!?

 身体が割れているのに動いている!? それだけじゃない…割れて砕けた個所が、再生していく!!

 

 「皆さがれ!! なんだ!? ショック吸収の個性じゃないのか!?」

 

 視線が、かっちゃんに…!!

 

 「オールマイト!! 僕を!!」

 

 かっちゃんに向かうであろう黒い大男が、僕めがけて突撃する。

 そして、繰り出された一撃を、僕はぎりぎりで避けた。

 さっき一回できたから…次も出来るという安易な考え。でも今回はこの後が違う。オールマイトの手痛いカウンターをくらえ!!

 脇腹へのストレート!!

 

 「下がるんだ緑谷少女!! 無茶をするな!!」

 

 吹き飛んだ黒い大男が、着地し、ひるむことなくとびかかってくる。

 後ろで爆発音、かっちゃんだ。

 

 「っち、にげられた」

 

 見れば黒いモヤの男が自由になっている。かっちゃんの爆破を受けたようで血を流していた。

 

 「すいません死柄木弔、お手数を」

 

 「本当だぜ黒霧。脳無、黒霧、役目を果たせ。俺は子どもをあしらう」

 

 「させんよ」

 

 とびかかる黒い大男を殴り飛ばし、オールマイトがヴィランと対峙する。

 そして気圧された。

 殺気とも違う…凄みを、感じた。

 僕だけじゃない、みんなも。そして当てられたヴィランは、特に。

 再び向かってきた大男にこぶしを当てる。

 真正面からの殴り合いだ。

 

 「脳無はショック吸収の個性だ、脳無はおまえの100%にも耐えられるように改造された超高性能サンドバッグ人間さ」

 

 「無効じゃなく吸収ならば、限度があるんじゃないか!? 私対策!? 私の100%を耐えるなら、さらに上からねじ伏せよう!!」

 

 こぶしの風圧でまるで嵐だ。

 

 「ヴィランよ、こんな言葉を知っているか!? さらに向こうへ!! Plus Ultra!!」

 

 吹き飛ぶ影。

 黒い大男がオールマイトのこぶしを受け、吹き飛んだ。

 文字通り、吹き飛び、屋根を突き抜け、消えた。

 

 「…コミックかよ。でたらめな力だ。再生も間に合わないほどのラッシュ…」

 

 「さて、ヴィラン。お互い早めに決着をつけたいね」

 

 「チートが…! 衰えた!? 嘘だろ…あいつ俺に嘘を教えたのか!?」

 

 あいつ……?

 

 「どうした? 来ないのかな!? クリアとかなんとか言っていたが…出来るものならしてみろよ!!」

 

 にらみを利かせるオールマイト。

 だけど…なにか…。

 

 「さすがだ…、俺たちの出る幕じゃねえみたいだな」

 

 「緑谷さん! ここは退くべきだ!! 却って人質にでもされたらまずい…」

 

 そう、オールマイトらしくない。

 オールマイトなら…、すぐにヴィランを無力化しようとするはず。

 あんなことを言って逃げられることをオールマイトは良しとしないはず…。

 なのに、ああ言うってことは、それができない?

 ヴィランは…気圧されている。

 

 「さあどうした!?」

 

 「脳無さえいれば!! 奴なら!!」

 

 「死柄木弔…落ち着いて。よく見れば脳無から受けたダメージは確実に表れている。死柄木と私で連携すれば、まだやれるチャンスは…」

 

 「うん…うん。そうだな…そうだ。やるっきゃないぜ…」

 

 視線だ。意識がオールマイトへ集中した。

 オールマイト、あなたの、その、視線は…。

 やっぱり、たすけを…?

 

 「何より脳無の仇だ…!」

 

 飛び込んだ。

 無我夢中で、全身の力を使って。

 距離は開いているけど、関係ない。僕の個性なら、届く。

 僕を見ろ!

 

 「オールマイトから、離れろ!!」

 

 黒いモヤが僕へ伸びる。

 そこから手が、もう一人の手が伸びる。ワープゲートの個性だ。

 この体勢…避けられない。

 でも、大丈夫。

 僕の、僕たちの勝利は生き残ること。オールマイトもクラスメイトも。

 すでに。

 果たされた。

 

 「1-A クラス副委員長、飯田天哉!! ただいま戻りました!!」

 

 彼の声と同時に、目の前のヴィランの手は撃ち抜かれた。スナイプ先生だ。

 

 「さすが、飯田くん…」

 

 倒れこむ。

 

 「あーあ、来ちゃったな、ゲームオーバーだ。帰るぞ…。今回は失敗だったけど…。今度は殺すぞ、平和の象徴オールマイト」

 

 黒いモヤに、包まれて、消えていった。

 

 「なにも…できなかった」

 

 「そんなことはない…私がたすけられた」

 

 にこりと、オールマイトが笑った。

 僕は、涙でぬれた顔を隠すことも忘れて、

 

 「無事で…よかったです…」

 

 「以前になんでって訊いたね」

 

 「…?」

 

 「なんで後継者をさがすのか」

 

 「はい」

 

 「…そんな理由さえもずっと隠していたこと、本当に申し訳なく思う。これが…理由だ」

 

 土煙から現れたのは、オールマイトとは似ても似つかぬ細身の男。やせ細った腕に、足。頬はこけている。

 

 「驚いているようだね、数年前に受けた傷でね。今では活動限界もある。さっきはぎりぎりだった…ありがとう」

 

 「…はい!」

 

 

 

 

 

 

 「ってぇ…。平和の象徴は健在だった…。話が違うぞ先生…」

 

 「違わないよ。ただ見通しが甘かったね」

 

 「ガキも強かった…」

 

 「…一人、面倒な個性がいまして、正確には把握できてないのですが。まるで行動が先読みされたかのようでした」

 

 「…へえ。名前は?」

 

 「たしか…緑谷と」

 

 「ふむ、悔やんでも仕方がない! 今回だって決して無駄ではなかったはずだ。精鋭を集めよう、じっくり時間をかけて。死柄木弔!! 次こそきみという恐怖を世に知らしめろ!!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。