赤い弓兵に成り代わり、ファンタジー世界で第二の人生を 作:松虫
私、神崎涼香は、本日死んだ。
覚えている最期の記憶は、ボールを追って道路へ飛び出した男の子を突き飛ばし、彼の身代わりの如く車に跳ね飛ばされた所までだ。
全身に走った衝撃と痛みに、当然ながら意識を持っていかれ。
(あ、これ死んだ)
確定事項である。それ程の勢いだったのだ。
なのに、何故か。どういうわけか、私の意識は再び戻ってきた。
目を開けた先の光景はーーーーーー
「・・・・・・も、森?」
思わず発した言葉、その声に、私は強烈な違和感を感じた。
低いのだ。声が物凄く。
いや、元々私は周りの女の子達よりも、声は低めだった。
しかし、女の子の『低い声』と、今私が発したであろう声の低さと、まるで違う。
これは男の声だ。しかも、聴き覚えのある、とても良い声。
「・・・・・・あー、あー、テステス・・・・・・嘘だろ・・・・・・」
もう一度、声を出して確認する。よし低い。そしてかっこいい。
呆然と、私は目の前を覆う樹木と、その隙間から見える青空を見つめた。よし、とにかく立ち上がろう。
仰向けにひっくり返っていた状態から、私はむくりと立ち上がった。
そして、身体を見下ろして絶句する。
「な、何だ・・・・・・これは・・・・・・!?」
この服装を、私は嫌というほど知っている。
特徴的な赤い外套、これは、あのキャラクターのものだ。
無意識に自分の両掌を見てみる。その色は褐色、そしてがっちりした男の手。
「アーチャー・・・・・・?」
私はこの姿をした人物の名を、ぽつりと呟いた。
最近、遅めながら友人に勧められて読んだ漫画ーーfate/stay nightに登場する赤き弓兵の名を。
「な、何故私が・・・この姿に・・・?一体何が起きている、夢かこれは!?」
口調も、しっかり変わっている。もともと女の子らしい口調でもなかった私だが・・・・・・いやいや、そういう問題じゃないか。
一頻りパニックになって、頬を引っ張ってみたり、木の幹に額をぶつけてみたり(かなり痛かった)したわけだが、どうにかこれが夢ではなく、紛うことなき現実であることを認める。
「・・・さて、これからどうしたものか」
『あの・・・すみません。今大丈夫ですか?』
辺りは壮大な緑一色、現在地の手がかりなし、聞き込みをしようにも、人っ子一人見当たらない。
完全に「詰んだ」状況に、途方に暮れていたとき、いきなり頭の中に子供の声が響いた。
「っ・・・!?誰だ!」
脳内に直接声が響くというのは、正直物凄く気持ち悪い感覚である。
思わず頭を片手で押さえ、私は警戒心MAXで叫んだ、
『ご・・・ごめんなさい、まだ上手く調整がとれないみたいです。少し我慢して頂けますか。すぐに貴方に周波を合わせますので・・・・・・』
謎の声は申し訳なさそうに謝り、暫しの沈黙後、再び語り出す。
『これでどうでしょう。気持ち悪さはありますか?』
「いや、だいぶクリアに聞こえる。問題ない」
かなり聞きやすくなったので、続きを促すように私はその場に腰を降ろした。
「それで?君は一体何者かね」
謎の声は一瞬、躊躇うように間を開けたが、すぐに私の質問に答えた。
『僕は・・・今貴方のいる世界の神だったものです。その世界の任期を終え、僕はとある別世界に転生しました。新島 悠一、それが今の僕の名前です。そして・・・・・・貴方に命を救われた子供です、神崎 涼香さん』
「・・・・・・・・・は?」
ああ、私はこの短い間に、何度絶句すればいいんだろう。
堰を切ったように話し出す神様の声を呆然と聞きながら、私はぼんやりとそう思ったのだった。
とりあえず、神様の話を要約すると。
曰く、この世界の神は、赴任期間が決まっており、任期を終えると別世界に転生し、様々な経験を積むことで神としての格を上げることが出来る。
曰く、この神様・・・・・・あー、面倒だから新島少年と呼ぼうか。新島少年は、咄嗟に私の魂をこちらの世界に転移させたのはいいが、身体の方は跳ねられ何処ぞに打ち付けられた衝撃でグッシャリと潰れ、とても使えるものではなかったらしい。
