赤い弓兵に成り代わり、ファンタジー世界で第二の人生を 作:松虫
あれから数日、私達は地道に依頼をこなす日々を送っていた。
稀に、Fランクでもスライムやワームなんかの討伐系の依頼が来たりするんだが、そういうものは超・人気で希望者が殺到する。
そういうのは面倒くさそうなので、地味な依頼をどんどん消化していった。
自分で言うのはなんだが、真面目かつ丁寧な仕事ぶりが幸いしてか、たまにご指名がはいるようになったのは喜ばしい。
基本、依頼主はおじいちゃん・おばあちゃんや子供達が多いのだが・・・冒険者であるというのを時々忘れそうになる。
いっそ職業変えるか、「万事屋アチャさん」とか?
・・・・・・というボケはスルーして、私には一つ、気がかりになることがあった。
言わずもがな、新島少年の「お告げ」である。
あの満月の日から数えて九日目の夜、町を散歩するといいものが拾える、とのことだ。
依頼を受けて忙しくしていると、日なんてあっという間に過ぎていく。今日がその九日目だった。
何となく一人で行動したかったので、ラフィールはもちろん、ラピッドにも内緒にしてある。
その日も依頼をたっぷりこなして、風呂と夕飯を済ませ、歯を磨いて(馬毛の歯ブラシはいいぞ)ベッドに入り込んだ。
二人が完全に寝付くまで、寝たフリをするのは大変だったが、疲れからか寝息が聞こえ出す。
それを確認し、私はベッドから身を起こした。
いつものスタイルに着替えて、そーっと窓から屋根によじ登る。
満月ほど明るくはないが、鷹の目の私には問題ない。
「うむ、いい天気だ。快晴だな」
雲一つない夜空に、下弦の月が美しい。
せっかくなので、忍者のように屋根伝いに飛びながら移動してみる。
ひやりと澄んだ夜風を浴びて、人っ子一人いない町を飛び回る。ヤベ、これテンション上がるわー。
ひらひらと外套の裾を棚引かせ、私はお告げのことなんて忘れてご機嫌に散歩を楽しんだ。
「ああ、ここはよく月が見えるな」
とある教会の屋根の上に立ち、私は遮るもののない空を楽しんだ。
その時、急に立ちくらみような、目眩のような感覚が私を襲う。
堪らず膝を付き、目を閉じて揺れる視界を抑えようとする。
瞼の内側に、スパークするように霞がかった映像のようなものが断片的に流れ込んできた。
暗く狭い、不衛生な檻。手足と首を拘束する鎖、激しい痺れと痛み、焼ける感覚は感電したかのよう。
何だこれは。何なんだこれは!?
混乱した頭のまま、とにかく目を開けてみるが、不可思議なビジョンは続く。
散々痛めつけられた身体を引き摺り起こされ、何処かに連れていかれようとするのを、一瞬の隙をついて噛み付き、引っ掻き、必死に走る。
バラバラになりそうな激痛を堪え、駆けて、駆けて、駆けて・・・・・・遂に限界を迎え倒れ伏したのは。
「この・・・教会の、裏・・・?」
冷汗を拭って、またぐらつく頭を片手で支えた。
ようやく景色が戻ってきたが、さっきのあれは・・・誰かの記憶、だったのか?
私は屋根から、この教会を見下ろした。
行こう。行かなければならない。きっと、これがお告げの正体だ。
私は屋根を蹴り、宙に身を踊らせた。
冷たい風に全身を包まれ、落下する感覚が私の意識を少しはっきりさせる。
落ちていく中、ワイヤーを投影すると、狙いを定めてぶん投げた。
ガキン、と鍵爪の部分が何処ぞに引っかかり、がくんと落ちるのが止まった。
腕に全体重とその他諸々がかかったが、そこは腕力をもって捩じ伏せる。
筋力Dだってなぁ、やる時はやるんだぞ!
壁に両足を付け、とんとんとリズムよく下へと降りていく。よっと、着地成功。
ワイヤーを消して、先程見たビジョンを思い出す。
教会の裏・・・あれだ、よくホラーゲームとかだと墓地だったりするんだよな。
んで、ゾンビとかクリーチャーとか出てくんの。アレって、何で出てくる雰囲気とかわかってるのに毎回ビビるんだろ・・・?
