誤字報告いつも助かっております。情けない文章ではありますが読んでいただけることに感謝しております。
感想も励みになっております。引き続き作品を楽しんでいただけたら幸いです。
私は小市民だった。
常にそうあろうと努力して小市民としてこれまで生きてきた。一般的な家庭に生まれ、愛され育ち、社会へ出た。人よりも恵まれているかどうかわからないが、人並みに恵まれている。だからこそ、私は人並みの生活をしていた…はずだ。
私は小学校の教師だった。
子どもが好きだったわけではない…はずだ。
子どもは感情を隠すのが下手だ。だから嫌いではない…はずだ。
こう言うと、まるで感情を隠した大人との会話に疲れたかのように聞こえるが、そうではない。ただ、表層だけをこびへつらった言葉のオンパレードは、まるで見た目だけが小綺麗な中古車のようで癪に障るのだ。
ボロ車はボロ車らしい見た目をしていればいい。
見た目の様な、うわべに騙される私ではないが、…いや騙されない私だからこそ小言の一つでも言いたくなるのだ。
訂正しよう。
私は、馬鹿な大人との会話に疲れたのだ…たぶん。
だからとて、子どもを好きになったわけではない…おそらく。
子どもは子どもで、取り繕う。ボロ車の上にクレヨンで落書きをして、スーパーカーだと言ったりもする。それをほほえましいと思えるかどうかは、人次第だろう。
私はどうしてもそれが、将来嘘八百を並べ立てる大人になってしまうことが想像できてしまい、苛立つのだ。
私は人とかかわることが苦手のようだ。
日々のしようのないことに小さくストレスを抱え、しかし誰に言うでもなく、仕方ないと呟いて生きてきた。そんな小市民だったのだ。
こんな私が、教え子たちに将来の夢について考えるように言うことがある。
その時、私は自分の語るウソに気付くのだ。
薄っぺらい。
口からの出まかせだ。
大人として、得た経験をもとに語る内容と、記憶にある実際の経験の間に乖離が生まれるのだ。
“将来とは夢と希望にあふれていて、努力次第で実現できることは山のようにある”
こんな甘言を聞いて育ち、社会で理不尽を受け、生まれた矛盾が、私の嫌う薄っぺらなうわべの化粧になるのだろう。そもそもその甘言を口にする私が矛盾をはらんでいるのだから始末に負えない。
こうなると卵が先か鶏が先かわからない。矛盾した社会構造と矛盾した人。
しかし、だ。
薄っぺらなことを言う私だが、私は私自身を薄っぺらな存在だとは思っていない。
同様に、道を歩くそこの人々も、ここまで生きてきた過程に何かの価値をもって生きてきているはずだ。薄っぺらな化粧の下には、私を惹きつける何かがあるはずだと考え続けてきた。
人間観察。
簡単に言えば、私の趣味はそれに当たる。
これが実に面白い。
説明すれば、ただの妄想なのだ。当たっている保証などない。
ただ、想像するのだ。
人が化粧の下に隠す、なにかを。過去を。
想像を、予想をしたならば、当たっているか気になるのが人間だ。
薄っぺらな化粧の下を覗き見たいのだ。
化粧の下が醜悪であっても、つまらないものであっても、ありきたりなものであってもいいのだ。
答え合わせの瞬間はいつでもドキドキするものだ。
「君の個性が知りたいな」
「私の個性ですか…? “記憶”です、自身が経験したことを好きな時に振り返ることができる、というものです」
私の前に、ある男がいる。
底知れぬ男だ。
会ってまだ一時間と経っていないが、いつの間にやら私の身の上話をしているのだ。そういう個性を持っているのだろうか。しゃべりすぎている感も否めないが、この状況で求められては断りようもないことも事実だ。
なにせ私は生死を握られている。
はっきりと、殺すとは言われない。それがなお恐ろしい。
