赤い弓兵に成り代わり、ファンタジー世界で第二の人生を   作:松虫

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取り引きと臨時使い魔

~アーチャー視点~

 

煌びやかな店内、鼻をつく酒の香り。

甘ったるい女の子達の声、欲を揺さぶる豊満な肢体。

 

「アルク様、お酒が苦手でいらっしゃるの?」

 

私の肩にしなだれかかる女の子に、なるべく無感情な一本調子で答える。

 

「申し訳ありません、何分下戸なもので」

 

片手に握ったグラスから、お茶を一口。うーん、あんまり美味しくないなぁ・・・・・。

腕に押し付けられる柔らかなモノの存在を、まるっと無視して私は辺りを見回した。

高級娼館「ゴルゴーン」。なるほど高級を謳うだけあって、店の雰囲気も女の子達も、キラッキラしている。

 

「おうアルク!飲んでるかあ~?」

 

早速、グラス片手に御機嫌な様子でロッサさんが絡んできた。

 

「ロッサ様、私が下戸なのをご存知のはずでは?あとあまり飲みすぎないように。明日に差し支えますよ」

 

肩に腕を回され、ぐいっと引き寄せられる。

 

「堅いこと言うな!ほれ飲め飲めー!」

「ですから飲めませんと何度言えばおわかりになられるのですか。あと傍に寄らないでください、酒臭いです」

 

めんどくせー酔っ払いだなオイ。溜め息を吐きつつ、私は片手で酔っ払いおっさんの頭を掴んで押し戻した。

 

「おま、雇い主の俺に対してそりゃないだろ・・・・・・って痛い痛い痛い!」

 

鬱陶しかったので、サーヴァント的握力を以て軽いアイアンクローをかましておく。

 

「ロッサ様、それ以上寄ると握り潰しますよ」

「酷い!ウルス~、アルクが俺をいぢめるよぉ~!」

「アルク、それ潰していいぞ」

「Yes,sir」

 

ウルスさんの煽りもあって、私は気分よくロッサさんを苛めて遊んだ。

 

「いてててて・・・・・・頭割る気かお前等・・・!」

「申し訳ありません、ついうっかり」

「同じくうっかり」

「うっかり!?うっかりでそんなことするのお前等!?」

 

酷い酷い~と、ロッサさんは侍らせている女の子の胸に縋る。

 

「まぁ、ロッサ様ったら」

 

豊満な胸に顔を埋めたロッサに、女の子は慣れた様子でクスクスと笑う。

やれやれ・・・男って奴は好きだなぁ、おっぱいが。

げんなりしながらそれを眺めていると、私に付いてくれた女の子に不満そうに腕を突っつかれた。

 

「アルク様、私だって身体に自信はありますわ。あちらばかり見ないで下さいませ」

 

いや、羨ましいとかじゃなくってね?

女の子の方に目をやる。濃紺の、艶々とした長い髪。深い緑の瞳に、真っ白な肌。さくらんぼのような、ぷるんと紅い唇。

パーフェクトだ。女の私(今は男だが)から見ても、凄く可愛いしセクシーだ。

 

「失礼。私の主人が、こうも締まりのない顔をしてるのに呆れているのです」

「嘘。ミザリーの胸をじっと見てたでしょ。私見てましたのよ」

 

膨れっ面さえも愛らしい。成程これがプロの技か。

このまま拗ねられるのも面倒なので、ちょっとおだててみた。

 

「確かにあちらの方の身体はお美しい。ですが、愛らしさは貴女の方が上かと。私は好ましいと思いますよ」

 

そう言いながら、手を伸ばして彼女の髪をするりと撫でる。

 

「この夜明け前のような髪も」

 

続いて、涙を拭うように目の下を。

 

「深緑の瞳も、白磁の肌も」

 

最後に、下唇につん、と触れて。

 

「果実のような唇も、全て」

 

いい声だ、と専ら女性に評判の声を駆使して、渾身の褒め言葉を甘く囁いた。

・・・・・・うん、不慣れなことはするもんじゃないわ。普通にいたたまれなくなる。思わず苦笑いを浮かべてしまった。

女の子の方を見ると、白い頬を桜色に染めて、うっとりと私を見ていた。

いや、女の子だけじゃない。何故かウルスさんとロッサさんも、私をガン見しているではないか。

 

「・・・何か?」

「「いや、何でもない」」

 

何だよ、そんなにドン引きしなくてもいいだろー!私だって、似合わないこと言ったのは充分自覚済みだよバカヤロー!

