僕を見て   作:姉くじら

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ねだるな、勝ち取れ

 「スタート!!!!」

 

 プレゼントマイク先生のアナウンスが僕の耳を素通りする。頭に入らない。

 目の前の女の子が言った言葉は、僕の足元を揺るがすほどのものだった。

 

 「ねえ、教えてください。気になるんです、このままでは夜も眠れません。寝たら気になっていたこと忘れてしまうかもしれませんけど…」

 

 我先にと生徒たちがゲートで押し合いへし合いしている。

 多すぎる生徒数に狭すぎるゲートは、早くもレースの勝敗の分け目となっていた。

 冷気が走る。

 轟くんだ。

 

 「わあ、すごいですね。あなたのクラスメイト」

 

 ゲート付近で足を凍らされ動けなくなった生徒たちを見て、人見さんは無感動にそういった。

 僕と彼女はスタート地点から一歩も動ずにいた。

 僕が何も答えないので、人見さんは僕を振り返って「あ、ごめんなさい」と言って、

 

 「今はレース中ですものね。後で、…そうですね、今日中に教えてください。また後で会いましょう」

 

 身勝手にそういって、彼女は手を振って駆けて行った。

 駆けていく後姿を見て、ようやく僕は我に返った。

 

 「おおっと、ようやく緑谷動き出した!!! 先ほどの選手の個性かぁ!!?」

 

 駆け出す。

 ゲート付近で動けなくなっている生徒を追い抜く。地面を凍らされてはいるが、この程度はスパイクシューズで十分駆け抜けられる。

 走ることは好きだから、シューズもけっこういいものを持ってるんだ。

 そんなことより…気になることは、人見さんのことだ。

 二週間前の、あの会話を聞かれたのだろうか。

 だとすればオールマイトに急いで伝えなくてはいけない。

 しかしそれでは、以前断ったという内容は…いったいどうして。その時から見られていた…? 僕とオールマイトの関係を知っている人は数えられるほどだ。ナイトアイに通形先輩。そして先生方は誰がどこまで知っているかわからないが、少なくとも校長先生とリカバリーガールは知っていると聞いている。

 誰かからか漏れたのだろうか…。

 ダメだ、考えてもわからない。

 二週間前の会話を聞かれたのであれば、まずい。

 今すぐに…オールマイトに伝えるべき…か?

 スタジアムに、オールマイトの姿は……いた、真の姿で。

 今、あの姿のオールマイトへ僕が駆け寄ることは……まずいだろう。

 かといってレースが終わるまで…。

 …。

 ……。

 ………ああもう!!

 今はレースだ!! 彼女を追う!

 今一番まずいことは、彼女が知っているだろうことを広められること。そして考えたくはないが、彼女自身が悪意を持ってそれをする人物かもしれない。

 雄英にそんなことをする生徒がいるとは考えたくはない。

 だけど物事に絶対はない。

 それに悪意がなくとも、彼女が知る情報がもし僕の考えるものであるならば、オールマイトの身体に関するものであれば…。

 監視しなくては。

 今それができるのは、僕だけだ。

 彼女から目を離さない。

 轟音と共に前方から強風。

 

 「1-A 轟!! 攻略と妨害を一度に!! こいつぁシヴィー!!!」

 

 また轟くん。

 強いなやっぱり。第一関門のロボットたちをこうもあっさりと突破するなんて。

 前方を見れば、委員長の八百万さんは大砲を作っていた。

 “創造”の個性を持つという彼女も轟くんと同じ推薦入学組だ。爆音と共に、入試のお邪魔虫0pロボがあっけなく破壊された。

 

 「チョロいですわ」

 

 すごい人たちばかりだ。

 さっきまでなら、僕は負けん気を出してロボット攻略に精を出したんだけど、今はそんな余裕はない。

 彼女はどこだ。

 僕が乱戦の中、人見さんを探していると、一台のロボットが迫ってきた。

 

 「くそっ!! 邪魔だ!!」

 

 入試の時の1pロボットに似たロボット。

 移動しつつ、二本のアームを振り回してくる。

 生憎だけど、もう君の構造も脆さも知っているから、邪魔なだけだ。

 上段から振り下ろされた左のアームを、ステップで回避し同時に肉薄する。狙うは頭…ではなく首の接合部!! 大きくジャンプし足を振りぬく。

 僕の回し蹴りは、きれいにロボットの首をすっ飛ばした。

 

 「悪いけど、今は君にかけてる時間はないんだ!!」

 