「…おや、どうした。手が震えているじゃあないか」
「お気になさらず…」
私は小市民だった。
「いやはや、あんな場所からやっと出られたのだから、存分にくつろぐといい」
「…ええ、ありがとうございます」
「そうだ、食事もある。刑務所の食事はまずかったろう? 是非食べるといい」
「あいにく今は喉を通りそうになくて…」
私は先ほどまで刑務所にいた。
罪を犯したのだ。
子どもを、傷つけた。そして殺した。
許しがたい罪を犯したのだ。
八年の間、私は刑務所へいた。その間、私は独房の中、妄想をして過ごしていた。過去に出会った人々の、人生を想像して過ごしていた。
昔から暇さえあればそうして過ごしてきたのだ。
耐えがたいほどではなかったが、孤独は私の敵ではなかった。
一人でいることで私はより一層、人への興味を強く持った。
私の刑期は十二年。あと四年の間、刑務所で過ごすはずだった。
そこへ来て、今朝いきなり釈放されたのだ。
そしてここへ連れられた。ここへとは言っているが、私はここがどこかわからない。気づけばここにいたのだ。まるでワープでもしたかのように…。
「私は…個性についての研究をしていてね…。様々な個性についての話を聞くのが趣味でもあるんだ」
話が面白くなければ、殺されるのだろうか。
私の個性はそう特別なものではない。受験勉強で役立った、とかそういうエピソードを求めているわけでもないだろう。
「それは…、少し私の個性をお聞きになって残念に思われたかもしれませんね」
「いいや、実に面白いよ」
「はあ…?」
役に立ちそうな個性だね、とはよく言われたが、面白いとは。
「個性というのは奥深くてね、人と切り離して考えられない…。その意味では人が奥深いのかもしれないけれどね」
そうですね、と適当な相槌を打つ。
「たとえば、昔ストーカーで捕まった男がいてね、その男の個性が“愛する者の場所を把握する”という個性だった」
「それは何とも…いかにもといった具合ですね」
「捕らえた警察官も、報道も、民衆もそう思っただろう。そして、本人さえもそう思ったはずだ。しかし、こうも考えられないかい? その個性があったからこそ、ストーカーになったのだと」
「それは…銃が悪いのか、銃を撃った者が悪いのか、という話でしょうか」
「いいや、そんな善悪の話を今したいわけではないんだ。ただ、人の能力というものをある程度可視化している“個性”というものが人間に与える影響は大きい、と言いたいんだ」
「それは…そうでしょうね。漠然と足が速いと言われるのと、脚力強化の個性と言われるのとでは本人も受け取り方が違うでしょう」
「ストーカーの男も、“愛するものの場所を把握する個性”というこの言葉を受けて多少なりとも影響をうけただろう。…この話にはオチがあってね」
「なんでしょう」
「彼の個性は本当は違ったんだ。正確には“最後に会話をした相手の位置を追跡する”個性だったんだよ」
「それは…」
「彼はストーカーの対象人物以外との会話を拒み生活していた。それは意図してかどうかはさておき…。どうだろうね…。初めから“会話した相手の位置を追跡する”個性だと、教えてもらえていれば、彼がちゃんとそれを受け入れていれば、彼の人生は大きく変わっただろう」
受け入れていれば…、か。おそらく知る機会は多くあったのだろう。しかし彼は個性の本質の違いを認めなかった。既に個性にすがっていたのだろう。
「人と個性への興味は尽きない…、今興味があるのは君だ、君の個性だ」
「…私の個性なんて…」
「
なんでその名を。
「…やめてください」
罪を、弱みを言葉に出されたくはない。止めることに意味はない…、すでに知られているのだから。
「殺人、監禁、暴行…」