最早教会=恐怖ポイントってイメージしかないんだが。
足早に、ビジョンで見た通りの景色を探す。
誰かが倒れたのは、苔むした小振りな古い天使像の裏側。
右手に書物を、左手にランタンを持った像だ。
月明かりを頼りに歩いていくと、案の定墓地に辿り着いた。
しんとした静寂が、物凄くホラー感を漂わせている。
・・・・・・ラピッド連れてきたら良かった。普通に怖い。
ゴクリ、固唾をのんで、私は陰鬱な空気のする墓地に足を踏み入れる。
多分、探し人はこの奥にいるはず。囁くのよ、私のゴーストが。
サクサクと土を踏みしめて、私は行く。白い十字架の列を通り抜け、黒い墓石を横切って。
だが、あの天使像がどうしても見つからない。
「というか、広すぎるだろうここ。一体何処にあるんだ・・・・・・・・・!?」
私がそうボヤいたその時、とんとん、と肩を
ビクッと肩が飛び跳ね、息を呑みながら私は勢いよく振り向いた。そして、上がりそうになる悲鳴を、全身全霊を持って呑み込む。
「て、手首・・・!?」
そう。目の前には、半透明な白い手首だけがふわふわと浮いていた。
完全に思考がフリーズし、私はぽかーんと手首を眺める。人間、あんまり驚き過ぎると脳みそが停止するらしい。
しばし廃人のように、手首と見つめあっていると。
「・・・え?あ、三本?」
指を三本立てた手首が、ひらひらと目の前で動く。まるで、これ何本かわかる?と言うように。
素直に本数を答えれば、ぱちぱちと拍手する手首。
どうやら悪意は無いらしい。
「あー・・・すまない。初めて幽霊を見るもので、思考が止まってしまったようだ」
手首に声をかけると、掌が左右に交差して動く。
これは、別に構わないよ、との事だろうか。
「少し聞きたいのだが、最近ここに誰か入ってこなかっただろうか。いや、死人ではなく、生きているモノなんだが」
手首は少し考えるように宙を浮いていたが、やがて何事か思い出したのか、握り拳を掌にポン、と打ち付ける。
そして、人差し指がとある方向を指し示した。
「こっちか。ありがとう、行ってみよう。そうだ・・・お礼に、これを。トレース・オン」
私が投影したのは、日本の伝統工芸「水引」で作られた一輪の薔薇だった。
手首の細さからして、これは女性の手ではないかと思ったからだ。
「どうか受け取ってほしい。私にとって、とても有力な情報だった」
薔薇をおずおずと受け取った手首は、喜ぶようにそれにそっと触れている。
「それでは、私はこれで」
バイバイ、と手を振る手首に、私も片手をあげて応えながら、教えて貰った方向に足を進めた。
思いがけぬ情報を貰って、私は足早に墓地を進む。
十分ほど歩くと、目の前にあの天使像が姿を現した。右手に書物、左手にランタン。間違いない、あれだ。
急いで駆け寄り、像の裏側に回り込み・・・私は絶句した。
「お、狼・・・!?」
傷付き血にまみれ、泥だらけの身体を横たわらせた狼が、そこにいた。
毛色は・・・恐らく白だろうが、汚れに汚れて灰色になってしまっている。
目を閉じ、半分程開けた口からはだらりと舌が出て、一見死体のようだ。
だが、微かに動く胸から、この狼がまだ生きていることが分かった。
とにかく、何とかしてやらないと。
私は狼に駆け寄り、その身体に触れようとしたその時。
カッと開いた眼が私を捉え、伸ばした私の腕は、鋭利な牙の生えた口にがっつりと噛みつかれていた。