彼自身も私の顔なんて覚えてなかったため、仕方なしに私の記憶を読み、一番印象深い人物の姿を私の身体として造り上げたらしい。
ちなみに何故この性別にしたのか聞けば、パニックになってつい、との事だった。
「それが、今の私の姿というわけか」
『はい・・・・・・その、本当に申し訳ありません。何とお詫びすればいいか・・・・・・』
今にも泣き出しそうなその声に、私はふう、とため息を付く。
「・・・・・・君は無事だったのかね、新島少年」
『え・・・・・・?』
「怪我は?痛みのある所は?」
今ここで、彼の顔を見ることが出来るなら、大層間抜けな顔をしているだろう。私は薄らと笑う。
『い、いえ、僕は・・・・・・無傷です。何処も怪我してません』
「そうか・・・・・・なら、私は構わない」
何せ、私は身寄りがない。両親は私が幼稚園の時に交通事故で二人共亡くなってしまった。
死ぬまでの間、叔母夫婦のお世話になっていたが、どうも折り合いが悪く、高校を卒業したら就職して、独り暮らしを始めようかと思っていたところだ。
「正直、あの家から解放されてありがたく思っているよ。それに、死んだというのにもう一度人生をやり直す機会を貰った」
だから、あまり気に病まないで欲しい、と私は新島少年に告げた。
向こうは言葉を無くしたのか、今までで一番長い沈黙が返ってきた。
『な・・・・・・何て・・・・・・何て心の広い方でしょう・・・・・・うぅ・・・・・・ぼ、僕は取り返しのつかないことをしてしまったというのに・・・・・・ひっく、こんな言葉を・・・かけていただけるなんて・・・・・・!』
やがて聞こえてきたのは、嗚咽混じりの、しゃくり上げる新島少年の声だ。
「い、いや、何もそんな泣かなくても・・・・・・」
『泣きます!泣きますよ!ええ、泣かずにおられましょうか!?』
雛鳥のように泣きながら、新島少年は力強く言い放つ。
『決めました。僕、貴方に一つ贈り物をしたいと思います』
すびび、と鼻をすすり、新島少年は唐突にそんなことを言い出した。
何か胸騒ぎがするような、しないような。
「贈り物・・・・・・?」
『はい。僕は貴方の身体を造る時、出来るだけその身体のモデルになった方と同じ能力を付与しました。体力や精神力・・・・・・あらゆる能力を、そっくりそのまま。つまり、その方の宝具とやらも、貴方は使うことができます』
なん・・・・・・だと・・・・・・!? あれが使えるのか、『無限の剣製(アンリミテッド・ブレイドワークス)』が!?
それだけでも感激ものなのに、さらなる驚きを新島少年はもたらす。
『僕が貴方に贈る「力」は・・・他の方の宝具も、使用可能にする力です。例えば、ゲイ・ボルグとか、破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)とか』
「なにそれ凄い」
『Fate/Grand Orderでしたっけ?そこで見た宝具は全て使用可能にしておきました!』
「神様容赦ない」
どどん、と効果音が付きそうなくらいのドヤ声で言い放つ新島少年に、私は乾いた半笑いでユルいツッコミを入れる。
『ちなみに、剣以外の物を創り出しても、威力は落ちませんからね?元・主神の威厳にかけて、そんな半端な贈り物は出来ませんから』
わーお、投影魔術の弱味まで克服済みなのか。
「いやいやいや、幾ら何でも多すぎだろう。私には、そんなに宝具を撃ちまくれる程の魔力はないと思うんだが・・・・・・」
『それは大丈夫です。今魔力保有量をぐぐーんと底上げしたので』
「仕事が早すぎやしないかね!?」
すかさずつっこむ。ちょっと待て、何だそのチートっぷりは。新島少年、君は私に人間兵器にでもなれと言うのか。
『あ、すみません・・・・・・そろそろ時間切れのようです。一度にこうして元の世界と話せる時間は決まっておりまして。後の細かいことは、僕の眷属に聞いてください。では、良い人生を!』
「眷属?あ、待て、おい!」
爽やかなさよならの言葉と共に、プツッ、と新島少年との通信は途絶えてしまった。
一番肝心なこと、ここはどういう世界なのかを聞き損なってしまったが・・・・・・眷属、とはどういうことだろう。