「…やめてと言っています」
「対象は子どもが多かったね…、よくばれずに二年もの間、教師として生活できたよね」
「……やめて」
「君は家庭に問題のある子どもを見つけることに長けていた、唆し操ることにも…」
「……やめろ」
「…人への興味は尽きることがなかったのだろう? わかるとも…」
「……やめろ!」
「……そして最後に暴行現場をおさえられ現行犯逮捕、秘密裏に事を運び続けた君にしてはらしくない…」
「あれは!! あの子がそうさせた!! 私じゃない!!」
座っていた椅子が倒れる。
「隠したものほど見たくなる…、そうでしょう!? 知りたくなる!!」
「だから手を出した…?」
「あの子がそうさせた!! あの子が誘ったんだ!!」
「…ずいぶんむきになるじゃあないか…、他にも手を出した子はたくさんいただろう? なぜだい?」
「…それを知りたいからずっと考えてる!!」
刑務所で考えていたことは、ほとんどあの子のことだ。
6歳の子供に大した過去はないだろう、なのに気になる。頑なに隠していた何かが気になって仕方がない。つい、衝動的に手を出したのだ。
私らしくない。
私はまだまだ他の人の秘密を見たかった…はずだ。
人の過去を、秘密を知ることで、私は私になれるのに。
どんなつまらないことでもいい、隠していることに価値があるのだから。
私は、あの時他の子どもが気になっていた…はずだ。
それなのに、なぜ、私は一瞬目に入ったあの子が気になって仕方がなかったのか。
わからない。
気になる。
知りたい。
あの緑の髪の少女の全てを。
「本当に面白いよ君は。もっと語ろうじゃないか、今の君を知りたい」
「おはよう」
現れたのは、相澤先生だった。
…相澤先生だよね?
包帯で全身を包んでいる。よく学校へ来れたものだ。
「先生無事だったのですね!!」
「無事っていうんかなぁ、アレ…」
麗日さんの言葉ももっともだ。見るからに回復しきっていない、足取りもおぼつかない様子だ。
「俺の安否はどうでもいい、何より戦いは終わってねえ」
生徒がどよめく。
無理もない、あの襲撃から一日しか経っていない。
「まだヴィランがー!!?」
後ろの席の峰田くんも驚きと恐怖のあまり叫んでいる。…峰田くん、常に女の子への視線は外さないな。
「雄英体育祭が迫っている!」
ほっと息をつく。
みんなも安心した様子だ。
「待って待って! ヴィランに侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか?」
「敢えて開催し、雄英が盤石であることを示す…考えらしい。警備は例年よりも強化する。何より、雄英の体育祭は…最大のチャンス。ヴィランごときで中止していい催しではない」
「いやそこは中止しよう…?」
後ろで峰田くんがぼやいている。
一高校の体育祭ではあるが、雄英の体育祭は一味違う。日本のビッグイベントの一つとして数えられ、動員も桁が違う。プロヒーローの登竜門でもある。
体育祭での目覚ましい成績は、プロの目に留まることとなり、将来を拓くことにつながる。
話題性の面でも、ヒーローとしてのアピールチャンスだ。
…頑張らなくては。
昼になった。
みんなの話題はすでにヴィラン襲撃の件から体育祭へ移っていた。
「めっちゃ楽しみだ、なんだかんだテンション上がるなオイ!!」
「活躍して目立てばプロへのどでけぇ一歩が踏み出せる!!」
皆ヤル気だしてるなぁ。
僕も、意気込みで負けちゃいけないな。
「緑谷さんもやる気だな! ヒーローになるため在籍してるのだから燃えるのも当然か」
ぐっとこぶしを握る飯田くん。
「飯田ちゃん、独特な燃え方ね、変」
蛙吹さん、…僕もそう思うけど。
「出久ちゃん、飯田くん…頑張ろうね体育祭」
…!!