「うッ・・・・・・!!」
ギリギリと喰い締められ、激痛が走る。
見開いた狼の目は、燃えるような真紅。その目が、憤怒の炎で光るよう。
牙が徐々に喰い込む感覚は、そりゃもうえげつない。
しかし、私は耐えた。必死に耐えた。ボタボタと傷から血が流れ、地面を濡らすのを、歯を噛み締めて見る。
敵意はない、それを分かってもらうのには、たとえ噛みつかれても静かに、じっとしているのがいい・・・と思う。
「大丈夫だ、怖くない」
風の谷の青い姫様の言葉を借りて、私は狼に語りかける。
「君の怪我を治したい。それだけだ。それ以外は何もしない。何なら、このまま君を運んでもいい。少しでも私が怪しい真似をしたら、腕を喰い千切ってくれてもいいさ」
さしずめ、今の私はフェンリルに腕を差し出すテュールと同じ状態だ。
というか、私の場合早くも腕が千切れそうな程痛いんだが・・・・・・。
狼は恐ろしい唸り声を上げていたが、私の言葉が分かったのか、顎の力を少し緩めてくれた。
そのまま、腕を離すべきか悩んでいるらしい。
「身体が辛いだろう。そのまま噛み付いてもいいが、腕を動かしても?」
狼は唸り、口を軽く開けた。
私は一度腕を抜くと、触るぞ、と言って狼を抱え上げた。途端、ビシッと緊張で固まる狼の身体に、酷く悲しい気持ちになる。
狼は未だ警戒を解かずに、今度は私の二の腕に牙を起てた。
なるほど、私の「喰い千切ってもいい」を覚えてるのか。
「いい子だ。少し揺れるが、辛抱してくれ。私の仲間のヒーラーのところまで連れていこう。私は治癒術が使えないのでね」
ラフィールには悪いが、頼れるのは彼しかいない。
私は地を蹴り、全速力で宿へと疾走した。
~ラフィール視点~
深くて心地良い眠りから、僕は急激な覚醒を余儀なくされた。
僕の名を呼ぶ声と、ガクガク肩を揺さぶられる肩の振動が原因だ。
「ラフィール君、起きてくれ!急患だ、君しか頼れない!」
師匠の焦りを含んだ声に、僕は慌てて飛び起きた。
「ど、どうしたんですか師匠・・・って、それ何!?」
目の前の師匠の姿に、我が目を疑う。何故なら、師匠は胸にボロ雑巾のような狼を抱えていたのだ。
しかも、師匠の片腕は噛み付かれたのか、血塗れだ。
そして狼の口は、更に二の腕辺りを噛んでいた。
「二箇所も噛まれて何やってんですか!?早く離さないと・・・」
「私の事は後回しだ!先にこいつを頼む、早く!」
狼に腕を噛み付かせたまま真剣な顔で師匠は叫ぶ。
急いで僕はベッドのかけ毛布を退かせ、狼を寝かせるスペースを作った。
宿の人には悪いが、後でちゃんとシーツを洗うので堪えてもらおう。
「ラフィール様、確かにこの狼、生きてるのが不思議な程弱っております。アーチャー様の怪我も酷いものですが、この狼とは比べ物になりません。とりあえず、
ラピッドが僕の肩に留まり、重々しい声で言った。
状況は全く分からないが、今僕がしなくてはならないことは、目の前の怪我を治すことだ。
「大丈夫だと思います・・・もし、無理なら」
「ワタクシが力添え致しましょう」
ラピッドの頼もしい言葉を貰い、僕は頷いた。
寝間着のまま、立てかけてあった杖を握る。
精神を落ち着かせるように、深呼吸を数回、体内を巡る魔力に意識を集中させた。
かなり酷い怪我だ、魔力の密度を出来るだけ濃くする。
「癒せ、その傷。癒せ、その苦しみ。母なりし大地よ、祓え、清めよ、かの身を苛む全ての穢れを!