そう毒づきたいのを堪えて、素知らぬ顔で平然を装った。

一時間程も経つと、ウルスさんもロッサさんも結構いい感じで出来上がりつつある。

そろそろ頃合かな、と思っていると。

 

「ほらほらほら~!アルク飲めぇ!飲まにゃ損損がははははは!!!」

 

そうそう、こうやってロッサさんが酔ったフリして私に酒(偽物)を飲ませて・・・・・・。

 

「ロッサ様!お止めください、お戯れが・・・むぐっ!?」

 

口に突っ込まれた液体は、舌と喉に熱を運んでくる。

広がる特有の香りは、葡萄とアルコール。

あの野郎、本物の酒入れやがった・・・・・・!!

ごくごくっと条件反射で飲み込んで、慌てて瓶を手で掴んで引き離す。

 

「お、おいおいアルク!大丈夫か!?」

 

何か違う、と感じたウルスさんが、おろおろと私に近寄るが、なんせ人生初のアルコール、しかも度数的に高めであろうそれを飲まされて二の句がつげない。

隣でいた女の子が、急いで水を差し出してくれるが、カーッと胃の腑が燃え上がり、視界がくらりと歪む。

あれ、こんなにも早くお酒って回るのか、と思っているうちに、世界が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぐらぐらと、混濁する意識が虚ろに戻ってきた。

ああ、何してたんだっけか・・・・・・ええっと、確か酒を無理矢理飲まされて・・・・・・ってかここ何処だ。

背中は柔らかな布団の感触、だが胸や腹にかけては妙に薄ら寒い。

目を閉じたまま、未だすっちゃかめっちゃかな脳内を何とか回転させる。

そうしていると、くすくすと笑い声が聞こえてきた。

 

「うふふ・・・可愛い寝顔。ちょっと堅物だけど、眠っちゃうと結構童顔なのね」

 

さわっ、と胸を細い指がまさぐる。

ちょっと待て、この声って私の隣でいた女の子じゃないか?

 

「顔も身体も、ぜーんぶ私好み。ふふ、とっても美味しそう・・・・・・早速頂こうかしら」

 

頂く、ってどっちの意味での頂くですかおねーさん!?

キシっとベッドの軋む音がして、さらさらした髪が胸元に触れる。

いろんな意味で危険だと判断して、私が目を開けると。

 

「あら、起きちゃった。でも残念、少し動かないでいて・・・?」

 

女の子の頭から生えるのは、くるりと丸まった二本の角。背中からは、蝙蝠の翼。

妖しく光る緑の瞳が、私を凝視する。

こいつ、もしかしてサキュバスってヤツか!

 

「うふっ、安心して。じっとしてれば、()()()()()() ()から」

 

妖艶に笑って、サキュバスは私に顔を近付けてくる。

ふざけるなよ、このエロ蝙蝠!美味しく頂かれてたまるか、どっちの意味でもごめんだ!

 

「これ以上・・・・・・私に触るな!!!」

 

怒声一発、私は手を伸ばしてサキュバスの首を鷲掴みにした。

そのまま彼女を真横に押し倒し、サキュバスと身体の上下を入れ替える。

すかさず匕首を投影し、喉元に突き付けた。

 

「動くな、叫ぶな」

 

冷たい声で命じれば、サキュバスは上がりそうだった悲鳴をぐっと呑み込んだようだ。

 

「何故魔物がこんな所で人間に化けている。返答次第ではタダで済まさんぞ」

 

まさかこいつ、今回の件と何か関係してるとかないよな。

一挙一動にすぐに反応できるよう、私は注意深くサキュバスを見据えた。

彼女は何が起きたのかわからない、というような顔をして、戦慄く唇を開いた。

 

「何で・・・何であんた、私の魅了(チャーム)が効かないのよ・・・!?あんた、男でしょ!?この世に、サキュバスの魅了(チャーム)が通用しない男なんていないのに!」

 

あー、それな。多分、私が元女だからだと思うわ。

サキュバスの魅了(チャーム)ねぇ・・・・・・状態異常に耐性があるって、結構おトク感あるよな。

 

「五月蝿い。叫ぶな、と私は言ったぞ。もう一度同じことを言わせてみろ、どうなるかわかるな」

 

キンキンと耳に響く声に、私は顔を顰めて軽く首を掴む手に力を込めた。

あんまり手荒なことはしたくないが、ここで作戦をパァにされるわけにはいかないのだ。

次やったら締め上げるぞ、と言わんがばかりの行動に、サキュバスはヒッ、と怯えた声を上げる。

そして、緑の瞳がみるみるうちに潤み、ぽろぽろと涙をこぼし始める。

 

「なによ・・・・・・なによ、なによ・・・何で私、こんな目にあわなきゃいけないの・・・?あんただって、女を抱くつもりでこの店に来たんでしょ。私、ちゃんと仕事してるのよ。そりゃ、私が魔物だってバレたらマズイから、記憶は弄らせてもらってるけど・・・・・・でも、でも・・・お客を傷付けたりなんかしてないのよ。ちょっと精気を貰って、愉しませてあげてるのに・・・!」

 

ひく、ひく、とサキュバスがしゃくり上げる。

・・・・・・あ、あるぇー?私ちょいと早まっちゃったカナー?