 首をなくしたロボットを背に走り続ける。

 もう無力化できたことはわかっている。

 人見さんは見つからない。

 もうロボットの障害を抜けたのだろうか。

 

 「オイオイ第一関門チョロイってよ!! んじゃ第二関門どうだ!! 落ちればアウト!! それが嫌なら這いずりな!! ザ・フォール!!!」

 

 第二関門が見えてくる。

 現れたのは巨大な谷。カルスト地形…、いや、テーブル型の丘、ビュートがいくつも並んだような地形だ。もしかするとビル群をイメージしているのかもしれない。

 飛び越えるか、丁寧にも張り巡らされたロープにつかまって這うのが正攻法というところだろうか。

 先ほどのロボットの関門には、もう彼女はいなかった。

 とすればこの関門の前で足を止めているかとも思ったが、すでにいない。

 くそ!!

 進むしかない。

 遠くを見れば、爆発の煙が見える、かっちゃんだ。

 結構な距離を離されている。

 

 「さあ先頭は難なく一抜けしてんぞ!!」

 

 もう!?

 くそ、ゆっくり這って進んでいる場合じゃない。

 ロープを前に、深呼吸をする。

 手を自然な位置に持ってきて、ゆっくり振る。次は上半身をゆっくりと動かす。よし…、大丈夫だ。

 ロープを駆け抜ける!!!

 

 「おおっと!!? 1-A 緑谷!! 普通に走り抜けている!! なんつーボディバランス!!」

 

 体幹、腕、足、頭。意識を集中し、把握する。

 少しの重心のずれを、ロープのたわみをすぐさま把握し、動きを修正する。ロープを足裏でしっかりつかむ感覚を持つ。

 一つ抜ける。

 深呼吸。

 二つ抜ける。

 多くの生徒がいる。

 どうやら先頭は遠いが、その後ろの団子になっている集団には追い付いたようだ。しかし彼女はいない。

 最後のロープを駆け抜ける。

 

 「最終関門!! 一面地雷原!! 地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ!! 目と脚酷使しろ!! ちなみに地雷は威力は大したことねえが音と見た目は派手だぜ!!」

 

 走っていくと、プレゼントマイク先生の言った通り、派手な爆発が起きていた。

 その派手な爆発に委縮して、多くの生徒が慎重に歩を進めている。

 爆発の煙で前方が見えない。

 くそ、これ以上進まれたら煙で探しようがなくなる。

 それに、ここまで来て彼女がいないのは、いささか妙だ。

 突拍子もない考えだが、もしかして、もしかすると…彼女この競技に参加してないのではないか!?

 そもそも…雄英の生徒なのか!?

 わからない。

 地雷原の真ん中ほどまで進んだ。

 あたりに人が多くいる。

 ちょうどいい。

 ここで疑念を晴らす。

 確かめていないのは、僕より上位にいる生徒だけ。

 ここから先にいるかいないかでわかる。

 僕を見ろ!!

 

 「っへ? うわ!!」

 

 あたりで爆発が多数起きる。

 彼女の視線は感じられなかった。

 ごめんね、地雷を探すのに必死になっているところ邪魔しちゃって。プレゼントマイク先生がいうには威力はさほどらしいから、許して。

 さらに進む。

 

 「しまっ!!」

 

 「きゃっ!」

 

 また爆発が起きる。

 まだ視線は感じられない。いないのか…?

 

 「一位争いの二人は既に地雷原を抜けてんぞ!!? 後を追うのは1-A 飯田!! 同じくA組の常闇!! B組塩崎に骨抜!! 少し離れて普通科 人見ィ!!? 並んで緑谷だぁ!!? スロースターター共追い上げてんな!!?」

 

 並んで!?

 いったいどこに、…いた!!

 地雷原のフィールドの、僕とは対極の場所、フィールドの隅を走っていた。

 よかった、見つけた。

 しかし、こんなにも上位にいるなんて。

 逆に言えば、上位に食い込むために余計なことはする余裕がなかったはずだ。

 地雷原を抜ける。

 同時に、彼女も抜けて、一本道に入る。

 彼女が僕に気付いた。

 

 「あ、先ほどぶりですね…、ふう」

 

 息は切れているし、汗もかいている。しかし服装に乱れはないし、表情は変わらず無表情だ。

 

 「終盤のデッドヒート!! 轟、爆豪同時にゴール!! 続けてB組…」

 

 ゴールが見えてきた。

 …確かめておく必要がある。

 

 「…見ちゃったって言ったよね? な、何を見たの?」

 