魔力のコントロールは得意分野だ。
僕はありったけの魔力を込めて、治癒魔法を放った。
翡翠色の光が、暖かな奔流となって狼の身体を包み込んでいく。
中級治癒まで行くと、それなりに大きな怪我でもかなりの速度で治る。
だが、この狼の怪我はなかなか治りにくかった。
何かおかしい。何かに邪魔されてるような・・・妙な抵抗を感じる。
「何だ・・・これ・・・?」
僕の呟きを、ラピッドが拾う。
「どうかしましたか、ラフィール様」
「何か、おかしいんです。治癒魔法が、身体に入りにくいというか・・・何かが邪魔してるような感じがして」
ラピッドはエメラルドグリーンの目を見開いて、狼の身体をくまなく観察しているようだ。
「ふむ、やはり違和感の元はここですか。もし、ちょっと失礼致しますよ?」
小さな手が、狼の汚れた首周りの毛をかき分ける。
そこには、何やら痛々しい焼印が押されているではないか。
しかも、ただの焼印じゃない。
「これ、凄く嫌な感じがします。何なんですか、この焼印」
ラピッドは顔を顰めて、吐き捨てるように言った。
「呪い、でございますよ。これのせいで、ラフィール様の治癒魔法が効きにくいのです」
呪い・・・・・・初めて見た、これがそうなんだ。
僕は一度治癒魔法を止めた。まずは、この焼印を何とかしないといけないと思ったからだ。
「これはワタクシの考えなのですが。この狼、
「し、商品?」
どういうこと?と話についていけずにいると、今まで僕達の様子を見ていた師匠が口を開いた。
「奴隷、かね」
はい、と頷くラピッドに、師匠は深い溜息をついた。
「奴隷って・・・この狼が?でも、ラピッド!確かルーンベルグの奴隷制度って、犯罪奴隷か借金奴隷だけでしょう。狼がどうやってそれに当てはまるんですか」
いくら凶暴な狼だからって、奴隷にはならないと思うんだけど。
そんな僕に、ラピッドが言う。
「ただの狼ならば奴隷になんぞなりませんよ。お忘れですか、この世界に住まう、人間以外の種族のことを」
「・・・・・・あっ!?スタンフィールド!」
失念していた。でも、僕の中のスタンフィールドの人達のイメージは、ギルドにいてるマリーナさんだ。
獣人って、こういう完全な獣型にもなれるんだ。
「基本的には奴隷にする際に、対象の首に「隷属の首輪」をはめます。これは奴隷が逃げ出したり、反抗しないように抵抗する意思を鈍らせるものです。ですが、この狼は首輪をまだはめられていない。代わりに焼印を押されている、ということは、十中八九違法に攫われてきたものでしょう。「隷属の首輪」は国の公認品ですから、恐らく「国」側にも、違法奴隷に一枚噛んでいる連中がおりましょうね」
ラピッドの話を聞いて、僕は軽く眩暈がした。
何てややこしいことになったんだ!「国」が絡んでくることなんて、きっとろくでもないことだろうに!
「とにかく、今はこの狼を何とかするのが先だ。ラピッド、解呪の方法はあるのか」
師匠は狼を心配そうに見ている。
ああ、もう!とんでもないことに首を突っ込みかけてるっていうのに、この人は。
「・・・見たところ、随分深く焼かれておりますね。解呪の専門家でなければ、難しいかと」
申し訳なさそうに、ラピッドは目を伏せる。
じゃあ、この狼はずっとこのままなのか。僕は狼の身体を、改めて見下ろした。
傷は深く、所々膿が滲んでいて酷い有様だ。
焼け焦げた毛から、炎、もしくは雷の魔法を浴びせられたのかもしれない。
苦しげな吐息と、触れた時の熱さから、発熱してることもわかった。
こんなの、一日だって持つ訳ない。
「師匠・・・僕、何とか治癒魔法を続けてみます。少しだけでも、狼の身体に効果はあるんでしょう」
解呪は非常に複雑な技法が必要だと、聞いたことがある。時間もかかり、呪いが強ければ強い程、厄介なのだと。
強力な「聖」の力を持つ何かがあれば、「聖魔法」が使えるヒーラーがいれば、格段に解呪しやすくなるということだが、僕にはまだそこまでの力はない。
なら、出来ることをやろう。必死に。
そう決意を固めた時、師匠があっ、と声を上げた。
「ど、どうしたんですか、師匠?」
「呪い・・・そうか、こいつは呪術の類だ!ラピッド、言わばこれも
