僕を見て   作:姉くじら

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誤字報告、いつも助かっております。本当にありがとうございます。
不定期での更新になりますが、引き続き、作品を楽しんでいただけたら幸いです。



僕を見ろ

 

 「どーしたA組!?」

 

 見ないでプレゼントマイク先生。

 

 「なーにやってんだ…?」

 

 なーにやってんだろうね僕たち、チアガール姿で。

 

 「峰田さん、上鳴さん!! 騙しましたわね!?」

 

 八百万委員長がご立腹だ。

 遠目に峰田くんたちがサムズアップしているのが見えた。

 思い返されるのは昼食休憩のときの会話。

 

 『午後は女子全員でああやって応援合戦しなきゃいけねえんだって!』

 

 『聞いてないけど…』

 

 『信じねえのも勝手だけどよ…相澤先生からの言伝だからな』

 

 至る現在。

 

 「なぜこうも峰田さんの策略にハマってしまうの私…」

 

 「アホだろアイツら…」

 

 「まあ本選まで時間空くし張りつめててもしんどいしさ…いいんじゃない? やったろ!!」

 

 「透ちゃん好きね」

 

 葉隠さんすごいなぁ。

 この格好スカートは短いし、おなか出してるし、…もう嫌だ。

 …うう。視線を感じる。

 

 「…ひどい目に遭えばいいのに峰田くん」

 

 「……さすがの出久ちゃんもストレートだね…」

 

 生徒たちが集合する。

 

 「さあさあみんな楽しく競えよレクリエーション! それが終われば最終種目、進出4チーム総勢16名からなるトーナメント形式!! 一対一のガチバトルだ!!」

 

 「トーナメントか! 毎年テレビで見てた舞台に立つんだあ…!」

 

 切島くんがこぶしを握る。

 感慨深いのは僕も同じだ。僕が、あの体育祭の最終種目に…! …なんでチアガールの恰好でいるんだろう。

 

 「それじゃあ組み合わせ決めのくじ引きをするわよ。組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります!」

 

 ミッドナイト先生が“Lots”と書かれた箱を取り出す。

 オールマイトも持ってたな…、学校の備品だろうか。

 

 「レクに関して、最終種目に出場する16名は参加するもしないも個人の判断に任せるわ。んじゃ1位チームから順に…」

 

 「あの! すみません。俺、辞退します」

 

 尾白くん!?

 

 「なんで…!? せっかくプロに見てもらえる場なのに!!」

 

 「騎馬戦の記憶…、終盤ギリギリまでほぼボンヤリとしかないんだ。たぶん奴の個性で…」

 

 騎馬戦で尾白くんが組んでいたのは…たしか、あの普通科の人。

 

 「チャンスの場だってのはわかってる。でもみんなが力を出し合い争ってきた座なんだ。こんな、こんなわけわかんないままそこに並ぶなんて…俺にはできない」

 

 …尾白くん、わかるよ。

 

 「気にしすぎだよ! 本選でちゃんと成果を出せばいいんだよ!」

 

 違う。

 

 「違うんだ…! 俺のプライドの話さ、俺が嫌なんだ。あと何で君らチアの恰好してるんだ…!」

 

 やめて。言わないで。見ないで。

 

 「僕も同様の理由から棄権したい。実力如何以前に、何もしていないものが上がるのはこの体育祭の趣旨に相反するのではないだろうか!」

 

 B組の生徒。騎馬戦で尾白くんと同じ組だった人だ。

 

 「そういう青臭い話はさぁ…好み!!! 二人の棄権を認めます!!」

 

 好みって…。

 

 

 

 

 

 

 あの後、5位チーム拳藤さんの意見が尊重され、繰り上がりはB組鉄哲くんと塩崎さんとなった。

 

 「組はこうなりました!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 初戦は、心操…? それってたしか尾白くんの…。

 振り返ると、彼はいた。紫色の髪、寝不足なのか目の下の隈が深い。他の選手と同じようにモニタを見上げている。見ている僕に気付いたようで、目が合う。

 

 「よろしく…」

 

 「ああ、…よろしく」

 

 「緑谷さん!! ああ…遅かったか…!?」

 

