…冷たい風が頬を撫でるように吹く。12月の夜は昼間と比べて格段に気温が下がるものだ。
俺は高層ビルの屋上から街を見下ろすように見た。蛍光灯に照らされた街を車が目まぐるしく走っている。
時刻は午後8時35分といったところ。いつ買ったのかは忘れたが、使い古された左手の腕時計の針がそう示していた。
何故、俺がこんな所で立っているのか…理由はこれから自殺を決行するためだ。
俺がこれを行う動機は以下の通りだ。
まず、俺は人間の立場からすると大富豪や政治家などではなく、貧相なそれも底辺中の底辺の人間だ。それも原因は俺の両親にあった。
しばらくして、俺の父が多額の借金を背負うことになり貯金のほとんどが消し飛んでしまった。そこから俺が過ごしていた日々が崩壊し初めた。心優しく俺に夢を語っていた父が今や働かず毎日酒に酔い、母は低収入の職に就き生活を何とか維持しようとしていた。
毎日が父の怒鳴り声と母の泣く声が俺の両耳に響いていた。
また、高校では俺の性格や俺の父の借金の話を知っているのか、それをネタに虐められた。まぁ家の前に直々借金取りが押し寄せてくるから俺の住む街では悪い意味で有名らしい。そして挙句の果てに担任の教師は知らないふりときた。
それから俺は不登校という形で学校に行かず、働く母の代わりに家事を行っていた。
夫婦喧嘩や学校での虐めにより、俺の居場所は無くなっていた…しかし、唯一の心の寄所があった。それは、俺の家の左隣の家の知り合いのおばさんだった。そのおばさんは俺の母と仲が良く、俺もよくお世話になっていた。家族喧嘩や虐めで傷ついた俺をおばさんは慰め、相談に乗ってくれた上に、おこづかいも貰ってしまうこともあった。
いっそのことこの人の養子にでもなれたらと何度も願っていた。でも、世界は俺から唯一の心の在処を奪ってしまった…。
おばさんが乗った自転車に赤信号を無視して走ってきた車が衝突した。
…即死らしい。そりゃあ、ヘルメットなしのほぼ無防備の状態で横から鉄の塊が高速でぶつかってくればそうなるよと医師は言っていた。
どうして、おばさんなんだ?どうして俺はこんなにも不幸なんだ?こうなるんだったら生まれて来なければ良かった。
せっかく俺を産んでくれた母に申し訳ないがそう思わずにはいられなかった。
心のよりどころが完全に無くなってしまった今、俺に生きようと思う気持ちは微塵も無くなっていた。
だから今自殺を決行しようとしているのだ。
そして、俺はビルの端に立った。…瞬間、バキッと何かが折れる音がしたと同時に俺の身体は重力に引っ張られるかのごとく、高層ビルから真っ逆さまに落ちていく。きっとあそこは、修理工事をしていた箇所なのだろう。夜で蛍光灯の光があったといえど暗かったので気づかなかった、でもこれはこれで好都合だ。いざ、飛ぶとなると怖くて飛べずに終わるかもしれなかったからだ。
人間って死んだらどうなるのだろうか?ふと幼少期の頃から抱いていた疑問が蘇った。天国や地獄なんて、死後の世界を信じてはいないけど、もしあるのなら、天国のおばさんに会ってまた慰めてもらいたいな…
そして…短い時の中で働いていた思考と意識が一瞬にしてブラックアウトした。
俺、天童駆の短い人生の終幕であった。
…To be continued
まだ、東方や、バトスピ要素は出ておりませんが、後に出していこうと思います!