何か解決策があったのか、師匠はラピッドに確認をとる。
「え、ええ、左様でございます。アーチャー様、手があるのですね?」
師匠は頷き、狼に語りかけた。
「すまない、腕を離してくれないか。君の呪いを解く方法がある」
ずっと、師匠は狼に腕を差し出していたせいか、床には小さな血溜まりが出来ている。
狼は真っ赤な瞳を師匠に向け、しばらく思案しているようだ。
「狼よ、この方を信用なさい。このフェアリードラゴンのワタクシがお仕えする方です。決して、貴方を騙したりするような方ではありません」
ラピッドが厳しい声で言えば、やっと狼は師匠の腕を離した。
僕はすかさず治癒魔法をかけ、師匠の傷を治す。
「ありがとう、ラフィール君」
「いえ・・・僕に出来ることは、これくらいしかないので」
情けなくて俯く僕の頭を、師匠は優しく撫でてくれる。
「十分だ。卑屈にならなくていい」
柔らかく微笑んだ師匠に、僕はこくんと頷く。
早く、この人に釣り合うヒーラーになりたい。
「ラフィール君、少し手伝ってくれ。烙印がよく見えるように、毛を押さえていてくれないか」
「は、はい!」
ガラリと雰囲気を変え、師匠はテキパキと指示を出す。
僕は狼の首に恐る恐る触れて、毛を押さえ広げる。
・・・・・・きっと、師匠のことだから特別な事をするんだろう。
キングオーガを前にした、あの時のように。
「いいか、よく聞くんだ。今から私は、君の呪いを解呪する。少々特殊な短剣を使用するが、決して君を害するものではない」
狼はじっと、師匠の言うことを聞いている。信用、してくれないのだろうか。
僕は少し考えて、何とか片手だけで毛を押さえると、もう片方の腕を狼の口に差し出した。
「ほら。僕の腕、噛んでいいよ」
ちょっと驚いたように、狼の紅い目が僕を見つめる。
「ラフィール様!?」
ラピッドが何やってる、とでも言いたげに叫ぶが、僕は腕をどかさない。
「師匠は今から手を使うから、僕の腕を代わりに噛んでてよ。信用出来ないんでしょ、人質に貸してあげる」
師匠も、きっとこうして狼を運んできたんだろう。
ならば、ここは僕が代わりを務めないと。
「今回僕は役に立てなかったけど、君の噛み傷くらいならすぐに治せるから、遠慮なくガブッとやっちゃってよ。あ、でも噛み切ったりしないでね」
ほらほら、と腕を狼の口に押し付けるが、狼は困惑したように視線をさ迷わせて一向に噛み付こうとしない。
「待て、ラフィール君。一度ストップだ、こいつも物凄く困ってる」
師匠は僕の腕を掴み、狼の口から離した。
えぇ?何で困ってるんだろ・・・あれか、僕の腕は師匠と違って、細いから噛みごたえがないのかな。
「「そういう問題じゃない!」」
師匠とラピッド、二人がかりでつっこまれ、とりあえずごめんなさいと謝っておく。
「腕は・・・いらない。お前達を、信用する」
突如、聞いたこともない声がして、皆狼の方を覗き込んだ。
苦しげな、女の子の声だ。
「信用する。白狼の一族として、誓う。噛み千切ったり、しない」
「喋った!?」
「喋りもするだろう。ラフィール君、大丈夫かホントに」
いよいよ心配になってきたのか、師匠は僕の額に手を当てる。
だ、大丈夫です熱なんて出てませんから!でもびっくりするじゃないですか、さっきまで黙りだった生き物が、急に喋りだしたら!
「さ、とにかく解呪を始めるぞ」
師匠は一つ咳払いすると、低く何かを唱え始めた。
「――――術理、摂理、世の理」
ゆらり、と風もないのに空気が揺れた。
スッと伸ばされた師匠の指先に、紫の光が灯った。
その瞬間、狼の身体の下に、大きな魔法陣が現れる。
「その万象、一切を原始に還さん!」
いつの間にか、握り締められていた歪な短剣。
稲妻のようなジグザグの刀身が、不気味に光っている。
その短剣を、師匠は高々と振り上げて。
「
切っ先が呪いの焼印目掛けて、突き立てられた。
「う、うわっ!?」
狼の身体が一瞬光ったかと思うと、黒い煙の様なものが勢いよく溢れ出て消えていった。
それに驚いて僕は飛び退く。
「これは素晴らしい!呪いが綺麗さっぱり消えております!」
ラピッドが狼の首を確認し、嬉しげに歓声をあげる。
えぇ!?ほんとに消えたの!?