私はよっこらせー、と立ち上がり、ガリガリと頭を掻いた。
仕方ない、少し辺りを彷徨いてみるか、と足を進めようとしたその時、目の前にぴゅーんと青く輝く何かが降りてきた。
「おお、見つけましたぞ!貴方様がアリステア様の仰られていた、赤服の弓兵殿!」
体調は約20センチ程、エメラルドのような瞳に、キラキラとメタリックなブルーの鱗が眩しい「それ」は。
「・・・・・・神様の次は、仔ドラゴンか」
なるほど何となく分かった。この世界のことが、ふわっと。分かったというより、察したというのかな。
「むむ、ワタクシ子供ではございませぬ。ワタクシ達フェアリードラゴンは、これ位で一人前の大きさなのです。そして、この世界の元・主神、アリステア様の眷属にございます!」
心外だと言わんばかりに、仔ドラゴン改めフェアリードラゴンはキィキィと喚いた。口からはゆらり、と青い炎が漏れている。
「これは失礼した。何分、いきなりこんな世界に連れてこられてしまって、色々と知識不足でね」
私は急いで謝った。火でも吹かれたらやばい。
というか、新島少年の神様名はアリステアというのか。今度通信が来たら呼んでやろう。
「よろしゅうございます。聞けば弓兵殿は、今アリステア様がご修行されている世界の方だとか。それでは何も知らぬのも無理のないことでございましょう」
フェアリードラゴンは、小さな胸をどどんと張ってみせる。ちょっと可愛い。
「アリステア様から勅命承りました、ワタクシの名はラピッドと申します。今この時より、ワタクシは貴方様の『 導きの矢』となりましょう。幾久しく、お側でお仕えいたします」
ふむふむ、要するにナビゲーション役兼マスコットキャラ要員か。幾久しく・・・・・・幾久しく!?
「君、いやラピッドといったかね?幾久しくとはどういうことだ?」
ラピッドの小さな手と握手を交わしながら、私は彼(声の感じからして多分オスだろう)に問いかけた。
「言葉の意味のままでございます。ワタクシはアリステア様より、こちらの世界に不慣れな貴方様を導くよう、命を受けてきたのです。当然ながら、身の回りのお世話もいたしますとも!」
ええー・・・・・・そんな突然こんな右も左も分からない、どこの馬の骨とも知らない変な奴の面倒見ろとかどんなブラック案件なんだ。
私の困惑したような様子に気がついたしく、ラピッドは途端悲しげな顔をする。
「あの・・・ワタクシ、もしやお邪魔でございますか?ワタクシのような者に、付き纏われるのは、お嫌でしょうか」
「いや違う、断じて違う!可愛いから万事OKだ!」
きゅぅーん、とでも鳴きそうな雰囲気に、私は両手でラピッドの脇を抱えて、高い高いをするように持ち上げた。
「私が気にしているのは、君の残りの人生(竜生?)のことだよ。私に付きっきりでは、君のこれからしたかった事や見たかったものや・・・・・・そんなことが出来なくなってしまうのでは、と危惧したのだ」
私の言葉を聞き、ラピッドはエメラルドの目を真ん丸にしてみせた。
「とんでもございません!恥ずかしながらワタクシ、今まで誰かにお仕えするばかりで、外の世界というものをじっくり見たことがなかったのです。今回、アリステア様より命を頂き、外の世界を貴方様と見ることができるようになりましたので、とっても嬉しいのです」
パタパタと薄い羽根を羽ばたかせ、ラピッドは楽しげに、歌うように言う。尊い。
「そこまで無条件に信用してもらって、こちらとしては嬉しい限りだが・・・私が、もし悪人だったりしたらどうするつもりかね」
苦笑する私をみて、ラピッドはずばっと一言。
「貴方様が悪人であれば、アリステア様がこちらに連れてくる筈がありません」
「・・・・・・そ、そうか」
即答された。暗にお前はいい奴だと言われて、背中がむず痒い。
「あー、とにかく場所を移動しようか。さすがにこの場所はもう飽きてしまったよ。道すがら、色々話してくれるかね」
私はラピッドを離すとようやくこの緑の空間から、一歩踏み出せたのだった。
やってしまった。
テキトーに続くかも・・・・・・?