あれ、なんだか怖いよ。
どうしたんだろう麗日さん。
「どうした? 全然うららかじゃないよ麗日」
芦戸さん。その後ろから、僕は慣れた視線を感じた。
「生r…」
慣れた視線は途絶えた。
蛙吹さんの舌先は遠心力をもってきれいに彼の下あごをとらえたようだ。
「皆!! 私!! がんばる!!」
うーん。どうしたんだろう。
ヤル気をだしてるってことなんだろうけど…、それにしても変だというか…。
そういえば…聞いたことなかったな。
みんながヒーローを目指しているから、当たり前だから、聞きそびれたけれど。
麗日さんは何で…、
「何でヒーローを目指しているの?」
食堂へ向かう途中で、僕は訊ねた。
麗日さんは、すこし視線をフラフラとさせてから、
「…お金が欲しいから」
と答えた。
「…なんかごめんね不純で…!! 飯田くんとか立派な動機なのに私恥ずかしい」
「何故!? 生活のために目標を掲げることは立派だ」
「う、うん…そうだね。でも、その意外というか…」
「ウチ、建設会社やってて、全然仕事なくって…あんま人に言わない方がいいけど…。個性で仕事手伝えるって昔父に言ったんよね…、でも断られた」
麗日さんは笑っていた。
気恥ずかしそうな照れ笑いじゃない。
「私は絶対ヒーローになってお金稼いで父ちゃん母ちゃんに楽させたげるんだ」
…。
かっこいいな。
あこがれだけじゃない…現実に向き合って、地面に足を着けてる…、そんな感じだ。
僕は…。
「おお!! 緑谷少女が!! いた!!」
廊下の曲がり角から現れたのは、オールマイトだった。
すっごくびっくりした。
「ごはん…一緒に食べよ?」
オールマイトの手には弁当が握られていた。…もしかしてお手製なのだろうか!?
「乙女や!!!」
…何だろう。
「ぜひ…、………あと、廊下は走ったらだめですよオールマイト」
「あ、はい」
思ったよりも落ち込まれたので、言ったことを少し後悔した。
「二時間!?」
「ああ…、私の活動限界時間だ…無茶を続けたからね、ハイお茶」
「あ、ありがとうございます」
無茶というのは…、ヘドロ事件や、先日の襲撃のことだろう。
「…ずっと隠していたことはすまなかった」
「いえ!! そ、そんな、オールマイトが気に病むことでは!!」
「いや、不誠実なことをしたと悔いているんだ」
「…」
視線を下げるオールマイト。
真の姿は僕から見ても弱々しかった。けれど優しい眼は変わっていない。
「…ぶっちゃけ私が平和の象徴として立っていられる時間はそう長くない」
「っ!!」
「悪意に満ちた輩の中にはそれに気づき始めている者がいる。そこで…後継の件…、君たち考えなおしてはくれないか?」
…君たち?
「アッハッハッハ、ここだよ!!」
「っひい!?」
真ん中のテーブルから顔が生えた。
思わず握っていたお茶をこぼしそうになる。
「っ熱!?」
叫び声。あ、こぼしてた。
「ご、ごめんなさい通形先輩!!」
「どうだいルミリオン」
え、無視して続けるの?
「お断りします」
え、断るの!?
「君はどうだい?」
二人の視線が集中する。
なんだか、すごく軽いノリで、重い話をされている。
…。
麗日さんの話を思い出していた。
「僕は…」
「何ごとだぁ!!?」
放課後。麗日さんの一言が、僕たちの総意だった。
クラスの外に人だかりができていた。
みんなが僕たちを見ている。
この人たちはいったい…。…よく見ればみんなが一年生だった。もしかして…、
「出れねーじゃん! 何しに来たんだよ」
峰田くん。
「敵情視察だろザコ」
かっちゃんだ。
視線を感じる。峰田くんの。まるで、御宅のお子さんの教育はどうなってるの!? といった視線だ。
あれがニュートラルだから慣れるしかないよ峰田くん。
僕だって君のニュートラルに慣れたんだから。
「ヴィランの襲撃を耐え抜いた連中だもんな、体育祭の前に見ときてえんだろ。意味ねぇからどけモブども」
ああ、いつものかっちゃんだな。
視線を一身に受けている。
みんな面喰っているようだ、わかるよその気持ち。ヒーロー志望の同級生から出る言葉じゃないよね。
「知らない人のことをとりあえずモブって言うのやめなよ」
となりで飯田くんが正論を言っていた。
「どんなものかと見に来たがずいぶん偉そうだなぁ、ヒーロー科に在籍する奴は皆こんななのかい?」
誤解だよ。
「幻滅するなぁ。普通科とか他の科ってヒーロー科落ちたから入ったって奴けっこういるんだ、知ってた? 体育祭のリザルトによっちゃヒーロー科編入も検討してくれるんだって。敵情視察じゃない…、少なくとも俺は、宣戦布告に来た」
大胆不敵その2。
「隣のB組のもんだけどよう!!」
また別のところから声があがる。
「ヴィランと戦ったっつうから話聞こうと思ってきたんだがよぅ!! えらく調子づいちゃってんなオイ!!」
大胆不敵その3。
かっちゃんに再び視線が集まる。
かっちゃんは…何も言わず人をかき分け教室を出た。
…何も言わないの?