 人見さんが僕を見る。

 

 「オールマイトに何かを約束してましたよね、それです」

 

 「あの場にいたということ? でもそれじゃあ前に断ったって話は…」

 

 「あなたが、それを連想したから」

 

 人見さんが人差し指で糸を結ぶ動作をした。

 

 「…連想?」

 

 「私の個性は“過去視”、そういえば勝手に見ちゃってごめんなさい、謝るの忘れてました…そして、ごめんなさい」

 

 「え?」

 

 「続けてゴールしたのは普通科 人見 知!! そして緑谷だ!!」

 

 「ふふ、先着は私です。動揺しましたね、会話して油断させようたって無駄です」

 

 無表情に、僕を見てそういった。

 ゴールした。見渡せば、先にゴールしている生徒はそう多くない。

 …。

 それよりも彼女の個性だ。

 過去視。

 過去を見る。僕の…過去を見たということ!?

 それでは、オールマイトとの会話も…!!?

 フィールドの端へ寄る。

 スタジアムの歓声で他の人には声も聴きとれないはずだ。

 

 「お、オールマイトの話も聞いた…!?」

 

 「はい」

 

 …!!

 最悪だ。いや、最悪かどうかはわからない。僕が見定めなくては。

 

 「受け継いでほしいって頼まれてましたね」

 

 「…うん………うん?」

 

 おかしい。

 普通の人なら気になるのは普通オールマイトのことだ。ヒーロー科の生徒じゃなくてもオールマイトはスーパースターだ。そのオールマイトの秘事。普通そのことを知りたがるものだろう。

 なのに、

 

 「なんで受け入れたんですか? 以前は断ったのに」

 

 そうじゃない。

 

 「…な、なんで僕のことを聞くの? 普通オールマイトのことが気になるはずだよ」

 

 「いいえ。私が気になるのはあなたの感情、思想だけ……」

 

 「…なぜ」

 

 「私の個性はその人の過去を見ます、新しいものや印象に残った場面はつよくその人の記憶に残っています。でも私は感情や、その時の考えまでは見えません。経験だけ。気になりませんか? 例えば映像だけの映画、女優がなんてしゃべっているのか知りたくはありませんか? 私は知りたい」

 

 「何を…」

 

 「どうして断ったのか、どうして受け入れたのか、気になります」

 

 「……」

 

 「…そしてあの約束」

 

 そこまで見たのか。

 

 「どうして、すぐに受け継がなかったのですか?」

 

 僕はオールマイトと約束をした。

 

 『僕が雄英体育祭で一位になったその時に、力は受け継がせてほしい』

 

 そう、オールマイトに告げた。

 その上で僕は一位になるとクラスメイトに啖呵を切った。自分自身を追い込むため。

 “ワン・フォー・オール”、オールマイトの力。平和の象徴として、この国の、世界の“柱”としての彼を支えた力。次の平和の象徴になってほしいと、力を受け継いでほしいと、そう言われた。…正直な話、おっかない。

 そして初めは断った。

 理由は、言うのも恥ずかしいくらい子供っぽい理由。

 ナイトアイにも恥ずかしながら伝えた。

 

 『私は、この個性でヒーローになりたい』

 

 見栄だ。

 意地だ。安いプライド。ただの意固地。

 でも譲れない。

 語弊があるかもしれないけど、「力を与える」と言われたときに、僕のちっちゃなプライドが「それじゃダメだ」って言ったんだ。

 僕の夢は僕の力でヒーローになること。オールマイトの様なヒーローになること。オールマイトの力を受け継いでオールマイトの様なヒーローになれたら、最高だとも思う。

 でも、違うんだ。

 僕はオールマイトに認められたい。僕自身の力で。

 顔を上げる。

 目が合う。人見さんはじっと僕の目を見た。

 

 「力は勝ち取りたい、だから受け取らなかった」

 

 僕はそうオールマイトにも伝えた。

 オールマイトは少しだけ黙ってから頷いた。

 オールマイトは、わかっていたのかもしれない。

 僕がただこのまま受け継ぐことが不安なだけなんだって。

 オールマイトの弱った姿を見て、僕は足元が崩れたかのような衝撃を受けた。僕にとってのオールマイトは絶対的な存在で、すぐには受け入れられなかった。

 そして気付いた。僕はオールマイトに甘えてた。

 命をたすけられ、背中を押してもらい、弟子にまでしてくれた。

 それなのに、頼み事は断る。

 僕よりふさわしい人がいる。そう勝手に思って。

 でも実際そう思う、例えば通形先輩だ。

 先輩は強かった。そして強くなっている。きっとこれからも強くなる。それは心の強さに起因するものだ。

 僕は、贔屓目に見てもダメダメだ。

 ちょっとの勇気を出すのにもオールマイトを引き合いにしている。

 オールマイトの顔に泥を塗るわけにいかない。そんなことばかり。

 今のまま、受け取ることはできない。

 僕はオールマイトに甘えたように、今度はオールマイトの力に甘えるだろう。

 力は勝ち取る。

 