 尾白くんの尻尾で口を覆われる。

 すっごいもふもふだ。…どうしたんだろう。

 

 「あ、ごめん急に……、その様子だと大丈夫だね」

 

 「大丈夫って…な、なんでしょう、か?」

 

 ちょっと距離が近くって緊張する。

 うーん、競技中とかは意識せずに話せるけど、やっぱり普段は上手くいかないなぁ。障子くんたちとはどもらずに会話できたし、今ならって思ったけど上手くいかないや。

 

 「緑谷さんってレクリエーション出る? 出ないなら話があるんだけど…」

 

 何だろう。

 

 「えっと、レクは出ないよ、…話って?」

 

 「選手の控室で話そう…」

 

 「うん…」

 

 尾白くんの後ろについていく。尻尾が揺れてかわいい…。筋肉質でごついけど…、やっぱりこうやって揺れる姿はかわいいなぁ。

 グラウンドを振り返る。

 峰田くんが八百万さんに威嚇していた。

 かっちゃんが麗日さんに威嚇していた。

 八百万さん、麗日さんがんばって。

 僕とっても応援してる。

 心の中でエールを送り、グラウンドを後にした。

 控室へ入る。尾白くんがパイプ椅子を引いてくれた。

 

 「ここならいいかな。話っていうのは緑谷さんの対戦相手についてなんだけど…」

 

 「ごめん、その前に服を着替えさせて」

 

 チア姿は、もう勘弁して。

 

 

 

 

 

 「……というわけなんだ。まあ、俺から出る情報はこんなもん」

 

 「……ありがとう。すごく助かりました」

 

 あの後、尾白くんに心操くんの情報を教えてもらえるだけ教えてもらった。

 “操る”個性。とても強力な個性だ。初見殺しに思える個性だけど、得られた情報がすべてではないし、油断は禁物だ。

 でも、尾白くんが教えてくれた情報がすべてなら…、違和感がある。確かめたいけど、それをするには彼に直接接触する必要がある。…それに口下手な僕には、これから対戦する相手に話させるほどの話術はないし。

 

 「すごく勝手なこと言うけどさ、俺の分も頑張ってくれな」

 

 突き出したこぶしに、こぶしを突き合わせる。

 男の子って、よくこういうことするのかな。

 なんだか、認められてるって感じがして、好きだな。

 

 「うん…! がんばるよ!」

 

 

 

 

 

 

 「ヘイガイズ!! アーユーレディ!? さあガチンコ勝負の始まりだ!! 頼れるのは己のみ!! 心・技・体に知恵知識!! 総動員して勝ちあがれ!!」

 

 深呼吸をする。

 緊張している。当たり前だ。でも、大丈夫…、緊張は僕を高めてくれる。僕の出し切れるすべてを出すために、程よい緊張を保つんだ。

 緊張は僕の味方だ。

 

 「ヘイ!」

 

 声をかけられる。聞きなれた声。そしてこの視線、オールマイトだ。振り返れば、真の姿のオールマイトがそこにいた。

 

 「オー…、八木先生」

 

 「オールマイトでいいよ、関係者しか入れないし。…発破をかけようかと思ってきてみたが、必要ないようだね」

 

 「え?」

 

 「君、自分がいま笑ってるの気付いてないかい?」

 

 「え、あ、…そうなんですか?」

 

 「HAHAHA、ここで小粋な返しまで出来ればパーフェクトだね」

 

 小粋な返しって、何?

 

 「私が見込んだから、だけじゃない。君自身の自信だ!! 笑って臨め!!」

 

 「…ありがとう、オールマイト」

 

 でもやっぱり、オールマイトが僕の背中を押してくれるから、僕は笑って臨める、そう思うよ。

 

 「さあ!! 両選手の入場だ!!」

 

 「行ってきます、オールマイト!!」

 

 「ああ、見ているよ」

 

 サムズアップするオールマイトを背に、グラウンドへ足を踏み入れる。

 グラウンドはセメントス先生の手によって様変わりしていた。コンクリートで作られたリング、しかしロープはない。

 