僕も見たくなり、ラピッドの隣に並んでみる。
痛々しく存在を主張していた黒い焼印は跡形もなく消え、小さな刺傷を残すだけ。
「凄い!凄いです師匠!」
解呪をこんなに早くやってしまうなんて、やっぱり師匠はとてつもない人だ。
はしゃいでいると、師匠は呆れ顔で僕の額を軽く弾いた。
「まだ終わってないぞ。ヒーラー、君の出番だ」
「あっ!?す、すみませんすぐに!」
こころを落ち着かせて、もう一度
「・・・よし、今度は大丈夫」
傷が塞がっていくのをしっかり確認、僕は魔力に乱れがないように注意しながらも、ほっと一息。
全ての外傷を塞ぐまで数分、途中ラピッドの手助けも必要になったが、なんとか狼の怪我を治すことに成功した。
「つ、疲れた・・・・・・」
「お疲れ様でございました、ラフィール様。お見事です」
ぐったりともう一つのベッドに座り込んだ僕に、ラピッドが声をかけてくれる。
狼は、
「ラフィール君、もうそのまま眠るといい。私のベッドを使っていいから」
「え・・・でも、師匠はどこで寝るんですか?」
黒いシャツ姿に着替えた師匠が、僕の肩をそうっと押す。
それに逆らわず、ぽすっとベッドに倒れる。
「私の事は気にしなくていい。ほら、疲れただろう」
またそういうことを言う・・・どうせ、寝ないか床で寝るとかしそうだな師匠は。
そう思った僕は、離れていく師匠の手を掴んで、ぐいっと引っ張った。
「ラフィール君?」
きょとんとした鋼色の目を見返して、僕は言った。
「一緒に寝ましょう。とっても認めたくないんですけど、僕はまだ成長期が来てないらしいので、ベッドに余裕があります。ちょっと狭いですけど、床で寝るよかマシでしょう」
師匠はびっくりしたのか、目を見開いて固まっている。
そりゃ、男同士で一つのベッドを使うなんて驚くことかもしれないけど、今は緊急事態じゃないか。
これからも、無事にベッドが二つある部屋に泊まれるとは限らないし・・・・・・多少慣れといても問題ないと思うんだが。
「あー、その・・・ちょっとどころか、かなり狭くなると思うぞ。それでもいいのかね」
苦笑する師匠は、ベッドの端に腰掛ける。
確かに・・・かなり狭くなりそうだが、ラフィール・バレットに二言はない。
「構いません。背中を痛くする方が、よっぽど気になりますよ」
くいくいと袖を引くと、くすくす笑いながら師匠は僕の傍に横たわる。
「それでは、お言葉に甘えようか。明日、文句は受け付けんから、そのつもりでよろしく頼むぞ?」
毛布をかけてもらっていると、魔石ライトの光量を落としてくれたラピッドが、目の前まで飛んできた。
「おや、ワタクシはそこには入れてもらえないのですか」
「もちろん、入っていいよ。ラピッドは枕元で寝るの?」
枕元の狭いスペースに、ラピッドは真ん丸くなって入り込んだ。
・・・・・・落ちたりしないんだろうか。
「ご安心下さい。ワタクシ、寝相はいい方なので」
本人がそういうならいいか。
僕は師匠の身体の温かさに、次第に瞼が重くなっていくのを感じる。
明日の依頼・・・指名が入らなきゃ休みでいいかな。多分、皆起きれないと思うから。
おやすみなさいを言う前に、僕の意識は眠りの世界へ落ちていった。
筆が!めっちゃ進んだ回だった!
どうも皆様、台風通過で、家の周りがえらいこっちゃになった松虫です。
掃除が大変だった・・・・・・ゴミとの熱い戦いでした。
さて、今回は謎の狼さんという新たなキャラを登場させてみました。
ちなみに手首だけの幽霊さんは、とある小説の幽霊さんをイメージしてます。
・・・ところでですね、最近、といってもちょっと前からなのですが、活動報告?の方も書かせてもらってるんです・・・・・・そっちの方もよろしくオネシャス!
ま!大したこと書いてないんですがね!
さて次回は!元気になった狼さんの正体は一体!?微かに漂うトラブルの匂いも?
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