 「僕よりも、ふさわしい人がいないことを、僕が納得するために戦うんだ」

 

 ただの身勝手。

 けれど、オールマイトは頷いてくれた。

 

 「そうですか…、強い意志というやつですね。義務感や使命感ともちょっと違うのでしょうか。その心変わり、面白いですね」

 

 面白いってまとめられちゃった。

 

 「なおのこと、一度は断った頼みごとを今度は何故受け入れたのか、気になりますね。ああこれは眠れない、寝たら気になることわすれちゃうかもですが…、うーん」

 

 人見さんがうなっている。

 …しかし、どうしたものか。

 少なくともオールマイトに報告はすべきだが、目の前の彼女はどう判断していいものか。

 ただただ好奇心の塊。

 普通科の人見知。

 普通科にはヒーロー科志望で落ちて入っているものも多く在籍しているというけど、彼女はどうなんだろう。

 

 「さあ結果が出たわよ!!」

 

 ミッドナイト先生のアナウンスだ。

 見ればすべての生徒がゴールしたらしい。掲示板に着順が表示される。

 

  1位 轟焦凍

  2位 爆豪勝己

  …

  9位 人見知

 10位 緑谷出久

  …

 

 10位…、好成績とみるか、不甲斐ないとみるか…。

 ビデオ判定の結果、1位は轟くんになったらしい。かっちゃんが掲示板をにらみつけている。

 

 「出久ちゃんすごいねえ!! …あれ? お知り合い?」

 

 麗日さんがやってきた。

 

 「う、うん、さっき知り合ったんだ。紹介するね、普通科の…」

 

 「人見知です。…そ、その、よろしく」

 

 「あ、どうも。私は麗日お茶子! 初めまして! 人見さんすごいね!! 9位って!」

 

 「あ、いや、そんな。………あ、その、私これで…」

 

 人見さんは、そういって背中を丸めて去っていった。

 あれ? 僕にはすっごく積極的だったのに。

 …。

 

 「予選通過は上位42名!!! 残念ながら落ちちゃった人も安心しなさい! まだ見せ場は用意されてるわ!! そして次からいよいよ本選よ!! さーて第二種目は…コレよ!!」

 

 “騎馬戦”

 

 個人競技じゃないけど、いったいどうやって…。

 

 「参加者は2~4人のチームを自由に組んで騎馬をつくる! 基本は普通の騎馬戦だけど、先ほどの結果に従って各自にポイントが振りあてられるわ!!」

 

 Pは下から5Pずつ多くなる。僕の所有Pは165Pだ。

 自由にチームを組めるということは、チームごとに所有Pが変わるということ。チームの相性はもちろんだが、Pも考えてチームは組む必要がある…ということか。

 

 「ただし1位の轟くんに与えられるPは1000万!!」

 

 思わず轟くんを見る。

 みんなが轟くんに注目した。

 轟くんは気にしない様子で、遠くを見ていた。すごいな…、轟くん。これから確実にみんなが狙ってくるのに、それどころかチームを組むことすら難しくなるのに…、それがわからない彼じゃないはずなのに。

 

 「制限時間は15分。騎馬の合計Pが表示されたハチマキを奪い合う!! とったハチマキは首から上に巻くこと!! とればとるほど管理は難しくなるわよ!! そして重要なのは、ハチマキをとられても、騎馬が崩れてもアウトにはならないってところ!!」

 

 「てことは…」

 

 「42名からなる騎馬の10~12組がずっとフィールドにいるということか…」

 

 苦しい戦いだ。

 

 「個性発動ありの残虐ファイト!! でも、あくまでも騎馬戦!! 悪質な崩し目的の攻撃はレッドカード!! 一発退場よ!! さあ!! これから15分をチーム決めの交渉タイムとします!!」

 

 15分か。

 僕のP数は結構高い。全体のPの様子を見なければわからないけれど、組む人によってはハチマキを死守するだけで勝ち抜ける可能性もある。

 しかし…チームを決めるよりも、僕は、

 