 「一回戦!! やるときはやるぜ!! ヒーロー科 緑谷出久!! 対!! ごめんまだ目立つ活躍なし! 普通科 心操人使!!」

 

 中央に立ち、相手を見据える。相手も僕を見ている。ずいぶんと落ち着いた様子だ。すごいなぁ、この大舞台でリラックスできるなんて。

 

 「ルールは簡単。相手を場外へ落とすか行動不能にする、あとは“まいった”とか言わせても勝ちのガチンコだ!! ケガ上等!! 道徳倫理はいったん捨て置け!! だが命にかかわるよーなのはクソだぜ!! ヒーローはヴィランを捕まえる為にこぶしを振るうのだ!!」

 

 「まいった…か」

 

 心操くんが、話しかけてくる。

 

 「わかるかい緑谷出久? これは心の強さを問われる戦い。強く想う将来があるならなりふり構ってちゃダメなんだ」

 

 「レディィィィ…」

 

 「あの猿はプライドがどうとか言ってたけど…」

 

 「START!!!」

 

 「チャンスをドブに捨てるなんてバカだと思わないか」

 

 思わない。

 そして、予想通りの状況だ。

 彼の個性の発動条件は、おそらく“問いかけにこたえること”。それを手っ取り早く満たすには挑発が適している。開幕すぐの挑発は予想できた。

 口を真一文字に結び、ファイティングポーズをとる。

 僕の個性では、場外を狙うにしろまいったと言わせるにしろ、速攻はできない。間合いを詰めて、追い込み、場外を狙うか、まいったと言わせるか…。どちらにしろ近接戦闘に持ち込む必要がある。

 それは、個性が通用しないとわかった相手も同じはず…………?

 …笑っている?

 余裕があるのだろうか。しかし、問いかけにこたえない限り個性は発動しない。彼にしてみれば切り札が最初に封じられたも同然だ。

 僕だったら諦めず挑発する。なぜ、何も言わずたたずんでいるのだろう。

 挑発をあきらめて、格闘戦に応じるつもりなのだろうか。

 だとすれば、その棒立ち姿はおかしい。

 彼は…何を考えているんだ。

 

 

 

 

 

 

 やっぱり通じなかった。

 仕方ないと言えば仕方ない。あの猿のやつに個性を教えられていることは予見されていた。一対一において俺の個性は強くもあり、弱くもある。

 決まれば勝負は一瞬、決まらずとも一瞬。

 相手の固く結んだ口元を見る。今回は後者らしい。

 目元まで隠した長い前髪からちらちらと目が見える。誰が見ても、油断なんてしそうにない目だと答えるだろう。

 詰み、だ。

 思わず笑ってしまう。

 

 「おおっと!? 開幕早々ににらみ合い!! 試合は始まってるぞ!?」

 

 緑谷がにらんでくる。

 そんな目をしなくとも、お前の勝ちだ。力もスピードもない、格闘技もやったことがない俺が、お前に勝つ道理はない。

 人見、言ったとおりになっただろ?

 

 「…何で、何もしないの?」

 

 緑谷!?

 思わず目を見開く。

 

 「やっぱり思った通り、君の問いかけにこたえない限り、個性は発動しないんだね」

 

 …予想はしても、普通ためすか? この大一番で!!

 

 「君に聞きたいことがあったんだ。…なりふり構わない、そう君は言うけど、なんで試合前に僕に個性を使わなかったの?」

 

 …使ったところで、試合開始までにクラスメイトが解いちまうだろ。あの猿とかな。

 

 「なんで構えないの?」

 

 そういうなり、緑谷は俺に肉薄し、服をつかんで身体全体でぶつかってきた。思わぬ力を受けて後ずさる。俺のかかとが場外のラインにかかる。

 

 「ちっ」

 

 「僕があと少し体を押せば君は場外だ。…なんで抵抗しないの」

 

 …。

 

 「“宣戦布告に来た”、君はA組の前でそういった」

 

 …。

 

 「とても今の君から出る言葉じゃない」

 

 …うるせえ。

 

 「君…勝とうって思ってない」

 

 うるせえ。

 

 「君にこの間から何があったか知らないけど、僕は勝つためにここにいる」

 

 うるせえ!