 

「こんなのって、酷い!酷すぎるんだからあああぁ・・・・・・」

 

ついに、ふえええぇ!と泣き出した彼女に、私は完全に誤爆した事を実感する。

 

「とすると、君はただこの店で働いていただけなのか・・・?違法奴隷とは何の関係もない、と?」

「そんなの知らない・・・!何なのよ、違法奴隷ってええぇ!」

 

ヤッチマッタナー・・・・・・自分の早とちりに、頭を抱えたい気持ちで首から手を離して、匕首を退かす。

 

「すまなかった、完璧に私の誤解だったようだ。本当に申し訳ない・・・・・・」

 

身体を起こし、私は深々と頭を下げる。

こりゃ、普通に謝ったくらいじゃ済みそうにないよなぁ。

 

「誤解・・・?あんた、私がサキュバスだから狩りにきたんじゃないの?」

 

きょとん、と涙を流した顔のまま、サキュバスは私を見つめる。

 

「え?」

「え?」

「「えぇ?」」

 

 

 

 

 

お互いに、何やら色々と食い違っていたため、私はここに来た目的をサキュバスに話した。

少し言うべきか悩んだが、彼女自らが「誓約」を宣言してくれたので、事情を掻い摘んで話すことにしたのだ。

 

「えっと・・・じゃあ貴方、ここにその攫われてきた奴隷の娘達が、いるかどうかを確認しに来たってこと?」

「ああ、そうだ」

 

はだけさせられたドレスシャツを直しながら、私は頷いた。

 

「本当なら、酒を飲まされるフリをする筈だったんだが・・・あの酔っ払いめ、本当に飲ませるとは」

 

お陰でややこしいことになったじゃないか、と舌打ちしたい気持ちをぐっと堪えた。

 

「とにかく、君には重ね重ね申し訳ないことをした。許してくれとはいわないが、とにかく今は時間が惜しい。謝罪は後々必ずしよう」

 

服装を整えると、ベッドから立ち上がる。さて、それではここからが本番・・・・・・スキーニングミッションと洒落込むか。

部屋から出ようとすると、手首を掴まれてくいっと引っ張られた。

振り向けば、サキュバスがして俯いて私を引き止めている。

 

「まだ何か用なのか?」

 

急ぐあまり、口調がきつくなる。

サキュバスはビクリと肩を跳ねさせるが、私の手を離そうとはしない。一体何なんだ・・・・・・?

 

「私ね、もしかしたら心当たりがあるかもしれないの」

「・・・何だって?」

 

顔を上げた彼女は、キッと私を睨みつけ驚くべきことを言い出した。

 

「何か知ってるのか。何でもいい、教えてくれないか」

 

足早に彼女の傍に寄ると、緑の目が挑むかのように釣り上がっている。

こりゃ、何か面倒なことを言い出すな。

 

「取り引きしましょう、私と」

 

ほーら来たよこれ。大体予想のついていた言葉に、私は溜め息を吐く。

その態度がカンに触ったのか、サキュバスはますます目付きを鋭くさせた。

 

「私だって、サキュバスとしての意地があるのよ!仕事はできない、獲物には逃げられる、挙句の果てにその獲物に脅されたなんて・・・・・・屈辱以外の何があるの!?」

 

バッサバッサとサキュバスの両翼が羽ばたく。どうやらかなり興奮しているようだ。

 

「・・・・・・要は、食事をあっさり逃したことに腹を立てている、という認識でいいかね」

 

私があっさり言い放つと、彼女は言葉を詰まらせた。

ふふぅん、図星ですかぁ。

それなら、手っ取り早くこうしよう。

 

「見た感じ、君の食事とやらは異性の体液ということであってるか?」

 

先程投影していた匕首を、私は自分の掌に滑らせた。

少し深めに意識して切ったので、出血量は多い筈だ。

 

「ほら、飲むといい」

 

サキュバスは目を丸くして、掌に溜まった血を見ている。

 