 「おーい緑谷!! オイラと組もう!!」

 

 「いいよ」

 

 「え、いいのかよ!!?」

 

 「出久ちゃん!!? 自分を大事にして!!?」

 

 オールマイトのところに行かなくては。15分あればその間に伝えられる。

 チーム決めに専念したいが、それ以上に大事なことだ。

 

 「ご、ごめん僕、ちょっとお手洗いに…」

 

 「え、生r…」

 

 「スカイダイビングしたいの峰田くん?」

 

 うららかじゃない麗日さんを尻目に、スタンドの入口へ向かう。このスタンドは広い、15分ではオールマイトの所へ行って帰るだけでぎりぎりだろう。

 オールマイトは…、いた。

 真の姿で教師陣と同じ場所にいる。

 

 「あ、あの。八木先生? お時間…ありますか?」

 

 以前に決め合わせた真の姿の時の呼び名。実際に雄英には八木としても登録しているらしい。

 もしかして本名なんだろうか…、だとすれば教えてくれてちょっとうれしい……。

 じゃなくて!!

 

 「うん!? 緑谷少女!? いったいどうして…」

 

 「急ぎで伝えたいことが…!!」

 

 「そりゃ競技前だし、急いでいるだろうけど…わかった。ここではできない話かな?」

 

 「…はい」

 

 オールマイトが頷いて、席を立った。

 

 「ここならいいだろう…、それで? ただならぬ様子だけど」

 

 「…2週間前の話…、覚えていますか?」

 

 「もちろんだとも! うれしかったよ」

 

 「……あの話を知られました、普通科の生徒に」

 

 驚くオールマイト。

 

 「あの場には誰もいなかった…。聞き耳を立てたとか、そういうわけじゃなさそうだね。まして君が広めるはずもない…」

 

 「そ、それは。ごめんなさい」

 

 思わぬ信頼に、思わず謝る。

 急に頭を下げた私を見てオールマイトは「どうしたんだ!?」と慌てふためいた。

 私は人見さんとの会話と、彼女の個性について伝えた。

 

 「…なるほど。“過去視”か…、彼女がそうだったのか」

 

 「知っていたのですか!?」

 

 「ああ、秘密が多い身だからね。校長から伝えられてはいた。しかしその時には、数日前までの記憶しか見えないと言っていたが…虚偽申告したのか、個性が成長したのか…」

 

 「そ、その。オー…、や、八木先生、彼女がもし…」

 

 言い淀む。

 あまり言いたくはない。

 

 「わかっている。彼女がもし…悪意のある者であるならば…まずいことになる。しかし、ここは雄英だ。在籍する生徒は入学前に厳しい身辺調査をされて通った者たちだけだ。それは普通科も変わらない…」

 

 「ですけど…」

 

 「念のため、もう一度調査をする必要はあるかもしれないな。あと、口止めをしておく必要も…」

 

 「…」

 

 「そんなことより緑谷少女!!」

 

 声をかけるとともに、筋骨隆々のオールマイトが目の前に現れる。

 

 「まだ競技は続いている!! 不戦敗になんかなったら承知しないぞ!?」

 

 「え? あ!!」

 

 時計を見る、もう残り数分だ。

 

 「私の鼻を明かしてくれるんだろう!?」

 

 え、そこまで言っただろうか?

 

 「不安になっているんだろうけれど…、気にしなくていい」

 

 「…」

 

 「といっても君は気にするんだろうな!! HAHAHAHA!!」

 

 「…ごめんなさい」

 

 「思う存分戦うといい。君自身のために、私のことは忘れていい」

 

 …。

 ずるいよ、オールマイト。

 

 「…ビックリさせてあげます!! ……表彰台で会いましょう」

 

 「あれ? なんで私が表彰する役だってこと知ってるんだい!?」

 

 …なんというか、抜けてるよねオールマイト。

 これを言っちゃうと、また落ち込むだろうから言わないでおいてあげるけど。

 ふふ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ごめん今戻った!! 峰田くん!!」

 

 「おそいぜ緑谷!! オイラがさいきょーのメンバーをそろえたからな!! 感謝してくれよ!!」

 

 いたのは障子くんに…麗日さん!?