 

 「君はヒーローになりたいんだと、僕は思った。そうじゃないの?」

 

 うるせえ!!

 

 「本気で戦え!!」

 

 「うるせえ!!!」

 

 思わぬ大声が出た。緑谷の手を振り払う。目が合う。まるで見透かされているような気がする。体がカッと熱くなるのを感じた。

 

 「俺はこんな個性のおかげでスタートから遅れちまったよ!! 恵まれた人間にはわかんないだろ!!」

 

 ちくしょう、そんなことを言いたいわけじゃない。

 

 『ヴィラン向きの個性だね』

 

 くそっ!! 思い出すな!!

 

 「誂え向きの個性に生まれて、望む場所へ行けるやつらにはよ!! …っはあ、はあ」

 

 スタジアムに、俺の呼吸音だけが響く。

 誰もしゃべらない。緑谷さえも。…こんな時にも冷静だな、ちくしょう。

 

 「……再びにらみ合い!! これはあれか!? 俺のMC魂に火をつけようってか!? さあさあにらみ合っていても勝負は動かねえぜ!?」

 

 「……僕はもう口を開かない。負けたくないなら…構えろ、…二度は言わない」

 

 くそっ!!

 何なんだよこいつは。本気で戦え!? お前だってさっき俺を押し出していれば勝ってたじゃねえか。

 

 『君…勝とうって思ってない』

 

 うるせえ!! くそ、ああ思ってなかったさ!!

 

 『ヒーローになりたいんじゃないの?』

 

 なりたいさ!! 簡単に言いやがって!!

 ヴィラン向きの個性、そういわれ続けた。俺だってそう思う。

 だけど…、

 

 「俺だって…! ヒーローにあこがれて…!! この場に立ってる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 「言っただろ、人見。負けるって」

 

 やっぱり負けた。

 俺の大ぶりの攻撃は見透かされたように躱されて、あっという間に懐に入られ、腕をつかまれた俺は場外に投げ飛ばされた。

 完敗だ。

 

 「…存外に悔しそうな顔をしてますね、なんでですか? 負けて当たり前、そういってました。予想通りですよね?」

 

 人見が、うつむいた俺をのぞき込んできた。

 

 「負けて悔しくって、何がおかしい」

 

 「そういうものですか。予想が当たることの方がうれしいような気もするんですが…わかんないですね」

 

 「どいてくれ」

 

 人見をおしのけて、控室へ行く。

 無表情な人見を背に、歩く。

 ふと、立ち止まり、振り向いた。人見はまだそこにいた。

 目が合う。

 

 「なんですか? 教えてくれるんですか、なんで悔しいのか?」

 

 「違う。……試合、がんばれよ」

 

 「……なんですか、それ」

 

 「激励だよ。クラスメイトだからな。…お前だってヒーロー目指してるんだろ?」

 

 「…ええ。ありがとうございます」

 

 「じゃあな。簡単に負けるなよ」

 

 「ええ」

 

 簡単に負けちまった俺が言うことじゃねえな。

 一回り小さい奴に投げ飛ばされて、情けねえ。

 …体を鍛えるか。

 

 

 

 

 

 

 「…すいません。失敗しました」

 

 「ふむ。そううまくはいかないか。君にあげた個性はずいぶん使いこなしているようだけど」

 

 「…どうなんでしょう。偽物の記憶がちゃんと馴染んでいるのかどうか、いまいちわかりません。人の頭の中は覗けないですし」

 

 「過去を覗ける君がそれを言うのかい?」

 

 「言ったでしょう、感情まではわからないって」

 

 「人間だって化学反応の産物さ。しかるべき記憶にはしかるべき感情が生まれるだろう」

 

 「できればそれも知りたいんですけど…」

 

 「そうやって感情を知りたがるのは悪い癖だよ、人見知」

 

 「…あなたにはわからないでしょう。朝目が覚めたら自分が自分じゃなくなっているかもしれないという恐怖は」

 

 「忘れてしまうのは感情だけだろう?」

 

 「感情は人格です。明日の私は、違う私になってしまう…!」

 

 「記憶はあるんだろう?」

 