「待てコラどうしてくれんだ、おめーのせいでヘイト集まりまくりじゃねえか!!」
「…関係ねえ、負けなきゃいい、それだけだ」
負けなきゃいい。
誰にも負けない…か。
一番に、…僕も。
そのあと、メンチ切るB組の人の横をかいくぐって帰った。
体育祭までの二週間。
準備するには短すぎ、何もせずにいるには長すぎる。
心身の鍛錬。
戦略、戦術。
そして個性。
まだまだできることはたくさんある。しかし、今のベストを尽くすしかない。
本番当日を迎えた。
「皆、準備はできているか!? もうじき入場だ!!」
飯田くんの号令が聞こえる。
独特の空気感だ。
緊張して浮足立っているクラスメイトもいれば、緊張を紛らわそうといつもと変わらない会話にいそしむクラスメイトもいる。
…かっちゃんは静かにひとりで座っていた。
緊張する。
やれる。
いや、やるんだ。オールマイトに言ったのだから。
やるんだ。
「緑谷」
呼びかけられる。轟くんだ。今まであまり会話がないクラスメイト。
「と、轟くん…、何?」
「客観的に見ても、実力は俺が上だと思う」
「へ? …う、うん…」
思いもよらぬ言葉に、言葉に詰まる。
「おまえ、オールマイトに目ぇかけられてるよな…、詮索する気はないが…」
…目をかけられている…か。
「お前には勝つぞ」
轟くん、君のことはよく知らないけど…、君は強いね。
僕ができないことを簡単にやってのける。
「おお!? クラス最強が宣戦布告!!?」
クラスメイトの視線が集まる。
すこし、恥ずかしい。
でも、ちょうどいい。
「急にケンカ腰でどうした!? 直前にやめろって、緑谷さんも驚いてるだろ…」
「仲良しごっこじゃねえんだ、なんだっていいだろ」
切島くん、君のその言葉はやさしさからなんだろうね。
でも、
「ありがとう切島くん、でもだいじょうぶ。と、轟くん。…なんでぼ、私に勝つって言ってるのかわからないけど…、君の方が上だっていうのは客観的に見てそうだと思うよ…」
「緑谷さんも、そーネガティブにならなくても…」
「でも!! 勝つのは僕だ!!」
沈黙。
クラスメイトの視線が刺さる。かっちゃんさえも僕を見ている。
「僕が勝つ」
ダメ押し。
ありがとう轟くん。おかげで振り切れた。
言ってやった。
「…おお」
「ふん」
飯田くんの掛け声を聞いて控室を出る。
入場ゲートをくぐる。
大歓声。
「さあ!? 注目はどうせアレだろ!? こいつらだろ!! ヴィランの襲撃を受けたにもかかわらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星、ヒーロー科一年A組だろ!!!」
すさまじい密度の視線が僕に、僕たちに突き刺さる。
一年ステージは例年よりも注目されている。特に僕たちのクラスは。
「大人数に見られる中で、最高のパフォーマンスを発揮する。これもヒーローとしての素養を身に着ける一環なんだ」
恥ずかしさは、今はいい。
人に見られることは苦手だけど、体がすくむけど、今はいい。
僕を見て。
…お母さん、見てくれてるかな。
僕を見て。
オールマイト、約束は果たすよ。
だから見ていて。
「続いて実力派ぞろい!! ヒーロー科1年B組!! B組に続いて普通科C、D、E組!! サポート科F、G、H組も来たぞ!! さらに…」