 あれ? 正直…、

 

 「麗日さん…いいの? 峰田くんだよ?」

 

 「緑谷…オイラへのあたり強くない?」

 

 「いいんだよ!! 出久ちゃんは私が守る!!」

 

 「麗日…オイラ味方」

 

 「…前途多難だな」

 

 障子くんが明後日の方向を見ている。

 …でも、このメンバーはいい。

 いや、考えうる最高のメンバーの一つだ。

 麗日さんの個性で障子くんの機動力にはさらに磨きがかかるだろう。一人で3人を背負っての移動も難なくこなせるほどに…。そして、峰田くんと僕の個性は相性では最高だ。

 

 「15分のチーム決め&作戦タイムを経てフィールドに12組の騎馬が並び立った!!」

 

 「……なかなか面白れぇ組がそろったな」

 

 「さー組み終わったな!? 準備はいいかなんて聞かねえぜ!? いくぜ!! 残虐バトルロワイヤル!!!」

 

 緑谷チーム

 緑谷 165P

 麗日 130P

 障子 145P

 峰田 120P

 TOTAL 560P

 

 爆豪チーム

 爆豪 205P

 切島 175P

 芦戸 115P

 瀬呂 180P

 TOTAL 675P

 

 轟チーム

 轟 10,000,000P

 飯田 190P

 八百万 125P

 上鳴 90P

 TOTAL 10,000,405P

 

 …

 

 「スタート!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 俺の、俺たちのPは1000万越え。

 守り抜いて勝つことは容易だ。だが、それでは親父の顔は曇らせられない。目指すのは圧倒的勝利だ、右だけを使っての完全勝利。親父を完全否定する。

 スタンドで親父が見ている。

 見ていろ、お前のすべてを否定してやる。

 

 「いくぞ、まずは……緑谷…お前からだ」

 

 「…来たね。障子くん!!」

 

 「おう!!」

 

 そういって障子は背負ったすべての騎手を複製椀で包み込んだ。

 

 「ちっ、面倒だな…」

 

 騎手を完全に隠している。先ほど一瞬見えた騎手は緑谷のほかに麗日と峰田。ハチマキを巻いていたのは緑谷だった。凍らせて、足を止めさせて力ずくで奪い取るしかない。

 

 「3人も背負って、俺たちの攻撃を避けられるとでも?」

 

 氷結を走らせる。狙うのは足元だ。

 …当たらねえか。

 驚くほどの大跳躍で後方へ逃げられた。…あれは麗日の個性だな…、おそらくあの一瞬、本人以外の重力を消したんだろう。

 速度では俺のチームに分があるが…、機動力の面では実質一人のあいつらに分があるか。

 

 「轟さん!!」

 

 八百万の声。

 見れば、複数のチームが迫ってきている。

 

 「大丈夫だ…」

 

 見れば、ポイントの少ないチームばかり。一発逆転狙いだろう。

 

 「この程度、問題ねえ」

 

 もっと強いやつをねじ伏せて、親父に見せつけてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 「障子くんすごいジャンプ!!」

 

 元々身体能力ではクラスでもトップを争う障子くんが、麗日さんの体重だけでジャンプしたのだから、結果がこの驚くほどの跳躍だ。

 

 「ああ、しかしバランスがとりにくい。何度も連発はできないぞ」

 

 「うん、わかってる」

 

 障子くん本人の重力も消しているから重心がずれてバランスがとりにくく、緊急離脱時に一瞬使う程度にとどめるべきだろう。

 

 「解除!!」

 

 障子くんの重力だけ元に戻す。これで総重量は障子くんと麗日さんだけ。障子くんのパワーなら麗日さんを背負ってもパフォーマンスに支障はない!

 

 「しょ、障子くん!! 後ろから誰かが狙ってきている!!」

 

 「了解!!」

 

 飛びのく。先ほどいたその場所に蔓の様なものが伸びてくる。

 

 「瀬呂…ではないな」

 

 「きっとB組のヤツだぜ! そういう見た目の女子がいた!!」

 

 さすが峰田くん。

 …まだ狙っているけれど、大丈夫そうだ。

 守るという点において、先ほどの緊急脱出方法に僕と障子くんの索敵能力は最高だ。

 僕は人がどこを意識しているか知覚することができる。僕自身へ向いている意識はより簡単に知覚できるが、範囲内であれば僕自身以外への意識も知覚できる。

 今は障子くんに向いている意識を感知している。

 僕自身への意識よりは精度は下がるが、距離が近い分、精度の低減は少ない。

 十二分にレーダーの役割を果たせるだろう。

 そして、引き寄せる個性。

 僕は、触れているものにまでその個性を拡張できる。それは触れているものが人であっても同じだ。

 

 「峰田くん」

 

 「おうよ!!」

 

 狙うは同じA組!! 葉隠さんのハチマキ!!