 「どうやったらこれが私の記憶だって保証できるんですか!! ……っ。すいません取り乱しました…」

 

 轟音。

 遅れて観客のコールが聞こえる。

 今は第二試合のはず。決着がついたのか。

 

 「ずいぶんと派手な試合だ」

 

 「ご覧になってるんですか?」

 

 「ああ、TVでね。君……試合は欠場したまえ」

 

 「何ででしょうか」

 

 「目立つのは面倒だ。君には裏方に徹してもらいたいしね…、本当なら予選で敗退しておいてほしかったくらいなんだが、今言ったところで栓無きことだね」

 

 「……」

 

 「どうしたんだい?」

 

 「…いえ。欠場ですね、わかりました」

 

 相手が電話を切ったのを確認し、スマホを置いた。

 

 『お前だってヒーローを目指してるんだろ?』

 

 確かに目指していた、しかしそれは私じゃない…はずだ。

 本当に?

 もしかすると私はヒーロー科編入を目指していた女生徒だったのかもしれない。

 いや、そんなはずはない。

 でも、だとすればなんで。

 欠場を伝えに行くのに、二の足を踏んでいるのだろう。

 こんなにも足が重いのは、なぜなんだろう。

 

 

 

 

 

 

 「会心の爆撃!! 麗日の秘策を堂々正面突破!!」

 

 爆風に遅れて、砕かれたがれきの破片が降ってくる。

 爆風に吹き飛ばされ、麗日さんは倒れこんでいた。体中火傷まみれ、足元もおぼつかない様子だ。

 

 「いいぜ麗日、これからが本番だ」

 

 再び、麗日さんがかっちゃんに立ち向かう…けど。

 

 「はっ、…んのっ…体、いうこと…きかん、はあっ…」

 

 倒れこんだ。

 キャパを超えてたんだ。

 主審のミッドナイト先生が麗日さんに駆け寄る。

 

 「…麗日さん、行動不能。二回戦進出は爆豪くん!」

 

 麗日さんは負けた。

 

 「麗日さん…」

 

 「ああ麗日…うん。爆豪一回戦とっぱ。…さあ気を取り直して、一回戦が一通り終わった!! 小休憩挟んで早速次行くぞー!!」

 

 控室へ行かないと…。

 麗日さんのことは、今は考えないようにしよう。自分のことを、考えないと。

 視線を感じる。

 ゲートへの道から、かっちゃんがこちらへ来ていた。

 うわあ。

 目が合っちゃった。うう…。

 

 「あ、その。…二回戦進出おめでとう。…それだけ」

 

 小走りに、逃げる。

 いや逃げてるわけじゃ、準備を急がないとってだけで。

 まだ視線を感じる。

 

 「おい!」

 

 「な、なに?」

 

 振り返る。相変わらず不機嫌そうな顔だ。

 

 「…勝つのは俺だ」

 

 「え?」

 

 「何度やったって俺が勝つ、それだけだ」

 

 僕に背を向け去っていくかっちゃん。

 

 「…待って!!」

 

 「…」

 

 振り返らず、しかし立ち止まる。

 

 「今度は、僕が勝つ!! …決勝で会おう」

 

 「けっ」

 

 かっちゃんが、角を曲がり見えなくなる。

 ふう、と大きく息を吐く。

 そうさ、今度は負けない。そのためにも次の試合、轟くんにも負けられない!

 控室のドアを開く。

 

 「負けてしまった」

 

 笑っている麗日さんがそこにいた。

 

 「うら、…お茶子ちゃん…」

 

 「最後行けると思って調子乗っちゃった、くっそー…」

 

 「…けがは? 大丈夫?」

 

 「リカバリーされた! 擦り傷とかはまだあるけど。やっぱ爆豪くんつよいね!! もっと頑張らんといかんな私も!!」

 

 …無理してる。

 落ち込まないはずがないんだ。

 

 「今、切島と鉄哲の進出結果が!! さあこれで二回戦進出者が出そろった!! そろそろ始めようか!!」

 

 「もう…!」

 

 「見とるね、頑張ってね出久ちゃん」

 