中央へ集まる。
入学式もなかったので、一年全員が集まることは初めてだ。
当たり前だけど、知らない顔が多い。同じヒーロー科のB組とすら交流があまりないのだから普通科やサポート科、経営科の人たちとは言うまでもない。
見れば、あの日宣戦布告に来ていた普通科の人もいた。
君も…強いよね。
すごいと思う。
でも負けない…、僕が勝つ。
「選手宣誓!!」
中央のお立ち台に人影が…、あれはミッドナイト先生だ。
18禁ヒーロー、ミッドナイト。手にバラ鞭を持った、扇情的なコスチュームを身にまとったヒーロー。いつ見てもすごい。
恥ずかしくないのかな。
「18禁なのに高校にいてもいいものか」
常闇くんが真っ当な疑問を口にしていた。
「いい」
それに峰田くんが答えた。峰田くん、その「いい」は「いてもいい」以外の意味にも聞こえるよ。
「静かにしなさい!! 選手代表!! 1-A 飯田天哉!!」
飯田くんがするんだ。
入試一位って聞いたし、当然か。
…負けられない相手が多い。頑張らなくては。
「宣誓!! 我々選手一同は!! 日頃支えてくださる指導者の先生方、地域社会の皆様に感謝し、正々堂々、戦い抜くことを誓います!!!」
拍手。
さすが飯田くん、そつなくこなす。
「さーて早速第一種目行きましょう!!」
ミッドナイト先生が後ろの掲示板を指さす。
「いわゆる予選、毎年ここで多くの者が涙を飲むわ!! さて運命の第一種目!! 今年は…コレ!!」
“障害物競走”
「計11クラスでの総当たりレースよ! コースはスタジアムの外周の約4㎞!! 自由が売り文句のわが校!! コースさえ守れば何をしてもいい!! さあ位置につきまくりなさい…」
スタジアムのゲートが開く。
すこし狭いゲート前で生徒たちがひしめき合う。
みんなの意識が集中しているのが感じられる。
控室では浮足立っていたクラスメイトさえも、鬼気迫る目をしている。
…僕も集中しなくては。
……。
………視線を感じる。
僕を意識している人がいる。
スタート前に。
一体だれが…、
「…初めまして、緑谷さん」
横にいた人に、声をかけられた。…この人の視線だ。
あったことない人だった。ストレートな真っ黒な髪に、眼鏡をしている。細身で僕よりも背が高い女子だ。
「…初めまして?」
なんでこのタイミングで声かけるの? という疑問がつい声色に出てしまう。
「…つい話しかけちゃいました…、気になってしまって。見ちゃったから…、ついつい、ね。ほら…三日もたてば忘れてしまうかもしれないから…今聞かないとって思っちゃうんです」
ぼそぼそとしゃべる。
要領を得ない。
僕がすこし戸惑っているのを見て、その人は「ごめんなさい」と謝ってこう続けた。
「なんでオールマイトの頼みごとを受け入れたんですか? 以前は断ったのに…?」
息が、止まった。
何をこの人は言ってるんだ?
見ちゃった…? 何を…、いや決まっている、二週間前のあの会話の様子だ。でも、以前は断ったって…、一体なんでこの人は…!?
僕がその人を凝視していると、その人はまた「ああ、ごめんなさい」と言ってから、
「自己紹介が遅れました…
その人は、丁寧にぺこりと頭を下げた。
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