 峰田くんが頭からもぎったボールを投げつける。

 

 「峰田!? やば!」

 

 同じA組は峰田くんの個性の厄介さを知っているだろう。騎馬戦で動けなくなることがどれだけ危険か言うまでもない。目を凝らして、必死になって避けている。

 僕が、見るように強制もしてるんだけど。

 そこが隙だ!!

 

 「え、…緑谷!?」

 

 葉隠さんの宙に浮いたハチマキをがっちりつかんで、奪い取る!!

 

 「なんと緑谷!! 空を飛んでの強襲だあ!!」

 

 着地地点に…障子くんさすが!! 足も速い!!

 

 「麗日さん!!」

 

 「うん! 解除!!」

 

 重力を取り戻して落ちる僕を障子くんがキャッチする。

 

 「うまくいったね!!」

 

 「オイラ達さいきょーじゃん!!」

 

 「うん!! あ、ごめんね障子くん重かったよね、麗日さんお願い」

 

 「今までが軽すぎたくらいだ」

 

 「あはは…」

 

 ジェントルマンだなぁ。

 いや、誰と比べてとかじゃないけど…。

 葉隠さんチームのハチマキのPは370P。僕たちのPはこれで930P!!

 守りに入るか、攻め続けるか、悩ましい…。

 …というか、葉隠さん上半身が透明だったけど…。

 …。

 だから砂藤くんとか、目をそらしてたのか。

 

 「どうする出久ちゃん? 攻める? 守る?」

 

 麗日さんが訊ねてきた。

 

 「俺はどちらでもいい。攻めでも守りでも役に立てるだろう」

 

 「攻めに決まってるぜ!! 一方的な略奪よお!! 蹂躙してやるぜ!!」

 

 「峰田くん調子のりすぎちゃう?」

 

 …。

 

 「さあ!! 残り時間半分!! 現在の順位は…? 1位 轟チーム!! 10,000,770P, 2位 物間チーム!! 1350P 3位 鉄哲チーム!! 1125P 4位 緑谷チーム!! 960P」

 

 守れば上位をキープできるかもしれない。

 

 「いや、峰田くんの言う通り、攻めよう」

 

 「OK」

 

 「よっしゃあ!!」

 

 「…いいの出久ちゃん?」

 

 守りに関してこのチームは鉄壁といってもいい。

 でも…、

 

 「守りに入ったら…、気持ちで負けてしまう。勝つなら完全に! だよ!!」

 

 自分でも驚くほどの強気な発言。

 

 「そうだね…よし!! いこう!!」

 

 「盛り上がってるとこ悪いが、勝つのは俺だ」

 

 「轟か…」

 

 「ひいい!! またかよ!! 障子ぃ!! 逃げるぞ!!」

 

 峰田くん、さっきの調子はどこ行ったの。

 

 「今度は…逃げられると思うな…」

 

 …?

 何か企んでいる。…轟くんの氷結の範囲はいまだにわかっていない。あの緊急脱出を捕まえられるほどの氷結が出せるというのだろうか…? しかし、そんな規模の氷結攻撃は自身の騎馬すら傷つけかねないはず…。

 だとすれば騎手ではなく、騎馬になにかあるのだろうか…。

 飯田くん、上鳴くんに八百万さん…。

 

 「八百万、ガードと伝導を準備。上鳴は…」

 

 もしかして…、

 

 「わかってるよ!! しっかり防げよ…」

 

 まずい!!

 

 「障子くん!!」

 

 「おそい!!」

 

 電撃!!

 ぐうっ、障子くんはもちろんのこと…背負われている僕たちまでしびれている。しかし広範囲かつ距離も離れていたため意識を失うほどじゃない…。

 …! そうか!!

 

 「残り6分、後は引かねえ」

 

 轟くんの狙いはこれか!!

 地を走る氷結、近くにいた騎馬の足が次々と凍らされる。

 

 「障子くん!!」

 

 「大丈夫だ!!」

 

 よかった、障子くんは無事みたいだ。

 

 「ああ!! ハチマキが!!」

 

 別チームの声。轟くんがさっきの攻撃で無力化したチームだろう。

 

 「さあ、あとはお前だ」

 

 「負けない!!」

 

 

 

 

 

 

 やはり速い。いや早い。

 障子の機動力が予想以上だったということもあるが…、それ以上に厄介なのが反応速度だ。まるでこちらの動きを先読みしたかのように動く。

 そして牽制の峰田のボール。

 飯田の足も、活かしきれていない。

 右の個性を使おうにも、上手く左へ回られて自分の騎馬を巻き込みかねない。

 上鳴の放電を何度か繰り返し、隙は作っているが…、崩せるまでに至ってない。

 こいつ…。

 