 にこっと麗日さんがわらう。

 

 「うん、ありがとう」

 

 そういって控室を後にした。

 麗日さんの泣き声が部屋の中から聞こえてくる。

 なにも言葉が出なかった。

 思えば、入試の時も麗日さんは笑ってた。

 全然大丈夫じゃないのに、大丈夫って顔をして。

 今だって、あんな顔して、頑張ってだなんて、僕に言ってくれて…。

 …頑張ろう。

 

 「おぉ、いたいた」

 

 男の人の声。そして視線。

 

 「エンデヴァー…!? なんでここに…」

 

 近くでみると、すごい威圧感…。

 あの目、まるで品定めされているよう…。

 この人が轟くんのお父さん。

 

 「君の活躍見せてもらった。騎馬戦ではウチの焦凍相手になかなかうまく立ち回ったね。あの騎馬の動きの中核をなしたのは…君だと、思ってきたのだよ。個性も関係するのかな…、素晴らしい動きだった」

 

 「…あ、ありがとうございます」

 

 「ウチの焦凍にはオールマイトを超える義務がある。君との試合も、きっと有益なものになるはずだ。くれぐれも、みっともない試合はしないでくれたまえ」

 

 『おまえ、オールマイトに目ぇかけられてるよな』

 

 思い出したのは体育祭前の轟くんの言葉。

 

 「言いたいのはそれだけだ。直前に失礼した」

 

 そういって、彼は去っていった。

 

 

 

 

 

 轟くんは既にリングに上がっていた。

 目を閉じ、精神統一を図っているようだ。

 

 「来たな」

 

 「さあ第二回戦!! 緑谷!! 対 轟!!」

 

 視線を感じる、オールマイトの、エンデヴァーの、そして轟くんの。

 射殺さんほどの視線。

 なぜか彼は左側の個性を戦闘では使わない。瀬呂君との戦いも、右側の氷結だけだった。

 …その使わない理由も、少し想像がつく。

 だけど今は試合に集中しなければ。

 彼の最初の一手は予想がつく。

 氷結だ。

 瀬呂くんの時と同じ。

 しかし、二度も同じことをするだろうか。個性だって身体能力、限度はある。あの出力を繰り返すのはどう見たって無理がある。それにタメも必要なはずだ。

 瀬呂くんとの戦いで、開幕直後に氷結を出さなかったのには理由があるはず。

 なんとかして、あの広範囲攻撃を出す前に止める必要がある。

 そのために…、

 

 「START!!」

 

 気をそらさせる!!

 個性を使って轟くんの個性発動をワンテンポ遅らせ、横っ飛びに氷結を避ける。予想通り、僕めがけて最小限に直線状の氷結が走っていた。

 最小限のタメで、最速の攻撃を仕掛けたのだろう。

 

 「ちっ、厄介だな。一瞬気を散らされる」

 

 轟くんの左へ回り込む。

 轟くん自身の身体が邪魔になって、最短距離では氷結は出せないはず!!

 

 「読まれてるか…」

 

 そしてすかさず接近する!!

 遠距離の攻撃方法を持たない僕は、距離を離されたら負けだ!!

 大規模な氷結を出そうとすれば、それは僕に意識として、視線として伝わる!! そうすれば僕の個性で気を散らさせて、未然に防ぐことはできる。

 轟くんの攻撃をいかに先読みし、防ぐか。

 僕の個性は連続で使うと効果が薄くなる。気を散らしたり、ひきつけたりすることも使いすぎれば、後半が苦しい。

 出来るだけ多く接近戦に持ち込み、そして勝つ!!

 

 「おらあああ!!」

 

 右手を振りかぶる。轟くんが、僕の右手を見る。

 

 「ちっ」

 

 この距離では氷結を出すと逆に自分の行動を制限してしまう、でしょ?

 君は避けるはずだ。

 轟くんが身をかがめる。

 ここだ! 轟くんの襟を右手でつかみ、投げる!!

 場外までは届かない…、しかも咄嗟に氷結を出して体勢まで整えている。

 やっぱり轟くんはつよい。

 個性はもちろんだけど、判断力、身体能力においても秀でている。

 負けられない!!