「・・・・・・いいの?」

「いいも何も、君が言い出したことじゃないか」

 

さっさとしろ、の意味も込めて、私は掌をずずいっと押し付ける。

ほら、零れたら面倒だから、飲むなら早くして。

サキュバスはおずおずと血だまりに唇を付け、一舐めした途端、目を輝かせて一心不乱に血を啜り始めた。

うん、味は悪くなさそうだね。

数分の間、彼女は食事を堪能すると、傷口を丁寧に舌先でなぞって口を離した。

白磁の頬は紅潮し、瞳はしっとりと潤んで、何かエロいのがダダ漏れだ。

真っ赤な舌が唇を舐め、そこからほう、と甘ったるい吐息が零れる。

 

「美味し・・・かった・・・」

 

呟く声も蕩けていて、何処か覚束無い。

 

「それは何よりだ。さて、情報料は渡したんだ。そろそろ話してもらおうか」

 

夢見心地なサキュバスの肩を軽く叩き、現実に呼び戻す。

彼女はハッと我に返ると、一つ頭を振って話し出す。

 

「多分、三週間くらい前になると思うんだけど。その日、私のお客が早々に気絶しちゃったから、退屈になって店内をうろうろしてたの。そしたら、最近妙に店に来るようになった貴族がいてね。そいつ、もう凄く嫌な奴なのよ!相手した女の子達に怪我させるし、お酒に酔って暴れるし」

 

顔を歪めて、吐き捨てるように言うサキュバス。

ふむ。三週間くらい前なら、スノウが私達のところに来たあたりかな?

 

「その貴族の名前はわかるかね?」

 

そう尋ねてみると、サキュバスは額に手を当てて、ええっと・・・と唸っている。

 

「ちらっと聞いただけだから、あんまり・・・・・・アウレ何とか、って名前だったような・・・・・・」

「アウレリス、か?」

「そう!それよ、アウレリス!」

 

思い出した!と手を叩く彼女を横目に、私はにんまりと笑う。

ビーンゴじゃないですか、もう最ッ高。

 

「成程・・・・・・素晴らしい、かなり有力な情報だ」

「それだけじゃないわ。この店、どうやら地下があるらしいの」

 

思わず言うと、サキュバスはさらに美味しい情報を差し出してくる。

 

「地下室か。アウレリスはそこで、違法奴隷達に好き勝手をしているんだな。恐らく、スノウも捕まったらそこに入れられるんだろう。地下まで案内できるかね」

 

よし、それじゃあその地下室とやらを確認しに行こうか。

意外なところで登場した、強力な助っ人に案内を頼むと、彼女はしばらく考え込むように沈黙する。

そりゃ躊躇いもするだろうな、と私が思っていると。

 

「いいわ、案内してあげる。貴方の血、凄く美味しかったしお腹もいっぱいになったし。さっきの情報だけじゃ、貴方の血の価値に釣り合わない。対価ってっていうのは、互いに過不足なく対等にならなきゃね」

 

俄然やる気になってくれたのか、サキュバスはくすくすと妖しい微笑みを浮かべて、更に一言。

 

「それに、あのいけ好かない貴族の餓鬼をとっちめるのは、とっても面白そうだわ」

「それは、私に協力してくれる、ということでいいのか?」

 

私がそう確認すれば、彼女はコクリと頷いた。

よし、そうと決まれば疾きこと風の如し!ここで意外と時間を食ってしまったので、その地下室とやらをさっさと見つけなければ。

 

「よし、ならばよろしく頼む。君、名前は?」

「・・・・・・サキュバスに名前を聞くなんて、変わってるわね。まあいいわ、私のことはシェラって呼んで。「さん」も「ちゃん」も付けなくていいから」

 

おーけい、シェラだね。

私は手をシェラの目の前に差し出した。

 

「契約成立だ。感謝する、シェラ」

 

シェラは楽しげに笑って、白い手を重ねてくれた。

 




おッッッ久しぶりでえぇぇす!
お疲れ様です、松虫でっす!
えーっと何週間ぶりだ・・・?三週間くらい?
この更新できぬ間、超多忙だったのですよ・・・・・・いやあー、色々イベント目白押しで大変でした( ̄▽ ̄;)
今回もアホみたいに話が進んでおりません!いや、ちびーっとは進んでるんですが!
次回はサキュバスのシェラさんと地下室探し、それとしばらく登場してなかったラフィール君&ラピッド&スノウちゃんの話もしたいな!
・・・・・・あ、それからお気に入り登録が150件になりました!
ありがとうございます、感謝感謝感涙です(;Д;)


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