 「残り1分!! 轟 フィールドをサシ仕様にし…あっという間に緑谷チームのPまで奪い取るかと思いきや!! なんと5分の間粘っている!!」

 

 どうしたものか…。

 接近すらも出来ず、接近してもハチマキは障子の腕の中…。

 なんとか射線を確保すれば、凍らせて機動力をそげるが…。

 

 「轟くん」

 

 「なんだ飯田」

 

 「手を触れた相手を一瞬で凍り付かせられるか?」

 

 手を…?

 

 「そりゃできるが…」

 

 「よし、残り1分、この後俺は使えなくなる。轟くん、一瞬だから頼んだぞ?」

 

 「飯田?」

 

 「しっかりつかまっていろ、トルクオーバー!!」

 

 景色が早送りになる。

 目の前に、障子が迫っていた。違う、俺たちが一瞬で迫ったんだ!!

 右手で障子の身体へ触れる!!

 …一瞬だったから全身は無理か…、しかし半身は凍らせた。動けねえはずだ。

 

 「ぐうっ? すまん緑谷!! 動けない!!」

 

 「わああ!? 何してんだよ!? やべえって!!」

 

 慌てる声が聞こえる、障子の腕が開いた。

 

 「飯田、今のは…」

 

 「トルクと回転数を無理矢理上げて爆発力を生んだ。反動でしばらくするとエンストするが…、まだ動ける!! 緑谷くん、挑戦者は轟くんだけじゃない!!」

 

 障子の腕から緑谷が現れる。

 緑谷は笑っていた。

 

 「かっこいいよ、飯田くん」

 

 「獲るぞ!! 轟くん!!」

 

 「もちろんだ!!」

 

 駆け出す。先ほどの推進力はもうない、しかし飯田のエンジンはまだ動いている!!

 このまま奪い取る!!

 

 「八百万!! 盾だ!!」

 

 「はい!!」

 

 峰田の牽制ボールを防ぎつつ、迫る。あのチームでインファイトに強いのは障子だけだ、その障子も凍っている。接近すればとれる!!

 

 「そう来ると思ったよ!!」

 

 緑谷がそういって、障子の背からまっすぐ上に跳躍する。

 何を…?

 

 「良いの? 僕を見ていて」

 

 !!

 目の前に障子が肉薄していた。

 

 「こいつ!! 動けたのか!!」

 

 「片足だけだ!」

 

 「飯田!! 回避だ!!」

 

 「すまん踏んだ!! 動けない!!」

 

 峰田のボール!!

 麗日が手を伸ばしてくる。

 

 「おらああ!!」

 

 「残念だが、とらせはしねえ」

 

 氷結。延ばした手を手の甲ではじいて同時に凍らせる。

 

 「…ちくしょう、オイラまで一気に…」

 

 「…うう……」

 

 苦しそうにゆがむ麗日が、一瞬…笑った?

 かろうじて動く指先を、合わせた。

 

 「解除」

 

 解除?

 何を…。

 

 「再び空からの強襲!! しかも今度は二人だ!!」

 

 上か!!

 

 「よこせ!! 半分ヤロー!!」

 

 「勝つのは僕だ!!」

 

 くそ、こいつまで!!

 

 「負けねえと!! いったはずだ!!」

 

 上方向なら騎馬は関係ねえ!! 最短で出せる!!

 氷漬けに…、

 

 「TIME UP!!」

 

 「へ?」

 

 「あ、きゃっ!?」

 

 いてえ。

 …結局獲れなかったか。

 

 「すまねえ飯田、あそこまでしたのに…」

 

 「いいとも、1位なのだから…、緑谷くんを下ろしてあげてはどうだ?」

 

 落ちてきた緑谷を抱えていたことを忘れていた。

 

 「…すまねえ」

 

 「ああ、いや、その、とんでもない…」

 

 緑谷は背中を丸めてチームの下へ歩いて行った。

 

 「1位 轟チーム!! 2位 爆豪チーム!! 3位 緑谷チーム!! 4位 心操チーム!! 以上4組が最終種目へ進出だあああ!!!」

 

 …最終種目。

 スタンドの親父をにらむ。顔は曇ってねえ。

 次こそは…。

 




峰田くんは考えた。密室(複製椀内部)に女の子二人と一緒にいた、これはもう既成事実なのでは…?
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