 

 「まさか俺を投げるとはな!! だがこれで距離が空いたぞ!!」

 

 氷結が走る。

 でも、

 

 「…どこを狙ってるの?」

 

 「ちっ!? 俺は何を…?」

 

 咄嗟の氷結は、明後日の方向に走っていく。

 

 「お前!! 服を脱いで…!」

 

 麗日さんの試合を見て、思いついた。体操服を投げて、視線を誘導する。

 …直前になるまで、やるかどうか踏ん切りがつかなかったけど。…恥ずかしいし。

 けど、そんなことは言ってられない!!

 再び近づいた!

 

 「近づきゃ勝てるとでも」

 

 「勝てるさ!!」

 

 轟くんの振りかぶる右手を、身をひるがえし躱す。

 回転した勢いで、そのまま蹴りつける!!

 

 「ぐっ、……っ!!」

 

 蹴りを受け、ふらつきながら後ろへ下がる轟くん。

 右手を伸ばした。

 

 「そんな苦し紛れの氷結なんて、届かない!!」

 

 走って避ける。

 常に移動し続ける、速度を失わず、機動力を保つ。

 轟くんのペースにはさせない。

 このまま押して押して押しまくる!!

 

 「…ふう」

 

 右手を再び伸ばしてくる。

 届かないってさっき言った…、

 

 「厄介だな。先読みされてるのか、攻撃が外される、届かねえ。でも…」

 

 まずい!!

 

 「読めても、どうしようもない範囲で攻撃すれば…」

 

 開き直って、攻撃のタメを…!!

 気を散らしても、そらしても僕に届くほどの規模を出すつもりだ!!

 

 「やっぱり俺が何をするか、わかってるみたいだな。…だが」

 

 あとすこし手が届く。

 先に攻撃を…!!

 

 「遅え」

 

 ズン、と大気が震える音。

 リングは真っ白に染まった。瀬呂くんの時以上の範囲の氷結。

 ピンと伸びた僕の右腕は、こぶしは、彼に届かなかった。僕のこぶしよりも早く、僕の左腕は彼の氷結にとらえられてしまった。

 

 「腕一本だけか…、これだけの規模で氷漬けて、そこまで避けきるなんてな」

 

 力を入れるが、きしむような音と共に激痛が走る。

 

 「やめとけ、皮がはがれるぞ」

 

 服を脱いだせいで、表皮を直接氷結が覆っている。彼の言う通り、無理に動かせば、左腕は…。

 

 「悪かったな、ありがとう緑谷。おかげで…奴の顔が曇った」

 

 …。

 凍らされているというのに、激痛で脂汗が出る。

 

 「勝負あっただろ、…終わりにしよう」

 

 氷結を、また出すつもりだろ。

 全身を凍らせて、完全勝利、そうするつもりだろ。

 させない。

 氷結が走るよりも、早く!!

 

 「ぐっ!? な、なにを…お前!」

 

 僕のこぶしが、彼の顔をとらえた。

 

 「…どこを見てるんだ!」

 

 たたらを踏み、下がる轟くん。頬が血に染まっている。

 僕を見て、目を見開いた。

 

 「緑谷…お前…」

 

 「く、あ…!! 皮がはがれた程度で、何を驚いているんだ!! ……!!」

 

 すっごく痛い。

 気を失いそうだ。皮どころか、肉までそがれてる。

 

 「正気か…?」

 

 「轟くんこそ…!! 気は確かなの?」

 

 「何を…」

 

 「君がいま!! 戦っているのはエンデヴァーでもオールマイトでもない!! 僕だ!! …っ!」

 

 「…」

 

 「僕を見ろ!!」

 

 「何を言うかと思えば…」

 

 「そうやってよそ見をするから、パンチをもらうんだよ!! よそ見している君なんて、余裕だって言ってるんだ!! 今の君の全力が半分だっていうなら、それでいい。でも…この場に立ったからには、全力で!! 僕と戦え!!」

 

 「イラつくな……!!」

 

 轟くんが突っ込んでくる。

 なんで、自分から近接に…。冷静さを欠いている?

 何にしても…、

 

 「舐めるな!!!」

 

 思いっきり低い姿勢でつっこむ。

 轟くんも、今更僕がこんな速度出せると思ってなかったみたいだ。

 懐に入り込んで、そのまま顎に頭突きする。

 

 「っぐ!?」

 

 左手で殴る。

 

 「こんな血だらけの腕で、力が入るわけねえだろ!!」

 

 右手で簡単につかまれる…と同時に凍らされる。

 

 「ぐあ!! …っそんな傷だらけの腕に、集中していいの?」

 

 左手はおとり!! 右手が本命!!

 

 「うぐっ」

 

 轟くんを殴り飛ばす。

 

 「ぐうううっ!!」

 

 追撃したいが、ふらつく。激痛のせいで視点が定まらない。

 左腕は完全に凍らされていた。血がところどころから染み出て、足元に滴っている。

 もう左腕は感覚もない。痛みしか感じない。

 意識が飛びそうだ。

 

 「…なんでそこまで」

 

 轟くんの声。

 

 「期待にこたえたいんだ…!! 一番になって、あの人に示したいんだ!! 君にだって負けないくらい強い決心で、ここにいるんだ!!」

 

 氷結を、出そうとする。しかし遅い。

 予想通り、氷結は長い時間使うと彼自身も冷気に耐え切れなくなるんだ。

 動きが鈍い。

 がむしゃらにつっこんで、右手で殴る。

 

 「僕は!! プロヒーローになる!! 胸を張ってあの人に会えるようなヒーローに!! 全力を出さないなら、僕は君を超えて、先に行く!!」

 

 痛みでぎりぎり保った意識で、轟くんに向けて走る。

 

 

 

 

 

 

 くそ、体が動かねえ。

 

 「僕は!! プロヒーローになる!! 胸を張ってあの人に会えるようなヒーローに!! 全力を出さないなら、僕は君を超えて、先に行く!!」

 

 俺よりも、ボロボロだっていうのに、なんなんだこいつは。まだ俺に向かってくる。

 全力は出してる。

 これが俺の全力だ。

 氷結を出すが、もう大出力は出せねえ。

 

 「この程度でとめられねぇか」

 

 相手も体力がわずかで、躱し切れてねえが、こっちもとらえきれねえ。

 当たりはするが、拘束できるほどには至らねえ。

 そしてあいつは、皮がはがれようが躊躇なく向かってくる!!

 

 「ぐうっ!!」

 

 右ストレート。だが、ガードはできる。

 このパンチの代償に、やつはまた体を凍りつかされた。

 でも、まだ、向かってくる。

 体中凍傷のはずだ。氷を無理矢理引っぺがしたせいで肌が出ているところは血だらけだ。それなのに、あきらめない。氷結だけじゃこいつは…。

 くそッ!!

 親父の力なんて、絶対に…、

 

 「親父を…」

 

 「君の力だろ!! …うっ…!」

 

 俺の力…?

 

 『嫌だよ、お母さん…僕、お父さんみたいになりたくない…、お母さんをいじめる人になんて…なりたくない』

 

 『でもヒーローにはなりたいんでしょ? いいのよおまえは血に囚われることなんかない。なりたい自分になっていいんだよ』

 

 なりたい自分。

 俺は……。

 緑谷が駆けてくる。

 あんなけがをして、まだ駆ける力が…!!

 相変わらず、左側に回り込んで、なおこぶしを振りかざして…。

 緑谷…俺は…、この力を。

 …!?

 突き出した俺の左手が、触れるより前に、緑谷は倒れた。

 ふるったこぶしの勢いのままに、緑谷は突っ伏した。

 

 「ぼく…は、…まだ…、おーるまい、とに、みせな、きゃ…」

 

 俺は、いま左を…。

 緑谷、俺は…。

 …。

 ありがとう、緑谷。

 そして、すまねえ。

 

 「…緑谷さん、行動不能。三回戦進出は轟くん!!」

 




「僕を見ろ」
「きゃー出久ちゃん大胆」
「服を脱いで、見ろって緑谷ァ、やべえって、オイラを誘ってるよ」
「峰田ちゃん、ダメよ」
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